Jan 8 〜 Jan 14 2024
BTC、プレネット時代、タイガーとドバイの終焉!?
今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのが、1月5日にアラスカ航空ボーイング737 Max9の飛行中に機体のキャビンドアが外れて、機体に巨大な穴が開いた事件。
幸いドアの付近に乗客は座っておらず、外れたキャビン・ドアも被害を出すことなく回収されたものの、今週その原因究明と弁明に追われていたのがボーイング社。
事故の影響で同じキャビンドアが装着された171機のボーイング737が飛行停止処分となり、アラスカ航空はフライトの20%のキャンセルを強いられたけれど、
ボーイング737機と言えばトラブルの常習犯。2021年にも電気系統のトラブルで100機が飛行停止となっており、国際線のフライトが20ヵ月ぶりに再開されて起こったのが今回のトラブルなのだった。
ファイナンスの世界で今週最も注目を集めてたのがSEC(証券取引委員会)によるビットコインETF認可のニュース。過去数年に渡って、明確な理由無しにETF申請を却下し続けたSECに対しては、
昨年訴訟が起こされ、SEC側が敗訴しており、加えて昨年7月には世界最大のアセット・マネージメント会社、ブラックロックがビットコインETFを申請。いよいよ認可が避けられない状況となり、
市場関係者の間で先週から流れたのが1月10日の認可確実との噂。
そしてその前日の9日の午後にSECのX(元ツイッター)アカウントが発信したのが、ビットコインETF認可のニュース。これに市場が反応したのも束の間、程無くSECチェアマン、ゲーリー・ゲンスラーが
「SECのXアカウントがハッキングされ、ビットコインETFは未だ認可されていない」と訂正ツイートをしたことで、市場は大混乱。
X側もSECアカウントのハッキングを認めたものの、政府機関であるSECがアカウントに二段階承認さえ設定しない緩いセキュリティであったことを指摘。
ETF申請を待ちわびたクリプトカレンシー投資家の間では、このハッキングが「ETF承認を延期したいSECの自作自演」との陰謀説まで流れる始末。
結局、無事10日午後にブラックロックを含む11の金融機関から申請されたビットコインETFが承認されたものの、X上のポストが信頼できないと、人々がこぞってSECのウェブサイトにアクセスしたことから、
今度はウェブサイトがクラッシュ。「ソーシャル・メディアの管理も出来ない機関に、金融全般が任せられるのか」という嫌味が聞かれていたのが今週。
ビットコインのETFが認可されるということは、国民のリタイアメント基金やミューチュアル・ファンドのポートフォリオにビットコインが加えられることを意味することから、
市場関係者はビットコイン価格が年末には10万ドルから22万ドルにアップする強気の見通し。ちなみにゴールドも1970年代にETFが認可されてから市場規模が8倍になっており、
現在9200億ドルのビットコインのマーケット・キャップも今後最低でも10倍に膨れ上がることが見込まれるのだった。
2024年のビッグ・トピック、”プレインターネット時代”
アメリカで5年ほど前から対立状態だったのが、ベビーブーマー世代 VS. ジレニアル(ジェネレーションZに近いミレニアル世代)&ジェンZ世代。要するに親と子の世代。
ジレニアルとジェンZにとっては、何故ブーマー世代がクレームをする時はオンライン・チャットよりも電話で怒鳴りつけるのを好むのか、パスワード・マネージャーを信頼せずに紙に書いたり、何時までも誕生日をパスワードにするのか、
何故数あるキャラクターの中でミニヨンとベイビー・ヨーダを熱烈に好むのか、どうしてスマートフォンにそんなに疎いのか等、不可解で、非合理的な側面ばかりが目に付いたようで、
過去5年間に渡ってソーシャル・メディア上で見られたのがこの世代がブーマーをからかうポスト。その風潮は ”OK, Boomer?(ブーマー、分かった?)”という流行語まで生み出していたほど。
しかし2024年にはその態度が軟化し、それよりもジレニアル&ジェンZの間で高まっているのが プレインターネット時代についての興味。
デジタル・ネイティブ世代にとっては、インターネットが無かった時代にどうやって調べ物をしていたのか、新しいクラブやレストランの情報をどうやって知ったのか、
