Mar. 7 〜 Mar. 12 2023
銀行危機時代, FOX NEWSの本音, タイガー・ウッズ また泥沼, Etc.
今週のアメリカで、火曜日、水曜日の2日に渡って議会公聴会で証言を行ったのが連銀のパウエル議長。
「2%のインフレ目標達成まで、失業率が上がり、景気が後退しても利上げを続ける」というホーキッシュ(タカ派)な姿勢に対して、
「連銀は国民の生活を危険にさらす誤った景気対策をしている」という批判が聞かれたけれど、
例によってパウエル発言の影響で大きく値を下げたのが株式やクリプトカレンシー市場。
ファニーマエ(連邦住宅抵当公庫)が行った最新の世論調査によれば、今後の経済に暗い展望を抱いているアメリカ人は68%、その大半が
連銀の金利政策に不安を抱き、失業を恐れているとのこと。
今週金曜にはアメリカの2月の雇用統計が発表されたけれど、それによれば先月新たに生み出された仕事の数は 1月の51万7000から
大きく下がって31万1000。それでも これは事前予測を9万人近く上回る数字。失業率は前月の3.4%から3.6%に上昇したとは言え、これも未だ歴史的に低い数字。
そのため3月22日に行われる次回FOMC(連邦準備制度理事会)のミーティングでは、前回0.25%に下がった利上げ率が 再び0.5%に戻るという見方が有力であったけれど、
国民が失業し、困窮しても利上げ姿勢を崩さないパウエル議長を考えを改めざるを得ない状況に追い込んだと言われるのが
金曜に起こったシリコンヴァレー・バンク崩壊劇なのだった。
銀行危機時代の幕開け!?
金曜朝に大々的に報じられたのが、これまでシリコンヴァレーのスタートアップ企業の御用達銀行の立場を担ってきたシリコンヴァレー・バンク(以下SVB)の株価が市場オープン前に
64%下落したことを受けて取引が停止されたニュース。 そして同日午前中には連邦預金保険公社(以下FDIC)が、SVBの資産を管理下に置き 事実上の破綻が発表されたのだった。
SVBはアメリカで第16位の規模を誇るバンクで、その破綻は2008年のリセッション以来最大規模であり、アメリカ史上二番目に大きな金融機関の破綻。
SVBの株価は前日の木曜にも60%下落しており、その発端となったのは SVBが発表した資金調達計画。
預金減少を補うために 所有していた210億ドル相当の債券を売却し、それによって18億ドルの損失を出したSVBは、穴埋めに投資家から20億ドルを調達すると発表。
しかしこれに危機感を覚えた著名ヴェンチャー・キャピタリスト、ピーター・ティールが 彼がバックアップするスタートアップ企業に対し
SVBから預金を引き出すようにと警告。それが更なる預金流出を招いた結果、計画発表の僅か48時間後に起こったのがこの破綻劇。
同じ状況は木曜に株価が57%下落したシルバーゲート銀行でも起こりつつあり、同行はクリプトカレンシー関連企業にローンを提供し、昨年11月のFTX破綻で大きな損失を被って以来、経営危機が伝えられてきたバンク。シルバーゲートも預金流出に対応するための 債券売却により 損失が膨らみ、自己資本比率が規制上の水準を満たさない可能性が指摘されるのだった。
SVBやシルバーゲートに限らず、銀行は低金利時代には米国や諸外国の債権を購入してイールドで利益を上げているもの。しかし金利が上昇すれば、金利とシーソー関係にある債券価値が下がるのは当然のことで、2022年以降の連銀による急激な利上げによって 多くの銀行が抱えているのがSVBと同様の損失。しかしその損失は
現在の不利な金利で債権を売却しない限りは 損失として捉える必要は無い訳で、多くの銀行がはっきり把握していないと言われるのが
万一現時点で所有債権を処分した場合の損失額。
その損失額が深刻な問題になるのは、SVBやシルバーゲートのように資金繰りが苦しくなり、債権売却を余儀なくされた銀行だけとは言え、
