Mar. 13 〜 Mar. 19 2023
銀行危機の背景、GPT-4リリース、METAレイオフのバックラッシュ, Etc.
今週のアメリカで、銀行業界のトラブルと共に 連日トップで報じられていたのが
アメリカの3000万ドルのドローン、MQ9 リーパーが 黒海上空の国際領域で、ロシアの戦闘機に進路を妨害され、
数回に渡る燃料放出と接触によるダメージで ドローンが墜落した事件。
ただでさえウクライナ戦争でギクシャクする米国とロシア間で起こった事件とあって、バイデン政権は冷静な対応を試みているものの
野党共和党はそれを批判して強硬姿勢を主張。国防省はドローンに内蔵されるシステム内の情報を遠隔で全て消去したと発表。
ロシアが墜落機体を回収しても 国防秘密が漏洩することは無いと明言しているのだった。
そして金曜には、ICC(インターナショナル・クリミナル・コート)がウクライナに対する戦争犯罪容疑で ロシアのプーチン大統領に対して逮捕状を発行したと発表。
当然ながらウクライナのゼレンスキー大統領はこれを歓迎する声明を出したけれど、ロシア側は「ICCの存在などロシアは認識していない」とこれを無視する姿勢。
実際に西側諸国でもICCの存在をこの報道で初めて知った人は多かったのだった。
一方、来週早々 NYで選挙資金規正法違反の容疑で訴追が確定したのがトランプ前大統領。これは2016年の大統領選挙の際に ポルノ女優、ストーミー・ダニエルズに対して
浮気の口止め料を選挙資金から支払った罪を問うもので、この一連のやり取りに関わったトランプ氏の元弁護士、マイケル・コーヘンが検察側に協力したことが
立件の決め手になっているのだった。
銀行破綻の裏で暗躍する オペレーション・チョーク・ポイント
今週のアメリカ、及びヨーロッパではバンキング・セクターのトラブルが大ニュースとなり、銀行株が大荒れ状態になっていたけれど、
それと同時にインターネット上で取り沙汰され、メインストリーム・メディアがフォローアップの報道をしていたのが破綻したバンクの様々な内情。
その中にはシリコン・ヴァレー・バンク(以下SVB)を破綻に導いた債権売却で、ゴールドマン・サックスが1億ドルのサービス手数料をチャージしていたこと、
今週危機が伝えられたファースト・リパブリック銀行が 大手11銀行によってベイルアウトされた理由の1つが 同行のクライアントにメタCEO マーク・ザッカーバーグ等の大物が含まれていたこと、
同行上層部4人が、総額1200万ドル相当の持ち株を3月初頭に処分して利益を上げいたことなどがあったけれど、同様の株式売却はSVBのエグゼクティブによっても行われていたこと。
その一方でSVBに次いで破綻が報じられたシグニチャー・バンクのインサイダーは、「未だ経済余力があったにも関わらず、強引にFDIC(連邦預金保険公社)に経営権を奪われた」と、
その腑に落ちない破綻介入プロセスについて言及。
SVB破綻についても、様々な疑問や問題が指摘されており、司法省がその調査に乗り出すことが報じられていたのだった。
そんな中、クリプトカレンシー関係者を中心とする金融インサイダーがこぞって指摘していたのが、今回のバンキング・セクター・クライシスが
クリプト業界をターゲットに証券取引委員会(以下SEC)と財務省、連銀がジョイントで行っているオペレーション・チョーク・ポイントの一環であるという声。
実際には現在行われているのは オペレーション・チョーク・ポイント2.0 で、最初のオペレーション・チョーク・ポイントが行われたのは2010年代のオバマ政権下。
オンライン・ポーカー業界を取り締まるために、様々な規制や介入を通じて 業界と銀行との関りをカットし、資金流入を滞らせることにより 業界ごと潰しに掛かったのがこのオペレーション。
そのプロセスが 首を絞めて酸欠状態に追い込む様子に等しいことから、つけられたのが”チョーク(首絞め)・ポイント”のネーミング。
バイデン政権がクリプトカレンシー業界叩きをこの手法で行う理由は、アメリカが世界で最も多くの国民がクリプトカレンシーに投資をしている国で、
直接クリプト業界を叩けば 批判を買って 次の選挙に響くため。そのため”一般投資家を守るため”と称して、
様々な方面からクリプト業界に揺さぶりかけているのがこのオペレーション。
先週破綻したシルバーゲート銀行、シグニチャー・バンクは共にクリプト業界とのパイプが極めて太かったバンクで、今後これら2行が身売りをする場合には、
