Dec 17 〜 Dec 23 2023

The Year 2023 Was...
時代の変化の過渡期だった2023年を振り返って


今週、アメリカで最大の報道となったのが、コロラド州最高裁が合衆国憲法修正14条第3項に基づき、トランプ大統領を共和党予備選から外す判決を下したこと。 憲法14条3項は「議員や大統領等を務めるに当たり、合衆国とその憲法に対する宣誓を行った者が、合衆国憲法や合衆国政府に対して反乱を行った場合、いかなる公職にも就いてはならない」というもので、2020年1月6日のトランプ支持者米国議会乱入を扇動した事実を受けての判断。
同様の訴訟は 既に16州で起こっており、ミネソタ州、ミシガン州は共にトランプ氏の出馬資格を認めたものの、ミシガンでは上告されたばかり。コロラド州では予備選投票用紙印刷の締め切りが1月5日に迫っているけれど、そもそもコロラドは最高裁判事の過半数を民主党が占め、2020年の大統領選挙でもトランプ氏がバイデン氏に2桁差をつけられて敗北したブルー・ステート。 2004年以降、共和党大統領候補が選挙人を獲得していない州でもあり、トランプ陣営としてはコロラド州での選挙人獲得は最初から想定外。
しかしこの判例を受けて他州でも同様の判断が下されると話が変わって来る訳で、司法の専門家の間ではトランプ氏の出馬資格については 「いずれ最高裁審議で判断されるだろう」との見方が有力。
最高裁に対しては、今月初旬に特別検察官、ジャック・スミスが 「トランプ氏が大統領在職中に犯した犯罪は免責となるか」の審議を要請したばかり。 その行方が トランプ氏が現在抱える4つの刑事裁判の行方も左右するとあって、「大統領選挙の行方は 選挙民よりも裁判所によって左右される」というシナリオになりつつあるのが現在。
その連邦最高裁は、国民の60%以上が支持していた人工中絶合憲を昨年覆して以来、国民からの支持率が史上最低レベル。 しかも保守派判事が共和党の大口ドナーから多額の資金援助や豪華なヴァケーションへの招待を受けていたことが明らかになり、倫理的見地からも益々評判を落としているだけに、 何方寄りの判決が下ったところで、国民感情を逆なですることだけは確かなのだった。



2024年大統領選に影響を与える… 戦争、組合、雇用


アメリカで2023年に最もグーグル検索されたニュースがイスラエルVS.ハマス戦争。 2024年の大統領選挙にも少なからず影響を与えると見られるのがこの戦争で、勃発以来、若い世代の支持率を大きく落としているのがバイデン大統領。 アメリカの上の世代とは異なり、ジェネレーションZを始めとする若者世代はパレスチナに対して非常に同情的。 そのためイスラエルを援助し、停戦に向けて積極的に動かないバイデン政権に苛立ちを感じており、 バイデン氏は2020年大統領選挙で勝利の鍵を握った若い世代の有権者層を失いつつあるのだった。 しかしトランプ氏は 在職期間中にイスラエルのアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移したほどの親イスラエル派。 そのため若い世代にとってはトランプ氏支持も論外であるけれど、彼らが投票を控えれば打撃を受けるのがバイデン氏。
戦争と共に大統領選に少なからず影響を与えるのが労働組合。2023年は「Year of Strike」と言われたほど大型ストが多かった年。 ハリウッドの脚本家組合や俳優組合、デトロイトの自動車業界ビッグ3の労働組合等、 11月30日までの段階で 合計393の労働組合に所属する約50万人がストに参加。 そしてその殆どが要求通り、もしくはそれに近い勝利を勝ち取ったけれど、そうなったのはトランプ政権時代の全米労働関係委員会のメンバーが労組に対して厳しい姿勢だったのに対し、 バイデン政権下では委員会が労組側に協力的であったこと。 恐らく大手組合が今年ストに踏み切ったのも、労働者寄りの民主党政権下の方が労使交渉が有利に運ぶのと、 翌年の選挙に向けて票固めをしたいバイデン政権からの更なるサポートが得られると判断したためなのだった。
実際にバイデン政権下では、スターバックスやアマゾン等、それまで本社圧力で組合結成が阻まれてきた企業で労組が誕生しており、今年はアップル・ストアでも労組が誕生。 スターバックスについては2021年12月に初めて2店舗で労組が誕生。以来、現時点までで労組加盟店は360店舗にまで拡大しているのだった。 今月にはマイクロソフト社も、労組結成に容認の姿勢を示したばかりで、労働者が力を増せば選挙で恩恵を受けるのは断然民主党。
現在支持率で劣勢が伝えられるバイデン政権であるけれど、バイデン氏がスピーチの度に自負し、アメリカのリセッション突入回避の要因を担ったと言われるのが雇用市場の堅調ぶり。 失業率は史上最低レベルを維持し続け、毎月のように10万、20万という単位で新たな仕事が生み出されたのが2023年。 中でもヘルスケア、政府職員、レジャー&ホスピタリティの3つのセクターは2023年に生まれた新規雇用の81%を担っているのだった。
逆に最も仕事が失われたのは、大型レイオフが相次いだIT業界。特にイーロン・マスク買収後のX(元ツイッター)は従業員の80%が解雇されており、 IT業界の解雇者総数は19万1000人。2022年(9万3000人)の2倍以上の職が失われているのだった。
そうかと思えば、儲かり過ぎてアーリー・リタイアをする人々が出たのもIT業界、ピンポイントで言えば半導体メーカーのエヌビディア。 年明けに148ドルだった株価が500ドルに迫る勢いで上昇し、今後1000ドルまで上がるとの予測が聞かれる中、 その株式で潤った社員達が、早期リタイアを決断する様子に上層部が悩まされていることが報じられているのだった。



