Jan 15 〜 Jan 21 2024

Cold Winter, Warm Breakfast & AI
寒さに弱いEV、ウォルマートAI戦略、朝食ブーム


今週火曜日にはアイオワ州で、共和党予備選のトップを切ってコーカス(党員議会)が行われ、そこで51%の支持を獲得して圧勝したのがトランプ氏。 来週火曜にはニューハンプシャー州で予備選が行われるけれど、ここで敗北すればアイオワで3位となったニッキー・ヘイリーが離脱するとの声も聞かれ、 複数の訴訟問題を抱えながらもトランプ氏が史上最短のスピードで、共和党大統領候補として擁立されるのは時間の問題と目されているのだった。
でも今週最も報道時間が割かれていたのは、全米各地を襲ったスノーストーム、アイス・ストームのニュース。 NYも日中で氷点下の寒さ。雪も複数回降ったけれど、アメリカは車道の雪かきは市政府の責任でも、歩道の雪かきは そこに建っている不動産所有者の責任。今週のNYは寒さが厳しかったことから、歩道に1〜2cm積もった雪が凍り付いてスリップするリスクがメディアで警告されていたこともあり、 週半ばに 雪かきを怠っていた1600世帯に対して容赦なく発行されたのが違反チケット。罰金は初回で100ドル、2度目は150ドル、3回目になると250ドルにアップすることになっており、 市政府側は「十分な時間の猶予を与えて居たので、雪かきをしない方が悪い」と厳しい姿勢を見せていたのだった。



寒さに弱いEV、テスラ株主の危機感


そんな寒波のせいで、思わぬ問題点を露呈しているのがEV。 寒さのせいで通常よりチャージに時間が掛かることから、ドライバーがチャージング・ステーションで厳寒の中、1時間も順番を待つ事態が各地で生じていたのだった。
EVのリチウム・バッテリーは、低温だとチャージに時間を要するだけでなく、バッテリー・パワーの持続も短くなることから、 日頃よりも頻繁なチャージが必要。ただでさえ余分に時間が掛かることを 高頻度で行わなければならない煩わしさに嫌気が指したオーナーが、 フラストレーションから、ガソリン車への切り換え宣言をするソーシャル・メディア・ポストが見られたのが今週。
実際にEVはマイナス6.6度以下(華氏マイナス20度以下)で、ヒーターを使っていると、走行距離が40%ダウン。 同様の気温による走行距離への影響は真夏の猛暑でも顕著で、 現時点では今週のようなエクストリームな寒さや暑さにおけるEVのテスト・データが十分に揃っていないことも問題視されていたのだった。 中にはチャージが間に合わずに立ち往生するケースも出て、寒さが厳しい州で大忙しだったのが そんなEVをレッカーする業者。 「未来の環境のために」とEVに移行した人々も、きれい事を言っている場合ではなかったのが今週の寒さなのだった。
2024年はアメリカやヨーロッパで EVの売り上げが伸び悩むことが既に予測されており、それを象徴するかのように年明け早々200台のEVをディスカウント価格で売りに出したのが、 レンタカーの最大手、Hertz / ハーツ。理由は単純にEVに借り手がつかないためで、ネックになっているのはやはりチャージング。特に女性にとってチャージングは かなりのハードルになっていることが伝えられるのだった。
そんな中、先週、EV売り上げトップの座を中国のBYDに奪われたテスラでは、CEOのイーロン・マスクが 「テスラをAI&ロボット工学のリーダー的存在にするために、テスラ社議決権の25%を取得したい」とX(元ツイッター)にポスト。 現在テスラ株 約13%を保有するマスクは、「要求が受け入れられない場合は、AI部門を別会社にする」という事実上の脅迫とも取れる言動をして物議をかもしていたのだった。 株主の間では「既にテスラを自分の意のままに経営するマスクが、何故今更25%の議決権が必要なのか」と疑問視する声も聞かれたけれど、 それと同時に株主達は、ここへきてEVが以前の憶測ほど世の中に普及しないことを悟り始めている状態。 それだけにAIという、これから最も利益をもたらす部門を別会社にスピンオフされるのは何としても避けたいのが本音。
結局のところ株主も、メディアや一般の人々も、イーロン・マスクのイノベーティブなビジョンや、それをビジネスに落とし込む才覚は高く評価しながらも、 彼の身勝手で経営者としてあるまじき行動・言動に対して、「許せる=マスクが好き」、「許せない=マスクが嫌い」という真二つの意見に分かれている様子を更に浮彫にしたのが今週のこと。
これらの状況を受けて、テスラ株は1月に入ってから約15%下落。昨年から同社を含めて”マグニフィセント・セブン”と呼ばれ、株式市場を引っ張ってきた エヌビディア、グーグル親会社のアルファベット、マイクロソフト、アップル、アマゾン、メタの6社の株価堅調ぶりとは好対象となっているのだった。



