May Week 5, 2022
“Jean-Michel Basquiat: King Pleasure”
近年のベスト・エキジビジョン、
ジャン・ミシェル・バスキア:キング・プレジャー



4月9日からマンハッタンのハドソン・リバーにほど近いスターレット・リー・ビルディングで行われているのがここにご紹介する ”ジャン・ミシェル・バスキア:キング・プレジャー”。 バスキアは1960年12月22日生まれで、私がNYにやってくる1年前の1988年8月12日に27年の短い生涯を終えたブルックリン生まれのアーティスト。
彼の影響は死後30年以上が経過した今もコンテンポラリー・アートに止まらず、ポップカルチャー全般に脈々と感じられるけれど、 実は私は最初はバスキアの落書きのようなアートの魅力がさほど理解出来なかった1人。 やがて画家である映画監督、ジュリアン・シュナーベルがバスキアの生涯を描いた1996年公開の作品「バスキア」を観て、 その作品を見る目が変わったけれど、本当に彼のアートとカルチャーにおける存在意義を感じたのは2019年に出掛けたバスキアのエキジビジョン。 この時に初めて「バスキアの作品がこんなにパワフルだったなんて」と驚いたけれど、私が実物を見て180度考えを改めたアートは、 ルーブル美術館の「モナリザ」以来なのだった。




”ジャン・ミシェル・バスキア:キング・プレジャー” は、バスキアのファミリーが関わった初のエキジビジョンで、アーティストとしてのバスキアだけでなく、彼の人となりや クリエーションの背景にある様々な要素を理解して欲しいというコンセプトが強く感じられるプレゼンテーション。 エキジビジョン自体は7つのセクションから構成されていて、プロローグと言える「An Introduction (1960)」、 ブルックリンの子供時代にフォーカスした「Kings County」に始まり、 バスキアが成功を収めて行くプロセスである「World Famous」、「Ideal」、彼のアトリエをそのまま再現した「57 Great Jones Street Studio」、 バスキア・エステートが所有する100点の絵画とスケッチが展示された「Art Gallery」、そして「Place Jean-Michel Basquiat」のセクションがエピローグ。
このうちバスキア・ファンにとって最大のハイライトと言えるのは、バスキアの親しい友人であり、メンターでもあったアンディ・ウォーホールがバスキアのために借りたと言われるアトリエ 「57 Great Jones Street Studio」で、一度に複数の作品に取り組んでいた彼が、絵の具が付いた素足で作品の間を歩き回るために床についたカラフルな汚れから、 彼のVHSビデオのライブラリー、当時読んでいた本までがそのままにリクリエイトされた空間。 バスキアは頻繁にスタジオを訪ねたウォーホールとのコラボレーションでも知られるけれど、バスキアが出会った当時 既に絵画の製作を止めていたウォーホールに 再びキャンバスに向かうように促したのが彼。
また「Art Gallery」に展示される作品の多くは未公開のもので、このエキジビジョンにはスケッチや手紙等、合計200点の未公開アイテムが展示されているのだった。