ハイブリッド勤務、ライフスタイルの変化


2023年はパンデミック中にニューノーマルになったWFH(Work From Home/在宅勤務)をオフィス勤務に引き戻そうとして企業の経営陣が四苦八苦した年。 その結果、完全なWFH人口は激減。しかし週5日のオフィス勤務を強いると有能な人材が流出してしまうことから、多くの起業が週3日程度の出勤を義務付ける ハイブリット勤務に落ち着いているのが現在。
しかし週4日制のトライアル成功を受けて、「週4日制ハイブリッド勤務」を訴え始めているのが 事あるごとに「ワーク&ライフ・バランス」を主張するジェネレーションZ世代。 2024年からはハードワーカーで知られたベビーブーマーの労働者数をジェネレーションZが上回ることから、その主張の影響力を強めて行くと見込まれるのだった。
またハイブリット勤務がニューノーマルになった2023年には、レストラン予約が集中する時間帯が以前の午後8時から6時半〜7時に前倒しになり、 コーポレートXマス・パーティーもランチ・パーティーになったりと、帰宅時間が遅くなるのを嫌う傾向がますます顕著になったけれど、これは治安の問題よりも 時間の遣い方が変わってきたため。
その一方で、パンデミック中には自宅学習になった子供の面倒を見るために、女性の多くが仕事を辞める現象が起こったけれど、2023年はハイブリッド勤務のメリットを 生かして職場復帰をする女性が急増。特に大学卒業資格があり、10歳以下の子供を持つ母親の2023年の就業率は79.9%、すなわち5人中4人の割合で仕事をしている計算。 ここでポイントになって来るのは”大学卒業資格”で、やはり大卒の女性が務める職場には 産休、育休、時に社内保育所施設等、仕事と子育ての両立がし易い環境が整っているのだった。
さらにハイブリッド勤務が少なからず影響を与えているのが旅行業界。ハイブリッド勤務なら週末と自宅勤務に当てる日を上手く調整することで 4連休に出来ることから、それを利用して旅行に出掛けようという人々が増えるのは当然の成り行き。 フォーブス誌のアンケート調査によればアメリカ人の49%が「2023年は、2022年よりも旅行にお金を遣っている」と回答。 その旅行の内訳は 州外の家族や友人を訪ねるケースが最も多く、次いでロード・トリップ(ドライブ旅行)、ビーチ・バケーション、誕生日や記念日を祝うための旅行、キャンピングがトップ5。 2023年はインフレによる物価高を実感する人々が多かったことから、旅行バジェットを抑えるために「観光ピークのシーズンを避けて、滞在期間を短くする」のが旅のトレンドで、 そんな風潮もハイブリット勤務のライフスタイルにマッチしていたのだった。
2023年のアメリカ人の出費で、旅行と共にクローズアップされたのはサブスクリプション・フィー。 今や平均的なアメリカ人は年間2000ドルをストリーミングやクラウド・サービス、その他のサブスクリプションに支払っているとのこと。 2023年にはネットフリックスがユーザーのパスワード・シェアリングを取り締まり、世帯ごとにサブスクリプション・フィーをチャージしたことで利益を伸ばしているけれど、 7月には史上初めて ストリーミングがケーブルTVのビューワーシップを上回る快挙を達成。 若い世代を中心にTV離れに拍車が掛かっている原因は、TV番組の時間に合わせて行動する人の激減。 今や番組視聴者数は、放映後のストリーミング再生数を考慮しないと実体が掴めないご時世になっているのだった。
少々意外だったのは2023年にソーシャル・メディアをニュース・ソースにするアメリカ人の数が2020年段階に比べて5%減少していたこと。 逆に増えているのは、ニュース・サイトへのアクセスやニュース・アプリによって情報を得たり、自分で検索して調べるという傾向。 要するにニュースやエンターテイメントが、コンテンツ、ソースを含めて個人の取捨選択時代に入りつつあるのだった。



