June 21 〜 June 27 2021
ビル崩壊、NY市長予備選、LGBTQ、今週の@ランダム
今週のアメリカで最大の報道となったのはマイアミの12階建てのコンドミニアムが木曜午前1時半に突如爆音と共に崩壊したニュース。
築40年の古いビルとは言え、約130ユニットのコンドミニアムの売り値はオーシャン・フロントということもあり 平均的な2ベッドルームの物件が60〜70万ドル。
高額なものは200万ドル。マイアミの他の多くの物件同様、このコンドのオーナー達はマイアミの住人とシーズナル・レジデント、すなわち
自宅はNY等で冬の間だけマイアミで過ごす人々が半々。そのため事故の段階で どれだけの住人が滞在していたかが全く分からず、
約159人と言われる行方不明者の数も定かでない状況。その行方不明者の生存確率は週末の段階でほぼゼロと言われるのだった。
崩壊事故原因と言われるのは、海沿いの安定しない地盤に建っていたこの物件が1990年代から毎年2ミリのペースで沈んでいたことで、
フロリダ州立大学では昨年、同ビルを含めたマイアミの複数のエリアで同様の沈下が起こっていることを突き止めているのだった。
加えてオーシャン・フロントという土地柄、塩水とそれを含んだ空気がビルの鉄筋にサビをもたらし、コンクリートとの結合を弱め、
そのせいで壁や天井に亀裂が見られており、近年では気象変動による海面上昇の影響でその悪化に拍車が掛かっていたとのこと。
そもそもマイアミは1993年以来、海面水位が13pアップしており、2030年までにはあと15cmの上昇が見込まれ、街全体が徐々に沈むリスクが指摘されて久しい状況。
それに追い打ちをかけているのが年々大きくなるハリケーンの規模。にも関わらず急ピッチで高級コンドミニアムの開発が続いているのだった。
それとは別に崩壊したビルは築40年目の不動産再認定を受けるための改築に取り組んでいた真っ最中。
住人達は崩壊前日に建物がきしむ音を聞いていたものの、それが改築工事の影響と思っていたとのこと。その改築アドバイスをしたエンジニアは沈下については
調べておらず、ハリケーン・シーズンが本格化する前に急がせていたのが屋上の修理。
そのため屋上に運び込んだ機材の重量が既に脆弱化していたビル崩壊のトリガーになったという説が有力であるものの、
2018年にスイミング・プールからの水漏れが指摘され、そのせいでコンクリートの下の地盤が緩くなっていたという説も浮上しているのだった。
7月に決まる次期NY市長?!
さて今週火曜日には、民主・共和両党のNY次期市長候補を決める予備選挙が行われたけれど、今回の選挙から導入されたのが
ランクチョイスと呼ばれる新たな投票法。
ランクチョイス投票では、有権者が1〜5番目までの優先順位で投票することが出来、1人以上に投票をしていれば、5番目までのランク付けをしていなくても投票は有効。
有権者は自分の第1候補が敗れても 他4人にランク付けで投票が出来ることから、候補者が多く 票割れが激しい選挙では、より民意を反映した結果になると言われるのがこのシステム。
今回の予備選選挙は共和党側は2人しか候補が擁立されなかったので、これが導入されたのは民主党側のみ。
ランクチョイス投票の問題は開票に時間が掛かることで、まず第1候補の投票のみが集計され、その段階で誰も50%以上の票を獲得していなければ 第2候補の票をカウント。
それでも50%を獲得する候補が居なければ、第3候補の票をカウントするというやり方で、どの段階でも最初に50%を獲得した候補が当選という仕組み。
したがって今回の民主党予備選のように13人が立候補し、突出した候補がいない接戦であればあるほど 開票作業に時間が掛かるのだった。
第1位ランクの集計が終わった現時点で トップを走っているのはNY市警察出身で現在のブルックリンボロー・プレジデントのエリック・アダムスで32%の票を獲得。
2位はNYで人気が高い若手下院議員、AOCことアレクサンドリア・オカジオ・コルテスがバックアップしたことから突如支持率を伸ばしたマヤ・ワイリー、
