Super(Expensive)Market, Erewhon Changes Food and Social Scene
セレブ御用達のLA超高額スーパー、エアウォンが
アメリカのフードの価値観とソーシャル・シーン変える!?

Published on 1/25/2024


"Erewhon"というスペルで”エアウォン”と発音する、アメリカ人でも読めない人が多い高級スーパー・マーケットが、カリフォルニア州カラバサスにオープンしたのは2014年のこと。 カラバサスはカダーシアン&ジェナー・ファミリーも自宅を構える高級住宅街で、ここで2店舗をオープンしたのを足掛かりに、 富裕層が住むエリアに出店し続けたエアウォンは、2022年9月にオープンしたパサディナ店で10店舗にまで拡大。
アメリカでは高額スーパー・チェーンと言えば、アマゾンが2017年に買収したホールフーズを思い浮かべる人が多いけれど、アマゾンの経営によってホールフーズの棚から消えていったのが、 高額ながらも優れたオーガニック食材を提供してきた二ッチで小規模ブランドのプロダクト。その代わりに入り込んできたのがアマゾン・ブランドの食材。 エアウォンの大き過ぎず、小さ過ぎない規模の店舗には、そんな過去のホールフーズで扱われていたような、こだわりのある小規模ブランドの高級食材や、エアウォン・ブランドの同様に高額な食材、 そしてホールフーズとは比べ物にならないほど 色鮮やかで新鮮なオーガーニック野菜が見目麗しく並べられ、食材店でありながらも放っているのがブランド・ブティックのように富裕層を引き寄せるマグネティック・パワー。
同じオーガニック野菜でもトレーダー・ジョーズとホールフーズでは、質も日持ちもホールフーズが遥かに上であることから、トレーダー・ジョーズは ”庶民のホールフーズ”と呼ばれることが多いけれど、 エアウォンのオーガニック食材のクォリティは、ホールフーズを”庶民のエアウォン”と呼ばせてしまうレベルなのだった。
その価格帯は恐らく世界最高額とも言われ、何を買っても 庶民が通うスーパーの4倍はチャージすると言われるほど。 TikTok上では、「100ドルを遣ってエアウォンでどれだけの食材が買えるか?」というトライアルや、「エアウォンで、日頃と同じペースで買い物をしたら400ドルになった」という自慢げな愚痴で、 エアウォンの高額ぶりを伝えるポストが多数見られており、エアウォンの各店舗の1週間の売り上げは約100万ドル。 これはホールフーズ1店舗の売り上げとほぼ同等ではあるけれど、エアウォンの方が遥かに小さな店舗と少ない人件費で経営されていることから、利益率がずっと高いことが見込まれるのだった。





セレブ御用達の超高額食材


上のビジュアルはそのエアウォンの高額ぶりを示すもので、ミネラル・ウォーターが26ドル、トマト・ソースが31ドル、トルティア・チップスの小袋が9ドル、ミルクが20ドル、ホットソースが40ドルというのは 食材のロールスロイスとさえ言われるお値段。 当然のことながら来店客はその価格を物ともしない富裕層が圧倒的に多く、前述の通りエアウォンが出店しているのはことごとく高級住宅街。
もちろんセレブリティの買い物客も極めて多く、アンドリュー・ガーフィールド、ダコタ・ジョンソン、マイリー・サイラス、A$APロッキー、ジェイク・ギレンホール、リリー=ローズ・デップ、ヘイリー&ジャスティン・ビーバー夫妻等、 ありとあらゆるセレブリティがごく普通の日常感覚で食材ショッピングを楽しんでいるのがエアウォン。 その様子が数多くのメディアでもレポートされたことから、今ではLAにやって来た旅行者が セレブリティ・ウォッチングが可能になる観光スポットとして訪れるようになったほど。 それでも、やって来た庶民が まず驚くのがその高額ぶりで、時にエアウォンを 「トップ1%の富裕層しか相手にしない、金持相手のビジネス」と批判する声が聞かれるけれど、 エレウォン側は「丹精込めて作られた、最上で、仕入れ価格が高い食材を揃えているのだから、この価格は当然」という姿勢。 そうかと思えば「1スライス 7ドルのピザや19ドルのスムージーが買える人ならば、セレブリティやビリオネアと同じ空間で買い物が出来るという点で民主的」という意見も聞かれるのだった。
そんなエアウォンが現在のような形でブレークするきっかけになったのはパンデミック中のこと。 ジムもヘアサロンも、レストランもクラブもクローズする中、スーパーとして営業を続けたエアウォンは、地域の社交場の役割を果しており、 パパラッツィにとってはセレブの写真撮影が出来た数少ないホットスポット。そんなパンデミック期間中、エアフォンの売上は30%アップしたことが伝えられるのだった。



