May Week 2, 2024
Collapse of JPY
バナナ共和国通貨!?、エコノミック腹キリ!?
34年ぶりの円安、海外から見た日本経済の展望


今回は何時ものアドバイスをお休みして、急激な円安に対するリアクション、海外から見た日本経済の展望について書かせて頂くことにしました。

ゴールデン・ウィークに突入する4月最後の週末に対米ドルで1990年来の安値を付けたのがJPYこと日本円。 一時1ドル=160円を超えたJPYは、日銀の介入と思われる円の買戻しにより、週明けには156円前後に落ち着いたとは言え、 ファイナンス・メディアとソーシャル・メディア上では日本円暴落のニュースが大きく取り沙汰されたのだった。
特にX(元ツイッター)上では、日本円崩壊説まで飛び出していたけれど、この週末以前にも日本円の危機的状況は、 経済関連の書き込みをするユーザーの間で度々取り上げられてきたトピック。 私が知る限り、X上で日本円下落がここまで大きく取り沙汰されたのは、前回の日銀の市場介入が行われた2022年7月以来のことで、未だXがツイッターだった時代。 この時は 7月14日木曜に1ドル=138.98円まで円安が進んだものの、日銀介入により週末には133.24円に落ち着き、USドル・インデックス(DXY)チャートも 同じく7月14日をピークに下降線を辿ったのだった。
しかしこの時点で経済専門家でなくても、誰もが疑わなかったのが 一時的な円高傾向の後に、再び長期展望のドル高が継続すること。 このことは私自身、当時のキャッチ・オブ・ザ・ウィークのコラムに書いていたけれど、 少なくとも現時点では、当時予想されたシナリオ通りの円相場が展開されているのだった。

以下は海外が 現在の円暴落をどう見ているかをXの投稿から拾ったもの。スクリーン・ショットに収まるように 簡単な訳を付けています。


上記のツイートを見ていると、日本人であれば JPY暴落を「対岸の火事」として大袈裟に捉えていると判断しがち。 しかしこれまで世界第3位、今年に入ってドイツに抜かれて4位に下落したと言われれても、経済大国、日本の法廷通貨の価値が 過去3年間に3分の1以上下落する事態は、通貨崩壊とハイパー・インフレがトルコやアルゼンチンのようなノーズダイブ(真っ逆さまの転落)のスピードではなくても、 砂の城がジワジワと崩れるような確実性を伴って進行する様子を感じさせるものなのだった。
ちなみに日銀は今回の市場介入を認めておらず、事実の確認が出来るのは公式統計が明らかになる5月下旬のこと。 日銀が介入していた場合、円の買い支えは通貨安のペースを鈍化させるだけで、市場動向を変える力が無いのは経済専門家でなくとも理解出来ること。 この時間稼ぎに意味がないと考える人々の間では、右上のツイートのように 日銀が「馬鹿」呼ばわりされており、 事実2022年の介入時に、日銀が円買い支えのために外貨準備高から費やしたのは600億ドル以上。前述のように一時的に円高に振れたものの、 2年も経たないうちに 円安は更に約16%進んだのだった。

単純に考えれば円安がここまで進んだ要因は、他国がパンデミック中に進んだインフレを抑えるために金利を引き上げたにも関わらず、 日本は「失われた20年」とも「30年」とも言われる長期に渡る経済停滞から立ち直るためにゼロ金利政策を継続させてきたため。 特に2022年3月から、複数回に渡って急ピッチの利上げを行ってきたアメリカは、今年に入って再びインフレ懸念が高まったことを受けて高金利維持が見込まれる状況。 それに対して日本は2024年3月に17年ぶりにゼロ金利に終止符を打ったとは言え、経済大国としては依然として異常値と言われる低金利。
投資家が円を売って、ドルを買うのは言わば当たり前ではあるけれど、 日本は長年のゼロ金利政策の影響で、抜け出せない蟻地獄に陥っていることが マクロ・アナリストを含むXユーザーの投稿で指摘されているのだった。


