Oct 9 〜 Oct 15 2023
MLBルール改正の大成果, 肥満が支える世界経済, IPOがまた失敗, Etc.
今週のアメリカでは、戦争に突入したイスラエルとハマスのニュースで持ち切りであったけれど、そんな中でも物議を醸したのがイーロン・マスク。
というのもマスク自身がX(元ツイッター)のポストで、シリア戦争の悲惨な画像を ガザ地区での映像と偽ってビューワーを欺く2つのアカウントを賞賛し、
彼のフォロワーをそれらのアカウントに誘導していたのに加えて、X上に戦争関連の偽情報やヘイトスピーチ、暴力的な画像や動画が氾濫しているため。
既にメジャーな広告主が去って久しいXであるけれど、今週には欧州のデジタル規制当局が 「X上の悪質コンテンツを一掃しなければ、重大な処罰に直面する」とマスクに警告。
しかしメディア専門家は、「フリー・スピーチ」を謳うマスクの経営になって以来、それまでツイッターの秩序を守ってきたセイフティ&モデレーション・チームが解体されてしまったことから、
そうしたミスインフォメーションやへイト・スピーチとの戦いは極めて困難であると指摘しているのだった。
Xにアップされた過激映像はWhatsAppやTikTokなど他のプラットフォームにも拡散されており、児童保護団体はイスラエルの親達に子供のスマートフォンからソーシャルメディア・アプリを削除するよう促していたのが今週。
X側は「取り締まりに全力で取り組んでいる」として、「新たに作成されたハマス関連のアカウントをすべて削除し、コンテンツを監視している」と説明。しかし「Xにはフィルター機能があるので、
それを調整することにより不快なコンテンツを避ける責任はユーザーにもある」と主張するふてぶてしさも見せており、
基本的にはコンテンツ取り締まりの努力をさほどしていない様子を露呈していたのだった。
MLBルール・チェンジの大成果
今週MLBが発表したのが、今シーズンから始まった時間短縮ルールの驚くべき成果。
それによれば2023年シーズンの、延長が無い9イニング・ゲームの平均時間は2時間40分で、昨シーズンより24分短縮され、1985年以降最短。
ピッチ・クロック導入による 投球のスピードアップが影響して、打率が急上昇した上に、過去40年間で最多の盗塁数が記録され、試合内容がエキサイティングになった結果、
総観客数は前年より600万人増えて 7,074万7,365人を記録。メジャーリーグの総観客数が7000万人を突破したのは2017年以来のこと。
ちなみにメジャーリーグの平均試合時間は2016年から2022年まで、7年連続で3時間を超えており、最長は2021年の3時間10分7秒。
2023年で3時間半以上を要したゲームは僅か9試合なのに対して、2021年にはその数が390試合もあったので、いかにダラダラ試合が行われていたかが窺い知れるのだった。
盗塁の成功率は歴代最高の80.2%となり、1試合当たりの平均得点は2022年の8.6から9.2にアップ。
観客数は前年比9.1%アップで、30球団中17チームが250万人以上の観客数を記録。そのうちドジャース、ヤンキーズ、ブレーブス等の8球団が300万人以上の観客を動員。
これはメジャーリーグにとって10年ぶりの快挙となっており、ルール変更は文句なしの大成功を収めているのだった。
試合がエキサイティングになってくれば、アンパイアのコールへの不平不満がソーシャル・メディア上で聞かれるのは当然の成り行き。
その都度「AIアンパイアを導入すべき」との声が上がるけれど、今や数多くのスポーツで、ラインジャッジを中心に導入されているのがAIテクノロジー。
しかしながらベースボールのアンパイアについては、「人間でなければダメ」というのがMLBの見解。
その理由はAIアンパイアが完璧過ぎるため。
メジャーリーグでは、既に行われた試合のビデオを使って AIアンパイアのシミュレーションを行ったというけれど、その結果、急増したのがフォア・ボールの数。
要するに例えプロであろうとピッチャーは、AIの完璧なストライクゾーンに頻繁にボールが投げられるほどコントロールが良くないようで、
加えてピッチングの醍醐味でもある 「配球の妙によるストライク」というものがAIには受け入れられないことから、
AIアンパイアを導入すれば 極めて退屈でつまらない試合になってしまうことが明らかになっているのだった。
結局のところベースボールにおいては、ファンが「あれがストライク!?」とアンパイアに腹を立てている方が、エキサイティングな試合が楽しめるということなのだった。
肥満人口が支える米国経済を揺るがすオゼンピック!?