「クリプトカレンシー企業とは取引をしない」という条件が設けられている点からも、クリプト叩きをしているのは明らか。
それと同時にSECは「ビットコイン以外のクリプトカレンシーは全て有価証券である」という説を持ち出し、クリプトカレンシーをSEC管理下に置いてコントロールするために、
商品先物取引委員会(CFTC)を相手に「クリプトカレンシーは果たして商品か、証券か?」のバトルを繰り広げている真最中。
では何故今、政府機関がこぞってクリプト叩きに動いたかと言えば、今後アメリカがCBDC、すなわちセントラル・バンク・デジタル・カレンシーに移行するにあたって、
クリプトカレンシーがCBDCの独占を阻む邪魔な存在であるため。
CBDC導入へのファースト・ステップとして今年7月からスタートするのが、これまでのSWIFTに代わる新しい送金システム、”Fed Now/フェド・ナウ”。
これはクリプトカレンシー同様にブロックチェーンを用いた安価かつ、インスタントな送金が可能になるシステムで、
規模に関わらず全てのバンクを巻き込んで導入されるシステム。
そしてこれが行き渡った時点で、いよいよ実用化秒読み段階に入るのが デジタルUSドル。
その導入が実現すれば、国民生活が お金の動きによって政府に全て把握され、ブロックチェーン上に記録が残るだけでなく、税金から罰金、財産差し押さえまでもが
政府の意図やプログラミングで簡単に行える完全管理の社会になるのは以前このコラムでもご説明した通りで、中央集権マネーであるCBDC導入は民主主義社会の終焉とも言われる事態。
そして万一、政府の意図通りに導入が実現した場合、不用な存在になるのが大手を含む全ての銀行。
というのもCBDCが実用化されれば、国民が持つ銀行口座は自分のIDと直結した中央銀行の口座のみ。
そこに給与から投資の利益までの全ての収入が入金され、そこからレストランでの食事から交通運賃、ダウンロードした有料アプリの代金、ギャンブル費用から愛人への送金までが支払われるので、裏金やヘソクリなどは過去の遺物。そして同様に過去の遺物となるのが殆どの銀行業務。
そのためパニックが起こらない形で、中小規模のバンクが 「高金利時代の競争に勝てない」とか、
「クリプト取引所の破綻の煽りを受けた」といった形で徐々に淘汰されるのは CBDC導入に動く政府にとっては実は「渡りに船」と言えた状況。
事実、連続で起こった銀行破綻を受けて、「小規模な地方銀行では危ない」と感じた人々が大手銀行に預金を移し始めたことから、バンク・オブ・アメリカは今週だけで預金額を
1億ドル以上増やしたことが伝えられるのだった。
そのためオペレーション・チョーク・ポイント2.0は、クリプト潰しと銀行業界の淘汰も兼ねるか?とも見られたけれど、
1週間で3行の破綻に加えて、クレディ・スイス危機説等で、銀行への危機感をつのらせた国民による 預金引き出しがソーシャル・メディアに煽られてトレンディングになれば
CBDC導入以前に金融システムの破綻を招くのは必至。
それこそが連銀が最も恐れるシナリオであることから、今週末にやむを得ず 2022年から続いた金融引き締め政策を翻して、
市場にキャッシュを投入したのが連銀。これは銀行が抱える債権を担保にローンを提供するという形で行われているけれど、ようやく目減りの兆しを見せた
連銀のバランスシートが急上昇した様子は右上のグラフにも顕著に表れているもの。
コロナウィルスの時ほどのボリュームではないとは言え、これだけのキャッシュが株式とクリプト市場に流れ込むことを見込んだ投資家がブル・マーケット到来に胸を膨らませていたのが今週末。
ビットコインとゴールドについては、先週以来「政府も銀行も信用できない」という人々がFDICによって保証される25万ドルを超える預金額で投資を始めたことから、
既に値を上げていたけれど、連銀が金融緩和に動いた今は、2023年後半に確実に高まるのが インフレの加速リスク。
加えて週末の段階では ベイルアウトされたファースト・リパブリック銀行、クレディ・スイスは 共に信頼回復には程遠い状態。(クレディ・スイスは日曜に同じスイスの大手UBSとの合併を発表しています。)
アメリカでは経営に不安がある銀行の数は約200行。そのうちの100行の状況は破綻前のSVBより悪い状況で、まだまだバンキング・クライシスが収まったという印象は無いだけに
ビットコインとゴールドはインフレ・ヘッジ、銀行危機のヘッジを兼ねたアセットして、まだまだ値を上げることが見込まれるのだった。
更に進化したチャットGPT4.0の実力は?
