June 14 〜 June 20 2021

"Men Become Looks Concious / Women Want Confort"
アンダーウェア業界に見る男性と女性のコンフィデンスの新たな違い!?


今週のNYでは月曜夕方にワクチンを最低1回接種したニューヨーカーが70%に達したことを受けて、マスク着用やソーシャル・ディスタンシングといった コロナウィルスの規制が州レベルで解除。ロックダウンから472日後のコロナウィルス克服の勝利宣言となり、 今週末からヤンキー・スタジアムは100%のフルキャパシティがカムバック。 8月にスタートするテニスのUSオープンもフルキャパシティで開催される他、 ブロードウェイではブルース・スプリングスティーンのワンマン パフォーマンスが先陣を切ってフルキャパシティで再開が決定。 でもインドアとあってこの観客はワクチン接種者のみ。 ここで紛らわしいのが、アメリカでは認可されていないアストロゼネカのワクチンは対象外であること。特に同社のワクチン接種者が多い カナダからの旅行者に注意が呼び掛けられているのだった。
私が住んでいるビルでも今週から公共の場でのマスク着用、エレベーターの人数制限、ジムでのマシン消毒の義務が解除されたけれど、 これはワクチン接種者に限った措置。そのため住人の間では「ワクチン接種カードを見せる必要があるのか?」といった疑問の声が多かったけれど、 多くのビルは自己申告制でワクチン・カード提出の必要は無し。 そのワクチン・カードについては偽造版がインターネット上で売られていることから、 偽物を所持していると公文書偽造の罪に問われることが警告されているのだった。



ビクトリアズ・シークレットのセクシズム、レイシズム、エイジズム、サイジズム


さて今週ビジネス・ニュースで大きく報じられていたのがヴィクトリアズ・シークレットがそれまでの若いスーパーモデルを起用した”エンジェル”路線を改め、 トランスジェンダー、LGBTQ、マイノリティ人種、プラスサイズ・モデル、アントレプレナーらをブランド・アンバサダーに起用した新コンセプトでブランド・イメージを一新するニュース。
新しいブランド・アンバサダーに選ばれたのは女優のプリヤンカ・ショプラ、US女子サッカーチームのキャプテンでレズビアンであることをオープンにしているメーガン・ラピーノ、 ブラジル人トランスジェンダー・モデルであるヴァレンティナ・サンピオ、中国人フリースタイル・スキーヤーのアイリーン・グー、ジャーナリストのアマンダ・ドゥ・カデット等。 ヴィクトリアズ・シークレットは近年売上が大きく下がり、閉鎖店舗も増えているとは言え、今もアメリカのランジェリー市場の20%近くを持つ大手ブランド。 しかしブランドのセクシズム、レイシズム、エイジズム、サイジズム(サイズ差別)、及び悪質なセクハラ・カルチャーで知られる存在で、それがまかり通ってきたのはスーパーモデルを起用したソフトコア・ポルノのイメージで 巨額の富を築いてきたため。 実際にヴィクトリアズ・シークレットの製品は価格が安く、男性にアピールするスタイルが多いことからポルノ映画やプレイボーイのグラビア撮影に最も使われてきたランジェリーなのだった。

ヴィクトリアズ・シークレットがカルチャーに影響を与えるアイコニックなブランドに成長したのはランウェイ・ショーにスーパーモデルが出演するようになった2000年前後で、同社が”エンジェル”と名付けたモデル達の背中に 羽を付ける演出は1999年にスタートしたもの。 2001年からはファッション・ショーがTV放映されるようになり、ピーク時には世界185カ国で放映。テイラー・スウィフト、シール、エド・シーラン、カニエ・ウエスト等豪華なミュージック・ゲストが出演したのは周知の事実。


