Dec 16 ~ Dec 27 2024

The Year 2024 Was...
2024年のアメリカを振り返って


今週は今年最後のコラムだけれど、言うまでも無く2024年は大統領選挙一色と言えた年。
しかしその戦況が変化し続けたのと同様、トランプ氏勝利後の状況も変化し続けており、選挙戦序盤は老いを感じさせるバイデン大統領に対してトランプ氏断然有利の展開。5月にはNYでトランプ氏に不正会計の34の容疑で有罪判決が下ったものの、7月に起こった暗殺未遂事件の追い風でトランプ勝利確定かと思いきや、バイデン氏が選挙まで120日の段階で、現職大統領として前代未聞の選挙戦離脱を発表。替わりにハリス氏が民主党副大統領候補に擁立され、途中までは順風満帆。10億ドルの記録破りの寄付を短時間に集めるも、9月後半から突如ガス欠状態。総投票数こそは歴史的僅少差であるものの、選挙人制度では完敗を喫したのは周知の事実。加えて共和党が上下院でマジョリティを占め、次期トランプ政権は向かうところ敵無しの印象を与えたのが選挙直後。
その後、顕著になって来たのがイーロン・マスクの次期政権への影響力で、先週のこのコーナーでお伝えした通り、既に「マスク次期大統領」と呼ばれるほどパワーを増した一方で、トランプ氏の言いなりになるかと見込まれた議会は、まず上院でマスクとトランプ氏が推したフロリダ州選出のリック・スコットが議長選挙で敗北。 トランプ氏が司法長官に指名した超トランプ派下院議員、マット・ゲイツは買春、薬物使用が共和党内の反発を招き、承認投票まで行きつくことなく指名を辞退。 先週には トランプ氏とマスクがまとめた予算代替案が 共和党内からの反対票によって否決されるというスリー・ストライク状態。 現在上下両院議員が党派を問わず警戒しているのが マスクの政権運営への影響力が大きくなっていることで、このままでは次期トランプ政権でトランプ氏が まさかの脇役に転じる可能性さえ生じているのだった。
ちなみにデジタル版のNYタイムズで2024年に最もアクセス数が多かった記事のトップ5は、1位がトランプ勝利、2位がバイデン選挙戦離脱、3位がトランプ暗殺未遂、4位がトランプ有罪判決、5位はロバート・F・ケネディJrが 「脳の一部を寄生虫に食い荒らされた」と語ったストーリー。最後の馬鹿げた記事は当時も今も嘲笑の的ではあるものの、そのR.F.ケネディJrが、次期トランプ政権で米国の医療・食品全般を取り仕切るFDA(食品医薬品局)長官に指名されていることは、国民はもちろん、医療、薬品、食品業界を恐れさせているのだった。



経済、ビジネス、倒産、不振、大成長


経済面では、選挙戦でインフレが騒がれた割には連銀が利下げを3回行い、失業率も歴史的低さ、景気も衰えないまま終わったのが2024年。 アメリカ国民のカード・ローンが膨らみ、支払いの遅れも増えているので、景気の良さは表面的なものと捉える声もあるけれど、借金が膨らんでも旅行に行き、ホリデイ・シーズンのセールで買い物をする ふてぶてしさはアメリカ経済の強みであり、リスク。
2024年はナイキ、スターバックス、マクドナルドなど、大手企業の不振が伝えられた年で、ナイキはOn、Hokaといった後発ブランドにどんどんシェアを奪われ、 スターバックスは価格の高さと待ち時間の長さで消費者離れを招いてしまい、ヘッドハントした新CEOによるビジネス建て直しの真っ最中。クリスマスには全米各地の従業員組合がストを行って賃上げ要求をしたばかり。 マクドナルドもパンデミック以降の値上げのせいで、安価なメニューを提供する競合に客層を奪われているのだった。
その一方でレッドロブスター、TGIフライデイといったかつての人気レストラン・チェーンが倒産。デニーズ、フーターズ、ジョニー・ロケッツ、アップルビーズ、アウトバック・ステーキハウスといったチェーンも店舗閉鎖が相次いで、 倒産が噂され続けたのが2024年。百貨店も、デザイナー・ブランドがオンライン・ショップで直接消費者に販売するようになってからというもの、経営を悪化させており、7月にはニーマン・マーカス・グループをサックス・フィフス・アヴェニューが吸収合併。そのサックスはNYのフラッグシップで長年続いた外壁のホリデイ・デコレーションをコスト高から今年は断念しており、メーシーズも経営が悪化したせいで、世界最大規模を誇るNYのフラッグシップ・ストアを 手放すリスクに見舞われているのだった。
その他、パーティー・グッズの専門チェーン、パーティー・シティや長寿ビジネスのタッパウェア、スピリット・エアラインも2024年に倒産。これらを追い詰めたのは売り上げ不振もさることながら 高金利で借金が膨らんだため。
逆に売り上げ好調だったのは、2022年からブームが始まったオゼンピックに代表されるGLP-1のウェイトロス・ドラッグ。2024年にはイライ・リリー社から後発で発売されたモンジャ-ロ、ゼップバウンドの方が より多くの脂肪を短時間で落とせるとあって、オゼンピックの独り勝ちではなくなってきたのが市場動向。現在は注射型ではなく、飲み薬のGLP-1ドラッグ開発に各社がしのぎを削っており、これが2025年の大ヒット薬になる見込み。
さらに2024年は大統領選挙でもギャンブルが行われ、トランプ氏の勝利に大金を賭けた男性が8500万ドルを稼ぎ出したことが報じられたけれど、 スポーツ・ギャンブルを始めとするギャンブルも2024年に伸び続けたビジネス。大谷選手の通訳、水原氏のスキャンダルを始めとする ネガティブ報道も見られたとは言え、若い男性を中心に愛好家とその借金を増やしながら 大きく成長しているのだった。