日本は1998年からゼロ金利政策を続け、その影響で陥ったデフレのせいで 経済成長が殆ど無く、給与も上がらない状態に陥っていたのは周知の通り。 逆にゼロ金利によって、利息を払わず借金が出来たことから 膨らみ続けたのが国と企業の負債額。 日本の負債総額のGDP比は 2023年段階で264%で、世界一の借金大国。
そのため金利を上げれば、負債に掛かる利息が膨らみ、企業も政府も返済負担が増えて、最悪の場合はデフォルト。このことは 財政赤字が膨らむ中で急ピッチの利上げを続けたアメリカで現在深刻な問題になりつつあるのだった。
したがって日本は、そう簡単に金利上昇に踏み切る訳には行かないけれど、低金利を続ければ他国、特に米ドルとの金利差が開いて、 日本円が弱くなり、そうすれば食料品や燃料を中心に輸入品の価格がさらに高騰してインフレが進むのは当然の成り行き。
このインフレは、長きに渡るデフレで苦しんだ日本が望んでいたインフレとは異なり、「外からのインフレ」。 通常インフレは国内景気が好調で、消費欲と国内需要が高まる結果で起こるもの。しかし昨今の日本のインフレは経済が停滞したまま、 コストの値上がりによるインフレ。したがって家計は苦しくなり、消費量が減り、物が売れない構図を招くもの。
要するに日本経済は利上げをしなければインフレで国民生活が圧迫され、利上げをすれば負債総額が膨らむという 動きが取れないトラップに陥っているのだった。

その状況をさらに悪化させているのがキャッシュ&キャリー・トレード。 上のツイートのうち右側の赤星が付いている投稿の意味が分からない人は多いかと思うけれど、ここで指摘されているのがキャッシュ&キャリー・トレード。
これはゼロ金利の日本で借金をして、諸外国の利率の高い投資対象で儲けること。 最も一般的なのは、日本でゼロ金利で得た資金を 利周り5%のアメリカ国債に投資をするという極めて安全かつ確実な投資。 日本の個人投資家にも、米国債投資はゼロ金利の銀行に預金しておくよりベターということで盛んに売り込まれている金融商品。
それも手伝って日本は米国T-Bill(Treasury Discount Bills/国庫短期証券)の世界最大の保有国。 2023年12月の段階で1兆1380億ドルの米国債を所有しているのだった。
もし日本がインフレ抑制のために金利を上げた場合、投資家はキャッシュ&キャリー・トレードの利ザヤのメリットが無くなることから、T-Bill売却が見込まれるけれど、 ここでセオリーが分からなかったとしても覚えておくべきなのは、国債と金利の関係。 国債価格が下がれば、中央銀行はその下落分を補って商品力を保つために金利を上げるので、国債価格と金利はシーソーの関係。
そのためT-Billが大量売却され、価格が下がれば 見込まれるのが、米国金利の上昇。そうなれば高金利の米国債が再び魅力ある投資対象となることから、 それを購入するためにドルが強くなり、何をやっても円安が進むシナリオに行きつくのだった。


しかしグローバル・エコノミーと称して世界各国で複雑に入り組んだ借金ネットワークのせいで、日本円のほころびが何処に波及するか分からないとあって、 諸外国とて急激な円安を高見の見物という訳には行かないのは事実。
マクロ経済のスペシャリストとして知られる Real Visionのラウル・パルは、日銀が行って来たゼロ金利政策を”エコノミック・腹キリ”と表現。 日本が 自国通貨の強みを犠牲にして、”輸出経済の確立とグローバル経済の安定”を謳うアグレッシブな金融緩和策により、 4.6兆ドル相当の世界中のキャッシュ&キャリー・エコノミーを支える馬鹿げた役割を担って来たと指摘。 すなわち日本のゼロ金利は、国内経済を縮小のスパイラルに陥れた一方で、海外投資家が膨大な資産を増やし続ける道具になってきたと語っているのだった。
私が個人的にラウル・パルの主張に反論を唱えるとすれば、ゼロ金利政策を”エコノミック・腹キリ”と表した部分。 日本が 時間を掛けて行き場のない状況に追い込まれてきた道のりを考慮すると、 閉じ込められた密室に水がどんどん流れ込み、何とか浮いては居られるものの、徐々に空気も天井までのスペースも無くなっていく様子の方が、 腹キリよりも事態を的確に捉えているように思うのだった。

