Dec 15 〜 Dec 21 2024
今週のマーラゴ・ゲスト,マスク次期大統領,イーロン・シティ建設, Etc..
今週のアメリカで報道時間が割かれていたのがウィスコンシンのクリスチャン・ハイスクールで起こった銃撃事件。2人を死亡させ、6人を負傷させた後、自らの命を絶ったのは15歳のナタリー・ラプナウ。
両親が3回離婚する中、主に父親と暮らしていた彼女は、父親のフェイスブック・ページに成長過程のスナップがポストされていたけれど、人々が眉を吊り上げたのが 父親と一緒に加入していたガン・クラブでの
射撃練習のスナップで彼女が着用していた黒いTシャツ。これはロックバンド KMFDMのTシャツで、1999年に13人の犠牲者を出したコロラド州コロンバイン高校の銃乱射事件犯人の1人、エリック・ハリスが着用していたもの。
2024年のアメリカでは83件のスクール・シューティングが起こっているけれど、その先駆けとなったこの事件が 25年が経過した今も 銃乱射事件のインスピレーションになり続ける様子を感じさせていたのだった。
経済ニュースでは水曜に連銀のパウウェル議長が 予想通りの利下げを行ったものの、一向にスローダウンしないアメリカ経済を受けて 来年の利下げペースを落とす意向を発表したことから、ダウは1123ポイント下落。
それまで8日続いた連日下落記録が9日に延長され、これは50年ぶりの事態。
経済メディアが指摘したのは、パウウェル議長が トランプ政権下で見込まれる規制緩和、大幅関税引き上げ、移民労働者不足を含む
”トランプ効果”で2025年にインフレが加速する懸念を持つ様子。トランプ氏自身、選挙中には一番に公約していた”インフレ是正”について、
昨今では曖昧なコメントに終始しているのだった。
今週トランプ氏を訪ねたVIP達
今週の日本では、12月15日に安倍昭恵氏がマーラゴにトランプ氏を訪ねたことが大きく報じられていたけれど、アメリカ国内から 「Akie Abe、もしくはAbe's widow met(meets) Trump」
をグーグル検索すると、2ぺ―ジ目までを占めていたのは Japan TimesやKyodo News、NHKといったジャパン・メディアの英文ページ。海外メディアで最初に検索に
引っ掛かったのは、アリババ傘下で香港に拠点を置くサウス・チャイナ・モーニング・ポスト。次いで今年9月に安倍昭恵氏がモディ首相と面会しているインドのメディア。
アメリカ国内のメジャー・メディアで最初に表示されたのはボストン・グローブ。3大ネットワークは検索4ページ目にABCニュースのサイトがリストされていたのだった。
サウス・チャイナ・モーニング・ポストのヘッドラインは 左上のビジュアルのように 「Trump hasn’t met Japan’s new PM yet - but Shinzo Abe’s widow has been over for dinner」、すなわち
「トランプは日本の新首相に未だ会っていないが、安倍晋三の未亡人とは夕食をした」というもので、要するに石破政権を軽視するトランプ氏の姿勢が報道の意図になっていたのだった。
一方米国メディアが週明けにこぞって報じたのが、同じくマーラゴでソフトバンクの孫正義氏が発表した、「米国AIビジネスと関連インフラストラクチャーに1000億ドルを投資し、向こう4年間で10万人の雇用を生み出す」意向。
孫氏は2016年のトランプ氏当選時にもトランプ・タワーに出向き、500億ドルの投資と5万人の雇用を約束したけれど、この時は約束自体は果たされたものの、資金の約半分が投じられたのは破綻したレンタル・オフィス、WeWorkのビジネス。
米国メディアはこの発表をソフトバンクの投資戦略ではなく、PR戦略と捉えており、その理由はトランプ氏当選前からソフトバンクがAIに多額の投資を行う計画を打ち出していたため。
したがって、トランプ氏に取り入ると同時に パブリシティを得るために、既に決まっていたAI投資を「トランプ政権下の米国経済を信頼する投資」に演出したという見方が有力。
それよりも米国メディアが着眼したのは 孫氏が1000億ドルを持っておらず、大規模な資金調達や新規借入、もしくは保有株の一部売却などの手段を講じる必要があること。
孫氏はこれまでにもリスクを恐れない借入で資金不足を乗り切った歴史があるとは言え、2017年に立ち上げた1000億ドル規模のビジョンファンドが、前述のWeWorkや同様に破綻した建設スタートアップのカテラなどに
使われたことで外部資金運用の信頼を失っており、2つ目のビジョンファンド立ち上げに投資家が賛同しなかったのは周知の事実。