このことは 金利が上昇している限り、どの銀行にとっても 「資金調達が必要な事態に陥って 債券を売却すれば、逆に損失を被る」
という危機的可能性を示唆しているのだった。
バンキング・セクターはそもそも横の繋がりが太い上に、一行のトラブルが他行の不安材料になるのは常で、金曜にはファースト・リパブリック銀行、
パシフィック・ウェスタン・バンク、シグニチャー・バンクの株価も40〜50%下落。
J.P.モルガン、シティ・バンク、バンク・オブ・アメリカ、ウェル・ファーゴといった4大銀行の株価も同じく金曜に4〜6%の下落を記録。この日だけで4行が失った
時価総額は523億ドル。
この事態を受けてクリプトカレンシーの世界で起こったのが、SVBが一部をバックアップしているステイブル・コイン(USドルと同じ価値を保つようにデザインされたコイン)”USDC”の価値が10%下落し、90セントになるという異常事態。
今週下がり続けたクリプトカレンシーを売却してUSDCに逃れた人々にとって、この事態は泣きっ面に蜂状態の災難。
また一般人がクラフトを販売するウェブサイト Etsyも SVBが取引銀行であったことから、 Etsyを通じて商品を販売した人々への支払いが滞り始めたことも伝えられ、思わぬ形で破綻の波紋が広がっているのが現時点。
そしてこれらのトラブルの根幹になっているのは、連銀による急速な利上げに他ならないのだった。
SVBの個人預金者は、月曜日朝にはFDICによって保証されている 25万ドルまでの保証額にアクセス出来る見込み。
しかしSVBの口座のうち 預金額が25万ドル以下なのは僅か2.7%。 残りの97.3%は25万ドルを超えた預金が暫く取り戻せないことになり、
現段階で聞かれているのが保証額を超えた預金額1ドルに対して0.75〜0.8ドルの払い戻しがオファーされるとの噂。でもSVB側は1000万ドルまでの預金は全額返済の意向を表明しているのだった。
実際にこうした事態が起こる前から、一分の経済専門家の間では「そう遠くない未来に バンキング・セクターで起こる」 と見込まれてきたのが ベイル・イン。
ベイル・アウトは政府の援助によって救済されることを意味するけれど、ベイル・インは利用者の預金で銀行が救済されること。
利用者に銀行救済の意志が無かったとしても、FDICによる保証額しか預金者に返金しないことにより、残りの資産を銀行側が吸い上げてしまうのがベイル・イン。
そして、もし破綻するバンクが増えた場合に、必ずしも直ぐに、しかも全額取り戻せるとは限らないと言われのがFDIC保証金。
というのも 現在の フラクショナル・リザーブ・バンキング システムでは、バンキング・セクター全体が 利用者の預金のごく一部しかキャッシュの持ち合わせが無く、
利用者が銀行にあると信じている預金は 別の金融機関等に 金融商品として貸し出され、それが更に別の金融機関に貸し出され、
貸借関係が複雑に入り組んでいるのが金融業界。そのため銀行危機を語る際に最も危惧されるのが1行の倒産が他に飛び火するドミノ倒し現象で、そのトリガーが果たして何になるかは
金融業界に通じている人でもピンポイントでは語れないと言われるもの。
SVBは久々の大型銀行破綻とあって FDIC保証額については速やかに戻る見込みであるけれど、そもそもSVBが突如スピード破綻したのは
同行の経営難を危惧したピーター・ティールを始めとするVCが スタートアップ企業に預金引き出しの呼びかけをしたことが原因の1つ。
もしSVB破綻を受けて FDIC保証額を超える預金を引き出す人々が急増した場合、それこそが金融ドミノ倒しの引き金になりかねないのだった。
投票機ドミニオン訴訟で益々明らかになるFOXニュースの本音
先週からアメリカで大きな物議を醸していたのが、ケヴィン・マッカーシー下院議長が2020年1月6日のトランプ支持者による議会乱入事件の様子を収めた数千時間にも及ぶ全セキュリティ・カメラ映像を
