Oct 2 〜 Oct 8 2023
ヴァイオレンスの根源, ファンがメッシに払える限度, アマゾンの新AI, Etc.
今週のアメリカで最大の報道になっていたのは、先週末に政府シャットダウンを45日間延期に漕ぎつけた米国下院で ケヴィン・マッカーシー議長が自らが所属する共和党の保守派勢力8人によって、
近代米国政治史上初の議長辞任に追い込まれたニュース。アメリカで過去に下院議員が辞任に追い込まれたのは1800年代に1度起こっただけ。
就任時には まるでローマ法王選出のように15回も投票が行われたマッカーシーであったけれど、たった1人の共和党議員による不信任案と、たった1回の投票で議長の座を追われているのだった。
ちなみに下院議長は、大統領、副大統領不在となった場合に大統領任務を代行する米国政府においては3番目にパワフルなポジション。既に後任には2名の共和党議員が立候補しており、選挙は来週以降となるのだった。
そのニュースと共に、週明けのメディアの話題が集中していたのが、2週連続でNFLカンサスシティ・チーフのボーイフレンド、トラヴィス・ケルシーの試合観戦に訪れたテイラー・スウィフトのニュース。
カンサスシティ・チーフの試合は2週連続で最多視聴率を記録。トラヴィス・ケルシーはマスター・カードからワクチン接種を呼び掛ける公共広告までCMにも引っ張りだこ。彼のジャージーの売れ行きは400%アップし、
先週日曜の対NYジェッツ戦のチケット価格は、その前の試合にテイラーが姿を見せて以来43%アップ。
商魂たくましいNFLがこのテイラー効果を見逃すはずはなく、試合中にはテイラーのショットが14回も捉えられ、明らかにテイラー目当てにチャンネルを合わせたスウィフティーズのウケを狙っていたのだった。
テイラー自身も期待を裏切ることなく、ライアン・レイノルズ&ブレーク・ライヴリー夫妻、ヒュー・ジャックマン等のセレブリティ・アントラージュを伴ってのスタジアム入り。
しかし試合直後から起こったのが従来のフットボール・ファンやスポーツ・メディア関係者からのバックラッシュ。
NFLもその段階になって、ようやく ”見苦しいほどの遣り過ぎ” を悟ったようで、テイラー関連のソーシャル・メディア・ポストを消去していたのだった。
益々過激になるアメリカのヴァイオレンスの根源は…
NFLはテイラー効果により、女性とジェネレーションZのファン層の拡大を狙ったと言われるけれど、
NFLがテイラーにフォーカスして欲しかった もう1つの理由と言われるのが、開幕以来、毎週スタジアムで起こる暴力事件が大きく報じられ、ネガティブ報道が続いてきたため。
最初の32試合目の時点で起こった暴力事件は81件。この数は昨年の140件よりは少ないとは言え、警察沙汰やメインストリーム・メディアに報道される規模のヴァイオレンスが続いているのが今シーズン。
開幕翌週のニューイングランド・ペイトリオッツVS.マイアミ・ドルフィンズの試合では、ドルフィンズ・ファンに顔を3発殴られたペイトリオッツ・ファンの男性(53歳)が死亡する事件が発生。
解剖の結果、死因は持病と診断されたものの、死のトリガーになったと言われるのがスタジアムでの暴力。
これがナショナル・ヘッドラインになったことから、NFLは観客席を対戦チームごとに分ける案を検討。しかし翌週のサンフランシスコ・フォーティーナイナーズのゲームでは、
サンフランシスコの女性ファン同士が殴り合う事態が起こっているのだった。ちなみに昨今増えているのが女性同士の暴力騒ぎで、10月1週目のラスヴェガス・レイダースVS.ロサンジェルス・チャージャーズの試合でも、
女性ファン同士が15秒間に渡って殴り合いを繰り広げ、その様子を捉えたビデオがヴァイラルになっていたのだった。(写真上左)
今シーズンのNFLで暴力沙汰が相次ぐ理由として挙げられるのは、野球やサッカーの試合とは異なり スタジアムが超満員で観客同士の空間が狭いこと。スタジアムでアルコール・ドリンクが販売され、
酔っている観客が多いのに加えて、今シーズンはスポーツ・ギャンブルの人気が高まり、試合にお金を掛けるファンが前年比で60%アップ。試合中に感情的になる要因が重なっているのだった。
とは言っても直ぐに腹を立てるのはフットボール・ファンに限ったことではなく、先週末にはノース・キャロライナ州のタコベルで、来店客が「釣銭を間違えた」という理由で店員に発砲する事件が発生。
以前からファストフード店ではカウンターを飛び越えてまで店員を殴りに来る来店客の様子等がレポートされていたけれど、さすがに発砲に及んだのは珍しい例。
このように人々が暴力的、かつ高圧的な態度を取るようになってからというもの、フライトアテンダント、学校教師等、なじられたり、罵倒される機会が多い仕事を辞める人々が後を絶たないのがアメリカ。
それが危機的状況を招くと言われるのが911(日本の110&119番)のディスパッチャー(電話オペレーター)。
911に通報する人が 慌てたり、取り乱したりするのは仕方がないとは言え、特にパンデミック以降、ディスパッチャーを罵倒する通報者が急増。