2024年も最も大きな影響力を持ったのはテイラーとTikTok


2024年は女性が様々な分野で活躍した年。パリ五輪ではアメリカが獲得した126のメダルのうち、67を獲得したのが女子アスリートで、 初めて男子を上回る快挙を達成。 また2024年はNBAの女子リーグ、WNBAが大躍進した年で、ケイトリン・クラークを始めとする大学選手権のスーパースターがこぞってリーグに入団したお陰で、 観客動員数、視聴者数、メディア&ソーシャル・メディア・フィーチャー等、過去の記録を全て塗り替え、女子スポーツがドル箱ビジネスになり得ることを立証。
音楽の世界でも、女性アーティストが2024年のスポティファイのアルバム・ストリーミング・トップ10のうち8つを占める活躍ぶり。特に目覚ましいヒットを飛ばしたのはシングルではサブリナ・カーペンター、アルバムではテイラー・スウィフト。2023年にメガ・センセーションを巻き起こしたテイラー・スウィフトのエラス・ツアーは、2024年は海外諸国に舞台を移し、行く先々でもたらしたのが多大なエコノミック・インパクト。合計149回のパフォーマンスで、史上最もサクセスフルなツアーを終えたのは12月のこと。
そのテイラーは、副大統領候補 J・D・ヴァンスが語った「Childless Cat Lady/子無し猫女」の批判に反発して、カマラ・ハリス支持を表明したけれど、 女性達の抵抗むなしく2024年にレッド・ステーツで進んだのが妊娠中絶に対する厳しい規制。それを受けて妊娠したくない女性、妊娠されたら困る男性が 「セックス・リセッション」と呼ばれる禁欲状態に陥っていたけれど、保守右派勢力拡大に伴って強い風当たりを受けたのはLGBTQ+コミュニティ。 2024年はD.E.I(Diversity, Equity & Inclusion) がアメリカ社会で大きく後退した年で、D.E.Iとは企業や学校、社会全般において 人種(民族)やバックグラウンド、性別、宗教、文化、障害などが原因で、過小評価や差別を受けて来たグループを幅広く平等に受け入れる姿勢。しかし企業が次々と多様性、公正性、包括性の概念を経営理念から取り去った結果、 白人男性の優位性が謳われるようになったのが2024年。そしてその白人男性こそが次期トランプ政権を誕生させた原動力でもあるのだった。
そんな中、MeTooムーブメントでは裁かれずに逃れていたショーン・ディディ・コムズ、アバクロンビー&フィッチ元CEOのマイケル・ジェフリーズは共に長年に渡るセックス・トラフィッキング、恐喝を含む容疑で逮捕されたけれど、 2人もやっていたことはジェフリー・エプスティーンと全く同じ。女性被害者の訴えから始まったコムズの容疑は、今では男性被害者からの訴訟の方が多くなり、 マイケル・ジェフリーズも逮捕によって暴かれたのが、モデル志願の若い男性達を男娼兼パーティー・ボーイとして扱っていた容疑。性的虐待被害が決して女性だけのものではないことを改めて実感させていたのだった。
その一方で一向に終わる気配がないウクライナVS.ロシア戦争と、ハマスVS.イスラエル戦争は国内政治にも大きく影響し、大学キャンパスでは、反イスラエル運動、パレスチナ支援のムーブメントが高まった結果、 大口ドナーが大学寄付を控えたり、反イスラエル運動に参加した卒業生を雇わないという脅しを掛けていたのが2024年。 仕事面では、自宅とオフィスの双方で仕事をするハイブリッド勤務が継続したものの、大企業を中心にオフィス勤務復活のプレッシャーが高まっており、 これは業務効率もさることながら、焦げ付いている商業不動産市場、引いてはそれに多額の資産を投じている地方銀行を守るための措置と言われるのだった。
ソーシャル・メディアの影響は引き続き絶大で、特にアメリカのヒット商品、トレンドを生み出し続けて来たのは2024年も圧倒的にTikTok。現在親会社である中国のバイトダンス社が TikTok売却かビジネス閉鎖かの選択を迫られているけれど、TikTokショップでの物販を副業にして収益を上げるアメリカ人は非常に多く、これは彼らにとって死活問題。 2024年のSNSトレンドとしては、インフルエンサーによる”de-influencing/ディインフル―エンシング”、すなわち特定のトレンドをフォローしないように、物を買わないように等、 行動を控えさせる影響力が話題になっていたのだった。



