Apr 16 〜 Apr 22 2024
ナイキは五輪で盛り返す?, リーバイスのビヨンセ効果, スターバックスも便乗のSwicy, Etc.
今週、NYでスタートしたのがトランプ前大統領に対する不正会計の刑事裁判。歴代大統領に対する刑事訴訟は史上初めてのもので、今週は12人の陪審員とその補欠6人を選ぶプロセスが行われたけれど、陪審員不適切と見なされた殆どのニューヨーカーは、トランプ氏への嫌悪を露わにして「中立の立場での裁きは不可能」と語っていたとのこと。
トランプ氏に対しては 毎日の出廷が求められ、証人を含む裁判関係者に対するソーシャル・メディアやスピーチを通じての攻撃を禁じる裁判所命令も出ているものの、
トランプ氏はほぼ毎日のように法廷で居眠りをし、時に陪審員候補を態度やジェスチャーで威嚇するなど、強気の姿勢は相変わらず。裁判官とも真っ向から対立していたのだった。
トランプ氏が選挙活動が出来ない間、それを補うだけの情報発信とサポートを行っているのが、元FOXニュースのキャスターを含む極右のパーソナリティ。
その中にはイーロン・マスクも含まれているけれど、彼らの誤情報を含むトランプ氏大絶賛ポストは、トランプ氏のソーシャル・メディア、トゥルース・ソーシャルの
投稿の大半を占めているのだった。
インターナショナル・ニュースでは75年ぶりの大規模なレイン・ストームに見舞われたドバイの洪水の様子が大ニュースになっていたのが今週。
その直前には世界中のサンゴが海水温度上昇の影響で 壊滅的なダメージを受けている様子が報じられており、
アースデーを4月22日に控えて報告された予測によれば、気候変動によるダメージや復旧コストは予測されたよりも遥かに多く、
今世紀半ばまでに年間38兆ドルに達するとのこと。これはEU全体の年間GDPの2倍に相当する額。
Nature誌が発表した新たな研究結果でも、世界経済は今後26年間で 収益の19%、すなわちほぼ5分の1を自然災害のダメージによって失う方向に向かっているとのことなのだった。
業績不振のナイキが社運を賭けるイベント
先週ナイキがパリで行ったのがオリンピックに先駆けて、そのユニフォーム公開を兼ねた3日間のイベント。
ナイキはこのイベントのために メディア、マーケット・パートナー、クリエーター、VC(ヴェンチャーキャピタリスト)等、
約400人をチャーター機で招待しており、その意気込からも分かる通り、ナイキは今回のパリ五輪に過去に無いほどの費用を投じる意向を明らかにしているのだった。
先週のイベントが行われたのはパリのブロンニャール宮殿で、ナイキがそんな高額イベントを行う理由は、
かつてスポーツウェアとスニーカーで不動のトップの座に君臨したナイキの足元がグラつき始めたため。
昨年12月、ナイキは2024年度の売上高見通しを1桁台半ばから1%成長に下方修正した上で、今後3年間で20億ドル相当のコスト削減計画を発表。
これは2020年のパンデミック不況を除けば、2010年以来の最も低い成長率。
ナイキが独り勝ちをして、アディダスがそれを追随する時代は既に終わっており、後発の革新的なブランドがナイキのシェアを奪い始めて久しいのが現在。
例えばヨガウェアとして登場したルル・レモンは ウーマンズでもメンズでも、共にエクササイズ・ウェア市場でナイキからシェアを奪っているけれど、
ファッション・コンシャスな消費者はそのルルレモンからAloに移行中。過去に無いほど流動性が出て来たのがスポーツウェア&シューズの市場。
ランニング・シューズの分野では、現在2種類の新ソールが大きなシェアを獲得しているけれど、それを開発したのは ホカとオン・ランニング。
後者はかつてのナイキの契約プレーヤー、テニスのロジャー・フェデラーがパートナーとしてビジネスに参画しているブランド。
タイガー・ウッズも長年のナイキとの契約を終了し、テイラーメイドと自らのブランド、サン・デイ・レッドを立ち上げたばかりで、
商品開発でも、著名アスリートとの契約でも、ナイキがエッジを失って来たのは明らか。
