Mar 10 〜 Mar 16 2024
オスカー・マーケティング、メガヒット商品、金融界大御所が推す大統領候補,Etc.
今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのが、中国のバイトダンス社傘下のソーシャル・メディア、TikTokに対して、アメリカ企業への身売り、もしくは運営禁止を求める
アンチTikTok法案が水曜に米国下院で可決されたニュース。TikTokは既にインド、オーストラリア、ベルギー、カナダ、フランス等で禁止されており、
理由は他のソーシャル・メディアよりも多くの個人情報を盗むアプリであり、その情報が中国政府によって利用されていることに加えて、中国寄りの思想を植え付けるコンテンツを
巧みに盛り込むアルゴリズムがデザインされているため。アメリカも政府&軍関係者の公用スマートフォンでは使用が禁止されて久しい状況。
しかしTikTokにとってアメリカは1億7000人のユーザーを抱えるライフラインと言えるマーケット。加えてTikTokで生計を立てているインフルエンサー、TikTokをマーケティングに利用して利益を上げて来たビジネスにとってもTikTokはライフライン。ソーシャル・メディア・コンテンツによる収益や、それに関連するグッズの売り上げ等は、俗に”クリエーター・エコノミー”と呼ばれるけれど、TikTokのクリエーター・エコノミーは何と2500億ドルという規模。そのためTikTok側は、主要インフルエンサーに”#KeepTikTok”のハッシュタグのプロモートを依頼。多くのインフルエンサーが投票日の下院前で抗議活動を繰り広げ、
「賛成票を投じた議員は、次の選挙で落選させる」とまで息巻いていたけれど、結果は352-65という圧倒的賛成多数で可決。
次に上院で可決されれば、バイデン大統領が拒否権を発動しない限り法令化されるけれど、TikTokが身売りすることになれば、売却価格はかなりの高額。
グーグルやフェイスブックのように買収資金があるIT企業は、既に競合するビデオプラットフォームを持っているけれど、
TikTokの米国内の2023年の収益は160〜200億ドルと言われるだけに、かなり魅力のある存在。
この法案はトランプ政権時代に提出されたものだけれど、そのトランプ氏はつい最近になって若い層の支持率獲得を狙って 法案に反対する姿勢に鞍替え。
一方のバイデン氏はスーパーボウル中に TikTokデビューを果たしておきながら、アンチTikTok法案に署名する意志を宣言しているのだった。
オスカーのマーケティング効果
先週日曜に行われたアカデミー賞授賞式は、昨今のアメリカが夜更かしより 早起きになった体内時計の前倒し現象を反映して、例年より1時間早い午後7時から放映されたけれど、
その時間帯効果と昨年夏の「バーベンハイマー」ブームのお陰で、今年の視聴者数は過去4年で最多の1950万人以上を記録。しかし2014年の4000万人からは大きく数を減らしているのだった。
そんな中、ビジネス・メディアが着眼したのが、ファッション業界にとって 今もオスカーが重要なPRイベントと見なされていること。
セレブリティにとっても、レッド・カーペットやフォトコールでデザイナー・ブランドを着用し、ファッション・ショーにそのブランドの製品を身に着けて登場するのは仕事のうちであり、
重要な収入源。
とは言っても1990年代前半までは、セレブリティがデザイナーから作品を借りて、着用した後は返却し、セレブリティにとってはドレス代がタダになり、
デザイナーはパブリシティ獲得のお礼にフラワー・アレンジとギフトを送付する程度のやり取りで終わっていたのだった。
それが一変したのは、1995年に「パルプ・フィクション」で助演女優賞にノミネートされたウマ・サーマンがプラダのブルーのガウンを着用して、大センセーションとメガ・パブリシティをもたらして以来。
その後はデザイナー・ブランドがセレブリティのドレスを担当するために凌ぎを削るようになり、スタイリストへの根回しはもちろんのこと、
ブランドはセレブリティと レッドカーペット上でのドレス着用の独占契約を結ぶ時代。
ハリウッドのAリスト・スターがディオールのようなトップ・ブランドと契約を結んだ場合、レッド・カーペット上でドレスを着用するだけで年間支払われるギャラは約25万ドル。
通常セレブリティは、授賞式シーズンごと、もしくはイベントごとにエージェントやスタイリストを通じてファッション・ブランドとギャラ交渉をするのが一般的であるけれど、
実際にデザイナー・クローズの着用でギャラが取れるセレブリティは全体の約30%程度。
