June 28 〜 June 4 2021
この夏のファッション&ビューティー・トレンドにみるポスト・パンデミック心理
今週金曜に発表されたアメリカの6月の雇用統計によればアメリカ国内で6月に生み出された仕事の数は過去10ヵ月で最高の85万。
それより驚くべきはジョブ・オープニング、すなわち埋まらない求人が950万もあることで、
その人手不足を埋めるために この夏は通常なら季節労働者を雇わないビジネスが 学生アルバイトを雇う傾向にあるとのこと。
今週末に建国記念日を迎えたアメリカではパンデミック以降最高の5000万人が旅行に出掛けているけれど、
ワクチン普及率の低い南部、中西部ではインドからのデルタ変異種が猛威を振るい始めていることが伝えられる状況。
全米最低レベルの新規感染率を続けているNY市では 昨年の今頃のゴースト・タウン化、市民流出がウソのように
2021年第2四半期には不動産平均価格が99万9000ドルとなり、史上最高値を更新。
その第2四半期だけで 昨年より150%アップの3400件のセールスを記録して、誰もが予想しなかったハイスピードでカムバックを果たしている真っ最中なのだった。
この夏、トップ+スカート・セパレーツが売れる理由
そんなアメリカ都市部のポスト・パンデミックの経済復興ムードを大きく反映していると言われるのが昨今のファッション&ビューティー・トレンド。
パンデミック中に自宅にこもって、行く所が無い、会う人も居ない、社交はZOOMのみで、
ネールやフェイシャルに行きたくてもサロンが閉まっている という状態が長く続いた結果、人々が抱いたのが「もう物は要らない」、
「見栄を張る必要は無い」というメンタリティと、スウェットパンツやパジャマをユニフォームにする省エネ、節約型のライフスタイル。
でも徐々にそれに飽きてきただけでなく、「人生の輝きが無くなった」、「張り合いが見いだせない」というくすぶりが高まっていたのは紛れもない事実。
そのためリエンタリング・タイムを迎えてからというもの、「新しいワードローブや 新しいイメージで仕事や社交に戻りたい」と考える人々がファッションやビューティーに
お金を遣い始めており、その売り上げが極めて順調に伸びていることが伝えられるのだった。
女性の場合、昨年の春夏シーズンに圧倒的に売れていたのがZOOMミーティングで着用するタートルネック等のトップであったけれど、
この春夏に一番のトレンディング・アイテムになっているのはドレス感覚で着られるトップ+スカートのセパレーツ、特にクロップ・トップ&ハイウェスト・スカートの組み合わせ。
その背景にはクロップ・トップの根強いトレンドがあるけれど、メーカー側にしてみればトップ+スカートのアンサンブルはそれぞれが単品で売れる可能性がある一方で、
多くの女性が両方を購入するため、ドレスを製作するよりも 売り上げが30%前後伸びるメリットがあるとのこと。
また購入する側はトップをジーンズと、スカートを別のタンクトップに合わせるなど、コーディネートの幅が広がるので、
久々に出掛けるヴァケーション先でのワードローブを考える女性にとっては特に有難いアイテム。
加えてドレスを着用するよりもトレンディングで若々しいイメージも購入に至らせるポイントになっているのだった。
シングルボタン・サマー
この夏セレブリティがトレンディングにしているのがシングル・ボタンのトレンド。
これはカーディガンやシャツのボタンを1つだけ留める着こなしで、最初からボタンや留め金が1か所にしかついていないカーディガンが多数登場しているのがこの春夏シーズン。
このトレンドの背景にあるのは、2年前から続いてきたカーディガン&ニットブラ・アンサンブルのトレンド。その火付け役になったのは これを真っ先に着用してNYのストリートで
スナップされたケイティ・ホルムズ(写真上一番左)。以来ファッション業界では「Cardigan is sexy again!」と、それまで学校教師とコンサバな母親のユニフォームでしかなかった
カーディガンというアイテムが もてはやされており、この夏のシングル・ボタン留めは
そんなカーディガンを着用した 新しい肌の露出トレンド。
ふと考えると、過去2年間は背中をくり抜いたバックレス・トップがトレンディングだった訳で、
ファッションにとって肌の露出部分は トレンドを左右する大きなポイントと言えるのだった。