ウォールストリートのアナリストも 「革新的なブランドがナイキからシェアを奪い、競争は熾烈を極めている」と市場を分析しているのだった。
そんなナイキは、より若い世代にオリンピックを通じてブランドを再アピールするために、
オリンピック開幕の7月26日に 国際オリンピック委員会と共に 公式スポンサー・ルールの緩和を打ち出す予定。
パリ大会で試験的に緩和されるのがルール40で、これによって公式スポンサー以外のブランドでも オリンピック関連の投稿をソーシャル・メディアでリアルタイムに行えるようになるのだった。
それまではスポンサー以外のブランドが オリンピック期間中に ソーシャル・メディアで選手やチームの勝利の祝福を投稿するのはもちろん、選手の画像を含むイメージを使用することさえ許されていなかったのだった。
要するに五輪メガ・スポンサーであるナイキが、自らのブランドを救うために進めようとしているのが ”オリンピック投稿の民主化”。
若い世代の間では ナイキがメガ・ブランドであるが故にクールだと思わない傾向が顕著で、
ナイキは現在、売り上げを盛り返すために イメージアップを図っている真最中。
その一環として、ナイキはパリのイベントで AIがデザインした新しいスニーカーも発表しているけれど、それについては来週CUBE New Yorkで別の記事で取り上げる予定です。
ところで、今週にはWNBAのドラフトが行われ、先週のこのコラムでもご紹介したカレッジ・バスケットボールのスーパースター、ケイトリン・クラークが
予想通り一位指名を受け、プラダのアウトフィットで登場(写真上一番右)。 宇宙開発プロジェクトのスペース・スーツ開発にも携わるプラダは、
そのプラダ・スポーツ部門で以前から機能的で革新的な素材を追求してきた存在。女子スポーツ人気がこのまま上昇した場合、プラダのようなデザイナー・ブランドがユニフォーム製作に名乗りを挙げても全く不思議ではないのだった。
今やNFLの試合報道の際には、スタジアム入りするスター・プレーヤー達の デザイナー・ブランドで身を固めた個性的なファッションがフォーカスされる時代。
スタープレーヤーであればあるほど、もはやナイキのトラック・スーツで現れる訳には行かない時代になっているのだった。
株価20%上アップ、リーバイスのビヨンセ効果
ビヨンセが 3月末に最新アルバム「Act II: Cowboy Carter」でカントリー・ミュージックに挑み、黒人女性シンガーとして 史上初めてカントリー・チャートでNo.1に
輝いたけれど、そのアルバムのサクセスで恩恵を受けたと報じられたのがリーバイス。
ビヨンセはアルバムのプロモーション目的も兼ねて、昨今は徹底したウェスタン、カウガール・ファションを纏っており、加えて
アルバムにフィーチャーされているのが ラッパーのポスト・マローンとチームアップした楽曲「Levii's Jeans / リーバイス・ジーンズ」。
その中に登場するのが ”denim on denim on denim on denim" とひたすらデニムを強調する歌詞。
タイトルの 「Levii's Jeans」は、あえてリーバイスの商標ではなく、「i」を1つ多くした名称になっていたけれど、
このビヨンセ効果により、リーバイス直営店は来店客数が21%アップ。売り上げについては言及を避けているものの、
株価も20%上昇。
その感謝の意を込めて、今度はリーバイスがインスタグラムで 自社名を ”Levii's” と表示する一幕も見られているのだった。
世の中では、2シーズンほど前からデニムの売り上げが全般的に好調。
今年のデニム・ブームは、昨年のバービー・コア・トレンドに匹敵するものと言われ、これまでデニムと言えばジーンズ、シャツ、Gジャンといったベーシック・アイテムが
国民の日常着として安定した売り上げを保っていたのに対して、
現在のブームではジーンズを履かなかった女性達が デニムのロング・スカートを着用したり、デニムのビスチェやクロップトップなど、
女性用トップに加わったのがファッション性のバラエティ。もちろんビヨンセがCowboy Carter Tourのステージに デニム・ファッションで登場するのも
