Mar. 27 〜 Apr. 2 2023
マス・シューティング、訴追、判決、AI リスク、スーパーエイジャー・クラブ, Etc.
今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのは、月曜午前にテネシー州ナッシュビルのキリスト教小学校で起こった 今年129回目の銃乱射事件。
2023年で17回目のスクール・シューティングとなった同事件で、史上5人目の女性銃乱射事件容疑者となったオードリー・へイル(28歳)は、この小学校の卒業生。
近年は男性として生活していたトランスジェンダーで、自閉症の治療を受けながらも、合法的にハンドガンや戦闘用の銃7丁を入手し、それを家族に隠して所持していたとのこと。
現時点で犯行のトリガーと見られるのは、オードリーが学校の主任牧師のプライベート・カウンセリングを受けることになっていたものの、
その場に彼が居なかったことに腹を立てたというもので、3人の9歳児、3人の大人、計6人の犠牲者の1人が牧師の9歳の娘。
この事件を受けて、親達を中心に厳しい銃規制を求める声が高まっているものの、共和党が主導権を握る州では
許可書無しの銃所持を認める法案が 可決される見込みで、「銃撃事件に対抗する手段は、更に大量の銃で武装すること」と、共和党側は銃規制を真っ向から否定。
現在の下院は共和党が過半数を占めていることから、銃規制が進まないことは既に織り込み済みの事実になっているのだった。
今回の事件が起こったテネシー州を始め、銃乱射事件が起こるのはもっぱら共和党支持者が多いレッド・ステーツで、
市民の所持する銃の数が圧倒的に多いのもレッド・ステーツ。
今週にはテネシー州で、珍しく銃規制を求める大々的なデモが行われていたけれど、その参加者が選出した議員によって銃規制が阻まれているというのが
皮肉な現実であり、銃規制が一向に進まない構造的な要因になっているのだった。
トランプ訴追&グウィネス、スキー裁判
先週火曜日に自らの刑事訴追を予言して、支持者に大々的な抗議活動を呼び掛けていたトランプ氏が、歴代大統領として初めてNYで訴追されたのが今週木曜のこと。
それまでは訴追を決める大陪審がなかなか行われず、トランプ支持者によるNY検察官への脅迫、トランプ氏自身によるソーシャル・メディアを通じた
ヴァイオレンスを示唆するポストが続き、支持者やメディアが 「このまま起訴断念に追い込めるのでは」と期待を寄せ始めたところで流れたのがこのニュース。
正式な容疑は未だ発表されていないものの、2016年の大統領選挙に際してポルノ女優、ストーミー・ダニエルズにトランプ氏が支払った浮気の口止め料を巡るもので、
当然の事ながら烈火のごとく怒りを爆発させたのが、トランプ氏本人とイヴァンカを除く2人の息子達。イヴァンカは翌日金曜に怒りよりも悲しみを訴える声明を発表していたのだった。
訴追前には厳重警戒体制に入っていたNY市警察であるけれど、訴追発表後の街中は極めて静かで抗議活動はゼロ。
翌日金曜に5番街のトランプ・タワー前やホワイトハウス前に集まったのは、トランプ氏の逮捕と訴追を歓迎するアンチ・トランプ派。
週末の段階ではトランプ氏が火曜日に警察に自ら出頭し、手錠を掛けることなく 逮捕手続きを完了させ、裁判まで保釈の身になるという見方が有力。
しかしそれを待たずして トランプ氏は裁判を担当する判事が「自分を嫌っている」と抗議。
トランプ氏のかつての弁護士で、エプスティーン・スキャンダルで少女との関係が取り沙汰されたアラン・ダーショウィッツは
「アンチ・トランプ派が多いマンハッタンでは公正な裁判は受けられない」ことを理由に、NY市で唯一 共和党支持者が多いスタッテン・アイランドでの裁判をメディアを通じて呼びかけていたのだった。