ブレックファスト・カムバック


かつては「1日で最も大切な食事」と言われながらも、現代社会では最もスキップする人が多いのが朝食。 特に1日のうち 食事を摂る時間を8時間〜12時間のウィンドウに制限し、残りの12〜16時間は何も食べない ”Intermittent Fasting / インターミッテント・ファスティング”を実践する人が増えてから、 益々軽視されるようになったのがブレックファスト。
ところが昨今、そのブレックファストがカムバックしており、トレンドの目玉になっているのは ”ブレックファスト・サンドウィッチ”、”Wonuts / ウォーナツ (ワッフルとドーナツのハイブリット・ペストリー、写真上左)”、 ”シナモン・ロール・パンケーキ (シナモン入りの生地でアイシングをトッピングするパンケーキ、写真上右)”等の、しっかりカロリーがあるウォーム・ディッシュ。 かつての朝食のレギュラーであるシリアル、ヨーグルト、フルーツといった冷たいアイテムは完全にアウトで、ホテルのブレックファスト・バフェ(日本語のビュッフェ)でも、フルーツはさておき、シリアルとヨーグルトは昨今不人気。 ホテル側もシリアルのバラエティを以前に比べて激減させているのだった。 ちなみにアメリカでは ”ブレックファスト・サンドウィッチ”と言えば、通常は暖かい状態で味わうもの。ランチボックスに入れてオフィスに持参し、冷えた状態で味わうサンドウィッチを 朝食に味わったとしても”ブレックファスト・サンドウィッチ”とは呼ばないのだった。
人気のブレックファスト・サンドウィッチは、マクドナルドのエッグ・マック・マフィンに代表される イングリッシュ・マフィンにベーコン、チーズ、スクランブル・エッグを挟んだもので、 過去2〜3年で人気が再上昇。そのためマクドナルドは、昨年末に新たにオープンしたドリンク・チェーン ”コスミック”のメニューにも マフィン・サンドを導入しているほど。 ライバルのウェンディーズも新たにイングリッシュ・マフィンのブレックファスト・サンドウィッチをメニューに加え、 バーガー・キングは ”Grill'wich / グリルウィッチ”というネーミングで ブレックファスト・サンドウィッチのテスト展開を始めたばかり。
このブレックファスト・サンドウィッチ・ブームは、スーパーマーケットのデリ・セクションやレストランにも飛び火していて、特にレストランは テイクアウトとイート・インの双方で、 ブレックファスト・サンドウィッチやパンケーキ等を提供するために営業時間を拡大するところが増えているとのこと。 ホテル内のレストランでもブレックファスト・サンドウィッチを朝食メニューに揃えるのはマストで、かつてパワー・ブレックファストを提供していたケータラーやレストランは 再びビジネス・チャンスが訪れたと大喜びしているところ。
このトレンドが何をきっかけにスタートしたかと言えば、意外にもパンデミック中やそれ以降の自宅勤務。 オフィスで働いている時であれば、通勤中に仕事モードへの切り替えが出来るので、朝食抜きでも、近くで買ったコーヒーを飲みながら 仕事に取り掛かかることが出来るけれど、 自宅で仕事をする場合、空腹のままコーヒーだけを飲んだところで 仕事への意欲が沸かないことから、朝食を食べて、血糖値を上げて仕事モードに入る習慣を持つようになった 人々が多いようなのだった。 そしてその朝食には「暖かいサンドウィッチを食べた方が満足感が得られて、元気が出る」という考えのようで、それに慣れると、「シリアルの朝食なんてわびしい」、 「ヨーグルトとフルーツの朝食じゃ、ワクワクしない」と考えるようになるとのこと。
したがって”冷たい朝食”の不人気は季節とは無関係のもので、ハイブリット勤務がニュー・ノーマルの時代ではオフィスに出掛ける日も在宅勤務の日でも、 500〜700カロリー程度で、エネルギーがアップし、消化に負担が掛からない 暖かいブレックファストが引き続き人気を集めることが見込まれるのだった。



生成AIでウォルマートがショッピングを変える!?