Year of AI、 テイラー、バービー、オゼンピック、気象変動


2023年は、上の小見出しの通りチャットGPTに代表されるAIが一般に普及し、テイラー・スウィフトのツアーがありとあらゆる記録を塗り替え、映画「バービー」が 興行成績だけでなく、ライセンス&グッズ契約でもハリウッドの記録を打ち立て、オゼンピックでオプラ・ウィンフリーからケリー・クラークソンまで、これまで太目と言われてきたセレブリティが こぞってウェイトを落とし、異常気象が猛威を振るった年。
テイラー・スウィフトに関しては、全米60回のコンサートで10億ドル以上を売り上げ、ツアーの映画版も前売りだけで250万ドルの売り上げを記録。多くのファンが テイラーのツアーファッションで、コンサート開催地に旅行をして、テイラー・グッズを買い込んだことから、ホテルや航空業界も巻き込んでその経済効果の総額は60億ドル以上。すなわちオリンピック誘致並み。
もちろん気象変動がもたらす自然災害や地球温暖化も様々な記録を塗り替えたけれど、2023年にアメリカ国内で起こった 復旧に10億ドル以上の費用が掛かった自然災害は25件。 カリフォルニアやフロリダの自然災害多発エリアでは 保険会社さえ災害保険ビジネスから手を引いており、自然災害はパンデミック中に都市部から去った人口のカムバック現象にも一役買っているのだった。
2024年以降もビジネスやライフスタイルに大きな変化と影響をもたらすのは、オゼンピックに代表される処方箋ダイエット薬とAI。 今やオゼンピックで食欲を抑えれば誰でも痩せられる時代になったのを受けて、糖尿病や心臓病が収入源であった医療業界や脂肪吸引件数が激減した美容整形界、ダイエット業界が戦々恐々とする中、同様に危機感を感じているのが食品業界と外食産業。 しかしアパレル業界はオゼンピックによる消費者のスリムダウンを大歓迎。痩せた途端に それまでの服が着られなくなるので消費に繋がるだけでなく、 やはり痩せれば それまで着用を諦めていたような服を購入したくなるのは自然の成り行き。 また航空会社も超肥満の乗客が減ってきたことで、燃料費節約の計算をしているのだった。
AIについては、その進化はまさに日進月歩。 年明けには「AIが文章を書いてくれる」というレベルだったけれど、今やAIが料理からスポーツに至るまでを人間に教え、 会話によるセラピーまで行ってくれる進化ぶり。 今週にはイーロン・マスクが、チャットGPTに対抗してX(元ツイッター)上で使えるチャットボット”Grok/グロック”を一部のユーザーに対して公開。Xへの過去の投稿がトレーニング・ソースになっていたとあって、皮肉交じりのチャットが特徴で、Xユーザーには好まれそうな気配なのだった。
2024年からはいよいよ事務職やカストマー・サービス業をAIが本格的に担うようになっていき、 YouTuberを始めとするインフルエンサーもジェネレーティブAIによる量産体制に押されていくのは時間の問題。 それに伴って増えて行くのは、見破るのが難しいディープフェイク。2023年5月にはジェネレーティブAIによってクリエイトされたペンタゴンの爆発映像がインターネット上に拡散された結果、 一時的とは言え、株価が急落する騒ぎが起こっていたけれど、そんな精巧なフェイク画像や映像は 2024年の大統領選挙にも少なからず影響を与えると見込まれるのだった。

全体的に2023年に多くのアメリカ人が抱いている印象は”Half Way Point”、すなわち新しい時代に移行する前の過渡期で、 新たな方向性が示されたものの、未だ模索中という段階。 そんな新時代を迎える直前の大統領選候補がバイデン氏とトランプ氏という古い時代の象徴であるのは嘆かわしい限りであるけれど、 これとて蓋を開けてみないと どうなるか分からないのもまた事実。 多くの人々が変革期を肌で感じ始めているだけに、2024年に時代が思わぬ方向に動いたとしても全く不思議ではないし、むしろそうある方が自然のようにも思えるのだった。

来週のこのコラムはお休みを頂きます。次回は1月7日の更新となります。良いお年をお迎えくださいませ。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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