ディスパッチャーは24時間体制とあって長時間勤務、にも関わらず薄給であることから、辞めるスタッフが急増した結果、全米のコールセンターで平均25%人員不足が伝えられるのが現在。
そのせいで通報への対処が30秒前後遅れる傾向にあり、これが生死を分けるリスクに繋がると指摘されるのだった。
人々が以前より短気なのは 全世界的に認められる傾向とは言え、世界に先駆けてそのトリガーの役割を果したと誰もが指摘するのがトランプ前大統領。
2016年の選挙演説で野次が飛べば 「裁判費用を払ってやるから、殴ってつまみ出せ」と壇上から叫び、「5番街で人を撃ち殺しても支持率が下がることは無い」と宣言したのはあまりに有名なエピソード。
そのトランプ氏の言動が更に過激になったことをメディアが報じていたのが今週。
10月2日月曜からNYではトランプ氏、及びトランプ・オーガニゼーションの資産過剰申告の詐欺容疑の裁判が始まり、トランプ氏自身が出廷したけれど、
早速、裁判所の女性スタッフを自らのソーシャル・メディアで批判。そのポストに彼女個人のインスタグラム・アカウントのリンクを貼り付けて、
支持者に「コイツを叩け」と言わんばかりの暗黙のメッセージを送りながら、裁判官に対しても「司法資格を剥奪して、訴追してやる」と攻撃。
また全米で頻発する 大勢でストアを襲撃するモブ強盗事件について言及した際には、 「警察は犯人を取り押さえるのではなく、発砲すべき」と発言。
モブ強盗事件が人通りが多い街中で起ることを顧みない様子を見せていたのだった。
しかしメディア、政府&軍関係者を最も驚愕させたのは アリゾナ州でのキャンペーン演説で、もうすぐ退任する米軍統合参謀本部議長マーク・ミリーを「死刑にすべき」と語ったこと。
その理由は2020年の大統領選で敗れたトランプ氏が 「中国に戦争を仕掛けて大統領の地位を守ろうとしている」という情報で中国政府が警戒を募らせていた際に、
ミリー氏が中国政府高官に「アメリカが中国を攻撃することは無い」と電話で語り、両国間のテンションを和らげたことを「国への裏切り行為」と捉えているため。
この発言以来、ミリー陸軍大将に対してはインタビューと称してメインストリート・メディアが弁明機会を与えているものの、
トランプ支持者にはトランプ氏の言い分しか耳に入らないことから、ミリー氏は厳重警備でガードされる身となっているのだった。
裁判官はトランプ氏に対して、メディア&ソーシャル・メディア上で裁判関連の発言を控えるように通達。これは英語で”ギャグ・オーダー”と言われ、違反すれば罰金等の処分対象になるけれど、
それでも過激な言動が止まらないのがトランプ氏。トランプ支持者の間では、どんどん過激になるトランプ氏の発言に難色を示すよりも それがニューノーマルになっており、
彼らも同様に過激かつ暴力的になってきていることが指摘されるのが現在。
そのため、トランプ氏が2024年の選挙で再び大統領に返り咲くことがあれば、「アメリカは無法地帯になる」と冗談抜きで危惧する声が聞かれるのだった。
いくらメッシが見られても…
先週発表されたのがメジャーリーグ・サッカー、インター・マイアミの2024年度のシーズン・チケット価格。
インター・マイアミには今シーズンの途中からサッカー界のスーパースター、リオネル・メッシが移籍したのは周知の事実。
そのためファンの間では「来年からシーズン・チケット価格がアップするだろう」というのは織り込み済みであったけれど、
それでもファンを驚かせたのがその値上げぶり。
2023年に最も安価なクラスのシーズン・チケットは485ドルであったけれど、2024年は82%アップの884ドル。
それより上ランクの3600ドルのシーズン・チケットは、2024年には2倍以上の7650ドルにアップ。
中には2023年に2200ドルだったチケットが、2024年にほぼ5倍の1万710ドルになったことをソーシャル・メディアで訴えるファンもいたのだった。
加えて2023年には10回だった分轄払いのオプションが 2024年には8回に減らされたことで ファンの経済的負担はさらに大きくなっており、
「これがメッシが来る前から応援していたファンに対する扱いか?」といった批判がソーシャル・メディア上に溢れていたのだった。
ファンが怒る理由は他にもあって、インター・マイアミの現在のホーム、DRV PNKスタジアムはテンポラリー・ホーム、すなわち本当のホーム・スタジアムを建設する前の仮住まい。
チーム設立からある程度の時間が経過して、人気が盛り上がったところで大規模なスタジアムを建設すると言われており、
現在のホームは僅か2万1千人収容の小規模なもの。すなわちファンにしてみれば、「スタジアム設備も整えていないチームが チケット価格を法外に釣り上げるのは間違っている」という意見。
しかもメッシが加入するまでは、その小さなスタジアムさえ満員に出来なかったのがインター・マイアミ。
現時点でも 盛り上がっているのはメッシ人気だけで、インター・マイアミへの興味や関心はさほど高まっておらず、
