Mar 3 〜 Mar 9 2024
物の定価が無くなる時代!?, 通貨危機の教訓, Etc.
今週火曜日は、アメリカの複数の州で民主・共和両党の大統領予備選が行われるスーパー・チューズデイであったけれど、
その惨敗を受けて最後まで残ったトランプ氏の共和党対立候補、ニッキー・ヘイリーが選挙戦から離脱したことから、
正式に決定したのが2024年の大統領選もバイデンVS.トランプという老醜の闘いになること。
そのスーパー・チューズデイにノース・キャロライナ州で行われた共和党州議会議員候補を決める予備選挙で、
過去20年に渡って議員を務めた81歳の大御所議員を破って見事当選を果たしたのが、イースト・キャロライナ大学2年生のワイアット・ゲーブル(21歳、写真上の左上)。
彼が出馬を決心したのは、パンデミック中のワクチンンや感染テスト、マスク着用といったルールによって人権が奪われたと感じたため。
当時高校生だったゲーブルは、州議会議員に抗議のメールや嘆願書を出したものの、一向にレスポンスが無かったとのことで、
その時に彼を無視した共和党議員が 今週の選挙で彼が勝利を収めたジョージ・クリーブランド。60歳の年齢差がある2人の勝敗を分けたのは僅か95票の差。
彼は11月の本選で、民主党現職議員との対決を控えているけれど、その政策メッセージの中で 「学校の授業に大工仕事や機械工など、
もっと実用的なカリキュラムを加えるべき」と訴えているのだった。
”ダイナミック・プライシング”で定価が無い時代が来る?
先週、ファストフードのウェンディーズが決算発表記者会見で明らかにしたのが、繁忙時に価格を引き上げる ”surge pricing/上昇価格”システムを取り入れる意向。
ところが これをメディアが「値上げ戦略」と報じたことから、ソーシャル・メディア上ではウェンディーズに対する批判が殺到。
消費者にしてみれば、このところマクドナルドやコカ・コーラが立て続けに価格を釣り上げていたことから、
「今度はウェンディーズか!」 というバックラッシュ。それを受けてウェンディーズは翌日になって、
「繁忙時に価格を引き上げるのではなく、デジタル・メニューを使用して閑散時に割引を提供する」という苦し紛れの訂正を強いられていたのだった。
実際にウェンディーズがやろうとしていたことは ”ダイナミック・プライシング”というネーミングで既にありとあらゆるビジネスが行っている手法。
”ダイナミック・プライシング”というコンセプトを世に広めたのは、アメリカでコンサートやスポーツ・イベントのチケット販売を独占的に行うチケットマスターで、
リアルタイムの需要に応じてチケット価格が上下動するシステム。人気のコンサートやイベントのチケットが高額になり、
不人気であれば価格が下がるので、言わば競売と同様のプライシング。
カーシェアリングのUberが、深夜やホリデイ・シーズンなど、需要が多い季節や時間帯に割高な料金を設定したり、
エアB&Bがヴァケーション・シーズンの人気のリゾート地の物件のレンタルを高額に設定するのもダイナミック・プライシングであるけれど、
同様のことは 週末料金や、季節と需要に応じた価格の上下という形で、長きに渡って航空業界、ホテル業界が行って来たもの。
今ではアルゴリズムとAIによる様々情報分析により、顧客が納得して支払う最高額が効率良く提示されるようになり、
当然ながら企業側に大きな利益をもたらしているのだった。
飲食業界でも、1980年代から「ハッピー・アワー」、「アーリー・バード」というネーミングで、バーやレストランが ピーク時前の客足を増やすために、
ドリンクや食事のメニューを割安で提供してきたけれど、これとてダイナミック・プライシングと同じセオリー。
しかしここへきて 店内の壁に提示されるメニューがコンピューター・スクリーンになり、来店客がテーブルで使うメニューもタブレットになり、
メニューというものが完全デジタル化されてきたことから、BBQチェーンのトニー・ローマ等が既に導入しているのが 時間帯に応じた需要だけでなく、食材の価格等を
随時反映させてメニュー価格が変動するダイナミック・プライシング。
もちろんレジ情報もメニューの変動に応じて随時自動アップデートされるので、
それに伴う操作や作業が一切必要無いのは言うまでもないこと。
同様の変化は小売業界でも始まっていて、大衆百貨店のコールズ、家電大手のベスト・バイといったストアは、デジタル・タグで価格表示をすることにより、
需要やトレンドに応じて商品価格を変動させることが可能。それまでオンライン・ショッピングでのみ可能と思われてきたダイナミック・プライシングが
店頭販売でも可能になっているのだった。
ダイナミック・プライシングは、いわば定価の無い時代への突入を意味するので、企業側にとっては商品の値上げを発表せずして、
効率良く利益が上げられる願ったり、かなったりのシステム。
しかし消費者にとっては、知らず知らずのうちに全ての価格がアップしている可能性がある上に、物の価格を正確に把握できないので、
予算も立て難く、不利なシステム。
そうは言っても多くの消費者は、ダイナミック・プライシングには殆ど気付くことなく代金を支払っており、
これを導入する企業側もウェンディーズのように馬鹿正直に発表したりはしないものなのだった。