そんな中、最新のトレンディング露出パートになっているのはペルヴィック、すなわち骨盤。
骨盤の露出はローライズ・ジーンズ全盛期以来であるけれど、世の中では引き続きハイウエストがメインストリーム。
そのため今回は写真下のようにカットアウトで骨盤を露出するのがトレンド。
2週間前のこのコラムにも書いた通り、今や女性達の間では「完璧なボディである必要は無い」という意識が高まっている真っ最中で、
今週にはピンタレストがダイエットの広告や、完璧なボディイメージを謳ったポストを禁止するポリシーを打ち出したばかり。
そんな風潮もあって、今後女性の間では 「流行っているから着てみたいけれど、自分には着こなせない」というような
トレンド・アイテム購入に際しての心理的ストッパーがどんどん希薄になって行くと思われるのだった。
自己主張肯定と変身願望がビューティーに持ち込むエクストリーム・トレンド
パンデミック前と現在を比較した世の中の大きな違いの1つと言えるのは、いわゆるYOLO(You Only Live Once)の考えに
人々が寛容になってきたこと。「人生や社会が何時どうなってしまうか分からないのだから、遣りたい事を 出来る時に遣るべき」という
意識が高まっており、自己表現もそのうちの1つ。
それはファッションよりもビューティーに如実に反映されていて、そうなるのはビューティーは
メークはもちろん、ヘアダイまでテンポラリー・プロダクトが進化と充実を遂げて、どんな自分を演出しても洗い流せば元通りになるため コミットする必要が無いことが1つ。
加えてプレ・パンデミックの段階から遊び心のあるヘア&メークに対する理解が徐々に高まっていたこと、
ポスト・パンデミックでは「日頃と違う自分にトライしたい」という変身願望が高まってきたことを受けて、
ビューティーへの冒険心が高まってきているのだった。
この夏のトレンドの1つは 眉のブリーチで、これはブロンドヘアに限ったトレンド。
写真上、一番左のキム・カダーシアンは広告写真撮影でこれを行って、直ぐに以前のブルネット+濃い眉に戻っているけれど、
彼女のように実際にブリーチするのではなく、テンポラリー・ヘアダイやコンシーラー等で眉をブリーチしたように演出するのがトレンディング。
顔の印象がレトロ、もしくはエッジーな雰囲気に大きく変わるのを楽しむのがポイントなのだった。
一方パンデミック以降、アメリカで売り上げが猛烈に伸びているのがフェイク・アイラッシュ。
ここへ来て拍車が掛かっているのがそのボリュームと長さを求める傾向。
今週末マリファナ喫煙によるドーピングでオリンピック陸上100メートルの出場資格を失ったシャキャリー・リチャードソン(写真上中央)は、
エクストリーム・フェイク・アイラッシュをつけたまま全力疾走する姿で人気が急上昇したアスリート。
彼女はフェイク・アイラッシュに これだけのボリュームと長さがあっても、オリンピック・レベルのスポーツやそれに伴う汗にもビクともしないことを立証した存在なのだった。
今では若い世代に限らず、以前だったらハロウィーン・メークでしかつけられなかったような3Dのアイラッシュをごく普通につける女性が激増。
フェイク・アイラッシュは目力を増すのは言うまでも無いけれど、それにボリュームと長さが加わると 顔の印象や表情まで変わることから、
ポストパンデミックの変身願望を安価で満たす小道具として もてはやされているのだった。
とは言っても少なくとも現時点のポストパンデミックでは、プレパンデミックに比べると人々の外出機会は未だ少ないのが実情。
でもマインド・レベルでは ずっと自宅でスウェットパンツ姿でネットフリックスを観ていた生活の反動や、パンデミックを通じて自分を変えたいと思ってきた願望が顕著。
そんな消費マインドが継続した場合、ビジネスが面白いと言われるのは無難で安価な製品を作る大手よりも
二ッチな特殊需要を満たしている小規模ビジネスで、
それに突然火が付がついた場合は、未来のCrocsのようなニュー・ベーシックが生まれることが見込まれるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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