Apr. 3 〜 Apr. 9 2023
アマゾンが遂に給与制度見直し、「Air」のウソ?, Etc.
今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのは、米国歴代大統領として初めて刑事訴追を受けたトランプ大統領のニュース。
NY最高裁判所の周辺では、4月4日のトランプ氏の出廷時に約300人の抗議活動者、約200人程度のアンチ・トランプ派そして、ほぼ同数の
世界中からの取材陣が押しかけていたことが伝えられ、罪状認否は1時間弱で終了。
その後フロリダ州のマー・ラゴ邸に戻ったトランプ氏は訴追を批判するスピーチを行ったけれど、ここで指摘されていたのがメラニア夫人不在の様子。
さすがに元大統領とあって、トランプ氏の逮捕時には英語でマグショットと呼ばれる 顔写真の撮影は割愛されたけれど、
トランプ陣営はフェイクのマグショットをクリエイトし、それをプリントしたTシャツを製作して売り出すという商魂の逞しさ。
実際にトランプ氏は訴追が決まってから1000万ドルの寄付金を集め、現時点では共和党の大統領候補者の中でダントツの支持率。
しかしCNNが行ったアンケート調査によれば、アメリカ国民の約60%はトランプ氏の訴追を支持しており、
この60%が意味するのは民主党及び無党派層。トランプ氏は共和党大統領候補にはなれても、本選で敗れるとみる声が引き続き多いのだった。
遂に給与制度見直しを迫られたアマゾン
今週ビジネス界で話題になっていたのが、遂にアマゾンが社員に対する報酬制度の見直しに入るニュース。
これまでアマゾンは、報酬の一部を自社株で支払う制度を続けており、上位10%の社員に対しては、その報酬の50%がアマゾン株での支払い。
その自社株は RSU(Restricted Stock Units)と呼ばれ、一定期間売却が出来ない等の条件がついたもの。
この制度によってアマゾンは、有能な人材を一定期間 アマゾンに引き留めておくことが出来る訳で、アマゾンがこのメリットをフル活用して業績を伸ばしてきたのは良く知られる話。
それほどまでに社内の人材の入れ替わりは、主要ポジションになればなるほど企業にとっては経営コストの増加という形で業績に跳ね返ってくるのだった。
社内では長きに渡って「報酬のキャッシュの割合を増やして欲しい」という要望が強かったものの、
アマゾン株が上がり続けていた時代には 問題無く機能していたのが自社株による給与支払いシステム。
ところが昨年からアマゾン株が大きく値を下げ、それに連れて社員の資産も同時に目減りしたこと、
今後の景気動向によっては そのリスクが継続する現状を受けて、遂にアマゾンが 給与支払い制度の見直しに入ったという社内メモがメディアに漏洩されたのが今週のこと。
現行の給与システムでは、社内の不満の声もさることながら、新たな有能な人材確保が難しくなることも
アマゾンが給与支払制度の見直しをせざるを得ない大きな理由。現時点の社内では、ボーナスの支払いを 自社株25%、残りの75%をキャッシュというバランスを好む意見が多いことが
アンケート調査で明らかになっているのだった。
それと共に アマゾンの社員が声を大にして望んでいるのが ベース・ペイメント、すなわち基本給のアップ。
実際にアマゾンは過去数年間に、基本給が少なすぎるという理由で辞めるスタッフが相次いでいたとのことで、
それを受けて2022年には 基本給の上限を それまでの16万ドルから2倍以上の35万ドルに引き上げたばかり。
アマゾンの新たな給与システムが導入されるのは2025年のボーナスからと言われ、まだまだ先という印象を与えがちであるけれど、
アマゾンは賞与の額をその前2年間のパフォーマンスで査定することから、既に今年から新たな制度が始まると判断されているのだった。
アマゾン= ”Earth's Best Employer” ?
アマゾンを始め、シリコン・ヴァレーのIT大手は 少なくとも表向きは企業の理想論に基づいた経営を謳い、
社員とのコミュニケーションを重視しながら、その意見を職場改善のために生かす傾向にあるのは事実。
アマゾンでは、2021年7月にアンディ・ジェシー(写真上右)がCEOに就任して以来、企業ポリシーに加えたのが
通称”EBE”と呼ばれる 「Earth's Best Employer / 地球上でベストの雇用主」であること。
このポリシーは、悪名高いアマゾンのウェアハウスの労働条件や、ウェアハウス従業員による労働組合結成の阻止の動きからは想像し難いもの。
労働環境が悪化しているのはウェアハウスだけではないようで、
2021年10月にアマゾンのマネージャー・クラスを対象に行われたアンケート調査によれば、
そのうちの62%が ”Worn Out”、すなわち「疲れ果てた」と回答しているのだった。
アマゾン社員を対象にした別の調査では、「企業カルチャーを一言で表現すると?」という問いに対して、
ポジティブな言葉を語った社員は僅か12%。これはグーグルの80%、マイクロソフトの97%に比べて極めて低い数値。
そうなってしまうのは アマゾンが ”WLB” (Work/Life Balance)に疎い体質であるためで、今やWLBは ジェネレーションZの有能な人材を惹きつけるのに最も重要と言われるポイント。
エンジニアにとってのアマゾンは クリエイティブかつイノベーティブな開発を要求しながら、迅速な結果を求めるシビアで過酷な職場。
またアマゾンでは部門に関わらずミスが許されないことは有名で、何の警告も無しに解雇を言い渡す、俗に言う”Red Tape/レッド・テープ”・カルチャーでも知られているのだった。
そんなアマゾンで、創設時からジェフ・べゾスが掲げて来たのは、 設立から何年が経過しても、新生企業のような勢いと