エジプトの通貨危機の教訓
今週報じられていたのがエジプト・ポンドが対USドルで60%以上の価値を失ったニュース。
これは危機的な外貨不足とハイパーインフレに苦しむエジプトの中央銀行(CBE)が、その金利を600ベース・ポイント引き上げて、27.75%にしたニュースを受けての市場の反応。
それまで1ドル=31ポンドで取引されていたエジプト・ポンドは、僅か数時間で1ドル=50ポンド以上となり、価値が激減していたのだった。
CBEがこんなドラスティックな利上げを行った理由は、IMF(国際通貨基金)から経済立て直しのための追加支援融資を受けるためで、
既に2022年の段階で30億ドルの融資をIMFから受けていたエジプトが、それを80億ドルに増額するための条件の1つとして突きつけられたのが大幅利上げ。
これはもちろん「利上げによってインフレを抑制し、海外からの投資を呼び込む」という経済の基本セオリーの効果を狙ってのもの。
しかし市場の反応は「基本セオリーが成り立つのは、まともに機能している経済のみ」という厳しいリアリティを突き付けるもので、
巨額の赤字を抱え、無謀に紙幣を印刷するような、経済がしっかり機能していない国の通貨が市場で敬遠されるのは決して今に始まった事ではないのだった。
エジプト経済が何故そんなに悪化したかと言えば、政府の経済政策の失敗、パンデミック、ウクライナ戦争、そして昨年秋からはイスラエル・ハマス戦争によって
たたみかけるような打撃を受け続けたため。特にイスラエル・ハマス戦争以降、紅海航路で輸送船舶がフーシ派による攻撃を受けて以来、
殆どの船舶がスエズ運河を避けて、アフリカ先端を回る航路に切り換えたことから、エジプトの主要な外貨獲得手段であったスエズ運河の通行収益が激減。
そのエジプトは世界最大の小麦輸入国であり、アラブ諸国で最多の1億4000万人以上の国民の食糧の大半を他国からの輸入に頼る 食糧自給率が極めて低い国。
そのため過去数ヵ月のエジプトは 前例のないハイパー・インフレ状態で、1月に発表された昨年の年間インフレ率の公式統計は31%。
しかしながら実際に国民が経験するインフレは、その2倍から3倍と言われ、
これまでコツコツと築いてきたエジプト・ポンドの貯蓄の価値は、使わなくても毎日のように目減りする状況。
国民は 手持ちのアクセサリーやコイン等の ゴールドを使って売り買いをするようになってきており、
国の通過を安定した資産と思いこむことの危険性を改めて痛感させる教訓になっているのだった。
ブル・マーケットの後に経済破綻が待っている?
ハイパー・インフレのエジプトでは、「価値がどんどん下がる通貨よりもゴールド」という状況であるけれど、
現在アメリカで起こっているのがベビー・ブーマー世代を中心に、
ゴールドのETFを売却してビットコインETFに乗り換える現象。
ブーマーの子供世代のジェンZは最もクリプトカレンシーに投資をするジェネレーションであるけれど、
親の世代も「ETFなら安心」と考えるようで、お陰でビットコインETFは
ゴールドのETFが2年越しで達成した市場規模100億ドルを僅か7週間で達成。
ビットコイン自体も今週、一時6万9000ドル台を付けて史上最高値を更新したけれど、
その直後から10%価格が下落。そしてあっという間のVシェイプ・リカバリーを見せたことから、
起こったのが ロング&ショート・スクイーズ。すなわちレバレッジを掛けて価格上昇で儲けようとしていたトレーダー、
同じくハイレバレッジでの空売りで 価格下落に賭けていたトレーダーが、共に価格変動に振り落とされて財産を失う事態。
その損失総額は約10億ドルで、その乱高下を仕組んだと言われるのがETFのためにビットコインを買い漁る
ブラックロックなど大手金融。
4月に控えているビットコイン半減期以降のクリプトカレンシーのブル相場は、
大統領選挙の影響で株価が上昇し、金利引き下げも見込まれることから、
大相場になる期待を集めているけれど、今回はブラックロックのようなトラッドファイ(トラディショナル・ファイナンス)が介入しているだけに、
ハイレバレッジのギャンブルがこれまでに無く危険であると警告されていたのが今週なのだった。
しかもそんな投資の落とし穴は、相場が活況を呈し、一般投資家がユーフォリア状態になり、貯蓄の大半を投資に注ぎ込んだタイミングで起こるもの。
特に現在の米国株式市場は、確実に値が上がる僅かな企業に投資が集中する ”マーケット・コンセントレ―ション” が極めて顕著。
前回ここまで資本が少数企業に集中したのは、1929年のアメリカ大恐慌の直前とのこと。
そのため大統領選挙結果に関わらず、年末、もしくは2025年から世界経済が危機に突入すると予測する声が少なくないのだった。
ソーシャル・メディア上では「3月前にビットコインが史上最高値を更新した国の通貨は、次の世界恐慌で生き残れない」とも言われるけれど、
日本円でビットコインが最高値を更新したのは2月14日。したがって、エジプトのような状況は考え難いとしても、
通貨変動の影響を受けない資産構築が奨励されるのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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