Sep 4 〜 Sep 10 2023
車機能もサブスク?、MeToo後進国、オゼンピック経済, Etc.
今週のアメリカはレイバー・デイの休暇が明けて、学校は新年度、ビジネスもヴァケーション・シーズンを終えてBack To Officeが始まったけれど、
今年は2019年を抜いて6月〜8月の世界平均気温が史上最高を記録。地球の南半球が冬なので、その平均気温は華氏62.2度、摂氏にして16.8度と
驚くほどの数字ではないとは言え、オーストラリア、ブラジル、チリといった南半球の国々でも迎えていたのが歴史的に温暖な冬。
特に7月は過去47年連続で 20世紀の7月の平均気温を上回っているとのことで、アメリカ国内ではマイアミ、アリゾナ州フェニックス、ニューオリンズ、ヒューストンが
史上最も暑い夏を記録。スペイン、フランス、イタリア、ギリシャ、スイスといったヨーロッパ諸国でもシーズナル・レコードを更新。
そんな中特に報道されたのが1875年に気象観測が始まって以来、初めて8月の気温が毎日30度を超えていた東京の暑さ。
NYはと言えば、8月の日中平均気温は26.7度、夜間の平均気温は21.7度。しかも驚くほど湿度が低く、例年に無く過ごし易かったのが今年の夏。
ニューヨーカーの間では「ヴァケーションに出掛けるより、NYに居た方が快適」という声が聞かれていたほど。
そのNYも今週は熱帯低気圧の影響で厳しい残暑。NYを始め東海岸の一部は9月に入れば涼しいとあって 多くの学校に冷房施設が無いことから、
今週は新学期早々ペンシルヴァニアやNYでオンライン授業になる学校が出ていたのだった。
既にNASAは2024年の夏が更なる猛暑になることを警告しているけれど、この夏は地球温暖化の影響で山火事、豪雨、大洪水、竜巻、ハリケーンと大規模な自然災害に
何度も見舞われたせいでアメリカの自然災害対策費は、ハリケーン・シーズンが始まったばかりだというのに残りは35億ドル。この金額では9月半ばに
資金不足に陥るとのことで、バイデン政権は議会に150億ドルの緊急予算承認を求めているのだった。
車の機能までサブスクリプションに?!
2023年のアメリカの夏は、テイラー・スウィフトのツアー大成功を受けて「Summer of Swift」と呼ばれたり、映画「バービー」、「オッペンハイマー」の大ヒットを受けて
「バーベンハイマー Summer」とも呼ばれたけれど、もう1つのこの夏を象徴するネーミングが「Summer of Strikes」。
俳優と脚本家組合は既に3ヵ月以上ストライキに入っているけれど、その影響で今週、ワーナーブラザース・ディスカバリーは第3四半期の業績見込みを5億ドル下降修正したばかり。
それ以外にも間際で回避されたUPSドライバーのストライキ等があり、今年に入ってから全米で行われた組合ストの数は252。
そして来週に控えているのが UAW(ユナイテッド・オート・ワーカー)のストライキ。これは米国ビッグ3を含む自動車業界で働く15万人の従業員組合で、
組合員はトヨタやテスラ等、UAW入りしていない企業の従業員よりも高額な時給を受け取りながら、週36時間勤務、46%の給与アップ、かつて自動車業界が潤っていた時代の
年金システムの復活という かなり無理な要求を押し付けており、9月14日までに交渉が纏まる見込みが無いことから、現時点でスト突入は確実視されているのだった。
もしそうなれば、少なくとも向こう3ヵ月は新車、中古車の価格アップ、品不足を招くと言われるけれど、
今や自動車業界にも新しい波が押し寄せて、今後新しいビジネス・モデルになって行くのが機能のサブスクリプション化。
これはサブスクリプション・ベースでエンターテイメント、詳細なナビゲーション・システム、ハンズフリー・ドライビングといったオプションを提供するもの。
例えばフォードは、同社のトップレーテッド・モデル、ブルー・クルーズのハイウェイでのハンズフリー・テクノロジーをサブスクリプションで提供。
購入時に3年間で2100ドルを支払うか、購入後に年間800ドル、もしくは毎月75ドルを支払うことによって アクティベートされるのがこのテクノロジー。
長距離旅行をする時だけのアクティベーションも可能なのだった。
このシステムは、テスラが「完全セルフ・ドライビング」のベータ・ソフトウェアを一括前払いの1万2000ドル、もしくは1ヵ月199ドルのサブスクリプションにしているのを
