May 24 ~ May 30 2026

”Teen Takeover” is New Wilding?
全米で暴動化するティーン・テイクオーバーは、意図的に仕組まれたイベントか?


 2週間ほど前からイラン戦争がニュースの二番ネタ、三番ネタに格下げされてきたアメリカで、今週特にSNSで大きく取り沙汰されたのがトランプ氏の体調に関する懸念。 火曜日に三度目の”年次”チェックアップのために病院を訪れたトランプ氏は、その前日のメモリアルデイに行われた米軍戦没者追悼式典で、軍の最高指揮官でありながら居眠りする始末。
 6月14日に80回目の誕生日を迎えるトランプ氏であるけれど、この日にホワイトハウスで開催されるのが UFC(Ultimate Fighting Championship)マッチ。 現在ホワイトハウス敷地内には4000人収容の特設ケージ&アリーナが建設中で、チケットはトランプ氏が持つ1000枚、UFCと関係者が持つ400枚を除いては、 米軍関係者に無料で配布されるとのこと。しかし実際にチケットは、ワールドカップの決勝並みの高額で取引されている状況。
 入場できないUFCファンのために、ワシントンDCにはUFCフリーダム250ファン・フェストという 7万5000~10万人が無料観戦できるヴェニューを設置する予定で、 ホワイトハウスはこれを「歴史上最も偉大なスポーツ・イベント」と宣言。トランプ氏が度々観戦に訪れるUFCのファンベースは 圧倒的に所得が低いキリスト教保守派、共和党支持者で、 「今も昔も、格闘技は庶民のガス抜きの役割を担っている」との声は多いのだった。



この夏最大の懸念、ティーン・テイクオーバー


 今のご時世にガス抜きが必要なのはティーンエイジャーも同様のようで、夏休みを控えて全米で社会問題になっているムーブメントが”ティーン・テイクオーバー”。
 これはSNSを通じて呼びかけられるティーンの集会で、当初は若い世代が集まって、音楽、アート、ディスカッション等を楽しむ カルチャー・ムーブメントとして企画されたイベント。やがてそれが目的が希薄なモブ・イベントとなり、公共エリアや私有地を不法占拠しながらの 破壊行為、暴力事件に発展するようになったのが現在。器物損壊や発砲事件が起こり、ティーンがグループで通行人を追いかけて 金品を奪う事件まで発生。
 これを受けてメモリアル・デイにデトロイトやオークランド等で予定されていたティーン・テイクオーバーは警察が解散させたけれど、 同じ日に53人の逮捕者を出したのがシカゴのイベント。 ここでは3人の参加者が銃で撃たれ、5人の警官に車で突っ込んだティーンが殺人未遂で起訴される事態が発生。 5月初旬にフロリダ州タンパで行われたイベントでは、殴り合いの喧嘩で23人が逮捕。ワシントンDCのイベントでは、 ファストフード店での器物損壊被害が発生。ミルウォーキーでは週末3日間に12のティーン・テイクオーバーが企画され、 違法ドラッグレースを含むやりたい放題で12人が逮捕されているのだった。

 ティーンエイジャーは殺人でも犯さない限りは成人として裁かれることは無く、 少年法の裁きは緩いとあって、シカゴの市議会に提出されたのがティーン・テイクオーバーで問題を起こした子供の親に対して責任を問う法案。 親は ”未成年者の非行を助長する行為”という軽犯罪に問われ、最高2500ドルの罰金、最長364日の拘留刑の対象になるとのこと。
 アメリカで子供の罪や違反行為に親の責任が問われるケースとしては、子供が親の銃で犯罪を犯し、親の銃管理が不適切と見される場合、 もしくは親が一部の例外を除いて未成年者の飲酒を容認するケース等があり、 かつては親が旅行中の自宅でティーンが飲酒パーティーをホストし、帰宅した親が逮捕されるという事態が決して珍しくなかったのだった。
しかし親よりもSNSの影響力が遥かに大きい現在、「ティーン・テイクオーバーで親を有責にするのは行き過ぎ」との声は多く、現時点では多くの地方自治体が ティーンに対する夜の外出禁止令の徹底に止まっているのだった。



