ワールドカップ開催中のNYのロックフェラーセンターで、ホリデイ・シーズンに世界最大のクリスマス・ツリーが飾られる場所に陣取っていたのが、
LEGOで作られた巨大なワールドカップ・トロフィー。LEGOのNYフラッグシップはロックフェラー・センター内の五番街沿いに位置し、
常に旅行者を中心とした大人と子供で大賑わいを見せており、2015年にはバービーの製造元、マテル社を抜いて世界最大の玩具メーカーになったのがLEGO。
しかしその12年前の2003年には約8億ドルの損失を出し、2001年からの2年間で売り上げが30%下落。その業績不振の原因となったのは1990年後半から進めた商品の多角化。
1932年にオーレ・キアク・クリスチャンセンによって設立されたレゴ社は、文字通りブロックで何かを作り上げるという「systematic creativity/体系的な創造性」を掲げて来た企業。
しかし1990年代半ばから混迷期に陥ったLEGOは、アクションフィギュア、アパレル、テーマパーク、ビデオゲーム、時計、テレビ番組に至る多岐にビジネスを展開し、製品ポートフォリオは200品から1万3000品に拡大。玩具市場のあらゆるトレンドを追い掛けた結果、すっかり自社のアイデンティティを失い赤字に大転落。
ウォールストリートのアナリストに「18ヶ月以内に破綻か身売り」と死刑宣告をされたのが2003年当時のLEGOなのだった。
業績不振を極めた時点のLEGOは、本来の「遊びと創造の世界を極める」コンセプトではなく、「あらゆる人が使う、あらゆるものを提供しよう」という方針に変化し、
前述のように商品アイテムが劇的に増加。その結果、コストは膨れ上がり、業務の複雑さが増し、製造効率は崩壊し、新たに発売した玩具シリーズはことごとく大失敗。
そんな当時の社内スローガンは「イノベーションのためのイノベーション」。デザイナーたちは大きな夢を描くよう奨励されたものの、商業的側面を考慮することは求められなかったとのこと。
その結果、新しいアイデアだけが数多く生まれ、それらを現実的なビジネス視点で精査するフィルターが無いまま進んでしまったのが商品化。
そうするうちに製品群を統合する一貫した戦略も、統一されたブランド・アイデンティティもなく、市場が求めているものへの理解も欠落した混沌時代に突入したのが当時のLEGO。
この頃業界では、「かつて子供の創造性育てる遊びを提供したLEGOが、今では大人が経営破綻に向けた創造性を発揮する企業になった」と揶揄されていたのだった。
この状況を大きく打開したのがLEGO取締役会による2004年の大胆かつ予想外の決断。取締役会は当時35歳、元マッキンゼー・コンサルタントであったレゴ社員、
ヨルゲン・ヴィグ・クヌッドストープをCEOに大抜擢したのだった。彼は玩具デザインの経験は無く、戦略家であり現実主義者。その彼が真っ先に行ったのが
詳細な財務および業務の徹底的な調査。
そこで明らかになった事実は経営陣にとって衝撃的なもので、まずLEGOは売り上げを遥かに上回る出費を計上しており、サプライチェーンは非効率かつ断片的。
製品ラインナップは肥大化して収拾がつかず、何よりショッキングだったのは、どの製品がどれだけ利益を上げているかを誰も正確に把握していなという惨状。
クヌッドストープの再建戦略は「中核ビジネスへの回帰」という大原則を掲げ、改めて打ち出したのがLEGOのアイデンティティであり、最大の強みであるブロックにより再び遊びと創造の世界を極める方針。
彼は肥大化した製品ラインナップの整理に着手し、部品の種類を半減させ、次々と打ち切ったのがビデオゲーム部門やテーマパーク事業を含む不採算事業。
さらに製造体制を再編して、非中核的な生産を外部委託する一方、デザイン・チームにはこれまでのように自由に好きな物を作らせるのではなく、
データに基づいた枠組みの中で効率性と一貫性を重視する設計が求められるようになったのは大きな変化。