FOXニュースにのみ提供したという意味不明な措置。通常こうした措置に踏み切る場合、大手メディアを平等に扱うのは常識以前のこと。
マッカーシー議長がFOXニュースを優遇した理由は、同局が共和党のマウスピース・メディアであることに加えて、メイン・キャスターでタッカー・カールソンが「公開されない映像内容に議会乱入の真実が隠蔽されている」と陰謀説を唱えていたため。
その結果、カールソンが提供された映像を編集して作り上げたのが 「議会乱入は実は穏やか、かつ平和的なイベントで、報じられているような乱闘や暴力は無かった」というかなり無理があるストーリー・ビデオ。
これについてはFOXニュースに対する 独占画像提供に抗議していた民主党議員だけでなく、実際に当日の議会内で恐怖を味わった共和党議員からも批判が集中していたけれど、
この問題と同時進行で先週から大きな物議を醸してきたのが、投票機メーカー、ドミニオンによるFOXニュースを相手取った名誉棄損裁判の資料内容。
投票機を使った選挙不正を一方的にでっち上げられ、トランプ支持者からの著しいバッシングとハラスメントを受けたドミニオン社が、その要因となったFOXニュースによる陰謀説、及び誤報道に対して
16億ドルの損害賠償を請求しているのがこの裁判で、その裁判資料の中で明らかになったのが 陰謀説を報じていたFOXの主要キャスター達が こぞってバイデン勝利を認め、不正選挙説をでっち上げるトランプ氏と
弁護団のプロットを「信ぴょう性のかけらもない」と馬鹿にしていた様子。
更に先週にはFOXニュースの親会社、ニューズ・コープのエグゼクティブ・チェアマンであるルパート・マードックが
「FOXニュースが視聴率獲得のために、自分の意に反してトランプ側の陰謀説を支持することにした」と証言していたことも明らかになり、
キャスター達が報道というよりも 陰謀説を拡散する演技をしていた様子を事実上認めた形になっていたのだった。
さらに今週明らかになったのが、これまでトランプ氏の盲目的な信者のような報道を展開してきたトップ・アンカー、タッカー・カールソンでさえ、2020年の大統領選挙でトランプ氏が敗れ、
もう”トランプ持ち上げ報道”をしなくて済むことに安堵して、"I hate him passionately"(”アイツが本当に大嫌いだ” といったニュアンス)というテキスト・メッセージを送付し、実はトランプ氏を嫌悪している様子。
今週は数多くのメディアで この "I hate him passionately" がヘッドラインを飾っており、それほど驚きを伴って受け止められたのが
FOXニュース、及びそのキャスター達の本音と建て前の違いなのだった。
ここで問題になって来るのが、ここまでの事実が証拠として提示されて、果たしてどうやってFOXニュースが16億ドルの賠償金が掛かった裁判を闘うのかであるけれど、
そこでFOXニュースが持ち出してきたのが合衆国憲法第一条、言論と報道の自由。
すなわち選挙不正が行われたという でっち上げはトランプ陣営によるもので、FOXニュースは それが事実ではないと認識しながらも ニュースとして報道しただけで、
ニュース・ソースの言い分通りに報道を行うことは罪ではなく、それを行う権利も認められているというのがそのポジション。
FOXニュースは既にオンエアの小さなセグメントで ドミニオン社の投票機に関する誤報道を認めてはいるものの、それに至るまでの度重なる ビューワーの怒りを煽るような不正選挙報道の影響で
トランプ支持者の殆どは今も事実が認められない状態。そう考えるとFOXニュースが行っていたのは 報道を超えた虚偽の植え付け、すなわち洗脳とも言える行為。
そのため 現時点では4月半ばにスタートする見込みのこの裁判は、政治とメディアの 様々な思惑が絡み合って 既に大きな注目を集めているのだった。
タイガー・ウッズ、再び泥沼のブレークアップ!?