もちろん円安には、日本製品を海外に安く提供することで輸出企業の利益を押し上げる利点はあるものの、 国の経済を担うほどの大企業ほど、既に外国に工場を移し、通貨の影響を受けない生産体制が構築されて久しい状況。 加えて急速に進んだ円安に警戒感を示した米国政府が、打ち出しても不思議ではないのがTariff。 すなわち輸入品に対して 国内ブランドの商品に競争力をつけるための保護関税措置。
確実に円安の恩恵が受けられるのは外国人を迎える観光産業で、2023年3月だけで 日本を訪れた外国人旅行者数は310万人。 そんな外国人旅行者が日本で落として行く外貨は国内ビジネスの大きな救けになっているけれど、 数年前までは自国通貨の強みで海外旅行を楽しむ側だった日本の立場が あっという間に逆転したことには驚くばかり。
さらにこれは日本のメリットとは言えないかもしれないけれど、現在の不動産市場は日本国内から見ればバブルでも、 諸外国に比べればまだまだ割安。そこに円安が重なっているので、外国人バイヤー、特に中国人が高額物件を買い漁り、 経済不振の自国よりも物価が安く、安全な日本で生活を始めているのは米国メディアも報じている現象。 したがって、円安が 今後の国内不動産市場を盛り立てると思われるけれど、見方を変えればこの状況は日本円が 米国ドルに対してだけでなく、 不動産に対しても価値を目減りさせている状況と言えるのだった。


ちなみに2022年7月5週目のキャッチ・オブ・ザ・ウィークのコラム当時の円安について書いた際に引用したのが、 上の右側の月足チャート。英語で言う「インバーテッド・ヘッド&ショルダー」、日本語で言う「逆三尊」が形成されていて、 このチャートから予測出来るドルの高値は1ドル=174~176円といったところ。
しかし当時から1ドル=200円時代を予測する声は多く、前述のラウル・パルも「時間を掛けて1ドル=200円時代が来るはず」と予測した1人。 2022年の円安時点で、1ドル=174~176円到達が2023年末~2024年、200円到達は2025~2026年という予測が聞かれていたけれど、 現時点では予測に近いペースで動きつつあるのが為替市場。 当時も書いた通り、通貨の価値は国の経済状態や国力の指針でもあるので、通貨予測は国の未来予測とも言えるもの。
事実、1979年~1985年に掛けてのドル/円の月足チャートでは、今とは逆の「ヘッド&ショルダー」、日本語で言う「三尊」が形成され、その後、円高/ドル安と共に日本経済がバブル期を迎えたのは歴史が示す通り。 「大きく通貨が動くと予想される時は、それに合わせて時代も社会も大きく変わってきた歴史があるだけに、 たとえ”まさか”と思ったとしても、2~3年以内に自国通貨の価値が現在より約35%目減りする可能性を視野に入れて財産管理をする必要があると思うのだった」というのが 当時私が書いたこのセクションの締めくくりなのだった。
少し前から一部で聞かれるようになったのが 「日本は今の解決策が無い状況を続けた場合、国の経済を救うために自国通貨を見捨てなければならないだろう」という声。 私は最初にこれを聞いた時は意味が分からなかったけれど、既に通貨が崩壊した国々が自国通貨以外に法定通貨を設けて、それで取引や財産構築をする様子を見て、 通貨が崩壊しても経済が救えることはイメージ出来るようになったのだった。

果たして日本円が本当に崩壊するかは別として、1ドル=200円時代がかなり現実味を帯びて来たのは紛れもない事実。 平均的な国の法定通貨の寿命は50年~90年であることを考えると、今後どの国で通貨崩壊が起こっても不思議ではない訳で、 先週末にはイーロン・マスクが米ドル破綻を警告するコメントをしたばかり。
2020年12月から始まった風の時代は、そんな長く築き上げられたものが崩れて、紙屑のように宙に舞って飛ばされていく暗示もある時代。 その一方で、散り散りに飛ばされた胞子が、新天地で芽吹くような分散化に大きな飛躍が望める時。
すなわち国や大企業などを宛てにせず、時代を読んで直ぐに動ける個人や小さな組織、コミュニティが躍進できる時で、 そんな風の時代には大逆転の暗示もあるのだった。 したがって意欲的な個人であれば決して悲観するべきではない時代。 世の中の流れを読む判断力と素早い行動力、強い意思によって人生が切り開ける時代と言えるのだった。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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