そのため孫氏の投資よりも、資金調達の方に関心が集まっていたのが米国メディアなのだった。
今週にはアマゾンのジェフ・ベゾスもマーラゴでトランプ氏と会談を行い、トランプ氏の就任式ファンドに100万ドルの寄付を約束。
チャットGPTで知られるオープンAI、カーシェアリングのUberも同じく100万ドルの寄付を発表したけれど、いずれもビジネス規模を考えると決して大盤振舞いとは言えない額。
これはメタのマーク・ザッカーバーグが最初に提示した額で、シリコンヴァレーのIT大手はこぞって100万ドルの寄付で足並みを揃えているのだった。
一方トランプ氏は「自分の人間性は一切変わっていないのに、昨今では誰もが自分と友達になりたがる」と、マーラゴでのVIP来訪ラッシュに気を良くする様子をSNSにポストしているけれど、
シリコンヴァレー大手にとっては イーロン・マスクからのビジネス妨害を受けないために、トランプ氏に取り入ることはもはやビジネス戦略。
アマゾンのブルー・オリジンはスペースXと宇宙開発で競合し、メタ傘下のフェイスブックを含むSNSはX(元ツイッター)と競合関係、
そしてオープンAIはマスクが立ち上げたxAIと競合するのに加えて、ベゾス、ザッカーバーグ、そしてオープンAIのサム・アルトマンはこぞってマスクと個人的不仲で知られる存在。
自らアスペルガー症候群を認めるエゴの塊、イーロン・マスクに比べれば、トランプ氏はお金とおだてで何とか付き合っていける存在になりつつあるのだった。
遂にメディアと議員が呼び始めた ”イーロン・マスク次期大統領”
今週金曜夜に政府予算を使い果たす前に臨時予算案を可決する必要があったのが米国議会。民主・共和双方の合意でようやく纏まり、あとは水曜の上下議会で可決するだけとなった法案を、
同日午前4時から100以上のツイート、リツイートで 「無駄な出費が多過ぎる」、「これに投票した議員は中間選挙で落選させる」と、狂ったように批判し始めたのがイーロン・マスク。
トランプ氏がそれに同調したのは14時間後のことで、誰もが指摘したのが「これによって次期政権を率いるのはトランプ氏ではなく、イーロン・マスクであるイメージが固まった」こと。
国民に選挙で選ばれた訳でもなく、議会承認を必要としない単なるアドバイザー部門を来年1月20日から率いるマスクのツイートによって、せっかく纏まった予算法案が没になり、下院の与野党トップと上院議長が臨時の会合を持たなければならない状況は、誰が考えても常軌を逸したもの。
そしてマスクとトランプ氏がまとめ直した代替予算法案は、1600ページを超えるオリジナル案の10分の1の量になったことをマスクが自画自賛していたものの、支出総額は逆に500万ドル増えている本末転倒ぶり。
しかもオリジナル法案には 「政府による借金を2027年まで凍結する」条項が盛り込まれていたけれど、マスクとトランプ氏が提出した代替案では「2029年まで政府支出の上限を設けない」と変更されており、
要するに次期トランプ政権下では好き勝手に財源無しの減税を実施し、アメリカ政府最大のコントラクターであるイーロン・マスクが宇宙開発からAI、ロボット・ビジネスに至るまで政府予算が遣いまくれるよう配慮したもの。
そのためオリジナル法案よりも国の負債総額が5兆ドル上回るという内容。
まずここで浮上するのが、イーロン・マスクは本当に政府出費を減らすためにDOGE(政府効率化局)を設立したのか、それともトランプ政権の遣いたい放題をカモフラージュしながら、政府を骨抜きにする機関として設立したのかという疑問。
さらに政治関係者の間で聞かれたのは、この予算案によって共和党が完全にアイデンティティ・クライシスに陥ったということで、
これまで散々「大きな政府で、不要出費が嵩む民主党」を攻撃してきた共和党が、それを遥かに上回るビッグ・スペンダーとして名乗りをあげたことになるのだった。
そもそもトランプ氏は以前から「バイデン政権下の法案で予算上限を上げておくと、自分の政府出費増加をバイデンのせいに出来る」ことを公言しており、
これ自体は民主・共和双方の政府が行って来た常套手段。しかしそれをあり得ないレベルで要求したのがこの法案で、38人の共和党議員が反対票を投じた結果、174-235で呆気なく否決されたのだった。
その先導役を演じたのは、テキサス州選出のMAGA(超トランプ派)議員、チップ・ロイで「この法案はページ数こそ減っても、債務が5兆ドルも増えている。これに喜んで投票するなんて恥を知れ!」と共和党議員を一喝した様子は、