アルゴリズムがプロパガンダ


 ティーン・テイクオーバーの報道をきっかけに SNS上で指摘され始めているのが、このムーブメントが1989年に全米を震撼させたワイルディングにいろいろな意味で似ていること。 ワイルディングとはティーンが夜な夜なグループで徘徊して悪さをするという意味の造語で、これが全米で大きく報じられたのは この年にセントラル・パークで起こったレイプ事件がきっかけ。 夜間にジョギングをしていたウォールストリートの女性バンカーがティーンのグループに殴られ、レイプされた事件の容疑者として浮上したのが同じ時間帯にパーク内を徘徊していた複数の黒人少年。 そして事件解決を焦った警察とメディアがでっち上げたのが ”セントラル・パーク・ファイブ”と呼ばれた容疑者5人グループと、 ”ワイルディング”というアクティビティ。 この時に無罪の5人を犯人と決めつけ、NYタイムズ紙に「死刑を復活させて5人を死刑にするべき」という全面意見広告を出して当時の世論を煽ったのが他ならぬトランプ氏。
 しかし数年後に判明した真犯人は別件逮捕された黒人男性で、単独による犯行。 今となっては”セントラル・パーク・ファイブ”も”ワイルディング”も世論を味方にするためのキャッチーな捏造であったけれど、アメリカ全体が見事に踊らされたのは教訓として学ばれることが無かった歴史。 そのため現在の”ティーン・テイクオーバー”もSNS上のオーガニック・イベントではなく、火の無いところに煙を立てて「不穏分子の青田刈り」を含む何等かの目的で意図的に操作されたイベントと疑う声が少なくないのだった。  

 今週にはトランプ政権が データセンター建設やAI解雇に抗議する人々を Anti Tech Violent Extremist / 反テクノロジー暴力過激派と見なして 捜査対象にして、最終的には訴追する意向を発表。 誰もが初めて耳にする ”反テクノロジー過激派” という 反社会勢力が存在し、それがテクノロジーの進化を妨げる活動をあたかも組織的に行っているかのように演出されていたけれど、 実際にはデータセンター建設に抗議する人々は、テクノロジーよりも水質や大気汚染を含む、生活環境破壊、自然環境汚染に対して平和的に抗議している人々。
 ティーン・テイクオーバーと反テクノロジー過激派の取り締まり強化で増えるものと言えば逮捕者であるけれど、諸外国のイメージとは裏腹に アメリカの犯罪発生率は1990年代以降 減少を続け、現在は歴史的な低さ。特に2014年から2024年までの10年間で凶悪犯罪を含む犯罪発生率は33%も減少し、 刑務所服役者数もパンデミックのロックダウン直後の2022年、2023年に一時的に上昇したものの 同様に長期的な減少傾向。 それが第二期トランプ政権が発足して以来、突如32%アップしており、理由は犯罪が増えたのではなく、移民関連の逮捕者が急増したため。  実際に2024年の大統領選挙でトランプ氏が勝利した途端に、プライベート刑務所の株価は大きく跳ね上がっているのだった。

 しかし現在は移民数が歴史上初めてマイナスに転じ、昨年”アリゲーター・アルカトラズ”というニックネームで、周囲にワニや蛇が生息するフロリダ州に建設された 不法移民収容所は1年も経たずに閉鎖。 期待されたほどの不法移民収容が無かったけれど、1980代から刑務所の民営化が始まったアメリカでは、刑務所運営会社が上場されていることからも分かるとおり、 刑務所業界が「一定の服役者数=利益」が保てるように政界にロビー活動を行って来た歴史があるのだった。  その刑務所業界にとって 近年の大打撃と言えたのは、2021年にバイデン大統領が発令した「連邦刑務所局は民間企業との契約を段階的に廃止する」という大統領令。そしてこれを 第二期政権発足と同時に覆したのがトランプ氏。
 トランプ第二期政権発足を支えた存在というと、大手IT企業や暗号通貨業界、石油業界というイメージが強いけれど、 刑務所業界もその一端を担っており、今後犯罪率が低下しても逮捕者、服役者が増える法案が増えても全く不思議ではないのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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