Apr 8 〜 Apr 15 2024
ギャンブル中毒, エンターテイメント・モラル, 女子スポーツが男子を抜いた快挙, Etc.
今週のアメリカは、皆既日食フィーバーに始まり、週末はO.J.シンプソン死去のニュースで埋め尽くされていたけれど、
多くのアメリカ国民にとって、シンプソンの妻とその友人殺しの無罪判決の瞬間は 9/11のテロの瞬間同様に、生涯忘れられないモーメント。
NY市だけで この瞬間を観るために、通常より74万5000台多いTVがスイッチオン状態になり、判決が言い渡された5分間は全米の長距離電話数が通常より58%ダウンするという あり得ない現象さえ起こっていたのだった。
現在のカーダシアン・ファミリーの名声がスタートしたのもシンプソン裁判で、O.J.シンプソンの友人で弁護団に加わっていたロバート・カーダシアンは、キム、クロエ、コートニーの父親。
中でも1人だけ大柄なクロエの父親は実はO.J.シンプソンだったとの噂が以前から根強く、シンプソン死去が報じられた直後、彼女のソーシャル・メディアには父親の死を悼むメッセージが多数寄せられたという。
そんな2つのニュースに挟まれるタイミングでメインストリート・メディアが報じていたのが日本の岸田首相の訪米。ビジネス・メディアが注目したのは、ホワイトハウスでの晩餐会に
どの企業のエグゼクティブが招待されていたかで、その顔ぶれはJ.P.モルガンのジェイミー・ダイモン、アップルのティム・クック、ブラックロックのラリー・フィンク、アマゾンのジェフ・べゾスらで、
招待客リストは11月の選挙でバイデン氏を支持する面々と見なされているのだった。
中でも注目を浴びたゲストは全米鉄鋼労働者組合のプレジデント、デヴィッド・マッコール。組合は新日鉄によるUSスティールの140億ドルの買収案への反対を表明しており、
組合からの大統領選挙での支持を取り付けているバイデン大統領も この買収案には反対の姿勢。
対立候補のトランプ氏も、この買収案にはバイデン氏以上の大反対のポジションを取っているのだった。
ギャンブル中毒で稼ぐビジネス
今週金曜に報じられたのが、大谷選手の元通訳で違法ギャンブル、及び窃盗の捜査が行われていた水原一平氏が有罪を認めたニュース。
36ページに渡る刑事告訴状では、水原氏がギャンブル負債を補うために大谷選手の口座から1600万ドルを盗んだことが告発されており、
口座からお金を盗むための複数年に渡る計画も明かされているとのこと。
水原氏は2021年12月から2024年1月までに約1万9000回の賭けをし、1回の平均掛け金は1万2800ドル。その純残高は当初伝えられた負債を遥かに上回るマイナス4000万ドル。
水原氏は違法ブックメーカーに「実質的に自分は彼から盗んだ。もう終わりだ」というテキスト・メッセージを含む、罪悪感や逃げの姿勢の記録があるものの、それ以前には
「I'm terrible at this sport betting thing huh? Lol . . . Any chance u can bump me again?? As you know, you don't have to worry about me not paying!!
(僕はスポーツ賭博が苦手なんですよね(笑)。また会える機会はありますか?? ご存知のとおり、私が支払いを怠る心配はありません!!)」 と、
まるで大谷選手のお金を遣って、スポーツ・ギャンブルでの負けを楽しんでいるかのようなメッセージを送付していたことも明らかになっているのだった。
要するに水原氏はギャンブル中毒どころか、賭け金のブラックホールであったようだけれど、今やアメリカという国自体もギャンブル蔓延状態。
既にスポーツ・ギャンブル市場は昨年の段階で約1200億ドルに達しており、
最新の調査では、現在シーズン真っ只中のNHL(ナショナル・ホッケー・リーグ)とNBAの試合の視聴者は、1分当たり平均2.8件のギャンブル関連の広告やメッセージにさらされているとのこと。
投資の世界でも、若い世代に人気のオンライン取引所、ロビンフッドが リスクにスリルを感じる人間心理を利用した”ゲーミフィケーション”機能を導入。
投資をギャンブル化したことから、罰金処分を受けたばかり。
スポーツ・ギャンブルが 「カンサスシティ・チーフの試合で、観戦に来ているテイラー・スウィフトがTVカメラに何回捉えられる?」といった 試合や成績とは無関係な対象にまで及んでいるのと同様、
今や合法ギャンブルは、ハリケーンの数、マイアミの気温といった気象絡みから、オスカー・ノミネーション、最高裁判所判決など、ありとあらゆる現実世界のイベントにまで広がっているのが現在。