しかしそのコンセプトが徐々に時代と逆行する兆しを見せてきたのが、まずモデル達のルックスが不健康、拒食症のティーンエイジャーを増やすと問題視されるようになった一方で、 ファッション・ショーに出演してキャリア・ブレークを望む若いモデル達に対するセクハラが告発され、さらには男性に媚びるだけで女性の実用性や着心地を顧みない同社の商品ラインが 消費者の反発を招いたこと。程なく時代はアスリージャーがファッションのメインストリームとなり、スポーツ・ブラやヨガウェアがもてはやされるようになるライフスタイルの変化が起こった一方で、 女性達の体形は年々ヴィクトリアズ・シークレットのエンジェルとは全くかけ離れたものになっていき、今やアメリカ成人女性の67%がサイズ14以上のプラスサイズ・ボディ。 スーパーモデル体型は絶滅の危機に瀕した保護指定の生き物のような極めて稀な存在。 そうした状況を受けてファッション・ショーは年々視聴率を落とし続け、それと共に下降線を辿ってきたのがヴィクトリアズ・シークレットの売上。
ちなみに第1回目のファッションショーが行われたのは1995年、NYのプラザホテルのボールルームで、写真上左から2番目、3番目がその時のスナップ。 ランジェリー・モデルにハンドバッグを持たせてランウェイを歩かせるお粗末なコーディネートであったけれど、この当時から会場内はモデル目当てのウォールストリートの金融エグゼクティブで占められ、 バイヤーやプレスで会場が埋まる通常のランウェイ・ショーとは一線を画すものになっていたのだった。
そのランウェイ・ショーは2018年を最後に、2019年以降はキャンセル。その原因となったのがヴィクトリアズ・シークレットの長年のマーケティング・エグゼクティブ 、 エド・ラゼック(写真上左のアドリアナ・リマの隣)が、2018年のショーの直後にプラスサイズ・モデルやトランスジェンダー・モデルをキャストしないことについて、 「ファッション・ショーはファンタジーを見せるもの。誰もトランスジェンダーやプラスサイズ・モデルなんて見たくない」とコメントして大非難を浴びたのに加えて、 100人以上のモデル達が連名でヴィクトリアズ・シークレットに対してセクハラを抗議し、その対応改善を求める書面を提出したこと。
でもヴィクトリアズ・シークレットのランウェイショーの影響はミス・ユニヴァースのようなビューティー・ページェントには脈々と生き続けていて、 今や各国代表が民族衣装として着用するのがヴィクトリアズ・シークレットのモデル達が かつてランウェイ上で着けていたような巨大なウィングを含む大袈裟な衣装(写真上一番右、着用しているのはミス・フィリピン)。 そのビューティー・ページェントも、アメリカでは視聴率が取れず メジャーネットワークでは放映されなくなって久しいのだった。



嫌われるVS新ブランド・コンセプト


ヴィクトリアズ・シークレットがブランド・コンセプトの転換を強いられたもう1つの大きな理由は、ティーンエイジの少女達のセックストラフィッカーとして2019年7月に逮捕されたジェフリー・エプスタインの親しい友人兼クライアントとして ヴィクトリアズ・シークレット親会社CEO、レスリー・ウェクスナー(写真上一番左)の名前が挙がり、エプスタインがヴィクトリアズ・シークレットのモデル・キャスティングと称して 少女達を自宅で性的虐待をしていた事実が明らかになったこと。 レスリー・ウェクスナーは1977年にスタートしたヴィクトリアズ・シークレットを1982年に100万ドルで買い取り、 当時アメリカで大きく盛り上がっていたカタログ・ショッピング・ブームに乗って、テイストフルでファッショナブルなカタログを製作。 「カタログ・ショッピングならば 男性が臆することなく妻やガールフレンドのためのランジェリー・ショッピングが出来る」として、男性もその顧客ターゲットにしており、 事実、非常に多かったのがそのカタログを無料のプレイボーイ・マガジン感覚でサブスクライブしていた男性。
それもあって他のランジェリー・メーカーよりも男性の視点を重視した商品開発、マーケティングが行われてきたのがヴィクトリアズ・シークレット。 他のブランドが何年も前からスポーツブラを中心とした着心地や実用を掲げて 写真上右のような年齢、ジェンダー、人種、体型のバリアを排除したマーケティングを行ってきたのに対して、 その取り組みが著しく遅れていたのが同ブランドなのだった。 今週、ブランド建て直しを請け負ったCEO、マーティン・ウォーターズは「男性が望むものこそが 女性の望むものという古い考えを我々は捨てなければならない」とコメント。 しかしメディアと業界関係者からは「この台詞は5年前に言うべきもので、それを2021年に誇らしげに語るという点で いかにヴィクトリアズ・シークレットが時代に取り残された存在であるかが現れている」と失笑を買っていたのだった。
今週のヴィクトリアズ・シークレットのリブランディングの報道の殆どが そんな立ち遅れた意識のまま、ブランドアンバサダーを入れ替えるだけで インクルーシブで全ての女性にアピールするブランドに生まれ変わったかのように振舞っている様子を報じるアングルであったけれど、 そんな新コンセプトは 従来の男性に媚びるイメージをそもそも嫌っていた女性達からは引き続き軽薄に見受けられた一方で、 従来のスーパーモデル・マーケティングを好んでいた人々には 「WOKEカルチャーがここにも押し寄せてきた」とバッシングされており、 キャンペーンのスタートを待たずして新たな支持を獲得するよりも、従来の支持層を失ったように見受けられるのが現時点。
余談ではあるけれどヴィクトリアズ・シークレットのヴィクトリアが果たして誰かと言えば、驚くなかれイギリスのヴィクトリア女王。 ブランド創設者、ロイ・レイモンドが上品な下着のイメージを打ち出すために貴族等の身分の高いの女性の名前をブランド名にしようと考えて選んだものなのだった。