そのトップ30%のセレブリティのレッド・カーペット・ファッションを提供するために、デザイナー側は複数のバックアップ・ドレスを輸送するのはもちろん、
フィッティング・チームを現地に送り込み、セレブリティ本人だけでなくエージェントやスタイリストにもギフトを持参するのが常。
そのためファッション・ブランドは、オスカーという大イベントのために億円単位の出費をしており、これは小規模なブランドではとても賄えない金額。
そのため中小規模のブランドは、”ピープルズ・チョイス・アワード”、”スクリーン・アクターズ・ギルド・アワード”といった地味な授賞式セレモニーを狙ったり、
映画のプレミアでセレブリティにアウトフィットを提供するのが昨今の傾向となっているのだった。
でも今年に関しては、オスカーよりも遥かに有効なイベントでパブリシティを獲得して賞賛を浴びたのがティファニー。
そのイベントとはスーパーボウルで、VIPボックスでカンサスシティ・チーフのボーイフレンド、トラヴィス・ケルシーを見守った
テイラー・スウィフトと共に、何度もTVカメラが捉えていたのが、テイラーの親友であるブレーク・ライブリー(写真上中央)。
ファッショニスタで知られるブレークはこの日、アディダスのトラック・スーツに ティファニーの50万ドル相当のジュエリーをつけており、
ブレスレットに夫、ライアン・レイノルズの主演映画「デッドプール」のチャームをつけていたことも手伝って、多大なパブリシティを獲得。
今年のスーパーボウルはオスカーの6倍以上の1億2000万人の視聴者を獲得した上に、テイラー効果で女性視聴率も史上最高。
加えてブレークが着用していたのは、オスカーのレッド・カーペット・ジュエリーのような滅多に売れない高額品ではなく、ハードウェア・シリーズを含むティファニーの人気売れ筋商品。
それもあってパブリシティが直ぐに売り上げに繋がる利点をもたらしていたのだった。
オスカーに話を戻せば、アカデミー賞のプレゼンターやノミネート者に対しては 出演ギャラが支払われない代わりに、毎回贈られるのがギフトバッグ。
その中身の準備は ほぼ1年を掛けて行われるけれど、今年はスイスのバケーション、オーガニック・ドッグフード、高級スキンケア、フレグランス等を含む、総額17万8000ドル相当(写真上右)。
多数の売り込み商品の中から厳選されるとあって 「今年のオスカーのギフトバックに含まれた」というのは、ジャンルを問わず 様々な商品にとって極めて効果的な宣伝文句。
オスカーの直前にはメディアが ギフトバッグの中身を紹介する特集を組むとあって、絶大なパブリシティ効果が得られるのは毎年のこと。
したがって視聴者数こそは減少していても、まだまだオスカーはマーケティング・パワーを持つイベントと見なされているのだった。
アメリカの昨今のメガヒット商品
今週のアメリカで大きく報じられたのが ”庶民のホールフーズ”として知られる トレーダー・ジョーが以前から販売しているエコバッグのミニ・ヴァージョンを作成して
1つ2.99ドルで売り出したところ、買い占めと完売が相次ぐヴァイラル・プロダクトになった様子。店舗の中には購入数を制限するところも多かったけれど、
多くの完売プロダクト同様、このミニ・エコバッグも転売ビジネスの対象になっており、色違い4点のセットが480ドルというとんでもない価格でEベイで売り出されていた様子も
同時にニュースになっていたのだった。
ちなみにもう少し良心的なセラーが同じくEベイで4点セットを49.98ドルで販売していたけれど、こちらは僅か2日ほどで51セットも売り上げていて、
税金を抜きで計算すると2500ドル以上の利益を上げているのだった。
トレーダー・ジョーのミニ・トートがこれだけのヒットになったのは、サイズが小さくてキュートな上に安価であるためだけれど、
もちろんTikTok等のソーシャル・メディアで大きく取り上げられたことで、人々の購買欲が大きく煽られたのは言うまでもないこと。
それと共に若い世代の間で中毒症状を巻き起こすヒット商品になっているのがZYN(ジン)。これはニコチン・パウチとも呼ばれるもので、
上唇の内側に貼り付けるように口に含むと、数分で口の中で何かが弾けるような感触がスタートし、その後約30分間、ニコチンが体内に入るセンセーションが続くというもの。
最も強力に感じるのは最初の5〜10分程度で、何故このプロダクトが流行るかと言えば、タバコやEシガレットのように煙が出ず、口にくわえる様子を人に見られることも無いので、
ニコチン中毒が周囲にバレないという利点があるため。
しかし多くのユーザーにとって計算違いになっているのは、ZYNの方がタバコやEシガレットよりもずっと中毒性が高いこと。