真似たと言われ、GMも同様に スーパークルーズのハイウェイ・ハンズオフ・システムを一括前払いの2200ドル、もしくは年間250ドル、月間25ドルのサブスクリプションで提供。
メルセデスでは”Me Connect”というソフトウェアのサブスクリプションを提供し、年間150ドルを支払うと 天気、交通情報、詳細のナビゲーションの提供に加え、パーキング・スペースの検索や予約等を行ってくれるとのこと。
要するに自動車業界が向かっているのは、車をテクノロジーのプラットフォームとして販売するビジネス・モデルで、
アイフォンやアイパッドといったハードウェアを提供するアップルの利益率を支えるのが、アップル・ミュージックやアップルTVのサブスクリプション、アプリストアの売り上げになってきているのと
同様の状況。
既にソフトウェアで年間数億ドルの利益を上げているフォードによれば、その利益率は50%以上。すなわち本業の自動車製造より遥かに割が良いビジネスで、
2030年までにはサブスクリプションによる売り上げが現在の10倍に達する見込み。
同様にGMでも ソフトウェアとサブスクリプション収入を2030年までに年間200億ドル〜250億ドルに拡大する目標を掲げているのだった。
スペイン、イタリア、MeToo後進国?
8月に行われた女子ワールドカップ・サッカーで最大の物議をかもしたのが、チャンピオンに輝いたスペイン・チームへのメダル授与の際、スペイン・サッカー連盟のプレジデント、ルイス・ルビアレスが、
スター・プレーヤー、ジェニファー・ヘルモソの唇にキスをして、固く抱き締め、後にヘルモソが不快感を表明した出来事。
スペイン・チームはワールドカップ開催前から コーチや連盟によるセクハラ、モラハラで主力選手が不参加というギクシャクした状態。
そして起こったキス事件だけに、ルビアレスに対しては辞任要求が寄せられ、彼は翌週の会合で一応の謝罪をしたとは言え「キスは合意の上」と主張。
辞任の意思が無いことを明確にし、女性を含む会場内の一部にスタンディング・オーベーションで讃えられていたのだった。そして始まったのが
問題のキスシーンをスロー・モーションで解析して こじつけたルビアレス擁護映像の拡散。スペイン世論は男女を問わずキスを不適切という意見が多かったものの、
ルビアレスは自ら辞任しない限りは追放できないポジション。結局今週までにコーチは辞任に追い込まれたけれど、ルビアレスは引き続き
ヘルモソの誤解を責めるポジションを崩さず、遂にヘルモソは彼を性的不適切行為で正式に訴追。今後は刑事捜査が行われることになり、
「ようやくスペインでも遅すぎた#MeTooムーブメントが起ころうとしている」と報じられているのが現時点。
スペイン政府も捜査結果を待たずして、ルビアレス追放に向けて動き出したと言われるのだった。(Update:9月10日にルビアレスは辞任を表明。刑事捜査は継続する見込みです。)
一方、イタリアで先週末から大きく報じられたのが、ナポリ郊外の町で11歳と12歳の従妹同士の少女2人が、6人の少年にギャング・レイプされるというショッキングな事件。
現地は白昼堂々ドラッグの取引が行われるほどマフィアが幅を利かせるエリアで、メディアを震撼させたのは被害者・加害者の年齢の若さ。
イタリア初の女性首相となったジョルジャ・メローニ(写真上 左から2番目)が今週現地を訪問し、治安改善を約束したのが週明けのこと。
7月にはシシリーで19歳の女性が地元の廃墟ビルに連れ込まれ18歳〜22歳の男性7人にギャング・レイプされ、その様子をビデオ撮影される事件が起こったばかりで、
報道に際して メロー二首相のパートナーのキャスター、アンドレア・ジャンブルーノ(写真上 右から2番目)が
「ナイトアウトをすればお酒を飲んで酔う権利はある。だが(ナイトアウトは)狼に遭遇する危険があるのだから、酔わないことによって様々なトラブルが防げるはず」と
保守派男性にありがちなヴィクティム・ブレ―ミングを展開したことから、猛攻撃を受ける羽目になっているのだった。
同じくイタリアでは4月に、ローマの17歳の高校生が 校内の階段を上っていたところ、後ろから66歳の用務員男性にパンツと下着を下ろされ、
身体を触られ、「冗談だって分かるよね」と片づけられる事件が発生。