9月21日、DRV PNKスタジアムで行われた対トロントFC戦では、前半37分で メッシが怪我により退場した途端、ファンがスタジアムを出て行く様子が見られたのだった。
そもそもDRV PNKスタジアムが位置するのはマイアミのダウンタウンから車で1時間という不便な場所。お目当てのメッシがプレーをしないのなら、ファンが帰路を急ぐのは当然と言えるのだった。
ちなみにイギリスのプレミア・リーグのトッテナム・ホットスパーFCの最も高額なシーズン・チケットの価格は2500ドル、マンチェスター・ユナイテッドの最高額シーズン・チケットは1237ドル。
これがNFLになると、シーズン戦16試合のうちホームゲームは8試合で、そのシーズン・チケットの価格は最も安価なシートで300ドル、高額なもので4500ドル。
NBAは1シーズンのホーム・アリーナの試合数が41試合で、シーズン・チケットの最高額は9万ドル。
それに対してメジャーリーグ・サッカーはシーズン・ゲームが34試合、そのうちホーム・ゲームは17試合。2024年のインター・マイアミのシーズン・チケット最高額は
ほぼNBA並みと言える4万5000ドル。
しかしメジャーリーグ・サッカーの盛り上がらない人気を思えば、いくらメッシのプレーが見られるからとは言え、
インター・マイアミのチケット価格は「何を勘違いしているのか」と言いたくなるレベルなのだった。
チケットが高額になる理由の1つは、いくらアップルとアディダスが一部を肩代わりしてくれるとは言え、2万1000人収容のスタジアムしか持たないチームがメッシの超高額給与を支払おうとするため。
ファンの間では メッシが既に今年36歳で、インター・マイアミとは2年の契約であることから「Enjoy, while you can」、すなわち「こんな事が出来るのもメッシがいる間だけ」と
皮肉る声が聞かれていたけれど、今週水曜にメッシが発表したのが 2025年にインター・マイアミとの契約を更新せず、母国アルゼンチンのニューウェルズ・オールドボーイズに加入して、そこでキャリアを終える意向。
インター・マイアミへの関心とチケット価格は、打ち上げ花火のように大きく盛り上がって、直ぐに消えて行くことが確実視されているのだった。
アマゾンの極秘AIプロジェクト、”Nile”でオンライン・ショッピングが変る?
今週報じられたのが、アマゾンがトップ・シークレットで進めているAIプロジェクト、”Nile/ナイル” について。
当初は9月にデビュー予定だったナイルは、アマゾンのウェブサイトのサーチ機能に加わる対話式のAI。
チャットGPTに音声対応でも遅れを取ってしまったアマゾンは、ナイルのデビューを来年1月に延期したと言われるけれど、
ナイルは極秘プロジェクトのコード・ネームで、実用化された場合のネーミングは未公開なのだった。
アメリカではオンライン・ショッピングで商品を探す際に、61%がグーグル等のサーチ・エンジンよりも先に、まずサーチするのがアマゾンのウェブサイト上。
それもそのはずで、全世界のアマゾン・プライム・メンバー・フィーの74%を支払っているのがアメリカのプライム・メンバー。その数は1億4860万人。アメリカの成人の70%がアマゾン・プライム・メンバー。
「アマゾンなら直ぐ届く」、「何時も利用しているからストレス・フリー」、「アマゾンなら何でも売っている」等、何を買うにも まずアマゾンでサーチする理由はそれぞれであるけれど、
アマゾンにとってはサイト内のサーチ機能はセールスに直結する極めて大切なもの。
ナイルのAI機能は 実際に店に出掛けて、店員と会話をしながら買い物をする感覚をオンライン・ショッピングで実現するもの。
そう説明されると、年配世代が話し相手が出来ると喜び、若い世代は面倒がって従来通りの商品名入力を好みそうに思えるけれど、
ナイルによって売り上げが伸びると見込まれるのはモービル、すなわちスマートフォンを通じてのショッピング。
そもそも現在アマゾンの検索機能を使っている80%がデスクトップやラップトップ等のコンピューター・ユーザー。
スマートフォン・ユーザーは検索を面倒がるのに加えて、サイトにアクセスしても購入に及ばないケースが多いとのこと。
そんなスマートフォン・ユーザーも 音声によるハンズフリーの検索が可能になり、フォローアップの質問等にも答えてくれるナイルの機能が加われば、
取りこぼしが無しで売り上げに繋がるというのがアマゾンの思惑。
そうなるとアマゾンのスマート・スピーカー、アレクサの仕事が減るかと思いきや、そうではないようで、AIブーム到来前には「閉鎖されるのでは?」と内部で囁かれていた
アレクサ部門は、今やAI導入によって突如スター部門に返り咲きつつあるとのこと。一部ではナイルとの連動等が噂されているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
★ 書籍出版のお知らせ ★
当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2023.