ちなみに刑事訴追をされていても大統領候補として立候補することには法的な問題は無く、トランプ支持者、共和党支持者はこの逮捕に同情して益々トランプ支持で固まると見る声が多いのが現時点。しかしながらトランプ氏が他にも抱える ホワイトハウスからの最高機密書類の持ち出し、ジョージア州での選挙不正、1990年代のレイプ訴訟、議会乱入の首謀者容疑といった刑事責任問題は、
確実に無党派層の間でのトランプ支持者を減らしており、現段階では共和党予備選挙には勝てても、本選では敗れる見込みが濃厚と言われるのだった。
トランプ氏と大統領候補を争うと見込まれる マイク・ペンス元副大統領、ロン・ディサンティス フロリダ州知事らは、この訴追に反発しながらも、内心はどう思っているかは微妙なところと言われ、
今週は裁判所が 議会乱入事件捜査におけるペンス氏の証言拒否権を認めない判断を下したばかり。これによってトランプ氏が議会乱入の首謀容疑で追い込まれると同時に、
ペンス氏の党内での立場が微妙になることが見込まれるのだった。
そのトランプ氏の刑事訴追ニュースで すっかり報道ヴァリューが薄れてしまったのが、先週末からコロラド州で行われてきたグウィネス・パートローに対するスキー衝突の損害賠償裁判。
この衝突事故が起こったのは2016年のことで、原告で熟練したスキーヤーというテリー・サンダーソン(76歳)は、「グウィネスが背後から猛突進した衝撃で倒れ、身体に障害が残った。
グウィネスは謝罪もせずに、その場を滑り去った」と主張。対するグウィネスは「背後から ぶつかったのは原告側。その後の転倒で自分が原告の背後から被さったような状態になったところを
原告と一緒に滑っていた友人が目撃しただけ」と主張し、唯一の目撃者証言を否定。さすがにハリウッド・スターとあって、その状況を再現するCGビデオを製作して法廷で披露。
サンダーソンが30万ドル以上の賠償金を請求したのに対して、反訴したグウィネスは 賠償金1ドルと裁判費用を請求していたのがこの裁判。
裁判開始当初は、地味な高額ファッションとスッピン顔で出廷していたグイネスのスノッブな態度に批判が集まり、「追突されたせいで、スキー場での半日を無駄にした」という証言がソーシャル・メディア上でやり玉に挙げられていたけれど、裁判が進むうちに障害を負って身体が不自由になったはずのサンダーソンが 衝突後も世界各地にヴァケーションに出掛けていたことが明らかになり、
彼の主治医はスキー事故以前から彼が障害を持っていたことを証言。
更には自ら証言台に立ったサンダーソンが、「グウィネスを遥かに超えるナルシストぶり」とメディアが表現する醜態をさらし、
「どっちもどっちだけれど、グウィネスの方がマシ」というソーシャル・メディア上のジャッジメントが下されて裁判は結審。
その直後に出たのがグウィネスの無罪判決で、法廷を去る際にグウィネスが サンダーソンの肩に触れて「I wish you well」と語った様子は、
メディアが「最もグレーシャスなF@%k You」と評す、グウィネスの余裕を感じさせた光景。
サンダーソンは、当初この衝突事故で310万ドルの損害賠償を請求していたことも陪審員には良い印象を与えていなかったようだけれど、
それよりも陪審員がサンダーソンにネガティブになったのは 彼が「障害を負った」と言いながら 事故後に出掛けていた数々のヴァケーション写真であったことが 陪審員の1人によって語られているのだった。
グウィネスがサンダーソンに請求したのは 前述の通り賠償金は1ドル+弁護費用。しかし彼女の高額弁護士フィーや、証拠で提出したCGの製作費等で、その支払いは軽く10万ドルを超えると見積もられ、
判決後、サンダーソンは「訴える価値は無かった」とコメント。しかし週末には上告の意志を表明し、まだまだ凝りていない様子を披露しているのだった。
Stop AI For Now!?
