Sep. Week 2, 2022
“Absolute Egg Bagle”
アブソルート・エッグ・ベーグル


7月に友人宅でブランチをすることになった時のこと、この日の参加者のお目当ては NYタイムズ紙や、NYマガジンが「NYのベスト・ベーグル」と大絶賛し、 オンラインでのダース・オーダーでしか手に入らないベーグル。
このオンライン販売は毎週決まった日時からスタートするオーダー受付で1週間の生産分をあっという間に売り切ってしまうことから、 評判を知ってサイトにアクセスすると 常に完売状態。そのためニューヨーカーが入手に躍起になっており、それを利用して転売する人まで現れる人気ぶり。 そのベーグル・ショップがあるのは NYではなくコネチカットだそうで、友人はコネチカットに住む両親が店頭で購入したベーグルをFedExオーバーナイトで送付するという手間を掛けて入手してくれたとのこと。
私は過去に何度も書いてきたとおり、パンが無ければ人生が真っ暗になるほどのパン好き。 加えて多くのニューヨーカー同様にベーグルにはこだわりがあるけれど、これまで世間一般でトレンディングになったブラックシード、セイデルズといったベーグルにはことごとく拒絶反応。 そのため興味はあっても 内心期待していなかったのがこのコネチカット・ベーグル。そもそも一度茹でてから焼き上げるベーグルには水が大切で、 NYのベーグルが美味しいのは 全米屈指の水質を誇るNYの水のおかげ。なのでコネチカットの水で茹でたというだけで 私にとっては既に邪道であったけれど、 味わってみると案の定、不味くはないものの、大騒ぎして入手するほどのベーグルとは思えない代物なのだった。




友人宅のブランチでは、どの店のベーグルがベストだと思うかについて話題になったけれど、私が嫌いなスタイルを好む人の共通点は ベーグルを含むパン類全般へのこだわりが希薄な人で、焼き立てを売っている店でスモーク・サーモン&クリームチーズ等の サンドウィッチをオーダーする際にも ベーグルをトーストするようにリクエストする人。
ちなみに焼きたてをあえてトーストしてもらうのは、ニューヨーカーには ”よそ者” として嫌われる食べ方。 SATCのミランダこと、女優のシンシア・ニクソンが州知事選に立候補した際にも、彼女がトーストしたシナモン・レーズン・ベーグルに クリームチーズ、スモーク・サーモン、レッド・オニオン、トマトを挟むようにオーダーした様子が大報道され、ベーグルをトーストした上に、シナモン・レーズン・ベーグルにトマトを挟んだことが大顰蹙を買って、 その時点で彼女の落選が確実視されたほど。
NYではそれ以外にも政治家がナイフ&フォークでピザを食べたことから落選した歴史がある一方で、ピザを耳から食べればその人格を疑われるケースもあり、 ベーグルとピザに関しては その好みや食べ方で性格や人柄をジャッジされる傾向が顕著なのだった。

さて前置きが長くなったけれど、私が必ずNYのベスト・ベーグルに挙げるのが ここにご紹介するアブソルート・ベーグルのエッグ・ベーグル。 エッグ・ベーグルはベーグル専門店でも手掛けているところが少なく、オレンジがかったドウの色があまり食欲をそそらないので トライしない状態が続いたけれど、ベーグル好きの友人に「アブソルート・ベーグルのエッグ・ベーグルを食べずして、ニューヨーカーの人生は完結しない」 とまで言われたのがきっかけで、セントラル・パークでのランニングの際に足を延ばして買いに行ったのが数年前のこと。 そして味わった途端に1つしか買って来なかったことを心から後悔。 数日後には再びわざわざ足を延ばして買いに行くことになったのだった。