デート相手を見つけ、交友関係を広げるのにどうしていたのか、そしてオンライン・ショッピングが無かった時代に、どうやって服やスニーカーを買っていたのか、もっと具体的には
新しいスタイルをどうやって知り、それが何処で売られているかをどうやって調べたのか等は大きな謎。
かつては新聞や雑誌に求人情報と共に恋愛相手を探すセクションがあったことや、カタログ・ショッピングの存在を知っても
オーダーフォームを手書きで記入し、それをファックスや郵便で送付することなど 想像も出来ないのが若い世代。
ジレニアルやジェンZは、ブーマー世代が物やお金に対して貪欲で執着心があると考えがちであるけれど、実際にブーマー世代は貪欲で執着心が無ければ欲しいものを見つけて、買うことさえ出来ない時代を
生きて来たことをようやく悟り始めているのだった。
それだけでなく、1980年代まで電話は家に1〜2台。それにコードがついていて 電話をしながら家を歩き回るには長いコードが必要だったこと、TVもリモートが登場する前は TVまで歩み寄ってチャンネルを替えていたこと、
ビデオ録画が家庭で出来るようになり、見たい番組が録画できるのが大発明に思えたこと、しかしそのためにはVCRに番組日時、番組開始時間、終了時間、チャンネルをいちいち入力しなければならなかったこと等、
今とは比べ物にならないほど不便を強いられ、世の中は高等教育が広く行き渡らない、人種差別と性差別が激しいセクハラ、パワハラ社会。それを学び始めてからは、ジレニアルやジェンZにとってブーマーは
テクノロジーに疎く、執着心やたらと強い存在から、時代の進化を見届けて来た生き証人であり、サバイバーという存在に変わりつつあるのだった。
ちなみにアメリカでは1960年台に、カタログ・ショッピングがマイノリティ人種からの売り上げで大きく成長したけれど、当時は南部を中心に黒人層、ヒスパニック層は、白人層と同じ店や同じ時間帯に
買い物が出来ず、売れ残り品や白人の返品だけを買うことが許されていた状況。しかしカタログ・ショッピングはそんな店頭での差別を経験することなく買い物が出来るとあって、収入はあっても
まともな服や家財道具を買わせて貰えなかったマイノリティの生活レベルを上昇させる役割を担ったのだった。
そんな時代を近代史として学ぶジレニアルやジェンZは、子供時代にタイプライターを見せられて「昔の電話?」と尋ねる世代。
彼らにとって ショーン・コネリーが演じたジェームス・ボンドは女性蔑視のレイピストでしかなく、地図と言えば紙に印刷されたものではなく、デジタル・ディバイスに自分の現在地と共に表示されているべきもの。
それだけにジレニアルやジェンZの間で興味本位のレトロ・ブームが過去数年盛り上がってきた結果、ボードゲームの人気再燃や、レコードの売り上げのアップに繋がっているのは周知の事実。
でも2024年はそのレトロ・ブームにブーマーがノスタルジー・トレンドで参加すると見込まれ、それを狙って現在開発されているのが、ボードゲームの王道、人生ゲームのアップデート版。
ブーマー世代は住宅ローンを払い終わり、学費ローンもなく、最もエンターテイメントや旅行等に費やす可処分所得が多い世代。しかも2024年は多くのブーマーがリタイアして、ジェンZの就業人口が
ブーマーを上回る年。それだけに可処分所得と余暇を持つベビーブーマーのノスタルジー消費を狙うのは2024年のビジネス・トレンドの目玉の1つになっているのだった。
タイガー・ウッズとナイキのBreak Upの背景
今週発表されたのが、過去27年間に渡って続いたタイガー・ウッズとナイキの契約が終了するニュース。
1996年、20歳でプロとなったタイガーは、ナイキと5年間、総額4,000万ドルの契約を結び、その段階からゴルフ用品とゴルフ・ウェアに参入したのがナイキ。
その後もナイキはタイガーとの契約更新を続け、2009年の彼の不倫スキャンダルでAT&T、アクセンチュアといった大手スポンサーが去っても、
決して揺らぐことが無かったのが彼をサポートする姿勢。
ナイキは2016年にゴルフ用品の生産、販売を中止したものの、タイガーはウェアの着用のみで多額の契約金を獲得。
これまでの推定総額で6億6000万ドルの収入をナイキから得ているのだった。
ナイキは現在ロリー・マキロイ、スコッティ・シェフラー、ネリー・コルダなどのスター・ゴルファーとも契約をしているけれど、
過去30年近くに渡り アメリカのゴルフ界の象徴的存在であったタイガーとの契約終了に至った背景にあるのは、
