Mar. 20 〜 Mar. 26 2023
銀行危機継続、ロマンス詐欺、臓器移植の実態, Etc.
今週のアメリカで毎日のように行われていたのが、NYの地方判事がトランプ前大統領を選挙資金規正法違反で
起訴処分に踏み切るか否かの報道。
トランプ氏自身は先週末にソーシャル・メディアを通じて「自分の逮捕は火曜日」と予測し、抗議デモを呼び掛けていたけれど、
NYでは訴追を決める大陪審が行われないまま1週間が経過。金曜には、検事に対してトランプ支持者が殺人予告と不審なパウダーを送り付ける事態が起こっており、
今週だけ検事に対して寄せられた脅しや嫌がらせは100件以上。
法律の専門家の見解では元大統領を訴追するには弱いと言われるのがこのケースで、それよりもトランプ氏訴追の可能性が高いのは2020年大統領選挙におけるジョージア州での不正行為、
ホワイトハウスからの300以上の最高機密文書の持ち出し、そして1月6日の議会乱入首謀者としての容疑。トランプ氏が早々と2024年の大統領選挙に立候補したのも、
これらの訴追を先送りする目的と言われるのだった。
週明けの段階では、一様にトランプ氏を擁護していた共和党であるけれど、2024年にトランプ氏のライバルになるロン・ディサンティス フロリダ州知事は、
「ポルノ女優に口止め料を支払うなんて 自分なら考えられないが、違法ではない」と、サポートに見せ掛けた攻撃姿勢を展開。
これに対してトランプ氏は「ロン・ディサンティスは史上最も過大評価された政治家」と反撃し、今後共和党予備選で壮絶な火花を散らしそうな気配を
垣間見せていたのだった。
バンキング・クライシスは未だ続く!?
今週は、危機説が伝えられていたクレディ・スイスが、同じスイスの大手UBS(Union Bank of Swiss)に買収されて幕を開け、見守られたのがバンキング・セクターの危機が一時的にも収まるか。
しかし大規模バンク同士のショットガン買収とあって、金融業界に広がったのが業務上の警戒感。少なくとも主要4行がスイスの銀行との取引、及びスイスの銀行が発行した証券を含む取引を制限。
外国為替トレーダーはクレディ・スイスとの取引に際して、リスクを避けるために あえてコストが高いトレードをしていたとのこと。「社員の殆どがレイオフされる」とも噂されるクレディ・スイス社内は、
上層部が社員に日常業務をそのまま続けるように通達したものの 極めて落ち着かない状況。
金曜には買収直後に一時的に上昇したUBSの株価が 買収前よりも価格を落とし、スイス全体をUBS一行で支えなければならない懸念が高まったのに加えて、
過去にクレディ・スイス同様に何度も危機説が浮上していたドイツ銀行、及び欧州バンクの株価が下がったことから、不安材料はまだまだ出て来る気配。
一方のアメリカでは今週ジャネット・イエレン財務長官が、全ての銀行に対してシリコン・ヴァレー・バンク(以下SVB)破綻に際して行ったような
預金額全額の返済は行わないことを明言。今後中小規模のバンクが破綻した場合、FDIC(連邦預金保険公社)による保証額25万ドルを超える払い戻しをしないことを
改めて確認。しかしインターネット上では「大手バンクが破綻した場合、預金者全員の保証額が払えるのか?」という指摘も見られ、
日本で言うリーマン・ショック時代に「Too Big to Fail」、すなわち破綻させるには規模が大き過ぎるとして 政府がベイルアウトに乗り出した大手金融機関が、
今の時代は「Too Big to Save」、救済するには預金額が多過ぎる存在であることが指摘されていたのだった。
その大手11行が先週300億ドルを投じて救済したファースト・リパブリック銀行は、今年1月末には145ドルだった株価が 今週末には12.5ドル。
株価の見地からも まだまだ危機を脱したとは言えない状況。大手が寄ってたかって救済した理由は、同行が1人当たりの預金額が多い銀行、
すなわちビジネス界のVIPを中心とした少数の裕福な預金者で経営が成り立っている銀行の第三位であるため。
しかし経済専門家の中には、その救済によりファースト・リパブリック銀行が抱えるリスクが より多くの銀行に分散しただけとの批判も聞かれ、
バンキング・リスクがUBS一行に集中するスイスとは逆の問題が指摘されていたのだった。
今週水曜には 連邦準備制度理事会のパウウェル議長が、経済界からの再三の利上げ見送りの要請にも関わらず、またしても米国金利を0.25%アップ。
これが意味するのは 銀行が低金利時代に抱えた多額の債権の損失が更に膨らむ状況で、ただでさえ危機感をつのらせている銀行業界を更に追い込む形になったのがこの利上げ。
