Apr 1 〜 Apr 7 2024
トップ&ボトムの賃金アップ, 妄想計算機, ケアフルエンサー, Etc.
今週もアメリカのトップ・ニュースになっていたのは、先週大型貨物船が激突して崩落したボルティモア州の橋の復旧に向けたニュース。
こんな事故が起こらなくてもアメリカはインフラの老朽化が指摘されて久しく、アメリカの橋の殆どは建築から約50年で修復作業が必要になるように
デザインされている中、全米の橋の平均建築年数は44年。財政赤字が膨らむ中、多くの橋が同時に修復が必要な局面を迎えており、気象変動の影響で増える自然災害が
橋の寿命と重なることで大災害に発展することも危惧されているのだった。
金融の世界で話題になっていたのは、先週公開されたトランプ・メディア&テクノロジーの株価について。公開当日に最高価格79.38ドルをつけた同社株式は
今週40ドル台に下落しているけれど、全株式の60%を所有しているのがトランプ氏。公開取引されているのは僅か12.6%に当たる493万株。
そのため大手機関投資家は全く手をつけていないなかったのがトランプ・メディア。
投資をしていたのは、もっぱらトランプ氏の支持者と見られる小口投資家で、それを遥かに上回ったのがトランプ・メディアの下落に賭けるショート・セラー(空売りをする投資家)。
空売りをするには株式を借り入れる必要があるけれど、トランプ・メディアの場合、出回っている株数があまりに少ないことから、ショートに必要な借り入れの株が足りず、
手数料は通常の5〜6倍に跳ね上がっていたとのこと。そんな不利な状況にも関わらず、公開以来アメリカで
最も空売りされる銘柄になっているのがトランプ・メディアで、今週に入って株価が下がったとは言え、空売り投資家はかなりの損失を被っていることがレポートされているのだった。
しかしトランプ・メディアに対しては、取引開始前に独立監査人が同社の財務的存続性について「重大な疑念」を表明していたこともあり、
ショート・セラーの勢いは全く衰えていないとのこと。そのトランプ・メディアは株式公開前のインサイダー取引で逮捕された関係者2人が
今週になって罪を認めており、最長で懲役20年の刑を受ける可能性があるのだった。
異なるレベルの賃上げラッシュ
今週、カリフォルニア州でスタートしたのが、ファストフード店で働く従業員に対するミニマム・ウェイジ(最低時給)を20ドルに値上げする措置。
これはカリフォルニアの高額な物価や生活費を考慮したもので、従来の15ドルからの時給アップを喜ぶ従業員側は、
「この差額で少し生活が楽になる」と歓迎しているけれど、ファストフードのフランチャイズ・オーナーは
「やっと利益が出ている程度の経営なのに、人件費が嵩めば 経営が苦しくなる一方」と困り顔。
また従業員の中には「人件費が嵩むと、オーナーは人減らしをする。それに本社はPOSと直結したタッチ・スクリーン・メニュー(写真上左側)の導入を増やして、
やがてはAIを使った調理のオート化を進めるから、仕事を失うリスクが高まる」という声も聞かれ、
実際に地方のドライブスルー店舗に関しては、AIを導入した無人経営の実現が、そう遠くない未来に迫っている状況。
チェーンによっては、人件費の高騰をそのまま商品価格の値上げとして反映させるところもあるのだった。
カリフォルニア州ではヘルスケア業界で働く従業員の最低時給も2028年までに 28ドルに値上げする見込みであるけれど、
既にアメリカの一部のショッピング・モール内にはAIを導入したクリニック・ブースが登場。人間の医師に処方箋を書いてもらう必要がなくなっている時代。
そのためブルーカラーが人間らしい生活をするための時給アップは、かえって彼らから仕事を奪う方向性を加速させるという見方が強いのだった。
一方今週、ウォールストリートの予測を下回る四半期決算を発表したテスラのイーロン・マスクは、テスラのエンジニアのサラリーを大幅に上昇させる意向を表明。
その理由はオープンAIが 高額給与で有能なエンジニアをどんどん雇い入れているため。