エアウォンのアトラクション、セレブコラボ・スムージー

でもエアウォンが ソーシャル・メディアでヴァイラルになり、全米からの旅行者がやって来るようになったのは、ヘイリー・ビーバーとコラボレーションしたスムージー。 ヘイリーがこれをハッシュタグ付きの複数のビデオでTikTok上でプロモートしたところ、それらのポストが世界中で4億5000万回のビューイングを記録。 エアウォン店内の”トニック・バー”のセクションで提供されるスムージーは、今やエアウォン最大のアトラクションであり、マーケティング・ツールの役割を果しているのだった。
スムージーのセレブとのコラボ企画が誕生したきっかけは、2019年にエアウォンを始めてTikTokでプロモートしてくれたインフルエンサー、ティンクスに エアウォン側が「何かお例をしたい」と申し出たところ、 「自分の名前がついた裏メニューを作って欲しい」とリクエストされたこと。やがて別のインフルエンサー、マリアンナ・ヒューイットがトニック・バーの責任者 ジェイソン・ワイドナーと、 「ソーシャル・メディア映えするカラフルなビジュアルで、健康的かつ味も良いスムージー」というコンセプトで開発したブルーのグラデーションのスムージーが大ヒット。
これまでにベラ・ハディドやミランダ・カー、そして最近ではジゼル・ブンチェンがコラボ・スムージーを手掛けているけれど、 やはり最もサクセスフルなのは、ピンクのグラデーションのヘイリーとのコラボ・スムージー。今でも1週間で1万2000ユニット販売する大ヒット商品で、 ヘイリーのスムージーだけでエアウォンは毎月86万4000ドルを売り上げている計算になるのだった。
とは言っても最高級の食材を使い、時給18〜30ドルのスタッフが 2000ドルもする特別仕様の工業用ブレンダーで作るスムージーからは、 さほど利益が上がっておらず、利益よりも集客目的と割り切っているのがスムージー・ビジネス。 コラボをしたセレブはスムージー1杯の売り上げにつき1ドルを、エアウォンは2ドルを、セレブが選んだチャリティに寄付するすることになっていて、 慈善活動の一環にもなっているけれど、それ以外にもエアウォンは、1日の終わりに売れ残った調理済み食品をLAのスキッド・ロウのミッドナイト・ミッション(貧困層やホームレスのためのフード・プログラム)に 寄付ししていることが伝えられるのだった。





エアウォンを経営する移民の夫妻


エアウォンの経営者はトニー(55歳)&ジョセフィーヌ(56歳)・アントシ夫妻(写真上中央)。 2人が出会ったのはお互いがアルバイトをしていたビバリーヒルズの中華料理レストラン。当時17歳だったトニーはデリバリーを担当、18歳だったジョセフィーヌがキッチンスタッフとして働いており、2人は1993年に結婚。 トニーの母親は亡くなる前に、ジョセフィーヌの料理の才能を見込んで、トニーが好きだった自家製イタリア料理の作り方を全て伝授したとのこと。 事実、ジョセフィーヌには卓越した料理と食材選びのセンスがあり、エアウォンの総菜セクションの全メニューを開発し、仕入れ食材の品定めも担当しているのが彼女。 自分たちが食材を厳選することで、買い物客がラベルを見る必要が無い食材を並べるのが彼女のポリシー。 そんな彼女が開発した総菜メニューの一番人気は ”オーガニック・バッファロー・カリフラワー”(写真下、一番右)。 その名の通りオーガニック・カリフラワーを バッファロー・ウィングのように調理したもので、1パウンド$19と 決して安くはないものの、その味はソーシャル・メディア上でバズを生み出し、コピー・レシピがネット上に溢れるほどなのだった。

エラウォンのビジネスが生まれる遥か前の1990年代、アントシ夫妻はトニーの兄と組んで プライベート・ブランドのミネラルウォーターを高級レストランに販売するビジネスをスタート。 程無くビジネスがイタリアンの食材にまで拡大。その会社が大成功を収めたことから、2009年には年商600億ドルの食品流通大手、シスコによって買収されて、 夫妻は 自分たちはもちろん、子供の代まで働く必要が無いほどの大金を手にしたのだった。 しかし それまでハードワークを続けて来た夫妻にとって、仕事をしない毎日は退屈で、仕事をしない苦痛を味わったことから新たなビジネスを模索。 やはり勝手が分かっているフード関連ビジネスをしようということで、夫妻が興味を持ったのがマクロバイオティックを含むナチュラル・フード・ビジネス。
そこで友人の紹介で、巡り合ったのがエアウォンのオリジナル・ビジネス。 エアウォンは 近代の健康食品ブームの先駆者であるアヴェリン&ミチオ・クシが 1966年にボストンの小さな地下室でスタートしたビジネス。 1969年になって西海岸初の店舗をオープンしたものの、破綻寸前のビジネスを続けており、アントシ夫妻が最初に訪れたエアウォンは異臭を放つ ハードコアなナチュラル・フード・ショップでしかなかったという。 それでもトニーはその場でエアウォンの買収を決断。 そして2014年にはアントシ夫妻の監修の下、カラバサスで、スタイリッシュなオーガニック高級ヘルシー食材のスーパーとして再出発を果すのだった。