飲まずに早く寝る、ヘルシー志向、年末最後のMAGA戦争


2024年後半には久々に映画館に観客が足を運ぶ傾向が顕著になり、2024年最大のヒットになったのはアニメ映画「インサイドアウト2」。全世界で17億ドルを稼ぎ出すメガ・ヒット。
2024年は巨大ハリケーンや山火事、洪水、竜巻、干ばつと、ありとあらゆる自然災害に見舞われ、アメリカ政府は災害対策費だけで470億ドルの大出費。 引き続き進化を遂げたAIは小売り、ファイナンス、ヘルスケア、保険ビジネス、教育文化で人間の業務をどんどん担うようになったのは周知の事実。 AI進化を反映してエヌビディア株が爆上がりを見せ、史上最短で3兆ドル企業になった一方で、ホログラムが様々な分野で活用され、アップルのビジョン・プロは売れなかったものの、 仮想現実(VR)、拡張現実(AR)がゲームやコンサート等を通じて身近になったことを感じさせたのが2024年。
そんな最先端テクノロジーの反動で、若い世代を中心にノスタルジー・ブームも起こり、レコード、カセットテープ、ポラロイド・カメラ、使い捨てカメラが大復活。 更にはSNSから隔離されたいというジェネレーションZがスマートフォンではなく、ダムフォン(馬鹿電話/日本で言うガラ携)をあえて好む傾向が高まったけれど、 食の世界ではピクルスが大ブーム。スナックからファスト・フード、フレグランスやアクセサリーまでピクルス・グッズが登場。フレーバーではスウィート&スパイシーを意味する”スウィシー”が2024年の目玉フレーバーになっていたのだった。
アルコール離れもさらに進み、アルコールを出さないバーが登場したかと思えば、ナイトアウトの時間帯が前倒しになり、眠らない街 NYでさえ ディナー予約が混み合うのは6時台。 5時開店、11時にクローズするナイトクラブも登場。ナイトアウトをしても、早めに帰宅して就寝することで、睡眠時間を確保する傾向が顕著になったのだった。
さらにトランプ氏が米国史上初の前科を持つ大統領に選出され、ファイヤー・ミュージック・フェスティバルの詐欺罪で服役していたビル・マクファーランドに新たなインヴェスターが付き、 ネットフリックスの「Finding Anna」でドラマ化された詐欺師のアナ・ソロキンがリアリティTVに登場するなど、2024年は前科を軽視するモラルの曖昧さが問われた年。 12月入って保険会社CEOを暗殺した容疑者ルイージ・マンジョーネは、今や悪徳大企業と闘うヒーロー扱いなのだった。
クリスマスも終わって今年も残り僅かという段階で、イーロン・マスクとヴィヴェック・ラマスワニーのDOGE(政府効率化局)コンビのツイートによって始まったのが、 ”MAGA Civil War/市民戦争”。これは保守右派と民主党リベラル派との闘いではなく、保守右派の内部闘争。 そもそもトランプ第一期政権、第二期政権を生み出したのは、自分達が親と同じ生活レベルが保てないのは移民の流入と、 リベラル派のWOKEカルチャーのせいで伝統的なキリスト教社会が崩れたためと主張してきた低所得、低学歴の反エリート白人層、特に男性。 彼らが抱える不満こそがMAGAムーブメントの中核であり、トランプ・ポピュリズムが成り立つ原動力。 彼らはトランプ政権をビジネス拡大に利用したいマスクのようなシリコン・ヴァレーのビリオネアとは、男尊女卑と白人至上主義を除いては 全く相反するポジションなのだった。
それがいよいよ露呈したのがX上での論争。これまでMAGA勢力と共に H1B労働VISAを批判してきたマスクとラマスワニーがそれぞれ「アメリカには、ハードワークで有能なエンジニアがいない」 「スペースXで働く人材としてH1Bヴィザを持つ有能な外国人エンジニアと、トウモロコシを食べて育った純粋なアメリカ人の何方が相応しいか」 という内容で、H1Bヴィザを有能な人材のみに支給する制度、早い話が高額給与の上級職に移民を迎える方針を打ち出したことから、猛反発したのが移民を全否定する本来のMAGA勢力。 しかも彼らの抗議ツイートをマスクが削除しただけでなく、アカウントを停止処分にする言論統制を行ったことから、保守右派団体が「これまでイーロンとXを支持してきた。 NYでのMAGAイベントでイーロンが我々の主張に全て賛同したことは誰もが覚えている。なのにこの扱いは狂っている」という仲間割れを始めたのが年末のこと。
民主党リベラル派は、トランプ氏就任を待たずして 本性を表すマスクの手のひら返しの早さに驚いていたけれど、これは未だ序の口。 2025年にトランプ政権が本格始動した際には、78歳のトランプ氏よりも 53歳のイーロン・マスクが世の中全体をかき回すことが見込まれるのだった。

来週のこのコーナーは新年休暇中につき、お休みさせて頂きます。2025年は1月11日の更新となります。
素晴らしい2025年をお迎えくださいませ。


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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