今週リリースされたのが、昨年12月のデビュー以来大センセーションを巻き起こしているチャットボット・アプリ、チャットGPTの最新バージョン、GPT-4。
「完璧とは言えないものの、現在普及しているGPT-3.5よりも遥かに高性能」と言われる最新バージョンは、
所得税控除も迅速に計算できるとのこと。
その作業は完璧ではないものの、人間のエラーと大差が無いもので、
現段階のチャットGPTは、「プロの仕事は出来なくても 日常の作業を手助けする生産性増幅ツールの役割は十分に果たす」と評価されているのだった。
GPT-4で最も注目される進化は、テキストと画像の両方を入力して 答えを導き出すことができる点。
そのため 冷蔵庫の中を撮影した写真を提示し、その食材から作れる料理のレシピをチャットGPTに提案してもらうこと等が可能。
更にGPT-4は、ユーザーが提示した記述や文体の条件に対応する能力も備えているとのこと。例えばGPT-4 と GPT-3.5の違いの説明を
それぞれのバージョンに尋ねて、「回答は全てGで始まる単語で行う」という条件を付けた場合、GPT-3.5はそのルールを無視して通常の文章で回答。
それに対してGPT-4は 「GPT-4 generates groundbreaking, grandiose gains, greatly galvanizing generalized AI goals.」と
条件を満たした回答をする能力を備えているのだった。
さらにGPT-4は、何等かのリスクに繋がる情報や、法律に触れる情報の要求を拒否するようにトレーニングされており、
爆弾や毒薬の作り方、ドラッグの購入方法といった質問に対しては、情報提供をする可能性が 皆無とは言えないものの、極めて低くなったことがアピールされているのだった。
GPT-4の問題点として Open AI側が認めているのは、まだまだ誤った推論が多いことで、「GPT-4の主張を完全に信頼することはできない」 とコメント。特にリスクが高い状況では
チャットGPTを信頼せずに、人間による注意深い判断が奨励されており、人工知能専門家も
「GPT-4は人間と同じ思考回路は持ち合わせていない。その流暢な言語に惑わされるべきではない」と警告しているのだった。
加えてGPT-4は トレーニングに使用したデータが 2021年9月の段階で終了していることから、それ以降に発生した事件や出来事についての知識が無いことも
問題点の1つ。しかしOpen AI社に 10億ドル以上を投資し、チャットGPTのテクノロジーを 自社のサーチエンジン Bingに統合した
マイクロソフトは、「チャットGPTこそがインターネットの未来の可能性」と、極めて強気の姿勢を見せているのだった。
チャットGPTのユーザーはデビュー1ヵ月後の 2023年1月の段階で1日平均1300万人。
現在の人気No.1アプリ、TikTokでさえ 月間ユーザーが1000万人に達するまでに9カ月を要し、インスタグラムは2年以上を要したことを考慮すると、
驚くほどスピーディーな普及率。
膨大なデータベースから学習した内容に基づいて 対話をし、オンデマンドで読み取り可能なテキストを生成し、斬新な画像やビデオを生成することも可能な
チャットGPTは、今後は学習システムにも活用されるけれど、その前に 長年Googleが支配してきたネット検索ビジネスに変革をもたらすことが確実視されているのだった。
METAレイオフのバックラッシュ
昨年11月の1万1000人のレイオフに続いて、今週従業員の13%に当たる1万人を解雇したのがフェイスブックの親会社、メタ。
先週の段階でレイオフに関する内部文書がインターネット上に漏洩していたことから、メタ社内は正式な発表が行われるまでかなりストレスフルな状態が続いていたようで、
レイオフの通知をEメールで受け取った社員のリアクションは「ショックよりも 自分の置かれた状況がはっきりした安堵感を最初に感じた」というものが多かったとのこと。
そもそも前回の大量レイオフの段階で、社内に残ったスタッフの間では「サバイバーズ・ギルト」、すなわち解雇を免れた罪悪感が強く、