ギャンブルという言葉がラスヴェガスのカジノを指す言葉だったのはもう遠い昔の話なのだった。
こうした現実世界のイベントの賭けを取り仕切る唯一の連邦機関が ”Kalshi/カルシ”。 カルシで最も人気が高いギャンブル対象は、FRBが発表する連邦金利で、
その結果、カルシでの賭けの動向は これまで金利動向を正確に予測してきたという。
カルシ側は「賭けの動向は世論であり、人々が世の中から感じているバイブ」と捉えており、ギャンブル市場が 世の中の近未来を占う指針にもなり得るという見解。
いずれはギャンブルの対象になる様々なイベントを 集金力がある資産と見なして、株式のように取引が出来るよう、
政府による規制緩和を求めている最中なのだった。
しかし倫理的立場からこれに反対する専門家は、「自然災害や人的苦痛に関するギャンブル、
操作が可能なイベントに関するギャンブルを容認することは、モラルの見地の問題だけでなく、ギャンブル業界の健全性崩壊に繋がる」と懸念を表明。
実際にそんな懸念から商品先物取引委員会は、カルシに対してユーザーが選挙結果に賭けることを禁止しているけれど、
これについてはカルシは法廷で異議を申し立ており、「選挙民が支持する政党、政治家の勝利に賭けるのは当然」という解釈。
自然災害や人的災害に関するギャンブルについても、「例えば特定地域の地震の可能性に多くの人々が賭けるということは、
それが起こる可能性が高いと判断される。それに従って対策を講じれば、被害も軽減出来る」というのがカルシの主張。
さすがにギャンブルを取り仕切るだけあって、ギャンブルに関して極めてポジティブなビジョンを持っているのだった。
しかしギャンブルに賭ける人々の中には、水原氏のように1万9000回賭けても 負け続ける人々も含まれている訳で、
そんな人々の予測で未来を占うというのは、ギャンブル同様にリスキーと言えるのだった。
ポリティカリー・コレクトの厳しい目にさらされるエンターテイメント界
2025年のヴァレンタイン・デイに封切りを控えているのが「ブリジット・ジョーンズ」シリーズの4作目、「Mad About The Boy」。
現在、同シリーズに馴染みが無いミレニアル世代やジェンZにバックストーリーを知ってもらおうと、ストリーミング・サービスでの配信が行われているのが 今から24年前、2000年に公開された「ブリジット・ジョーンズ・ダイアリー」。
「Mad About The Boy」では、レネー・ゼルウェガーが演じたブリジット・ジョーンズ、彼女の元上司でヒュー・グラントが演じるダニエル・クレヴァ―のキャラクターを復活させるため、
オーディエンスがシリーズ全作を観ていなくても、1作目を観てその関係性を理解しているのは大切なこと。
しかしジェームス・ボンドを”殺人鬼、セクシスト&レイピスト”、「フレンズ」を”レイシスト”と批判する世代にとって、「ブリジット・ジョーンズ・ダイアリー」も見るに堪えない ”ポリティカリー・インコレクト”ぶりのようで、
ソーシャル・メディアでは「2000年ってこんなに酷い時代だったのか?」といった大バッシングが起こっているのだった。
特に問題視されていたのが、ブリジットに対するセクハラ、ファット・シェイミング(太った体型を馬鹿にする行為)、そして日本人を馬鹿にした台詞。
この台詞については、私も2000年当時不愉快に思ったのを覚えているけれど、この時代には誰も問題視していなかったのだった。
ちなみにその台詞とはコリン・ファースが演じたマーク・ダーシーの元妻が日本人であったことを ブリジットの母親が説明する際に、
日本人を”Very cruel race(非常に残酷な人種)”と語ったもの。「ブリジット・ジョーンズ・ダイアリー」の原作が書かれた時代は、旧日本軍による南京大虐殺の本がベストセラーになっていたとは言え、
映画会社がこの台詞を野放しにしたのは、現在の常識では考えられないこと。ソーシャル・メディアの批判の中には、アメリカ人から「日本に関する差別台詞を今すぐ取り除け!」という声もあったけれど、
既に来年公開の新作にまでアレルギー反応を示す様子も見られているのだった。
音楽の世界で、そんな厳しい目にさらされているのがジェニファー・ロペス。現在自ら主演、プロデュースをする80年代のオスカー受賞映画「蜘蛛女のキス」のリメイクを撮影中と言われるジェニファーは、
昨今、最もソーシャル・メディア上で叩かれているセレブリティの1人。その理由はアシャンティ、クリスティーナ・ミリアン、ブランディといったアフリカ系アメリカ人シンガー、それも実力派の歌唱を、