3位はNYタイムズ、NYデイリー・ニュースというローカル2紙が支持表明をし、今回の候補者中最も実務経験があるキャサリン・ガルシア。
4位が2000年大統領選挙にユニヴァーサル・インカムを打ち出して立候補したアンドリュー・ヤンであるけれど、彼は既に敗北宣言を行っており、
当選の可能性があるのは上位3人。
エリック・アダムスがこのまま逃げ切るという見方が強いものの、現時点では約10万票と言われる不在者投票が未だカウントされていないのに加えて、
キャサリン・ガルシアはアンドリュー・ヤンとアライアンスを組んで一緒に選挙活動をしていたことから、
ヤンを支持した多くの有権者の第2候補票を獲得すると見られるのがガルシア。
またエリック・アダムスに投票した黒人層の中には 第2候補に同じアフリカ系アメリカ人のマヤ・ライリーを選ぶ有権者が多く、まだまだ予断を許さない状況なのだった。
ちなみに共和党側は、今回の候補者の最年長(67歳)で、NYのボランティア・パトロール・グループ、ガーディアン・エンジェルの設立者、カーティス・スリワが圧勝。
しかしNY市民は7人中6人の割合で民主党支持者というリベラル派が多い完全なブルー・シティ。したがって民主党予備選挙の勝者が
11月の本選を制することが確実視され、その投票結果が明らかになる7月に次期市長が決定すると言われるのだった。
NYの脱パンデミック、カムバック・シグナル
アメリカでは新規失業保険申請者数の低下等、様々な数値がパンデミックからのカムバックを立証していると言われるけれど、その1つに挙げられているのが
コンドームの売上が元に戻ってきたこと。これには「デート・シーンが活発になってきた」という見方と、「ようやくセックスをする元気が出てきき」たという見方があるようだけれど、
NYでカムバックを示す数値と言われるのは 再びレントが上昇し始めたこと、レストランのデリバリー・オーダーが減って来店客が増えてきたこと、加えてレストランの営業キャパシティが100%に戻ったことから
来店客が以前ほど店員をサポートするためのエクストラ・チップを支払わなくなってきたこと。
さらには地下鉄利用者の増加もカムバック・シグナルとして捉えられているのだった。
地下鉄利用者がここへ来て大きく増加した理由は、オフィスで業務を復活させる企業が増えてきたためで、
特にフルタイム・カムバックを謳っているのが金融企業。
それに際して取り沙汰されているのがワクチン接種で、ゴールドマン・サックスではオフィス業務再開を前に全社員に
ワクチン・ステータスの申告を義務付けた他、モルガン・スタンレーはワクチン接種者以外はたとえクライアントでも自社ビルへの立ち入り禁止措置を発表。
J.P.モーガン・チェースもワクチン義務化に動く可能性を示唆していたのが今週。
NYのイベントもワクチン接種者のみというものが非常に多く、全米の仕事の新規採用の殆どにもその条件が付いているのだった。
そのアメリカ国内では引き続き人手不足で、夏本番を迎えていよいよ深刻になっているのがライフガード不足。
この夏のライフガードの最低時給は20ドル。ハンプトンのプライベート・プロパティにもなると時給80ドルを支払うところまであるほどで、
泳ぎが得意な人に対して「今からでも遅くない」と資格取得が呼び掛けられているのが現在。
一方、アメリカン航空はスタッフ不足を理由に毎日のように100便以上をキャンセルしており、7月半ばまでは
人員不足のためのキャンセルが続くことを発表。特に深刻なのはパイロット不足で、パンデミック中に解雇が相次いだ上に、
リタイアを早めるパイロットが増えたことがその要因。しかし航空各社はパンデミック中に合計2000億ドルの補助金を政府から受け取っており、
その一部がパイロット等の業務再開に不可欠な人員の雇用継続のために使われていなければならなかった状況。
またリタイアが早まっているのは雇用条件が悪いためであるけれど、その改善も補助金から賄われるべきもの。