「イノベーションは戦略に奉仕するものであり、経営戦略に取って代わるべきではない」というビジネスの本質に立ち返ったのがクヌッドストープ下での新体制なのだった。
財務状況が安定に向かい始めた2005年、クヌッドストープとそのチームが関りを深め始めたのが、大人のLEGOファンが集まるAFOLコミュニティ。
年々メンバーを増やし続けるこのコミュニティは、単なるノスタルジーに浸るコレクター集団ではなく、LEGOを使って新しい世界をクリエイトする発明家やエンジニアであり、ブランドの狂信的ともいえる支持者。
LEGOは、AFOLコミュニティのメンバーが新しいLEGOセットのアイデアを投稿し、それに投票するオープンなプラットフォーム「LEGO Ideas」を設立。
選ばれたコンセプトは公式のLEGOセットとして販売され、提案者には報酬も支払われるというクラウド・ソーシングは極めて画期的な試みで、
「LEGO ゴーストバスターズ」、「LEGOビッグバン・セオリー」、「NASA宇宙飛行士たち」といったセットは、ファンのアイデアから生まれたもの。
これによってLEGOは失われていた市場ニーズの把握機能をファン・コミュニティとの共同創造という形で取り戻したのだった。
さらにLEGOにとって大きな飛躍をもたらす戦略的パートナーシップになったのが、1999年にライセンス契約を結んだ「スター・ウォーズ」。
中でもミレニアル・ファルコンのセットは、2000年に99ドルで発売された初版はさほど話題を集めなかったものの、
新体制になった2004年以降のシリーズは徐々にアップグレードされて、大人のスターウォーズ・ファン、LEGOファンの双方の人気を掴み、
2017年に発売された800ドルのセットはあっという間に完売。今では完成版も組み立て前のセットもプレミアム価格で取引されるコレクターズ・アイテム。
その他にも「ハリー・ポッター」、マーベル、DC、ディズニーといった人気シリーズとの提携が実現。ポップカルチャーと融合しただけでなく、
2014年には世界中で興行売り上げ4億7000万ドルを記録した大ヒット映画『LEGO ムービー』が公開。
LEGOそのものが玩具からポップカルチャーに昇格。老若男女問わず人々を魅了するカルチャー・グッズとして業界をリードする存在になっただけでなく、
確かな品質と、製品開発で、「世界で最も信頼されるブランド」の上位に常にランクインする信頼を勝ち取ったのだった。
年間売り上げも2025年には13億ドルを超え、「LEGO エデュケーション」や「LEGO財団」を通じたサステナビリティ、デジタル・クリエイティビティ、教育への注力といった貢献も
社会から高い評価を獲得した大きな要因。
そんなLEGOのカムバック・ストーリーのプロセスを短く纏めると以下のようなもの。
1. 原点への回帰:LEGOの原点であり、最強の武器であるブロックをコアにしたビジネスに立ち返り、不採算事業をカット。
2. データと創造性の両立:数字とアイデアと双方のバランスにより、創造性と効率性の双方を追求。
3. 顧客を共創者にする:ファンの声を商品開発に取り込み、ニーズを確実に把握。
4. 時代や変化に対応しても本質を重視:ゲームや映画に進出しても、レゴの本質「創造性を育む遊び」を柱にする。
5. 玩具を超えたカルチャーとして社会に貢献する:自社に有益な形で利益を社会に還元し、企業イメージを高める
LEGOの復活劇は、これらのステップをブロックを1つ1つ積み上げるように進められた「回帰によるイノベーション」。
すなわち原点に戻ることが、その後の前身と飛躍に繋がったサクセス・ストーリーとしてビジネス界で語られているもの。
そして優れたビジネス戦略によるカムバックは、LEGOのタイムレスで優れた商品力に支えられ、それを進化させることで実現しており、
商品とビジネス戦略の歯車が噛み合うことの大切さも感じさせているのだった。


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