今週水曜にはローマ法王フランシスコが呼吸器感染症のために入院したニュースが報じられたけれど、その前の週にインターネット上でヴァイラルになったのが、
ローマ法王がバレンシアガのダウンを着用しているディープ・フェイク画像。多くの人々がAIによってクリエイトされた上の左側の画像に見事に騙されたけれど、
今週それに代わってヴァイラルになったのが、下のパスタを狂ったように食べまくるウィル・スミスの映像。これはテキスト内容からビデオをクリエイトするアルゴリズムのAIを駆使したビデオで、
画像はまだまだ稚拙とは言え、「AIの知能がもうここまで来ている」と人々を驚嘆させていたのだった。
さらに先週から物議を醸すようになったのが、
AIがクリエイトしたディープ・フェイク・ヴォイス。 家族にさえ聞き分けが不可能なほど実在の人間そっくりの声は、日本の「オレオレ詐欺」のレベルを遥かに超える
巧妙な詐欺や誘拐等の犯罪に用いられるリスクが危惧されていたのだった。
そんな中、今週水曜にイーロン・マスク、アップルの共同設立者であるスティーブン・ウォツニアックを含む1000以上の有識者が連名で提出したのが
AIに対する適切な法規制を設けるまで、その開発やトレーニングを一時停止する提言書。
これに参加していなかったのは現在のAIブームの目玉的存在、チャットGPTをクリエイトしたオープンAI社のCEO、サム・アルトマンや
オープンAIに100億ドルを投資し、その恩恵を受けようとしているマイクロソフト社 名誉会長のビル・ゲイツら。
しかし、このまま野放しの開発を続けた場合のAIの脅威は、人間の仕事を奪う程度のレベルでは止まらず、
やがて人類を滅亡に導くというのは、決してSF映画のストーリーに止まらないことが指摘されているのだった。
事実、AIはトレーニング段階で 放送禁止用語を含む悪い過激な言葉をどんどんボキャブラリーに加え、その思想は手直しをしないと人種差別、性差別を含む
ありとあらゆる差別意識がナチュラルに取り込まれる様子がレポートされ、しっかりした監修と軌道修正が行われなければ、未来の過激な犯罪者の育成プログラムになりかねないリスクが指摘され始めているのが現在。
そう言われて 映画好きの人が頭に思い浮かべるのが、1968年公開のスタンリー・キューブリック監督作品で、SF映画の歴史を変えたとも言われる「2001年宇宙の旅」。
全体のストーリーは複雑なので割愛するけれど、その中で木星に向かう宇宙船、ディスカバリーに搭載されるのが最先端の人工知能で、乗組員の話し相手にもなる ”HAL/ハル”。
本来は宇宙飛行をサポートするためにプログラムされたはずのHALが、やがて意志を持ち始め、自分の思考装置を停止しようと話し合っていた船長と乗組員の
密談を読唇により察知したことから、船長を含む5人の乗船者を次々に死に追い込む様子は、難解な同作品のストーリーの中で最も分かり易く、印象的なシーン。
ちなみに「2001年宇宙の旅」は、演技のシーンを取り終えてから4年の歳月を掛けて宇宙空間のシーンを 当時としてはあり得ないほど精密な合成技法を駆使して
仕上げており、その宇宙船のデザインはNASAが実際のロケット設計の叩き台にしたほど。同作品公開翌年には、アメリカの月面着陸が実現したけれど、
それがフェイクだという陰謀説を唱える人々の間では、キューブリック監督が月面着陸映像を手掛けたという説があるほど。
そして映画に登場した人工頭脳、”HAL” は当時最大の電子計算機械メーカー、IBMのコンピューターをモデルにし、
その社名のアルファベットの1文字前を取って名付けたネーミングであることは有名なエピソード。
話が逸れてしまったけれど、人類のデータによってトレーニングされるものの、人間の思考回路を持たない AIが
やがて人類に対して牙をむくというのは「2001年宇宙の旅」だけでなく、「ターミネーター」等、多くのSF映画の定番ストーリーで、
実際に科学者やエンジニア達が 確実に起こりうる未来として予言しているもの。
問題は、テクノロジーに対する法規制を行う側の知識が その進化に追い付いていないことで、