希望に満ちたビジョンを持ち続ける ”Day1 カルチャー”。 そして決して陥ってはいけないと警告されてきたのが そのカウンター・コンセプトに当たる”Day2 カルチャー”で、
これは企業の成長が停滞し、余分で不必要な業務の増加、痛みを伴う衰退を経て、やがて死に至るまでのプロセスを意味するもの。
アンディ・ジェシーがCEOに就任した前後から、社員の中で囁かれるようになったのが 「遂にDay2カルチャーがやって来た」ということで、社員の士気が急激に低下している様子が指摘されて久しいのが現在のアマゾン。
今年既に大型レイオフを2回も行っているアマゾンであるけれど、同社はそのドル箱部門であるアマゾン・ウェブ・サービスだけで
2031年までに12万3000人の従業員を必要としており、
現在時点のシリコン・ヴァレーの人材奪い合いが継続した場合、やがては600〜800万人のスタッフが不足する見込みとのこと。
この見積りにAIの進化がどの程度考慮されているかは不明ではあるものの、これからの企業にとって
ジェンZ以降の有能な人材の確保、彼らを繋ぎ留める良好な職場環境の確立は企業の明暗を分ける大きな課題。
そのジェンZがこだわる ”WLB” に立ち遅れているアマゾンは、給与システムの改善だけでは もはや人材確保が難しいと言われるのが現状なのだった。
2023年上半期最高の話題作「Air」に対するナイキのクレーム
4月5日から公開となったのが、1985年にセンセーショナルにデビューし、今やスポーツ・ライセンスの金字塔となった
ナイキのエア・ジョーダン誕生までのストーリーを描いたベン・アフレック監督作品「Air / エア」。
2022年度には51億ドルを売り上げ、同年のナイキの総売上 467億ドルの約9分の1を占めるジョーダン・ブランドは、
マイケル・ジョーダンを引退後にマルチ・ビリオネアにしただけでなく、ナイキを世界最大のスポーツ・ウェアブランドにのし上げた立役者。
映画では監督のベン・アフレックがナイキの名物CEO、フィル・ナイトを自ら演じ、彼の実生活での親友であるマット・デイモンが演じるのが
当時のナイキのエグゼクティブ、ソニー・ヴォッカーロ。
時代は1984年、それまで好調に業績を伸ばしてきたナイキの売上が伸び悩み、マジック・ジョンソン、ラリー・バードといった当時のNBAスーパースターが
どちらもコンバースと契約を結んでいたことから、ナイキもスーパースターとのライセンス契約の必要性に迫られていた時。
しかしナイキのブランド・イメージは、3本ラインのジャージが当時大人気だったアディダスに押されており、1984年のNBAドラフトでシカゴ・ブルス入りが決まった
カレッジ・バスケット・ボールのスーパースター、マイケル・ジョーダンが望んでいたのもアディダスとの契約。
その状況を覆し、やがてナイキの歴史だけでなく、アスリート・ライセンスの歴史を変えるまでに至った契約が結ばれるまでを描いたのがこの映画。
製作にあたってベン・アフレックはマイケル・ジョーダン本人から了承を得て、ジョーダンから提示された条件を受け入れて撮影を行っており、
その中には「ジョーダンの母親を演じるのはヴァイオラ・デイヴィス」といったキャスティング・リクエストも含まれていたとのこと。
そして映画封切りを控えて行われたのが、ナイキの現社員、及び元社員を集めたスクリーニングであったけれど、
映画を観たナイキOBのリアクションは一様にポジティブなもの。
しかし、映画の中で描かれた ナイキの”ワッフル・ソール” を生み出すのに使用したワッフル・メーカーは、「フィル・ナイトのオフィスにあったものではなく、
実際にはゴミ捨て場から拾って来たもの」であったこと、「1984年のオリンピックでナイキの契約アスリートが獲得したメダル数は映画内で言われていた4つではなく、65個であった」こと、
また「ナイキがコンバースを買収したのは、 映画のストーリーの1996年ではなく、実際には2003年であった」ことなど、相次いで指摘されていたのが 調べれば簡単に分かりそうな”史実”と異なる部分。
でもナイキの現役&元関係者が最も問題視していたのは、マット・デイモン扮するソニー・ヴォッカーロがジョーダンとの契約を取り付けたヒーローのように描かれていたことで、
彼は契約に尽力をしたのは事実ではあっても、本当の功労者は当時のエグゼクティブ、ロブ・ストレッサーとクリエイティブ・ディレクターのピーター・ムーアであったとのこと。
すなわち肝心のストーリーラインが間違っていることが指摘されており、事実、ロブ・ストレッサーはジョーダンとの契約を取り付けたことで一時は「Man Who Saved Nike/ナイキを救った男」と
呼ばれていたのだった。
1984年に起こった史実が僅か40年後に正しく映画化されていないことを考えると、100年、200年前の歴史に果たしてどの程度の信ぴょう性があるのかを疑いたくなるけれど、
歴史的にも決してウソをつかないのが数字。
エア・ジョーダンのファースト・モデルは1985年だけで1億3000万ドルの売上を記録。これは当時の物価もさることながら、
今のようなコレクティブル価値がスニーカーに認められていない時代背景を考えると、カルチャー現象とも言える信じられない数字。
そしてナイキ側は「もし初年度売上が300万ドルに到達しなければ、ジョーダンとの契約を打ち切る」というかなり低いハードルを設けていたとのことで、
ナイキでさえ こんな歴史的センセーションが生まれることを全く予期していなかった様子を露呈しているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
★ 書籍出版のお知らせ ★
当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2023.