July 5 〜 July 11 2021
米男性が陥るフレンドシップ・リセッション!?
月曜が独立記念日の振り替え休日だった今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのは、バイデン政権が予定を繰り上げて
アフガニスタンから8月31日をもって全アメリカ軍の撤退を発表したニュース。
既に現地ではアメリカ軍の大半が引き上げたことから、それまで一緒に戦ってきたアフガニスタンの軍隊が武器を捨ててタリバンに降伏しており、
今週「アメリカ軍を追い払った」とばかりに勝利宣言を行っていたのがタリバン。
アメリカ国内はこれについては賛否両論で、「これ以上アメリカ軍から犠牲は出せない。オサマ・ビン・ラディンを殺害し、アルカイダを追い払う目的は達成した。」として
アフガニスタン再建までは請け負う意志が無いことを明確にしたのがバイデン政権。
しかしタリバンが再びアフガニスタンを征服すれば、せっかく学校に通い始めた少女達から教育機会や ただでさえ限られている自由さえもが奪われることを危惧する声は多く、
「戦争を始めたこと自体が間違いであったが、何故今撤退しなければならないのか?」という批判が聞かれるのも実情。特に女性の人権問題については、
タリバン以前に アフガニスタンの男性の3人に2人が「女たちが余計な権利を持ち過ぎた」と考えていることが世論調査で明らかになっているのだった。
今週はそれと共にハイチのジョブネル・モイーズ大統領暗殺事件も大きく報じられたけれど、過去4カ月のハイチは猛烈なインフレで国民の3分の1が飢餓に苦しんでおり、
政情不安に加えて誘拐&殺害事件が日常茶飯事に起こる無法状態で、それにコロナウィルスが重なって史上最悪の状況。ハイチ政府は週末にアメリカ軍派遣を要請したけれど、バイデン大統領は上院議員であった1990代から、ハイチ政策に関して消極的な立場を
取ってきたことで知られており、実際にハイチはアメリカが過去何十年を掛けても民主主義を確立することが出来ずに来た失敗例。
この2つのニュースのタイミングが重なったことは、ある意味で象徴的と言えたのだった。
今に始まったことではない ”友達がいない男性たち”
そんな中、今週報じられたのがアメリカ人男性の15%が親しい友達が1人も居ない”フレンドシップ・リセッション”に陥っているという調査結果。
この調査を2021年5月に行ったのはサーヴェイ・センター・オブ・アメリカン・ライフで、1990年の調査段階では親しい友達が居ない男性は3%であったとのことで
インターネットとソーシャル・メディアが普及した過去30年の間に友達が居ない男性の数が5倍に増えているのだった。
また「親しい友達が少なくとも5人居る」と回答した男性の数は1990年の55%から27%に半減。
女性と男性を総合した調査でも「親友と呼べる友達が居る」と回答した人は1990年には77%であったのに対して、最新の調査ではそれが59%で、
アメリカにおけるフレンドシップが質でも量でも希薄になっている様子を垣間見せているのだった。
とは言っても男性の方が女性よりも友達が少ないのは今に始まったことではないのも事実。
アメリカの有名なコメディアンのジョークに「Your father doesn't have friends, your mother's friends have husbands
(父親には友達はいない、母親の友達に 夫が居るだけ)」というものがあるけれど、
実際に既婚男性に多いのが交友関係の大半が妻の友達の夫というケース。
ホームパーティーでも夏の週末のバーベキューでも、レギュラー・メンバーは妻の交友ネットワークで、
そこに夫の友人が混じる時は 往々にして夫が初めて職場の友人や部下を自宅に招待するケース。
夫同士の交友関係は、その繋がりの源である妻同士の交友関係がこじれた時にあっさり終焉するのが典型的パターン。
女性の方が交友関係が深く、広がり易いのは 男性がスポーツやゲーム、投資等の興味や、仕事上のメリットで交友関係を広げ、
自分のプライバシーや弱さを露呈しない表面的な付き合いをするのに対して、女性は価値観や人柄を軸に交友関係を持ち、
プライベートを含む広範囲の話題を通じてお互いへの理解を深める傾向にあるため。
でも男性も 親しい女友達が居る場合には悩みを打ち明ける傾向にあり、妻やガールフレンド以外に悩みが相談できる女友達が居る男性は、
孤独や落ち込みを味わうことが遥かに少ないとも言われるのだった。
過去30年のライフスタイルの変化が招いたフレンドシップ・リセッション
男性のフレンドシップ・リセッションに大きく影響していると言われるのは過去30年のアメリカのライフスタイルの変化。
そもそもアメリカ人が交友関係を持つきっかけは学生時代、職場、そして結婚。
しかし過去30年間にアメリカでは、それまでの地元の学校に行き、地元の職場に勤め、ほぼ一生を同じ町で暮らすライフスタイルから、
州外の大学で学んだ後、金融マンならウォールストリートへ、エンジニアはシリコンヴァレーへと、仕事に応じた移住は当たり前。
企業が全米各地への進出に際して、有能な人材をどんどん現地に投入していたことから地理的な移動が急増。
このことは本人の交友関係だけでなく、その子供世代で現在大人になっているアメリカ人の交友関係にも
「幼馴染みと呼べる友達が居ない」といった影響を及ぼしているのだった。