専門知識やビジョンが無い議員には AIはもちろんのこと、クリプトカレンシー、ソーシャル・メディアのアルゴリズムに対する法規制を
正しく行うのさえ不可能と言われて久しい状況。
しかもその規制を正すために訴訟を起こした場合、行き着く最終決着点である最高裁は 専門知識がないだけでなく、これらのテクノロジーとは更に無縁の51〜74歳の判事。
そのため 「ここでAI開発の一時休止を入れたところで、中国のメーカーに先を越されるだけ」という反対派の意見も理解できるのも事実。
しかし突如のAI進化とその日常生活への介入は「便利をリスクが上回る」という声が有力で、イタリア政府は今週末、チャットGPTの使用禁止に踏み切っているのだった。
スーパーエイジャーを目指すメガリッチ・クラブ、R360
裕福な人々ほどお金よりも時間に価値を見出すと言われるけれど、実際に失ったお金は取り戻せても、失った時間は取り戻せないことは
古くはベンジャミン・フランクリンの語録でも指摘されていること。
その貴重な時間を増やす唯一の手段と言えるのが、人生を出来る限り長く生きること、すなわち長寿で、大金持ちほど若さと長寿への固執が顕著と言われて久しい現在。
パンデミックで下火になったとは言え、それ以前にシリコン・ヴァレーのメガ・リッチがこぞって行っていたのが、若い健康な肉体のブラッド・プラズマを輸血によって取り込む若返り法。
中には お抱えのブラッド・プラズマ提供者を雇うシリコン・ヴァレー・エグゼクティブもいたようで、やがてその様子は
「ヒラリー・クリントンやオバマ前大統領らの民主、リベラル派が悪魔儀式で子供の生き血を飲んでいる」というQアノンの陰謀説にアレンジされていたほど。
そんな若さと長寿を求めるメガ・リッチが新たに結成し、2022年から本格活動をスタートしたとのが ”R360” というプライベート・クラブ。
現在メンバー数は約100人で、入会資格はセンティミリオネア、すなわち100億ドル長者であること。
その家族にも会員特典が認められるというこのクラブは、世界中のありとあらゆる長寿科学の専門家が研究・開発する
長寿と若さ維持のための最新テクノロジーにアクセスしながら、有望なテクノロジーに投資をしてバックアップをするのがその活動。
またR360のメンバーほどの資産家は、既に個人で長寿ビジネスのスタートアップに投資をしているケースが多いので、
その投資のサポートをするサービスも備えているというけれど、
長寿ビジネスは、ホリスティックと称する まやかしや、子供騙しの科学が極めて多いビジネス・セクター。そのため
R360の厳しいジャッジメントの下では、殆どのビジネスが第一次審査をパス出来ないとのこと。
実際に多くのメンバーは、専門家による食事療法とトレーニング、そしてサプリメントという質実剛健の手段で若返りを実現しているケースが多いようで、
一度病気を患い、その治療をライフスタイル改善で行った結果、若さと健康の追求に熱心になるケースが少なくないようなのだった。
その結果、「心臓年齢を20歳若返らせた」、「バイオロジカル・エイジを24歳若返らせた」といった成果をかざすメンバーが居るものの、
エイジングの専門家によれば、心臓年齢、バイオロジカル・エイジは、「年齢より若い」状態に科学的裏付けを持たせたように見せる指針に過ぎないとのこと。
アンチエイジング・ビジネスにはまがい物が多いことを熟知し、自分達は質実剛健の健康維持と若返りに取り組みながらも、
新たなイノベーションが生まれると信じて、投資意欲が満々であるR360の活動は一見矛盾しているように見受けられるもの。
しかし裕福なヴェンチャー・キャピタリストほど若さと長寿の追求に多額の投資を惜しまないだけに、アンチ・エイジングのスタートアップ企業には
景気動向に関わらず、どんどんお金が流れ込むと見込まれるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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