アスリートと企業が結ぶ契約内容が時代と共に変わってきたため。
ナイキとタイガーの間で交わされてきたのは昔ながらのアスリートとスポンサー企業の契約。企業が契約金を支払い、アスリートがそのウェアを着用、グッズを使用し、CMやイベントに登場して商品をプロモートする関係。
しかし現代のアスリートは、スポンサー企業の広告マスコットに甘んじるのではなく、ビジネス内容を理解した上で、
時に自らも起業に投資をしてパートナー契約を結んだり、オーナーシップの一部を取得し、経営に加わる関係を求めているのだった。
かつてナイキと契約していたテニス界のロジャー・フェデラーは、3%の株式を取得を条件にスイスのシューズ・メーカー、オンと契約(写真上右から2番目)。
同様にNFLカンサスシティ・チーフのクォーター・バック、パトリック・マホームズは筋肉のリカバリーグッズ、ハイパーアイスと(写真上右)、同じくNFLサンフランシスコ・フォーティーナイナーズのクリスチャン・マキャフリーは、
スポーツ・ドリンクのボディアーマーと、それぞれ株式取得を条件に広告契約を交わしているのだった。
中にはビジネスを立ち上げる段階から経営に参加して、その広告やプロモーションを担当するケースもあり、
多額の資産を持つアスリートに対しては、ベンチャー・キャピタリスト並みに新しいビジネスへの投資や経営参加のオファーが寄せられるようになっているのが現在。
またテニスのセリーナ・ウィリアムスのように、自分で投資会社を作ってスタートアップの経営に参加する例も少なくないのだった。
早い話が、アスリートにもファイナンシャル・アドバイザーやストラテジストがつくご時世なので、かつてのように企業に利用されるだけで終わるのは昔の話。
タイガー・ウッズについては2月に出場するトーナメントまでに、新しい企業との何等かの契約を発表すると言われ、
彼のネームヴァリューを利用したい企業と好待遇の契約を進めていることが見込まれるのだった。
ドバイは So Yesteryear, これからのトラベル・デスティネーションは
かつてドバイと言えば、ラグジュアリー・トラベルのデスティネーションとして人気を高め、トラベル・インフルエンサーがブルジュ・ハリファをバックにした写真をインスタグラムにアップするのが
トレンディングだった一方で、母国で高額の税金を払いたくないニューリッチが移住するデスティネーションとしても人気を集めていたのは記憶に新しいところ。
でもフードとカルチャーに魅力が弱いのに加えて、高層ビルの建設ラッシュで人気に陰りが見られ始めたのが2年ほど前のこと。
それを察知したのか、現地の観光局が欧米の二流インフルエンサーを招待しての”やらせポスト”を増やす戦略に出たけれど、
昨今ではソーシャル・メディア・ポストを見る側の目が肥えているとあって、持ち物や雰囲気を見ればそれがオーガニックなポストかスポンサー付のポストかは一目瞭然。
そのため欧米の富裕層やインフルエンサーが「飽きた」、「もうつまらない」、「B級インフルエンサーと一緒にされたくない」と避けるようになってしまったのがドバイ。
加えて外国人旅行者でも簡単に逮捕して拘留する警察も旅行者を遠ざけた始めた原因。2020年にはインフルエンサーが知らない間に撮影されたビデオが原因で1週間刑務所行になったエピソードがあるけれど、
一度拘留されるとドバイの刑務所で許されるのは1通のEメールの送付だけで、電話も許されないとのこと。このインフルエンサーの逮捕はドラッグ絡みであったけれど、初犯でも最低3カ月の懲役と
4559ポンド〜2万2799ポンドの罰金が科せられる厳しさ。加えて警察は誤認逮捕でも謝罪さえしない強気姿勢で恐れられているのだった。
ドバイに代わるデスティネーションとして、昨年から人気が急上昇しているのはモルディブ。
一流のトラベル・インフルエンサーが自費で出掛けて大絶賛するモルディブは、抜群に美しい海の上に浮かぶインディビジュアル・コテージがウリの地上の楽園的リゾート。
ドバイは高層ビルが増えたとあって、「今のドバイなら、マイアミの方がずっとエキサイティングで楽しめる」という声が圧倒的に多いのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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