月末にハロウィーンを控えて、アメリカでは10月2週目くらいから徐々に売り上げを伸ばして行くのが、英語だと ”キャンディ” という言葉で一括りにされるチョコレートやガムを含むお菓子類。
毎年この時期に キャンディやスナック菓子で大きな利益を上げているウォルマートを含む大手スーパーマーケット・チェーン及び、大手食品メーカーが、今回は例年に無く その売り上げ動向を注視しているようで
その理由は メガブームを迎えているオゼンピックやウィゴービーといった処方箋ダイエット薬が、徐々に食料品の売り上げに影響を及ぼし始めたため。
9月2週目のこのコーナーで、胃のバイパス手術、脂肪吸引の件数がオゼンピックの影響で減少し、
ダイエット産業が衰退する等の経済効果についてご説明したけれど、
当初ウォルマートや 食料品も扱う大手ドラッグストア・チェーンは、処方箋を持ってオゼンピックを買いに来る人々の”ついでのショッピング”のお陰で、売り上げの恩恵を受けていた側。
ところが最近になって様々な方面から聞かれ始めたのが、オゼンピックでスリムになった人々が食べ物にお金を遣わなくなってきたことを懸念する声。
ウォルマートのCEO、ジョン・ファーナーも「来店客の食料品の購入量に若干の変化が見られる」と語っているけれど、
オゼンピックやウィゴービーを始めとする 製薬業界で「GLP-1薬」と呼ばれるダイエット薬は、早い話が食欲抑制剤。
人間は食欲が無ければ、無理に食べたいとは思わない生き物で、
食べたくなければ食料品、スナック菓子の購入量が減るのは当たり前。
そして一度スリムなボディを手に入れると、身体の維持に必要なカロリーも激減するので、スリムでいる限り、以前よりも食べ物にお金を使わなくなるのは当然の成り行き。
そもそも大手食品メーカーは、これまでその逆に当たる 食欲ホルモンを刺激するケミカルを食品に用いることで肥満人口を増やしながら大儲けを続けてきた訳で、
オゼンピックはその手法を逆手に取っただけとも言えるのだった。
最新の調査によればオゼンピック・ユーザーの42%が外食を減らす傾向にあり、44%がオーダーする食事の量を減らしているとのこと。
同様の現象はテイクアウト・フードにも現れているようで、そうなればデリバリーをするUber Eatsや、食料品を中心にスーパーからのデリバリーを請け負うインスタカート等の
売り上げにも影響が出るのは時間の問題。
すなわち、オゼンピックで人々の体型がスリムダウンすれば、以前お伝えした美容&ダイエット業界だけでなく、食品業界、外食産業、食品デリバリー業の売り上げもスリムダウンし、
それによって糖尿病患者が減れば 医療業界と医療機器メーカーのビジネスにも影響が出ることが懸念されているのが現在。
見方を変えれば、これだけの業界を支えて来たのが肥満人口で、世の中で肥満が社会問題のように扱われてきたのとは裏腹に、
実は多くのビジネスにとって”金の成る木”だったというのがその実態。
アメリカは未だ成人の42%が肥満であることから、これらの業界は未だ未だ安泰ではあるものの、
投資銀行ジェフリーズのアナリストは、今後オゼンピックに代表されるGLP-1薬は1000億ドル市場に成長するのも夢ではないと予測するのだった。
アメリカではヨーグルト・メーカーの大手が自社製品をヘルシー・フードとしてプロモートするために、大学や医療機関に”研究費”を支払ってその裏付けデータを作らせ、
逆に競合する食品やカテゴリーに対しては同様の手段でネガティブ・データを作らせて、それをメディアで発信するといった攻防戦が行われてきた歴史があるけれど、
ここへきて、出るべくして出て来たのがオゼンピックに関するネガティブ・データ。
最近のものには「オゼンピックで自殺願望が強くなる」というものがあったけれど、ヘッドラインに驚いて記事を読むと「未だデータ不足」というもので、
早い話が「推測の域を出ていないけれど、用心が必要」という程度の内容。
オゼンピックの売り上げが伸びると困るビジネス、それが雇った研究機関、ビジネスをスポンサーとするメディアが 消費者心理をコントロールするために動いているの見え見えではあるけれど、
訴訟の対象にならないように内容や表現をぼかしているのは毎度の手口なのだった。
ちなみに2020年まで200年続いた土の時代は、積み上げや蓄積、それが象徴する学歴・家柄が物を言う中央集権社会、病気ならば徐々にデベロップするガン、脂肪を貯め込んだ結果の糖尿病の時代で、