アブソルート・ベーグルはNYのベスト・ベーグル特集に必ず名前が登場するほどに評価が高く、週末でなくても行列が出来ていることが珍しくない人気店。 実は私にはもう1つNYで好きなベーグルがあって、それは日本の雑誌でもよく取り上げられてきた Essa Bagle / エッサ・ベーグルの9グレイン・ベーグル。 アブソルート・ベーグルのスタイルはドウがしっかりして重量感と粘りがあり、表面がカリカリに焼き上げてあるという点でエッサ・ベーグルに近いと思ったけれど、 同店のオーナーは以前エッサ・ベーグルで働いていた職人。エッサ・ベーグルのメニューには無いエッグ・ベーグルは、 ドウが他のベーグルよりも甘く、薄っすらとキャラメルのような風味があって 「今まで味わったベーグルの中で文句無しにベスト」と思えるほど私好み。
アメリカ人はこれにブルーベリー・クリームチーズのような甘いクリーム・チーズを挟むのを好むけれど、私自身はバターやプレーンなクリーム・チーズと一緒に味わうのを好むのだった。 私は過去にいろいろな人にアブソルートのエッグ・ベーグルを薦めて来たけれど、感謝されることはあっても 「好みじゃなかった」などと言われたことは一度も無くて、友人宅にお土産に持って行けば「このベーグルは一体何処で手に入るの?」と尋ねられるのが常。 常連客の中には10個、20個と購入する人も多く、列に並びながら「私の分が無くなる!」と冷や冷やすることも少なくないのだった。




徐々にパンデミック前のように旅行者が戻りつつあるNYであるけれど、インフレやドル高の影響も手伝って、 旅行者のカムバックの恩恵を最も受けていると言われるのは通常のレストランよりも、旅行ガイドにフィーチャーされるベーグル・ショップやフード・トラック、ピザ店など 庶民的フードのお店。 そんな旅行者の間で昨今嘆かれているのが、かつてブルックリンにあった”ザ・ベーグル・ストア”の閉店。この店は写真上左のレインボウ・ベーグルが インスタグラムで大センセーションを巻き起こして以来、世界中から旅行者が押し寄せていた名物店。今年5月に永久的に閉店した理由は オーナーの脱税で、ベーグルしか売っていないにも関わらず、未払いの税金が何と90万ドルであったというサクセスフルなビジネスなのだった。
オリジナルが居なくなれば、コピー業者が恩恵を受けるのが世の中の仕組みで、 今、ザ・ベーグル・ショップを真似た奇抜なカラー・ベーグルやアイデア・ベーグルで人気を博しているのがお隣ニュージャージー州にある ベーグル・ヌック。フード通販サイトを通じて全米に販売する同店は、ザ・ベーグル・ストアのシグニチャーのレインボウ・ベーグルに始まって、常連が好んだフレンチ・トースト・ベーグルをコピーする一方で、 オレオ・クッキー・ベーグル(写真上中央)、チリ・チートス・ベーグル(写真上左)などをメニューにフィーチャーしているけれど、ニューヨーカーは冷たい視線を向けているのだった。

アブソルート・ベーグルに話を戻すと、私は同店の他のベーグルは 美味しいことは認めるものの夢中になるほどではなくて、 エッサ・ベーグルについても数あるメニューの中から私が大好物と呼ぶのは9グレイン・ベーグルのみ。 エッグ・ベーグル、9グレイン・ベーグルは共に作る量が少ないのか、人気なのかは定かではないけれど、 真っ先に売り切れるアイテムで、せっかく買いに出かけても売り切れの場合は無理に他のベーグルを買わずに手ぶらで帰るのが私のポリシー。 アブソルート・ベーグル、エッサ・ベーグルのようなドウがしっかりしたベーグルは1つが約500カロリー。 これにクリーム・チーズをつけようものなら800カロリーになる訳で、お目当て以外の妥協ベーグルのためにこれほどまでのカロリーを摂取するよりも、 無駄足になってカロリーを消費する方を私は選択するのだった。

Absolute Bagle
2788 Broadway, nr. 108th St.
Tel:212-932-2052


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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