市場にとっては最高のプロモーションなのだった。
デニムの好調とは正反対に、売り上げの減速が伝えられるのがルイ・ヴィトンに代表される高額ブランド。
今週LVMHはそれを立証するような最新四半期の売り上げを発表しており、中国の景気が戻らないこと、経済の先行きへの不安感から
今後もラグジュアリー・ブランドの売り上げが落ち込むと見込まれるのが2024年。
中には現在のデニム・ブームが1991〜1992年にザ・ギャップを国民的ブランドにのし上げたベーシック・ブームの再来のように捉える人も居るけれど、
当時のアメリカは不況の真っただ中。1980年代まではリーバイスのジーンズとそれに合わせるカジュアル・アイテムを販売するチェーン・ストアとして伸びて来たザ・ギャップが、
100%自社製ジーンズの販売に切り替え、利益率を大きく伸ばして、大躍進を遂げたのがこの時なのだった。
そのほぼ30年後の今、ポップカルチャーの影響で再びトレンドの目玉になれるのは、リーバイスの伝統と歴史に裏付けられた底力。
実際にビヨンセが、Leeやラングラーを謳ったところで現在のようなバズは起こっていなかった訳で、
市場関係者が指摘するビヨンセ効果は、「リーバイスだからこそ起こった」というのが正しい解釈なのだった。
スターバックスも参入、”Swicy”トレンドとは?
このコラムで何度もお伝えしている通り、今やファッション、ビューティー、フードに至るまで、アメリカのありとあらゆるトレンドの発信源になっているのがTikTok。
今や大手ブランドの商品開発者もTikTokのトレンドに目を光らせていて、それに一早く乗ることが売り上げを左右する時代になっているほど。
現在フード業界で最大のトレンドになっている、”Swicy / スウィシー”もTikTokから生まれているのだった。
SwicyとはSweetとSpicyをくっつけた造語で、アメリカ人が甘辛いスパイシー味を好むのは 今に始まったことではない傾向。
そんな当たり前のことでも TikTok上でリパッケージされると、新トレンドとしてもてはやされるのはありがちな事。
ピザ・ハットはSwicyトレンドを反映して、2月にホット&ハニー・ピザをリリース、ポテトチップスのレイズも スウィート&スパイシー・ハニー・フレーバーを発売。
ファストフードではアービーズ、ウェンディーズ、チック・フィレ等が限定メニューで Sweet & Spicyソースのサンドウィッチを発売するなど、
Swicy トレンドが盛り上がっているけれど、今週、4月16日にそれに参入したのがスターバックス。
スターバックスが新たに手掛けたのは、ドラゴンフルーツ、パイナップル、ストロベリーという3種類フレーバーのスパイシー・レモネード。
いずれも後味で 舌にホット・スパイスのピリピリした刺激が ほんのりと感じられるリフレッシング・ドリンクで、
発売の段階ではストロベリーが一番人気になっているのだった。
Swicyのトレンドは2023年に、飲料香料会社”モナン” が ”ホット・ハニー”を2023年のフレーバーに選び、全米レストラン協会が ”ホット&ハニー・フレーバー”を 2024年の人気料理予測に挙げるなど、
フード&ドリンク業界を揚げてのトレンドではあるものの、それを”Swicy”というキーワードで 誰もが知るトレンディングにしてしまうのがTikTokのパワー。
スターバックスは、今後コールド・ドリンクの開発に力を注ぐ方針を明らかにしていて、2023年の米国直営店では 飲料売上の75%を占めていたのがコールド・ドリンク。
コールド・ドリンク市場には、昨年マクドナルドも新業態、コスミックで参入して 好調な売り上げが伝えられているだけに、益々競争の激化が見込まれているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
★ 書籍出版のお知らせ ★
当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2024.