年明け早々CEO マーク・ザッカーバーグが 「2023年は、効率性を重視」という方針を語り、更なるレイオフを示唆していたことから、
社内は以前のような活気が見られない状態がニューノーマルになっていたという。
今週、解雇されたメタ社員、及び雇用が継続している社員の双方が訴えていたのが、マーク・ザッカーバーグが 未だ収益が上がらないメタヴァースのプロジェクトに大金を投じ過ぎたために
経営が著しく悪化したこと、そして昨年夏に新規雇用を停止するまで続いていた過剰採用、すなわち社内に仕事が無いにも関わらず、不必要な人材を雇い続けた人事ポリシーに対する批判。
とは言っても 過剰採用はフェイスブックに限った問題ではなく、シリコン・ヴァレーのIT企業が2022年後半以降 大量レイオフを行っているのは、そもそも従業員が多過ぎるため。
シリコン・ヴァレーのIT企業にとっては、従業員の総数、新規採用の数は業績を示す指針と見なされるもの。そのため株主の心象を良くするために、業績が上向きである限り、雇用を増やすのは当たり前。
特にフェイスブックの場合、マイノリティ人種の従業員の割合がシリコン・ヴァレーの他企業に比べて少なかったことから、表向きの印象が良い人種バランスを保つための不必要な採用が行われていたことが
指摘されているのだった。
そんな状態なので、今回レイオフされた社員の中には、「ろくな仕事をさせて貰えなかった」と、メタでの 飼い殺し状態と言える勤務のせいでキャリアにダメージを受けたという声が聞かれたほど。
アメリカは何処に務めていたか だけでなく、そこで何をして、何を学び、どんな成果や実績を上げたかをレジュメで掲げて初めてキャリアアップが出来る実力社会。
「メタに勤めていたものの、特に何も実績がありません」では、逆に能力が無いと判断されるのがアメリカ、特にIT業界。
しかし仕事の内容は空っぽでも、給与は悪くないのがメタのようなIT大手。そのため生活レベルを維持するために同等の給与の仕事を探そうとした場合、現時点では極めて厳しい状況。
限られたポジションを メタだけでなくツイッターやセールス・フォース等からレイオフされた大勢の元IT企業従業員と争うことになる訳で、
好条件の求人にはあっという間に100人の応募が寄せられることは珍しくないのだった。
更に今週レイオフされたメタ社員からは、解雇についての何の説明も無かったことに失望する声も聞かれていたけれど、
残った社員に対しては 「出勤している社員の方が 生産性が高い」として、自宅勤務廃止の方向を示唆したのがマーク・ザッカーバーグ。
同様の「解雇されたくなければ、オフィス通勤は当たり前」的な発言はツイッターのイーロン・マスクや
ゴールドマン・サックスCEO、デヴィッド・ソロモンもしていたけれど、 ツイッターのサービスが頻繁にダウンするほど社員を解雇し、清掃員まで解雇して経費削減を図ったイーロン・マスクは、
今や従業員の反発を感じて、2人のボディガードを連れなければ自社ビル内を歩けない状態。
セールス・フォースのCEO、マーク・ベニノフも、有能なエグゼクティブがどんどん去ってしまった上に、8000人の従業員を解雇しながら 俳優のマシュー・マコナヘイには1000万ドルのコンサルタント&CM出演料を支払っていることが明るみに出て、かつての名物CEOも 今では”社内の敵”扱い。
マーク・ザッカーバーグも今週木曜に行われた社員とのビデオ・カンファレンスで 「こんなに大量のレイオフを平気で行うCEOは信頼できない」との批判を受けて
タジタジになる一幕が見られており、景気への不安が最も高まる段階でレイオフされた社員、社内に残りながらも更なるレイオフを恐れて 不信感を募らせる社員の
怒りやフラストレーションは、CEOを含む経営側が軽視できるレベルを超えつつあると言われるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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