自分のヴォーカルと偽ってトラックに採用してきたことが一般のオーディエンスにバレてきたため。音楽業界では長きに渡って公然の秘密になっていた ジェニファーの”ヴォーカル盗み”であるけれど、
その好例と言えるのが2002年のヒット曲、「ジェニー・フロム・ザ・ブロック」。ここでバック・ヴォーカリストとして起用したナターシャ・ラモスが歌唱したコーラスと繋ぎの部分を、そのまま完成したトラックに使用しただけでなく、
オリジナルのデモに録音されていた彼女の笑い声まで使用していたことが伝えられるのだった。
そのためジェニファーの”フェイク歌唱”に利用されたシンガーに同情するミュージック・ファンがソーシャル・メディアで繰り広げてきたのがバックラッシュ。
その影響か、ジェニファーの最新アルバム 「This is me now」は ビルボードのアルバム・チャートで最高38位止まり。このタイトルは「ジェニー・フロム・ザ・ブロック」をフィーチャーした
2002年のアルバム「This is me then」と関連付けたもので、名付け親は当時の婚約者で現在の夫、ベン・アフレック。その後に別れ、20年後に彼と結ばれた
ジェニファーにとって 「This is me now」は ”運命的なタイトル”とも言われたけれど、そのせいで 過去の”悪行”にフォーカスが当たってしまった形。
ジェニファーは目下、30公演のスケジュールで予定していた全米ツアーの日程を、チケット売上不振のため調整を強いられている真最中。
ツアーのタイトルも ”This is me now” Tour から ”The Greatest Hits” Tourに変更し、何とかバックラッシュをかわそうとしているのだった。
ミレニアル&ジェンZ世代の厳しいモラル・スタンダードの前では、
彼女の高額ファッションで身を固めたグラマラスなライフスタイルと、それにも関わらず”ブロンクス出身のプエルトリカン”という庶民的イメージで親しみ易さを演出する
イメージ作りは、”フェイク”、”矛盾”としか映っておらず、ブーマー世代、ジェネレーションXにはアピールした彼女の手法が、若い世代には通じない様子を見せているのだった。
女子バスケが史上初めて男子を逆転!
先週末で終了したのが”マーチ・マッドネス”こと、アメリカ大学バスケットボール選手権。そこで起こった歴史的な出来事と言えるのが、女子決勝の視聴者数が
史上初めて男子決勝を上回ったこと。
男子決勝は前年比で視聴者数を13万人増やしたとは言え、その平均視聴者数は1480万人。それに対して女子の決勝は1890万人の平均視聴者を獲得。
ちなみにこの数は2023年のMLBワールド・シリーズの平均視聴者数911万人の2倍以上。
今年女子が男子を上回ったのは視聴者数だけでなく、チケット価格もしかり。アメリカのチケット販売はダイナミック・プライシングを導入していることから、
需要があればあるほど、チケット価格が高騰する仕組みで、女子リーグの人気が男子を上回る現象は、メジャーリーグ・サッカー以来。
今回、女子大学バスケットボール選手権がこれだけの注目を浴びた理由は、アイオワ大学のスーパースター、ケイトリン・クラーク(写真上左)がカレッジ・プレーヤーの最多得点記録を塗り替える大活躍を見せ、
全米を魅了したためで、決勝でサウス・キャロライナ大学に敗れたとは言え、トーナメント期間中、スポーツ・ニュースのみならず、
メインストリート・メディアでも大きく報じられたのが彼女の大活躍。ケイトリン・クラークは今年のWNBAのドラフトで1位指名を得ることが確実視されており、
全米の注目を浴びながらプロリーグに鳴り物入りのデビューを果たすことになるのだった。
今回の女子大学バスケットボール選手権のTV視聴率は前年比60%アップで、これまで女子スポーツをメガ・スクリーンで映し出したことがないスポーツ・バーまでもが、
試合をアトラクションにしていたほど。
2022年の段階ではスポーツ報道における女子スポーツの割合は僅か15%に過ぎなかったけれど、このところ急ピッチで人気と観客動員数を伸ばしているのが女子スポーツ。
昨年8月にはネブラスカ州の女子カレッジ・バレーボールの試合に9万2000人以上の観衆が詰めかけ(写真上、右)、女子スポーツイベントの入場者数の世界記録を樹立したばかりで、
飽和化した男子スポーツ市場に対して、女子スポーツはまだまだ伸びることが確実視されているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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