バスキアがアート界で知名度を上げ、サクセスを収めた1980年代は、ソーホーが未だアートギャラリー街で、 ウォーホール、キース・へリングといったコンテンポラリー・アーティスト達が社交界のスーパースターだった時代。 バスキアはそんなアーティスト仲間やマドンナ、ブロンディのデボラ・ハリー、ラッパーのファット・ファイブ・フレディ、デヴィッド・バーンズといったミュージシャンと、ダンステリア、マド・クラブといった 当時のレジェンダリーなクラブに夜な夜な繰り出しており、伝説のクラブ、エリアではDJも務めていたほどの音楽好き。 バスキアは当時のNYのポスト・パンク・ムーブメントにヒップホップが押し寄せて来た音楽界に大きく関わっており、ブロンディのミュージック・ビデオにも出演。 その一方で、1985年には今や NYUのドミトリーになってしまったメガクラブ、パラディウムのVIPルームのために2枚の大型ペインティングを手掛けており、 そのVIPルームもエキジビジョンでは忠実に再現されているのだった(写真下左側)。
またファッションにもこだわったバスキアは、日本人デザイナーのアバンギャルドを好み、雑誌のグラビアにイッセイ・ミヤケを着用して登場。1987年にはコム・デ・ギャルソンのランウェイ・ショーに出演。 時代の先端というよりも、時代を超越したマルチフィールドでの活躍を見せたバスキアであるものの、 やはり当時の人種差別は激しかったよう。エキジビジョンには彼が交通手段として愛用した自転車が展示されているけれど、これは当時彼のために停まってくれるくれるタクシーが居なかったため。
前述の映画「バスキア」の中でも、80年代にソーホーにオープンしたばかりのディーン&デルーカで、キャビアを購入しようとして差別的な扱いを受ける彼の姿が描かれていたけれど、 ウォーホールやアートディーラーがその才能を見込んでサポートしてくれなかったら、バスキアがタイムリーな成功を収めることは極めて難しかったと思われるのだった。







ティーン時代に父親の反対の反対を押し切って アーティストになるために家を出たバスキアは、作品製作のバジェットや道具の無さをアイデアとインスピレーションで補い、 独自の世界をクリエイトしてきたのは周知のとおり。 壊れた塀の木片をキャンバスにしたり、捨てられていた冷蔵庫の扉がオブジェになる様子は、彼の創造性であると同時に既存の価値観の否定とも言われるもの。 いろいろな意味で 今の若い世代が共鳴する生き方、自分の表現法を極めてきたのがバスキア。 彼が本能的に感じ取っている何かを表現する手段として、書き殴ったようなメモのような文字、描きかけの落書きのようなドローイング、適当に塗りつぶしただけに見えるカラーが用いられ、 アートと呼ぶにはあまりに無秩序で、時に混沌としたイメージに仕上がっていると捉える人も多いのが彼の作品。 それがバスキアというアーティストが抱いたエモーションや、社会の既存概念を否定する彼独自の世界であることは、 彼が活躍した1980年に風景画や肖像画をアートだと思っていた人には理解できなかった部分。
当時「歌唱ではなく、しゃべっているだけで音楽じゃない」と言われたラップ・ミュージックを 彼が好んだことと、彼が自らのアートに文字やロゴを持ち込んだことを結びつける見方は多いけれど、 実際に文字、ロゴ、様々なシンボル等はウォーホールと彼がコンテンポラリー・アートの中に持ち込んだもの。 その意味でアートというコンセプトのホライゾンを大きく広げたことはバスキアの功績の1つと言えるのだった。

バスキアはメンターであり、コラボレーターであったアンディ・ウォーホールが死去した1年半後にドラッグのオーバードースで死去しているけれど、 あまりに短い人生で数えきれない作品と強烈なインパクトを残したアーティストであることが実感できるのが ”ジャン・ミシェル・バスキア:キング・プレジャー”。
このエキジビジョンは事前にオンラインでチケット予約が必要で、時間帯ごとに入場人数の制限がされていて、 かなりのスピードでSold-outになっていたのが4月中のチケット。期間は当初5月末のメモリアルデイの週末までと言われたけれど、 延長が見込まれていて、料金は平日が大人35ドル、13歳以下が30ドル、金曜~日曜は大人45ドル、13歳以下は40ドル。 列に並びたくない人は65ドルを支払うと優先入場が出来るようになっているのだった。

JEAN-MICHEL BASQUIAT:“King Pleasure” : 601 W 26th Street, New York
Website: https://kingpleasure.basquiat.com/


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
Shopping
home
jewelry beauty ヘルス Fショップ 購入代行

FaviruteOfTheWeek FaviruteOfTheWeek FaviruteOfTheWeek

★ 書籍出版のお知らせ ★



当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2022.

PAGE TOP