今週はスイスのダヴォスでワールド・エコノミック・フォーラム(WEF)が行われていたけれど、その場でも大きな議題になっていたのAI。 2024年には アメリカだけでなく世界各国で選挙が行われることから、AIによるディープ・フェイクがその行方を攪乱することが懸念されていたけれど、 その場で 「チャットGPTのようなAIこそが そんなフェイクを防ぐ対抗手段になり得る」ことをアピールしていたのが、チャットGPTの親会社、オープンAIのCEO、サム・アルトマン。
その一方で、先週ラスヴェガスで行われていたコンシューマー・エレクトリック・ショーで発表されたのが、アメリカ最大の小売業者であるウォルマートが、 店舗とオンライン全体で ジェネレーティブAI(生成型AI)を駆使して 「統合されたショッピング体験」を提供する野心的なプラン。ウォルマートはこのプロジェクトのためにマイクロソフト社とのパートナーシップを結び、 同社が出資するオープンAIと共に、ウォルマート独自のカスタムAIモデルを構築。アマゾンを含む競合他社にAI戦略でリードした印象をアピールしたのだった。
ウォルマートのAIが何をしてくれるかと言えば、例えば、スーパーボウルのウォッチ・パーティーを自宅でホストする場合、以前なら消費者が自分で ビール、チキン・ウィング、ポテトチップス、そしてアメリカで毎年スーパーボウル前に売り上げを大きく伸ばすビッグ・スクリーンTV等の購入リストを作り、オンラインでも 実際の店舗でも それらを自分で探してショッピング・カートに入れていたのがプロセス。 しかしジェネレーティブAIを利用した新たなショッピング・サポートなら、過去の購買パターンや、一般のトレンドを分析して、ウォッチ・パーティーに必要なアイテムのショッピング・リストが 逆に提案されるので、ショッパーは時間、労力、ストレスを大きく軽減することが出来るのだった。
さらにウォルマートではジェネレーティブAIによって、全店舗で行われる在庫管理システムと同じセオリーで、一般家庭の冷蔵庫からミルクや卵等の必需品、パントリー(食糧庫)からも常備食を決して切らさない ”InHome Replenishment / インホーム・リプレニッシュメント”のサービスも提供。 それが実践されると、ショッパーの習慣や使用頻度に応じて、自動的に補充品が届けられることになるので、消費者がウォルマート離れをする可能性が極めて低くなるのだった。
ちなみにウォルマートは、1990年代に小売業としては初めて 消費者の購買パターン分析を売り場に反映させて、売り上げを大きく伸ばした存在。 シリアルを購入する買い物客はミルクとバナナ、ヨーグルトを購入する人もバナナを一緒に購入する傾向にあることから、シリアルと乳製品の売り場を近付けて、 その傍に フルーツ・セクションとは別にバナナを置いたことでアップしたのが相乗売り上げ。それ以前は店舗が巨大であることから、 買い物客は買い忘れに気付いても、わざわざ売り場には戻らず、セブン・イレブンのような小規模店舗に立ち寄って忘れ物を買い足す傾向にあったのだった。 こうした購買パターン分析は、後にアマゾンで自己啓発本を購入した女性の商品サジェストにダイエット&ビューティー・プロダクトが表示されたり、妊娠検査薬を購入した女性に対する プレナタル・サプリメントや、妊活本のサジェストが行われるアルゴリズムの土台になったもの。
そのアマゾンは、チャットGPTやグーグルBARDに遅れを取るまいと焦って発表したチャット・アプリ「Amazon Q」が誤った情報を伝えることから、ユーザーから大不評で、 人間のスタッフがAIの間違えを正している真最中。 AIは 覚える能力には長けていても、忘れる能力は乏しいようで、一度インターネットにアップした情報が、どんなに消去しても残り続けるのと同様、 AIが一度覚えたデータを訂正、もしくは白紙に戻すのは至難の業。 マイクロソフトのリサーチャーによれば、ケーキのレシピを一度AIが学習してしまうと、そこに間違ってリストされていた材料を取り除くのは 「ほぼ不可能なタスク」とのことなのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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