しかし一向にそれらへの取り組みが無かった割には、エグゼクティブへの1000万ドルを超えるサラリーはしっかり補助金から支払われているのだった。
LGBTQコミュニティの進化
6月はLGBTQコミュニティのプライド月間。そのため今月のNYでは同コミュニティのシンボルであるレインボー・カラーが街中に溢れていたけれど、
今週月曜にはNFLラスヴェガス・レイダースのカール・ナッシブがソーシャル・メディアを通じて、現役フットボール・プレーヤーとして初めて自らがゲイであるとカミングアウト。
そのNFLはドラフトで入団したプレーヤーがカミングアウトして契約が解除された過去があるなど、LGBTQコニュニティに対する偏見が最も激しかったプロリーグ。
しかし時代の流れを感じさせたのは、カール・ナッシブが月曜のカミングアウトに際して10万ドルを青少年のLGBTQをサポートするチャリティに寄付をしたのを受けて、
NFLが同額を同じチャリティに寄付をし、彼のカミングアウトを支持したこと。
また今週にはTV界のオスカー、エミー賞が従来の俳優部門の男女別の制度を改め、今年のノミネーションからアクター、アクトレスの代わりに
パフォーマーという言葉で、男女にカテゴライズされないノンバイナリーの俳優達を含めたインクルーシブなアワードにすることを発表しているのだった。
そんな中、今週発表されたのがアメリカ国内のLGBTQコニュニティの成人を対象とした初めてのアンケート調査結果で、これを行ったのはウィリアムス・インスティテュート。
それによれば右上の半円グラフが示すように LGBTQコニュニティの39%がレズビアン、19%がゲイ・ピープルで、
42%を占めるトランスジェンダー。ノンバイナリーが属するのはそのトランスジェンダーで そのうちの32%、LGBTQコニュニティ全体の10%を占めるのがノンバイナリー。人数に換算すると約120万人。
すなわちLGBTQコニュニティは、ゲイでもレズビアンでもその90%が自認する性別と生まれながらの性別が一致しているシスジェンダーであり、
ノンバイナリーはLGBTQの中でもマイノリティ。
しかし”She”、”He”の代わりにノンバイナリーの人々に対して三人称単数として用いられる”They”は若い世代を中心に言語の中にかなり浸透してきているのだった。
ノンバイナリーはその90%が都市部に住み、76%が30歳以下。決して経済的には裕福とは言えない人々が大半。
ジェンダー・アイデンティティに苦しむプロセスや親との関係悪化が原因でメンタル・ヘルスの問題を患っているケースが多く、その90%が「自殺を考えたことがある」と回答しているのだった。
近年では国民の間でLGBTQコニュニティへの理解や支持が高まっているものの、共和党保守派にLGBTQ、特にトランスジェンダーの人権を
脅かす法案を支持する政治家が決して少なくないのが実情。
それを受けて今週にはNYのゲイ・プライドの発祥の地であるグリニッジ・ヴィレッジのストーン・ウォール・バーの前で、ビール会社の大手 アンハイザー・ブッシュ社に対する
ボイコットが宣言されていたけれど、その理由は同社がLGBTQコミュニティの差別法案を支持する29人の共和党議員に対して献金を行っているため。
これに対してアンハイザー・ブッシュは「同社のビジネスに有利な法案を支持する議員が、たまたまLGBTQコミュニティへの差別法案を支持していただけ」と弁明しているけれど、
LGBTQコニュニティが権利やプライドの主張やイメージの改善だけでなく、政治法案や企業献金にも目を光らせる機動力を持つようになったのは大きな進化。
結局のところ権利を主張するためには法律の後ろ盾が必要で、それを得るには政治家を動かすお金の動きに着眼する必要があるということなのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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