スタイリッシュな店舗と、ファッション業界とのコラボ


今やカルト的な常連客を持つエアウォンであるけれど、食材のクォリティや客層の良さと共に人気の要因になっているのが スタイリッシュな店舗デザイン。店内はモダンかつシンプルで、かつ買い物がし易く、トイレに至るまで極めて清潔。 その店舗デザインは、ビバリーヒルズ店が観光客を意識したもの、ヴェニスはビーチ・ハウスの雰囲気、パリセイズはファミリー・オリエンテッド、シルバー・レイクはよりエッジを効かせたスタイル、と ロケーションにマッチしたアイデンティティが確立されているのだった。
中でもパサディナ店はバレンシアガの店舗デザインで知られるベルギーの建築家ウンベルト・ノブレガによって設計されたもの。 店舗同様にスタイリッシュなガーデン・テラスは 霧吹きやヒーター、日差しに応じて動く杉の棚の設備が整えられ、買い物客が心地好い時間が過ごせるようにデザインされているけれど、 車の移動が当たり前で、NYのようなアーバン・パーク&スクエアの施設が殆ど無いLAでは、スターバックス以外でくつろげる場所は極めて稀。 しかもスターバックスよりステータスが高く、トレンディングということで、住人も旅行者もここに集うのは自然の成り行きになっているのだった。

さらにエアウォンがユニークなのは、ファッション・ブランドともコラボをしているところで、スタジオ・ペリフェリアが仲介し、アントシ夫妻の長男、アレック(26歳)が監督したストリートウェア・レーベル、”カクタス・プラント・フリー・マーケット” と のコラボはフーディー、Tシャツ、タンクトップ等で構成されたカプセル・コレクション。これをエラウォンのウェブサイトで販売を開始したところ、程なくアクセス過多でウェブサイトがクラッシュ。 コラボ記念に販売されたレインボー・スムージーも1週間で2万ユニットを売り上げる大ヒットになっているのだった。


それに止まらず、2023年にはバレンシアガとのコラボが実現。 同ブランドがLAで行ったファッション・ショーとタイミングを合わせて発売された、フーディーズ、エプロン、ショッピング・バッグ、ベースボール・キャップを含むコレクションは、 エアウォンの食材同様高額。同時にバレンシアガのロゴ入りブラック・ボトルに入ったドリンクも発売され、こちらも大人気を博したのだった。
それに止まらず エラウォンはコーチェラ等、カリフォルニアで行われるイベントでもプレゼンスを発揮しているけれど、こんな完璧なマーケティングを行っているにも関わらず、 エラウォンにはフォーカス・グループやコンサルティング会社が付いている訳ではなく、社内にはマーケティング・チームも無ければ、広告費もゼロ。 あくまでアントシ・ファミリーとエアウォンをカルト的に愛する人々が運んで来るビジネスを拡大プランに 真摯に対応し続けた結果のサクセス。
そんなエラウォンは2023年下半期にLAのダウンタウンに10万平方フィートという大規模な最先端の調理加工施設に3,000万ドルを投資。 そこで すべてのスープ、ジュース、サンドイッチといった食品の調理を一括して行い、その販売網を広げる予定。
またエアウォンは2023年春にはポップアップでNYデビューを果たしているけれど、既にNYのクイーンズに 同じスペルのエアウォン・モールというものが存在するので、「現時点で未定」と言われるNY進出にはネーミング・ライツの問題が絡みそうな気配のだった。
前述のようにエアウォンは、誰もが セレブリティやビリオネアと同じ空間で食材ショッピングができるスポット。 そのことは徐々に若い世代の価値観に影響を与えつつあって、これまでなら食費を安く抑えて、ブランド物のスニーカーやフーディーを買うためのお金を貯めていた若い世代が、 エアウォンで食材を買う富裕層を眺めるうちに悟ってきたのが 「こういう食材を日頃から食べている大金持ちは、健康的で、本物のステルス・ウェルスのオーラがある」ということ。 そして「お金が儲かったら こんな高額で、見目麗しい食材をカートに一杯に買えるようになりたい」、「セレブ並みに良い食材を食べて、健康にこだわって、自分を磨きたい」という 価値観にシフトし始めているのが現在。
最初はセレブとコラボした19ドルのカラフルなスムージーを味うだけで満足していたジェンZ世代も、 ステータス・シンボルとしてのヘルシーな食文化やライフスタイルに目覚めつつあるのだった。


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