今週メディアで報じられたのがタイガー・ウッズが過去6年間に渡って交際したエリカ・ハーマン(39歳)と別れたニュース。
タイガー・ウッズと言えば交際相手にNDA(Non Disclosure Agreement/守秘義務契約)にサインさせることで知られているけれど、
現在エリカ・ハーマンが裁判所に請求しているのが その”強制的にサインさせられたNDA”の撤回。
彼女は過去5年間に渡って タイガーと一緒に暮らしたフロリダの邸宅を陰湿な手段で追い出された損害賠償として
3000万ドルを請求する訴訟を 起こしている真最中で、その追い出し方は タイガーのエージェントが「短いヴァケーションに出掛ける」とエリカに荷造りをさせて空港まで連れ出し、
そこで 「もうタイガーと暮らした邸宅には戻れない」と言い渡すという 巧妙かつ、陰湿とも言えるもの。
エリカはタイガーのフロリダ邸に最低あと5年暮らす権利が保証されていたこと、またタイガーの代理人が 彼女のために用意された口座から4万ドルを引き出し、
その行方の疑いを彼女に向けるという卑劣な中傷行為をしたと訴え、その著しい精神的ダメージに対する賠償金と居住保証期間を別の場所で暮らすための費用として
3000万ドルを請求しているとのこと。そしてNDAが無効になり次第、性的虐待被害でタイガーを訴える用意があることも明らかにしているのだった。
一方タイガー側は、損害賠償請求保留の申請を行い、エリカが署名したNDAに「二者間の紛争に際しては、裁判所ではなく、
独立した仲裁人を立てる」との条件が明記してあることを理由に、法廷介入を拒否する姿勢を見せているのだった。
フロリダ州パームビーチで育ったエリカは、大学卒業後にレストラン経営を学び始め、パートナーとナイト・クラブのオープンを計画していたものの、それが失敗したことから
タイガーが経営するレストラン、ザ・ウッズ・ジュピターのジェネラル・マネージャーに就任したのが2015年8月のこと。
その直後から 彼女はタイガーとダイレクトに仕事をするようになり、やがて私生活の面倒まで見始めた彼女は、2017年のプレジデンツ・カップで
初めてタイガーのプレーに付き添い、事実上のカップル・デビューを果たしているのだった。
その翌年2018年のツアー・チャンピオンシップでは エリカが見守る中、タイガーが5年ぶりにして80回目のPGAタイトルを獲得。以来彼女は
タイガーのゴルフ・キャリアのカムバックと私生活を支える存在として、彼の2人の子供達と共にフロリダの邸宅で暮らし始め、
2021年2月にタイガーが交通事故に見舞われた際にも、リハビリを含む リカバリーに大きく貢献したことが伝えられていたのだった。
2人の別れは今週報じられたものの、エリカがタイガーのフロリダ邸を追い出されたのは昨年10月のことで、訴訟内容から
一方的に別れを言い渡したのはタイガー。
今週、2人の別れが報じられてから 再びメディアに登場してきたのが エリン・ノルデグレン夫人との離婚の原因になった2010年の度重なる不倫スキャンダルで名前が浮上していた元愛人達で、
「自分もNDAへのサインを強要された」とエリカ側を擁護する証言を展開。
一部には「タイガーは誰かに傍に居て欲しいタイプなので、エリカを追い出す理由は、既に別の女性に出逢っている可能性が高い」という声が聞かれるものの、
これから息子チャーリーのゴルファーとしてのキャリアが大切になる時期だけに、「ネガティブ・イメージのスキャンダルを極力避けるはず」との見方が濃厚。
幸いタイガーズは、ルブロン・ジェームス、マイケル・ジョーダンらと並んで、スポーツ界が生んだビリオネアなので 賠償金を支払うことには全く問題がないけれど、
彼自身はゴルファー仲間の間で有名なほどのケチ。そのため払い渋りによる性的虐待訴訟、そしてそれを面白がるメディアのターゲットになる可能性は否定できないとも言われるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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