Sep 18 〜 Sep 24 2023

AI for Public, Rape Reactions, VHS, Etc.
普及版AI, レイプ事件へのリアクション, VHSブーム?, Etc.


今週からNYでは毎年好例の国連総会がスタート。ニューヨーカーなら誰もが友人や家族が9月にNYにやって来るのは勧めないもので、9月は前半がテニスのUSオープンとファッション・ウィーク、後半は国連総会の影響で ホテルの予約が取れない上に、人気レストランも予約を入れるのが極めて難しい状況。加えて国連総会期間中は 国連周辺エリアが通行閉鎖となるので、交通渋滞が他のエリアにも及ぶのは毎年のこと。
特に米国大統領の移動経路では、大統領専用車”ビースト”が 白バイ警官、パトカー、セキュリティ車両、救急車、意味不明な巨大なバンを含む、何十台もの車両に挟まれながら列車のように連なって通過するまでの 20〜30分、歩行者さえも足止めされるのが常。私は過去に何度も大統領移動の通行止めで待たされた経験があることから 今回も気を付けてはいたけれど、火曜日夕方6時過ぎにランニングを終えてセントラル・パークから出ようとしたところ、NY市警察によってブロックされていたのがパークの出口。既に50人程度の人だかりが出来ていて、バイデン氏が5番街を下ってミッドタウンに向かうことから、セントラル・パーク東側の出口が全てが塞がれていたのだった。警官は「20分ほどの閉鎖」と説明していたけれど、そこから待つこと35分。待たされた人々は口々に文句を言っていたものの、いざバイデン大統領を乗せたビーストが通過すると こぞってスマートフォンで撮影しながら、手を振ったり、歓声を上げる歓迎ムードで、トランプ政権時代のブーイングとは全く異なるリアクション。NYが民主党支持のブルー・ステーツであることを改めて実感することになったのだった。
今週アメリカは国の総負債額が史上初めて33兆ドルを突破しており、2024年の大統領選挙で誰が当選しても厳しい経済の舵取りが必要になるけれど、バイデン氏のディスアドバンテージは年齢。 トランプ氏のディスアドバンテージは刑事訴追。現時点ではトランプ氏の4つの刑事訴追で1つでも有罪が確定した場合は、 バイデン氏が再選するというアンケート結果が得られているのだった。



AIの一般普及にターボが掛かる!?


昨年12月に登場以来、最速で普及したアプリがオープンAI社のチャットGPT。しかし過去3ヵ月間連続でユーザー数を減らたことがレポートされ、その原因と言われたのが 地方新聞社等が記事執筆をチャットGPTに頼れないことを察知して使用を控えるようになったのに加えて、学校が夏休みに入っていたことから学生ユーザーが激減していたこと。
そんな中、先週にはワシントン上院でイーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグ、ビル・ゲイツ、オープンAI社のサム・アルトマン等、IT業界の大御所が一堂に会して、AI開発サミットが行われたけれど、 今週相次いで行われたのが 大手IT企業の一般消費者向アプリやプロダクトでのAIテクノロジー導入の発表。
Googleは、チャットGPTに対抗してリリースしたチャットボット Bardを Gmail、Googleドキュメント、YouTubeに導入。世界で最も人気が高い自社サービスとBardをリンクさせることにより、 人々が自然にBardを使用するように仕向けることで、チャットGPTにユーザー数と普及率で追いつこうとするのがこの戦略。 しかしながら現時点でBardはメールを不正確に要約したり、”ハルシネーション/幻覚”と呼ばれるAI特有の現象で 事実をでっち上げる傾向にあり、 人間でいえば 「まともに見える統合失調症患者」のような状態。完成度を高めるのはこれからの課題。
一方アマゾンは今週、スマート・スピーカーで最大シェアを誇りながらも 売り上げが頭打ちになって久しい ”Alexa/アレクサ” へのAI導入アップデートを発表。 チャット機能と理解力が高まったAlexaは、より多くの会話フレーズを理解し、それに応じたリクエストの処理機能が向上。「Alexa、ヒーターをつけて」といった直接な指示から、 今後は「Alexa、部屋が寒い」と言うだけで暖房をオンにしてくれるような、ニーズを察する機能が備わりつつあるとのこと。 また「えーっと」というような間を取る言い回しや 口癖への対応力も格段にアップ。さらには Alexaがデートのアドバイスをしたり、詩を書くなど、感情の理解を一歩進める進化を遂げたことも報告されているのだった。
マイクロソフトはオープンAIに多額の投資をする段階で、Office 365を始めとする同社の主力ソフトウェアにAIを導入することを明らかにしていたけれど、 今週には同社のパソコン、SurfaceシリーズにAI機能を加えると発表。更には自社AIの開発も進めていることを明らかにしているのだった。
AIテクノロジーは、今後のビジネスを左右するとあって大手IT企業が最も力を入れている分野であるけれど、AIが一般消費者の間で普及する最大のリスクは、 個人情報がAIを通じて流出すること。グーグルはBardのユーザーに「査読者に見られたくない情報は提供しないように」と警告しているけれど、 何か大きなトラブルが起こるまでは深刻に捉えないのが消費者というもの。 また前述の ”ハルシネーション(AIが勝手にデータを組み合わせて作り上げる幻想)”も重大なリスクで、AIテクノロジーを使用する側に悪意が無くても AIが勝手に作り上げるのがハルシネーション。数週間前にはジェネレーティブAIでクリエイトされたディープフェイクの爆発映像のせいで、株価が一時的に急落する事態も起こっていたけれど、 一般消費者にAIテクノロジーが行き渡り、ハルシネーションが一般認識されるようになると事実の見極めが難しくなるだけでなく、ハルシネーションを装って 悪意や犯罪意図が無いと見せ掛ける フェイク情報が世の中を攪乱するリスクも出て来るのだった。。