連銀に対しては「インフレの原因は、ウクライナ戦争や流通チェーンの問題、自然災害等で、失業率を目安に 金利上昇で解決しようとする方針自体が間違っている」
という批判が飛び交っていたけれど、金融関係者の間では 「これが今年最後の利上げになるだろう」という声は多く、今年秋には利下げに動く可能性、すなわち景気の悪化を予測する声も聞かれていたのだった。
パウエル議長は利上げ声明と共に「僅かな銀行が抱えた個別な問題」と語り、過去2週間の銀行の連続破綻が業界に広がるリスクが無いことをあえて強調していたものの、
実際にはSVB同様の債権負債を抱えるアメリカの銀行の数は200行。そのうちの半分はSVBよりも経営状態が悪いことが指摘されるのが現時点。
リーマン・ショック予測を描き、映画化もされた「ビッグ・ショート」の著者兼投資家、マイケル・バリーは
今週、Comerica/コメリカ と U.S.Bancorp/USバンコープ の預金の 60%以上が Uninsured/無保険であると警告。
事実上、次の破綻銀行を予測した形になっていたけれど、SVBの破綻は経営危機説が流れ、預金引き出しが相次いだことが直接のきっかけ。
既にリスキーな経営状態である場合、銀行とて意外なトリガーであっさり破綻するというのが過去2週間の教訓と言えるのだった。
年間被害総額13億ドル、ロマンス詐欺の被害に遭う人々
パンデミック以降のアメリカで急増したのがロマンス詐欺。2022年には7万人の被害者が総額13億ドルを騙し取られており、これはパンデミック前の2019年から164%アップ。
2020年のパンデミック以降の被害総額は33億ドルで、平均被害額は4400ドル。
中には4〜10万ドルという多額の被害を被ったケースもあり、その手口は判で押したように全く同じもの。
ロマンス詐欺のアプローチが行われるのは出会い系サイトやデート・アプリよりもむしろ、誰もが日常で使っているインスタグラムやフェイスブック。
被害者の29%がインスタグラム、28%がフェイスブックの友達リクエストによって 詐欺師とコンタクトを持ち始めているのだった。
そうなるのは 詐欺というお金目的の犯罪であるためで、ターゲットは金欠状態の若い世代ではなく、ある程度年齢を重ねて資産を持つ人々。
多くの場合リタイア前後の年齢の女性、それも離婚や夫との死別で 1人寂しく生きていると思しき女性。
最初はさり気ないメッセージの交換、共通点の趣味に関する定期的なコミュニケーションが続き、その後お互いのバックグラウンドを詳しく語り合うようになり、
徐々に好意を示し、遠距離恋愛モードになって行くのがお決まりのシナリオ。
詐欺師は通常、仕事を理由に海外に暮らしており、非常に多いのがアメリカ軍関係仕事。仕事の詳細が語れないものの、信頼が得易く、特に南部、中西部の
共和党支持者の女性が盲目的に信用する傾向にあるのが軍関係者。
詐欺師のプロフィールは金銭的、社会的にサクセスフルで、ルックスも良く、メッセージの文面は真面目かつ礼儀正しく、女性を気遣う言葉に溢れたもの。
やがて愛の告白後、ホリデイを一緒に過ごす計画、将来一緒に暮らす計画が2人の間で進み、その段階になると 女性は詐欺師の言うことをすべて信用して、
彼やその家族を助けるために大金を立て替えてくれるようになるのだった。ここでポイントになるのは、本人はあくまで立て替えている、もしくはお金を貸している意識しかなく、
「もしお金が帰ってこなかったとしても、いずれは結婚して家計が一緒になる」という気持でいること。
詐欺師は「お金は直接会った時に返済したい」と、遂に訪れる対面のチャンスをちらつかせて 振り込みを完了させるケースが多く、振り込みを確認した途端に姿を消すのは言うまでもないこと。
たとえ周囲が警告しても、見事に騙されるケースが後を絶たないことが指摘されるのだった。
パンデミック以降、特にロマンス詐欺が増えた理由は、社交の機会が減り、隔離された生活で孤独感が高まった人々が多かったこと。
加えてコロナウィルスで友人や家族が命を落としたのがきっかけで、生きている間にもっと人生を楽しみたいと考えるようになったため。
そんな時に インスタグラムやフェイスブックといった警戒心を伴わないソーシャル・メディアを通じて、自分を久々に女性として持ち上げてくれるアプローチを受けると、
それを自分の人生に訪れた転機のように感じるケースは多いという。
被害者の中には、成人した子供達に「孤独を紛らわす手段」としてオンライン上の友人を作るように薦められて、フェイスブックやインスタグラムのアカウントを開いたケースも多く、