現在AIエンジニアは 給与が上がり続けているだけでなく、有能な人材になると転職のオファーがヘッドハンターではなく、
企業のCEOから寄せられる時代。グーグルの創設者、ラリー・ペイジやメタのマーク・ザッカーバーグらは、自らトップクラスのAIエンジニア本人に直接電話を掛けて、積極的にリクルートを行っていることが伝えられるのだった。
グーグルはその甲斐あって、オープンAIの元トップ開発者、ローガン・キルパトリックを雇い入れたばかりで、既に彼を「秘密兵器」と呼んでいるほど。
その一方で、アップル社は アイフォンにグーグルのAIを導入することを発表してからというもの、同社のAI開発が進んでいない憶測を招いたけれど、
今週にはスマートホーム・ロボットの開発段階であることが報道されており、電気自動車開発をギブアップしたのも こちらに重きを置きたい社の方針であるとのこと。
当然のことながら、アップルもアグレッシブにAI関連の人材集めを積極的に行っているのだった。
同じIT分野でも、開発の必要が無い分野からはレイオフが行われる傾向は昨年に引き続き顕著で、
アマゾンは先週広告部門の人員を160人減らしたのに続いて、今週はクラウド部門、マーケティング部門、オンラインストア構築部門から
数百人単位のレイオフを行うことを発表。
給与ヒエラルキーのトップとボトムで賃上げが進む中、中間層に対してはレイオフが行われている様子を窺わせているのだった。
デート相手、見つからなくて当たり前を立証する計算機
3月4週目のこのコラムで、若い層を中心にデート・アプリ離れが進んできたことをご説明したけれど、
今週メディアが報じたのが デーティング・アプリの”Keeper/キーパー”が、新たに加えた機能によって起死回生を図っているニュース。
その機能とは2022年のアメリカの国勢調査データを使用して、14の異なるカテゴリーのデータに基づいて、ユーザーにとって米国内に適格なデート相手や配偶者候補がどの程度いるかを算出するもの。
ソーシャル・メディア上で 既に「Delusion Calculator / 妄想計算機」というニックネームが付いているこの機能は 年齢、給与、喫煙者か否か、身長等のカテゴリーで、
自分の理想や好みを入力。その条件を満たす実際の人数や人口に対するパーセンテージを算出してくれるというもの。
例えば、あまり好き嫌いが無い女性が、大学卒業資格を持った25歳〜50歳までの男性とデートを希望した場合、米国内でその条件を満たしているのは全男性の36%。
しかしこれには既婚者が含まれており、独身者に絞った場合その数は全米で5,900万人。
でもこの条件を もう少し現実的な視点から狭めて、大学卒業資格を持った25歳?35歳で、タバコを吸わない、肥満ではなく、身長が少なくとも6フィート(183cm)で、年収が最低7万ドル、子供を望む男性とした場合、
該当者は男性人口の0.162%、人数にして26万7,263人となるのだった。
逆に男性が大学卒業資格を持った25歳?35歳で、タバコを吸わない、肥満ではなく、身長が少なくとも5フィート(152cm)で、年収が最低7万ドル、子供を望む女性を探している場合、
該当するのは女性人口の 0.68%。人数にして約114万4,509人。数値的には男性の方が女性よりも2倍以上の対象者が居る計算。
しかし現実の世界ではある程度条件を満たした男性に女性達が集中する 一夫多妻状態で、これは世界共通と言えるのだった。
上記以外にも 宗教、人種、身体的特徴、飲酒やギャンブルの習慣が無い など、ごく一般的な最低必要条件を加えていくと、更に激減するのが対象者数。
加えて2022年には327万人のアメリカ人が死亡しており、この数値は年始に行われる国政調査には殆ど反映されておらず、
近年では高齢者が長寿である反面、若くして命を落とす人々が増えていることを考慮すると、
条件を満たす相手の実際の数は、アプリで算出されるより確実に少ないことが見込まれるのだった。