性的不適切行為とそのリアクション


日本ではジャニーズ問題が毎日のようにメディアを賑わせているけれど、先週、今週と立て続けにアメリカで報じられたのが、日本におけるジャニーズほどのスターではないものの、 セレブリティによるレイプ事件とそのリアクションのニュース。
まず先週に報じられたのはかつてのヒットTV「That 70s Show」で知られた俳優ダニー・マスターソンが約20年前に3人の女性をレイプした容疑で有罪判決を受けたニュース。この報道で最も物議と反発を呼んだのは マスターソンが、自らがメンバーであるハリウッドのカルト宗教、サイエントロジーを利用し、罪に問われないことを確信してレイプに及んでいたこと。被害者女性は3人とも元サイエントロジーのメンバーで、 サイエントロジーでは他のメンバーに対して刑事責任を問うことはご法度とされ、問題が起こればサイエントロジー内で収めるのが通常。 サイエントロジーはハリウッドで最も高額な弁護料を支払っている団体とあって、有力メンバーはサイエントロジーが雇った敏腕弁護士によって何が起こっても救われるシステム。
メンバー間のレイプの訴えには弁護士が登場する以前に、「原因は自分にある、自分がその状況を招いたと考えるべき」というヴィクティム・ブレ―ミングと洗脳が行われてきた歴史があり、 #MeTooムーブメントが起こるまでは レイプを含む性的虐待被害を受けた女性信者は泣き寝入りするしかない状況となっていたのだった。
この件で マスターソン同様に批判が集まったのが 彼をかばい、裁判官にキャラクター・ウィットネスとしてのレターを執筆した 「That 70’s Show」の共演者でありサイエントロジストのアシュトン・クッチャー&ミラ・クニス夫妻。 2人は児童性的虐待犠牲者チャリティの共同設立者でありながら、マスターソンを支持したことで先ず批判を浴びたけれど、裁判所へのレターもサイエントロジーのメンバーとして執筆された内容。 すなわち2人はサイエントロジー内部のレイプ被害を知りながら、マスターソンとサイエントロジーを守ろうとしたことから更なる批判を浴びたのだった。 そのバッシングと共にインターネット上に浮上したのが「That 70’s Show」の撮影中に起こった2人とマスターソンを巻き込む性的不適切エピソード。 アシュトン・クッチャー&ミラ・クニスはインスタ・ビデオで謝罪をしたものの、あまりのバッシングの凄さに今では「自分達がキャンセル・カルチャーの対象になるのでは?」と戦々恐々とする様子がレポートされているのだった。