子供達が親に代わって記入したプロフィールや タグ付けした写真は、ロマンス詐欺を有利に運ぶための有益な情報源になっているのだった。
ちなみにフェイスブックやインスタグラムは、同様のアプローチでティーンエイジャーの恋愛感情を煽り、親を含む家族、学校の友人から孤立させて家出に導く、
もしくは誘拐することによってセックス・トラフィッキングの犠牲者にするケースも問題視されている真最中。今週にはそんな犯罪行為を野放しにするフェイスブック、インスタグラムの親会社、
メタに対して株主が訴訟を起こしたばかり。
数か月前にはティーンエイジ時代にフェイスブックを通じて出逢った男性に、誘拐、監禁され、売春を強要され続けたテキサス州の女性3人がフェイスブックを相手取って訴訟を起こしているけれど、
フェイスブック、インスタグラムは ロマンス詐欺師やセックス・トラフィッカーにとっては、ターゲットのリサーチ、自分のフェイク・プロフィールの提示、ターゲットへのアプローチとその後のメッセージ交換という
全肯定が1箇所で済ませられる極めて便利なソーシャル・メディア。 しかもその利益追求最重視のアルゴリズムが 犯罪者に有利にデザインされているのは、株主訴訟の原因にもなっている事実。
今後はAIテクノロジーの発達により、メッセージだけでなく、ビデオ画像や音声も駆使したフェイク・キャラクターのリアリティが更に高まるとあって、
ティーンエイジャーを家出に駆り立てたり、未亡人に大金を振り込ませる洗脳行為が 益々巧妙になると見込まれるのだった。
人種差別、劣悪臓器、米国臓器移植システムの現状
今週、臓器提供を待つアメリカ国民とその家族にとって 朗報と言えたのが、過去40年間に渡って 米国臓器移植システムを独裁状態で操ってきた
The United Network for Organ Sharing(全米臓器共有ネットワーク、以下UNOS)に対する業務改善命令をバイデン政権が発表したこと。
アメリカでは2022年に 約4万2000件の臓器移植手術が行われたにも関わらず、今も約11万人が 臓器移植のウェイティング・リストに名前を連ねている状況。
そしてその数は10分間に1人の割合で増える一方で、毎日17人が臓器提供を待ちながら命を落としていることが伝えられるのだった。
アメリカでは臓器提供の件数自体は増加傾向にあり、その理由は 処方箋痛み止め薬の中毒、ドラッグのオーバードースでの死亡が急増しているため。
現在のアメリカの深刻な社会問題が、移植の臓器提供を待つ人々にとっては救けになっているのは何とも皮肉な構造であるけれど、
摘出した臓器を移植患者に届ける作業が 時間との戦いであることは医療の素人にも分かること。
しかしUNOSによる非効率な割り当てシステムとロジスティックスのせいで 貴重な臓器の25%が 廃棄せざるを得ないコンディションになり、
ドナーの好意や摘出手術が無駄に終わっていることが指摘されているのだった。
アメリカでは臓器移植手術の85%が腎臓で、ウェイティング・リストの約10万人が腎臓患者。
現在、臓器の待ち時間は5年前後と言われるものの、実際には7年待っても移植が行われないケースは全く珍しくないとのことで、
UNOSの独占&独裁管理下で行われている 臓器提供を受ける患者選定プロセスも極めて不明瞭。
2021年の調べによれば、黒人層は白人層に比べて4倍、ヒスパニック系は白人の1.5倍の割合で腎臓病を患うデータがあるにも関わらず、
移植のウェイティング・リスト上位に名前が載り、実際に移植手術を受けた患者の多くは白人層。すなわち移植の世界でも人種差別が横行しているのは明らか。
ようやくその改善に動いたのがバイデン政権で、まずは摘出された臓器に対して全米50州の臓器移植オーガニゼーションが地理的条件や適合性等を含む優位性で競り合う
公開オークションが導入される見込み。この改善が銃規制よりも希望が持てるのは、民主・共和両党がUNOS経営改善をサポートしていること。
現時点で 何等かの腎臓障害を持つアメリカ人は約2800万人、そのうち未だ移植の必要未だ無い腎臓病を患うアメリカ人は約80万人。アメリカの全人口の8.7%に当たる2870万人の糖尿病患者同様に
選挙に影響を与える数だけに、政治家を動かすには有利に働くようなのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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