更にアメリカのデート・アプリの問題は、地域を制限しない限り 日本の20倍という国土の広さのせいで、対象者が見つかったところでデートが不可能な距離であったり、
時差のせいでコミュニケーションさえ難しいケースがあること。
一般的な条件以外にも、昨今の若い世代は支持政党を含む政治観とやクレジット・スコアにもこだわっており、
特にクレジット・スコアは、たとえある程度の年収があったところで、過去の借金等でクレジット・スコアが悪ければ、生涯に渡って金銭面のディスアドバンテージがついて回るのだった。
そんな必要条件を満たした上で、食の好みや 趣味が合う相手、ルックスが好みの相手に巡り合うのことが如何に困難かは、こうして数値を突き付けられると徐々に理解出来るもの。
TikTok上には、この「Delusion Calculator / 妄想計算機」を使った結果、自分の条件を満たす相手がシングル男性の0.004%、もしくは0.00022%になったという女性インフルエンサーの投稿が溢れており、
この機能を導入以来、ユーザー数を増やしているのがKeeper。
妄想計算機は 「デート・アプリで結婚したいと思う相手に出会えないのは、アプリが悪いのではなく、そもそも適格者が存在しない」というリアリティをユーザーに突きつけるものと言えるけれど、
デートサイト側の意図は、あくまで数値のデータを目の当たりにすることで ユーザーが理想を追求するよりも、落としどころを見つけるように方向転換を促すことなのだった。
”Carefluencers / ケアフルエンサー” とは?
ソーシャル・メディアのインフルエンサーは、トラベルインフルエンサー、フードインフルエンサーと、そのコンテンツのジャンルでカテゴライズされることもあれば、
トキシック・インフルエンサー、Bリスト・インフルエンサーのように 投稿内容や知名度でクラス分けされることもあるのが現在。
今年に入ってからは、株やクリプトカレンシーの市場に関して悲観的な視点のコンテンツを作る人々が ベア・マーケットとインフルエンサーをくっつけた”ベアフルエンサー”と呼ばれるようになり、
逆にブル相場を煽るインフルエンサーを意味する”ブルフルエンサー”という言葉も登場しているのだった。
そしてTikTok上で最新のトレンドになっているのが ”Carefluencers / ケアフルエンサー”。
これは若い世代が高齢の祖父母、親戚、知り合いのTikTok アカウントを作って、コンテンツを彼らが製作し、高齢者をソーシャル・メディア・スターにしてしまう現象。
アクセス数に応じた収益が高齢者に入るのに加えて、彼らの生活に変化がもたらされ、周囲と触れ合う機会も増えることからWIN WIN状態であることが 話題になっているのだった。
日本ほどではないものの 高齢化が進んでいるアメリカでは、約350万人がホーム・ヘルス&パーソナル・ケアの分野で働いているとは言え、
国民の1770万人が65歳以上で生活に不自由がある家族や親戚のケアギバー(介護者)となっているのが現状。
2030年までにはアメリカの5世帯に1世帯は65歳以上の家族を抱える計算になっているけれど、
現在 65歳以上のブーマー世代は クレジット・カードやインターネットも使いこなし、
投資で儲けて来た世代。そのため、これまでとは異なる 高齢化社会の新たな取り組み、若い世代を繋ぐ接点が模索されており、その中で浮上してきたのがこのトレンド。
奇しくもジェネレーションZは、最も友達が作れない、友情が長続きしない最も孤独な世代。でもそのせいで世代が異なる友人関係に
極めてオープン。
そのため”ケアフルエンサー”は政策や税金では取り組めない 高齢化社会への異なるアングルからのアプローチとして注目すべきトレンドになっているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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