今需要が拡大中!? シェイプウェア・フォー・メン


さて、アンダーウェアのカテゴリーで、過去10年以上に渡って売り上げを拡大し続けているのがシェイプウェア。 シェイプウェアの先駆けと言えばSpanx/スパンクスで、動ける心地よさで体形をカバーしながら 下着のラインを見せないのがシェイプウェア。 キム・カダーシアンをビリオネアにしたのも彼女のシェイプウェア・ブランド、SKIM/スキン。
1990年代のスパンクス誕生のエピソードも 男性に仕切られていたランジェリー界を象徴するもので、ブランド創設者のサラー・ブレイクリーが幾つものランジェリー・アパレルを回ってプレゼンを試みたものの、 「そんなみっともない下着」と男性エグゼクティブに却下され続けていたとのこと。でもそのうちの1人が自分の娘にスパンクスの企画をどう思うか尋ねてみたところ、 「すごく良いアイデア!」と言われたのがブランド誕生、引いては”シェイプウェア” という新しいカテゴリー誕生のきっかけ。すなわち ランジェリー業界は女性が着用するものでありながら、男性を興醒めさせるような実用性と着心地を重視するプロダクトが生まれない体制が整っていた訳で、 「女性の下着とは男性の性欲を掻き立てて、種族繁栄に貢献するための小道具」的な古い考えが極めて根強かったと指摘されるのだった。

今やそのシェイプウェアは男性の間にも普及。ケイト・ウィンスレットの夫でヴァージン・グループCEO リチャード・ブランソンの甥でもある エドワード・アベル・スミス(写真上中央)はメンズ用スパンクスの愛用を堂々と認めているほど。 メンズのスパンクスが発売されたのは2010年であるけれど、一時は取り扱いをストップする小売店もあったほど売り上げが伸びなかったアイテム。 それが大きく伸びてきたのはここ数年で、特に最近ではパンデミック中についたお腹周りの脂肪をダイエット無しにスリムに見せたいという男性が 購入した結果、更に売上を伸ばしたとのこと。
シェイプウェアに限らず美容整形、グルーミング、ブランド・ファッションへのお金の掛け方等、特に過去数年で男性がルックス・コンシャスになる傾向に益々拍車が掛かっているけれど、 この背景の1つは2010年を前後した頃からシリコンヴァレーで若きマルチミリオネア、ビリオネアが続々と誕生し、彼らがその上の世代よりもルックスやファッションにお金を掛けるため。 また若い層のメガリッチが増えて来ると、これまでお金目当てに自分よりも遥かに年上の金融エグゼクティブやCEOを狙っていたモデル・ルックスの若い女性達が 彼らになびかなくなってきたことから、かつてはヴァイアグラに頼るだけで良かったエイジング・エグゼクティブ達がボトック注射、植毛やヘアダイ、フェイシャルやマニキュアを含むグルーミングをするようになり、 「資産がどんなにうなっていてもウォーレン・バフェットのルックスでは女性が寄ってこない」と強く認識するようになったため。 一度ルックス・コンシャスになるとエイジングを危惧する心理は男性も然りで、既に女性市場が飽和化しているのとは正反対に、 男性のビューティー&ファッションの市場、中でもアンチエイジングのセグメントは伸び続ける一方。
その一方で女性達は ルックス・コンプレックスを「セクシズム、レイシズム、エイジズム、サイジズムの撲滅」という社会正義を掲げて跳ねのけ、 「自分を変える必要はない。世の中が自分を受け入れて変わるべき」という自信のメンタリティを謳歌し始めてきたところ。 特にプラスサイズについては、かつては「太った体系に自分の作品を着て欲しくない」というデザイナー側のエゴが長年まかり通ってきたけれど、 今や売上の中核を握るのがプラスサイズ。「対応するサイズを用意しておかなければ、女性達の可処分所得をダイエット業界に持っていかれるだけ」 という事実にアパレル&ランジェリー業界が目覚めて久しい状況。 すなわちヴィクトリアズ・シークレットが貫いてきた理想体型とファンタジーで商品を売る時代はとっくに終わっており、 「どんな体型の女性にも自信を持って商品を購入して貰おう」というマーケティングに完全にシフトしているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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