また女性のキャリアアップの影響で結婚年齢がアップし、結婚率が下がってきたことは結婚による交友関係の拡大が減った大きな要因。
職場においては長時間勤務やストレスの反動で「職場の人間とはプライベートでは付き合わない」という人が増えたかと思えば、フレックス・タイムの影響で職場でのコミュニケーションが減るなど、
交友関係が築き難くなっており、自宅勤務、もしくは自宅とオフィスのハイブリッド勤務がニューノーマルになれば、
今後ますますその傾向に拍車が掛かると言われるのだった。
加えて現代の親達は自分の親世代に比べて子供と過ごす時間が2倍。すなわち「週末に仕事仲間とゴルフに行くより、子供のサッカーの試合を観に行く」という傾向が顕著。
しかもそれが奨励される社会風潮が定着してきており、その結果、子供が親を煙たがる年齢に達すると親は交友関係の少ない自分を痛感することになるという。
さらには2016年の大統領選挙を前後して、アメリカ国内で大きく分断されてきた政治観、社会観が交友関係を減らしているのも紛れもない事実。
アメリカではトランプ大統領が当選して以来、「口を利かなくなった友達や家族が居る」とアンケート調査で回答していたアメリカ人が半分以上。
特にそれが顕著なのが民主党支持者で、共和党支持者の53%が「民主党支持、もしくはリベラル派の友人が居る」
と回答しているのに対して民主党支持者で「共和党支持者友人が居る」と回答したのは32%。
そうなってしまうのは共和党支持者にはワンイッシュー・ヴォ―タ―、すなわち銃規制反対、移民問題など、
1つの政策にこだわって共和党を支持する傾向が強く、自分の生活と直結しない問題には固執しないのに対して、
民主党及びリベラル派は高学歴者が多いことも手伝って自分の生活と社会の在り方を考える結果、
環境問題、人種及びLGBTQ差別撤廃、銃規制強化、人工中絶合憲存続等、多岐に渡る問題に対して妥協しない傾向が顕著。
マイノリティ人種やLGBTQコミュニティが民主党支持者に多いとあって、特に差別をサポートする共和党支持者に対しては拒絶反応を示すのだった。
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全般的に共和党支持者の方が、民主党支持者よりも男性、女性を問わず”友達”の数が多いけれど、
その理由は共和党支持者が多い南部、中西部では、今も生まれた時から一生を同じ州で過ごす傾向、
若いうちに結婚する傾向が顕著で、加えてチャーチゴーワーが多いこと。そのため日曜ミサを通じて
時に部落的な ”コニュニティ=交友関係” が形成されているのだった。
年齢別に見れば、かつて最も孤独と言われた世代は 仕事をリタイアして職場仲間との交友が途絶え、
学生時代の友人との死別が増えていく70歳以上。
実際にリタイア後の交友関係は老後生活の健康状態、行動半径、幸福度を左右するとあって、
「How to make friends after retirement」 のレクチャーやプログラムがビジネスとして成り立つほど
この年代の優先課題になって久しい状況。
しかしながら2018年の調査段階から、高齢者を抜いてアメリカで最も孤独な世代になっているのが
ミレニアル世代の次に控えているジェネレーションZ。デジタル・ネイティブのミレニアル世代もソーシャル・メディアの普及により
フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが下手で、友達が少ないことが指摘されてきたけれど、
それより純粋で責任感が強いジェネレーションZはそんな
ソーシャル・メディアが幅を利かせる世界で自己形成をするうちに、「自分に対して厳しく 冷たい ”Innner self / 内なる自分” に精神的に痛めつけられて、孤独を味わっている」というのが心理学者の分析なのだった。
でもジェネレーションZが悲観する必要が無いのは、ハーヴァード大学が1938年から学生を対象に続けてきたアダルト・デヴェロプメントの調査の2017年に発表されたレポートによれば、
「成長期の経験や状況が人格形成に大きく影響するとは言え、20歳、25歳で壊滅的な状態であった若者が そこから一転して素晴らしい人生を送る例は全く珍しくない」とのこと。
そのカギを握るのは30代からの交友関係で、やがて50歳になる頃には 人間関係に対する満足度が そのまま如実に反映されるのが血圧、コレステロール値、血糖値といったありとあらゆる健康値。
その結果「孤独は1日15本のタバコ喫煙に値する健康を蝕む大きな要因」とまで言われるのだった。
幸福感が得られる交友関係は量より質で、たった1人の本当に信頼で出来る親友の存在が孤独から解放してくれるだけでなく、
お金や社会的地位よりも幸福度を満たし、健康と長寿に導いてくれるとのこと。
これが低いハードルと考える人は 人間関係を見直す必要があるようで、
自分の心のアンカーになってくれるような本当の友達は 何十年生きようとそう簡単に出会えるものではないことは 交友関係の研究や調査をしている人々が異口同音に語ることなのだった。
来週のこのコーナーは、勝手ながら1週お休みを頂きます。次回は7月25日の更新となります。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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