民主党議員やリベラル派が「テキサス州選出の保守右派でも、こんなまともな議員がいたのか」と感嘆するパラレル・ワールド状態。
しかしトランプ氏が彼の発言を歓迎するはずは無く、早速ソーシャル・メディアで「チップ・ロイは才能ゼロ」と罵った後、次期選挙のチップ・ロイの対立候補を賞賛。
「自分の法案に反対すれば議員生命は終わりだ」という脅しの掛かったトランプ節を展開したけれど、
この状況では トランプ氏がマスク法案を通すために マスクに代わって牙をむいているイメージしかないのが実際のところ。
それを象徴するかのように、元共和党下院議員アダム・キンジンガーは「マスク次期大統領は、既に政権運営を担うポジションに就いている。トランプ副大統領は気を付けた方が良い」と警告しているのだった。
その他、今週のアットランダム
イーロン・マスクが、先週木曜日にテキサス州のボカチカ当局に送り付けたのが、
スペースXのスターベース発射場の広大な敷地を従業員の勤務地兼 ワールドクラスの住宅街として都市開発する計画の承認選挙実施を求める請願書。
ボカチカは2014年以来、スペースXのロケット製造拠点であり、何度も打ち上げが行われてきた場所。既に3400人以上の従業員とコントラクターが勤務し、
そのうちの数百人が居住する場所。人里離れた場所とあって、周辺道路整備、公共設備管理、住民への教育&医療提供等のパブリック・セクターの一部を担っているのがスペースX。
事実上”イーロン・シティ”となる ”スターベース・シティ”について、請願書では 「火星への玄関口となる町」と謳われ、その開発費は400億ドルが見込まれるのだった。
今年7月にスペースXとX(元ツイッター)本社をカリフォルニアからテキサスに移転すると発表したマスクは、
10月にカリフォルニア州の委員会から年間50回のロケット打ち上げ計画を環境問題を理由に却下されたことに腹を立てており、
全ての計画が地方自治体の許可無しで進められる自分の町を手に入れようとしているとのこと。
ボカチカでは2021年に同様の計画が住民反対で却下された歴史があり、それを受けてマスクが、同じテキサス州のオースティン郊外で、スペースXと彼が経営するトンネル掘削会社、ボーリング・カンパニーの2社の従業員が勤務し、居住をする町、”スネールブルック”の計画を打ち出したのが昨年2023年のこと。
向こう4年間のマスクには米国政府による強力なバックアップが見込めるだけに、宇宙開発プロジェクトの一環として”イーロン・シティ”が実現する可能性は高いと言われるのだった。
共和党支持者が大多数を占めるレッドステーツ、ミズーリ州の議会に先週提出されたのが、重犯罪の前科を持つ人物にも公職に就く権利を認める法案。その法案名は、
重罪歴のある次期大統領にちなんで「ドナルド・J・トランプ選挙資格法」。この法案は重罪前科者の地方選挙、州選挙への立候補を禁じた2015年制定のミズーリ州法を覆すもの。
「重罪歴があっても、その他の条件を満たしていれば公職に立候補が出来る」と謳われた法案は、トランプ氏の顔を立てるものとは言え、
将来的に犯罪者に悪用されたり、善悪のモラルが曖昧になることを危惧する声が聞かれるのだった。
引き続き大きく報じられている保険会社CEOを暗殺したルイージ・マンジョーネに対して、今週追加訴追されたのがテロリスト容疑。これに対しては
トランプ氏が訴追された時と同様の「Witch hunt」、すなわち「魔女狩り」という批判がソーシャル・メディア上で溢れていたけれど、コミュニケーション会社、エデルマンの調査によれば、
近年、アメリカの一般大衆の間で高まっているのが大企業に対する怒り。今年1月に行われたピュー・リサーチの世論調査でも、「大企業がアメリカに悪影響を及ぼしている」という回答が68%で、
過去4年連続で増加中。マンジョーネに対する大衆のサポートはその怒りの現れと言われ、クラウド・ファンディングで着々と集まっているのが彼の弁護費用。
その資金力を反映して、今週彼の弁護団に加わったのが敏腕美女弁護士で、元検事のカレン・フリードマン・アニフィロ(写真上中央)。
検事を辞めてからは長寿人気ドラマLaw & Order (ロー&オーダー)のアドバイザーを務め、彼女の夫、マークも敏腕弁護士。
彼は現在、セックス・トラフィッキングを含む複数の容疑で服役中のラッパー、ショーン・ディディ・コムズの弁護を担当しているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
★ 書籍出版のお知らせ ★
当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2024.