そして今週報じられたのが、複数の女性からレイプを含む性的不適切行為で訴えられたイギリス人コメディアン兼俳優、ラッセル・ブランドのニュース。シンガーのケイティ・ペリーとの短い結婚でも知られたブランドは 「セックスは合意の上」と容疑を否定しているものの、被害者が説明する手口はこぞって 「逃げられない状況になるまでは穏やかに振舞い、その後態度を急変させて脅す」という典型的なデート・レイプのパターン。 その容疑が報じられてからは警察に更なる被害がレポートされており、仕事現場からもブランドが以前から性的ジョークや不適切行動をスタッフや共演の女優にしていた証言が寄せられているのだった。
ダニー・マスターソンは今 何をやって生計を立てているかが 全く分からない俳優であるけれど、ラッセル・ブランドは本国イギリスで複数のレギュラー番組を持つタレント。 そのため この報道から程なくしてBBC、チャンネル4といったTV局が番組からのブランド排除を決定。NetFlixも彼のコメディ・スペシャルの配信を停止。 そして今週火曜日には600万人以上のフォロワーを擁するブランドのYouTubeチャンネルに対して収益化差し止め(広告掲載停止)の処分が下されているのだった。 ブランドは自らの無罪宣言もYouTubeビデオで行っており、引き続きビデオをポストすることは出来るものの、 TV降板後、貴重な収入源になると見られていたYouTubeの収益化差し止めはかなりの経済的打撃になると思われるもの。
一部では有罪が確定する前にYouTubeが措置に踏み切ったことに驚く声、批判する声が聞かれていたけれど、YouTubeにしてみれば 複数の深刻なレイプの容疑者に 発言の場を与えるのはソーシャル・メディアとしての性格上、仕方がないとしても、「容疑が晴れるまではその収入源になれない」という企業のポジションを明確にしたもの。 そもそもYouTubeはアルゴリズムによってビューワーごとに異なる企業広告がコンテンツに盛り込まれることから、収益化を認めれば たまたま広告が盛り込まれたスポンサー企業がブランドを支持、もしくは彼の容疑を黙認していると誤解されるリスクが生じる訳で、収益化停止措置はスポンサーを守るためにも適切な判断。
スポティファイは現時点では彼のコンテンツを削除しない立場であったけれど、週末X(元ツイッター)、インスタグラム、YouTubeでビデオメッセージを発信したブランドが ファンに対して求めていたのは 60ドルを支払う有料ビデオ・プラットフォーム、Rumble/ランブルのサブスクリプションを通じての金銭的サポート。
そのブランドは 自分が今追い詰められている状況を「英国政府が主要メディアに働きかけたため」と語っており、彼は近年コメディを通じて 保守右派の陰謀説を語ることでカルト・フォロワーを増やしてきた存在。自らのスキャンダルもそのコンテンツとして語られているけれど、 陰謀説で片付けるにはあまりに被害者証言が多く、彼を擁護するべき保守右派でさえ容疑の信ぴょう性を認めているのだった。



1970年〜1980年代のVHSムービーが今やお宝!?


9月29日を最後にネットフリックスが終了を発表しているのがDVD郵送レンタル・サービス。
1997年のビジネス開始以来、全世界で52億枚のDVDを送付してきたネットフリックスにとって、DVD郵送レンタルはかつてのメイン・ビジネス。ストリーミング・サービスが普及しつつあった2009年の段階でも、 同社CEOのリード・ハスティングスは 「DVDレンタルの終了は2030年頃になるだろう」と予測。昨年2022年の時点で110〜130万人のユーザーから 1億4570万ドルの売り上げを記録していたのがDVD郵送レンタル・サービスで、これがネットフリックスでなかったらまだまだ続ける価値があると思われるビジネス。
そのニーズと人気を支えてきた要因は、ストリーミングでは決して配信されないマイナーなB級映画。特に1970〜80年代公開の映画はヒット作、駄作を問わず、現在ファンベースを広げている真最中。 ノスタルジー・トレンドもさることながら、稚拙な特撮技術やブチブチ切れる編集、白々しい演技や悪趣味なファッション等、この時代の映画は駄作であればあるほどユーモアの宝庫で、時代の生き証人のような存在。 それがレンタルできなくなることを惜しむ声が聞かれるけれど、そのお陰で人気を盛り返しつつあるのがレンタル・ビデオ・ショップ。DVDレンタルも行っているとは言え、 レンタル・ビデオ・ショップの目玉と言えばVHSカセット。ロサンジェルスには新たにレンタル・ビデオ・ショップがオープンしたほどで、週末は特に大盛況。 物置に眠っていたVCRを取り出してきた人々や、子供世代にレトロ・テクノロジーを見せようとやって来た家族連れまでレンタル・ビデオ・ショップに足を運ぶ人々の目的は様々。
そんなご時世のせいで、昨今プレミアム価格で取引されるようになったのが1970〜80年代の映画のVHSビデオ・カセット。 人気No.1は伝説のB級ホラー「エルム街の悪夢」でプレミアム価格は何と5000ドル。ロバート・デニーロの出世作でマーティン・スコセシ監督の70年代の作品「タクシー・ドライバー」も1905ドル。アーノルド・シュワルツネッガーのデビュー作、「コナン・ザ・バーバリアン」は1725ドル。唯一2000年代の映画で高額ビデオのトップ10入りを果たしているのは「The Fast and the Furious(ワイルド・スピード、2001年公開)」。もちろんここまでの価格が付くのは外箱も揃ったコンディションが良い物のみ。こうしたプレミアム価格の背景にはレトロ・カルチャーのコレクターズ・ブームがあるけれど、今や新品コンディションで保存しておけば、20年後、30年後に何がお宝になるか分からない時代。2001年に399ドルで発売されたアップルのアイポッドも、未開封のものが今年8月に2万9000ドルで落札されたばかりで、断捨離で何でもかんでも捨ててしまうと、大金を逃してしまうケースも出て来るのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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