肥満や飽食もこの時代を象徴するもの。
そして突入した風の時代は、スリムダウンして軽快になり、積み重ねた実績や信頼よりも情報の速さや先端のテクノロジーが物を言う分散型社会で、病気は風に乗って広まる感染症という暗示。
そんな時代の流れを考えると、食料品業界がここで悪あがきをしても やがてはオゼンピックに代表されるGLP-1薬の方に軍配が上がるのは時間の問題のように見受けられるのだった。
2023年はIPOはずれ年! バーケンストックも失敗デビュー
9月に入ってから立て続けに3件行われたのが、2023年の期待を担った大型株式公開。
そのラインナップは、日本のソフトバンクがバッカーとなる半導体デザイン会社”アーム”、食料品配達会社”インスタカート”、マーケティング・ソフトウェアのクラヴィヨ。しかし、いずれも公開当日の御祝儀相場が終わってからは
株価が低迷しており、期待外れと言える状況。
そのため2023年で4番目の目玉IPOとして注目された、249年の歴史を持つドイツの老舗フットウェア、バ―ケンストック(ビルケンシュトック)は、今週10月11日の株式公開に際して、
あえて1株当たり46ドル、企業評価額90億ドルというコンサバティブな価格設定で取引をスタート。この日は証券取引所のフロア・トレーダーにバーケン・ストックが無料で振舞われていたけれど、
期待と予想を裏切って 株価は約13%下落、同社の時価総額は76億ドル。ブルームバーグによれば、この規模の米国上場銘柄としては、2021年以降で最悪のデビューを記録しているのだった。
とは言っても76億ドルという企業価値は、3年前にバ―ケンストックを買収するに当たって LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)会長、ベルナール・アルノー率いる未公開株投資会社 L・キャッタートンが支払った40億ユーロを上回る額。
したがって期待外れでも、L・キャッタートン側は利益を上げてはいるのだった。
バーケンストックIPOに対して投資家のリアクションが冷ややかだった理由の1つは、先に期待を集めてIPOを行っている2大シューズ・ブランド ”AllBirds/オールバーズ” と ”Dr. Martens/ドクター・マーティンズ”が、
華々しいデビューを飾りながらも、その後は株価が低迷しており、シューズ・ブランド全般に投資家の信頼が薄いこと。
しかし過去10年間に一流デザイナー・ブランドと度重なるコラボレーションを行い、この夏には映画「バービー」にも登場して ポップカルチャーの世界にも
アイコニックな存在感を示したバーケンストックは通常のシューズ・ブランドとは「別格」と言われて期待された存在。
その株式をアルノー家の投資会社フィナンシエール・アガシュが 3億2500万ドル分購入することに合意しており、
今後はアルノー氏の息子の1人、アレクサンドルが取締役会に加わることも発表されていたのだった。
すなわち今後はルイヴィトン、クリスチャン・ディオール等を傘下に収めるLVMHの経営手腕が、本格的にバーケンストックのブランド盛り立てに動き始める訳だけれど、
通常なら期待感で動く株式市場が反応しなかった最大の理由は、運悪く その前日にLVMHが発表した第3四半期決算内容を受けて同社株価が約6%も下落していたこと。
LVMHは前四半期に売り上げを17%伸ばしていたのに対し、今四半期にはその増加が9%に止まっており、
これまでラグジュアリー・グッズ市場を支えて来た中国経済の弱体化も重なって、「パンデミック以降続いていたラグジュアリー・グッズ・ブームが終焉する」気配を市場に印象付けていたのだった。
その煽りを受けてLVMHのライバルで、グッチ等を傘下に収めるケリング、カルティエを傘下に収めるリシュモンの株価も同様に下落。
LVMHは、今年9月1日に前述のオゼンピックの製造元であるデンマークの ノヴォ・ノルディック社に抜かれて、ヨーロッパ最大企業の座を明け渡したばかりで、
一部では「身体がスリムになれば、高額デザイナー物を身につけなくてもスタイリッシュに装える」と、オゼンピックがデザイナー・グッズの売り上げ減速に一役買っていると見る声さえ聞かれるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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