その裁判が7月に行われたけれど、検察側の3年半の懲役求刑に対して、裁判官が下したのは「身体に触れていたのが10秒以下なら痴漢と見なすには短すぎる」という無罪判決。
これに抗議して著名TikTokerが公開して ヴァイラルになったのが、自分の胸が男性の手で10秒間掴まれているビデオで、
その直後から同様のビデオで抗議をする女性達が続出。「痴漢の10秒ポリシー」はイタリア裁判制度の汚名としてソーシャル・メディア上で広まることになったのだった。
イタリアの極右政治家マッテオ・サルヴィーニは、前述の19歳の女性のギャング・レイプ事件を受けて、強姦犯に対する化学去勢の導入を提案。
化学薬品を用いた去勢は現在ポーランドが強姦犯と児童性的虐待者に義務付けている他、EU諸国でセックス中毒を自覚する容疑者らに対してボランティア・ベースで
行われているもの。
イタリアでは学校や裁判所を含めた社会システムが未だにヴィクティム・ブレ―ミング&加害者擁護をする様子は顕著で、女性殺害や女性に対する暴力、性的虐待の横行は
数字でも裏付けられている構造的な社会問題。
EUの基本的人権協会の調べでは、2016年〜2021年までの間にイタリア人女性の70%が痴漢や暴力を含むハラスメントを受けながら、泣き寝入りしていることが明らかになっているのだった。
ダイエット薬、オゼンピックのメガヒットで苦境に立つビジネスとは?
2023年の最大のヒット商品の1つと言えるのが、処方箋ダイエット薬、オゼンピック。
キム・カーダシアンやイーロン・マスクが使用していることでも知られるオゼンピックは、2型糖尿病治療薬でありながら、
糖尿病患者よりも、体重を5〜10キロを落としたいセレブリティやファッショニスタが、月々1000ドルを超える費用を物ともせずに
時にブラック・マーケットから買い漁る程のヒット商品。
オゼンピックの売り上げは今年上半期の段階で前年比157%増を記録。
世界最大のインシュリン・メーカーでもある製造元、デンマークのNovo Nordick社は2023年に業績30%アップを見込んでおり、9月1日には
LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)社を抜いてヨーロッパ最大の企業になり、もちろんデンマーク最大の納税企業となっているのだった。
でもこのメガ・サクセスの煽りを受けるビジネスが存在するのも事実で、アメリカ国内で苦境に立たされているのが
ダイエット・ビジネス。既に大手ジェニー・クレイグが倒産に追い込まれているけれど、ウエイト・ウォッチャーズやダイエット・アプリの”Noom”も然り。
これら2社は比較的資金力があることから、オゼンピックの成分GLP-1を用いた自社ブランド薬の開発を急いでいる最中。
それよりもダメージが深刻なのはプロテイン・シェイクやプロテイン・バー等のダイエット食品を販売する業者で、
そのうちの大手メディファストでは、2023年の利益が34.7%も下落しているとのこと。
オゼンピックを摂取すれば無理に味気ない食事をする必要は無いとあってダイエットミール・プランの提供企業も閑古鳥。
また薬で痩せられるのなら、脂肪吸引でリスクを冒す必要が無いとあって、美容整形医のビジネスも大きなダメージを受けている1つ。
特に脂肪吸引をする女性は、その脂肪をヒップやバスト、エイジングで張りを失った顔に注入する施術等で更なる利益が上がることから、
脂肪吸引が減るのは大打撃。医療現場でも胃のバイパス手術をする人々が激減しているのだった。
逆にオゼンピックのお陰で恩恵を受けているのは、処方箋を持ってオゼンピックを買いに来る人々が、
ついでのショッピングをしてくれることで売り上げが伸びているウォルグリーン、CVS等の大手ドラッグストア・チェーン。
これらのチェーンはオゼンピック購入者が多い都市部の店舗で、軒並み売り上げを10%前後伸ばしていることが伝えられるのだった。
オゼンピックは心臓病治療にも効果があると認められていて、今後は飲み薬も開発されるとのこと。
早くもアメリカでは「やがて肥満は(処方箋薬が買えない)貧困層だけの問題になる」という指摘も聞かれ始めているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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