中にはタバコやEシガレットを止めるためにZYNを使い始めたものの、ZYNの中毒になってしまったことから喫煙に戻った人々も居るほど。
しかし一度ZYNの中毒になると、タバコやEシガレットでは満足できなくなるようで、こちらの中毒の方がよほど厄介であることが警告されているのだった。
私は自他共に認める嫌煙家なので、ZYNの存在は全く知らなかったけれど、先週思わぬ形で知ることになったのが
クリプトカレンシーの世界に”ZYNコイン”という MEMEコインが登場していたため。
クリプトカレンシーの世界では、犬やカエルなど、動物モチーフのお遊び目的のMEMEコインが人気で、
それが僅か数ヵ月、数週間で1000%以上の価格上昇をする結果、マルチミリオネアを生み出しているのが現在。
新しいMEMEコインもどんどん登場していて、中にはトランプ支持者がクリエイトした”MAGAコイン”、”TREMPコイン”等も見られるけれど、
MEMEコインになるというのはカルチャー的にアイコニックな存在である証。なので ZYNというプロダクトが「そんなに流行っているのか?」と悟ったけれど、
メガ・ヒット商品を通り越して、今ではその中毒性が社会問題になっているのだった。
Taylor for President!
アメリカで最も尊敬される投資家というと、日本人はウォーレン・バフェットと思いこみがちであるけれど、実際には金融業界で圧倒的にその投資術がお手本にされ、
若い世代の投資家にもアピールするのは、世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエートの創設者で、チーフ・インベストメント・オフィサーを
務めて来たレイ・ダリオ(74歳、写真上左)。 150億ドル以上の個人資産を持つ彼は、その発言が金融界を中心に大きな影響力を持つ存在。
その彼が今週Xにツイートしたのが、大統領候補についての進言で、その内容を翻訳すると以下のとおり。
「@taylorswift13(テイラーのX上のアカウントネーム) を大統領に! シンガポールで彼女のコンサートを観たが、彼女の方が 現在の2人の候補者よりも
遥かにアメリカ人と世界中の人々結びつけることが出来ると思った。人々を1つに出来ることは非常に大切だ。
世界中からやって来た人々と一緒に彼女のコンサートを観て、気持ちが高まり、一体感を味わった。そしてユニヴァーサル・カルチャーというものが如何にパワフルであるかを改めて感じた。
もし大統領選挙が、文化を理解し、聡明な意思決定を行うことが出来る候補者同士の闘いであったらどんなに素晴らしいか。」
実はファイナンスの世界で テイラーに一目置くようになった人々は増えていて、
その要因の1つはテイラー・ファンの子供達を連れてエラス・ツアーのコンサートに一緒に出掛けたファイナンス業界の父親が多かったこと。
そこでコンサートの盛り上がりや彼女の音楽的才能もさることながら、その広範囲に及ぶマーケティング・パワーにまず驚いてしまうのだった。
さらには子供達から、テイラーの抗議でアップルのアイチューンがポリシー変更をせざるを得なかったこと、チケットマスターが販売システムの見直しを迫られたこと等、
大企業に方針転換をさせて来た功績を教えられ、興味を持って自分でリサーチをしてみると、
テイラーの父親が元メリルリンチの金融マンで、テイラーは高利回りのファンドに賢い投資していること、20歳になる前から稼いだお金で高額不動産投資を行って来たこと、
さらにはエラス・ツアーを映画化し、配給業者を通さずに映画館チェーンとのタイアップで上映することで、多額の利益を上げてビリオネアになったこと等が
ビジネス・メディアで取り上げられており、テイラーが「ただのアイドル・シンガーではなく、サヴィなビジネス・ウーマンである」という認識が金融やビジネスの世界でも高まっているのだった。
そのテイラーは政治への影響力も高めており、昨年9月にはテイラーがソーシャル・メディアを通じて一声呼び掛けただけで 300万人が行ったのが投票に必要な事前申請。
民主党支持のテイラーが果たしてバイデン大統領を公に支持するかは不明であるけれど、アメリカは再びバイデンVS.トランプという国民の大半が望まない顔合わせの選挙に
ウンザリしているだけに、テイラーの出馬を望む声はレイ・ダリオだけではないようで、そんな人々の間では、テイラーのフェイク選挙キャンペーン・グッズが人気を博しているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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