Feb 18 〜 Feb 24 2024
ハリウッドも驚愕のSora,不妊治療が出来なくなる!?, 体内時計とビジネス,Etc.
今週のアメリカで報道時間が割かれていたのがロシアの反体制リーダー、アレクセイ・ナワリヌイ死去を巡るニュース。プーチン大統領の邪魔者が謎の死を遂げるのは今に始まったことではないとは言え、
一度毒殺されかけ、世界中がその身の安全を見守っていたナワリヌイの突然の死のインパクトは大きく、ロシア国内では逮捕を覚悟で人々が追悼と抗議のデモに加わったけれど、
事前にナワリヌイの身に何かが起こった場合の制裁を警告していたバイデン大統領は ロシアに対して新たな500にも及ぶ経済制裁を発表。NATO諸国も同様の制裁に踏み切る見込み。
そんな中で顰蹙を買ったのが ナワリヌイ死去後、一切プーチン大統領批判を表明せず、ナワリヌイ氏を ”4つの刑事訴追によって 政府から弾圧される自身”に例えるスピーチでごまかしたトランプ氏。
大統領任期中に「米国大統領にしてプーチンの犬」と元米軍関係者に批判されたこともあるトランプ氏は、 先週のスピーチで「国防費をしっかり払わないNATO諸国に対してはロシアの攻撃を容認する」意向を語って物議を醸したばかり。それもあってトランプ氏が再選された場合、ウクライナ戦争でのロシアの自動的勝利と、ロシアの国力拡大を危惧する声が聞かれたのが今週。
そのトランプ氏は、共和党大統領候補として擁立されることは確実視されながらも、NYでの詐欺罪の罰金、名誉棄損罪とレイプの賠償金、4つの裁判の費用で、現時点で抱える支払い総額は5億4000万ドル以上。
現在集まっている選挙資金は5000万ドルで、バイデン氏が集めた1億3000万ドルに 引き続き大きく水を開けられている状況。
ナワリヌイ死去関連ではイーロン・マスクも顰蹙を買っており、その理由はX(元ツイッター)上で、「夫の意志を継いでプーチン大統領と戦う」ことを
ビデオ・メッセージで表明したナワリヌイ氏の夫人 ユリア・ナワルナヤのアカウントを、「プーチン大統領によって暗殺された陰謀説を拡散している」として、ポリシー違反による停止処分にしたため。
イーロン・マスクが「フリースピーチ」を謳ってツイッターを買収して以来、陰謀説で溢れているXにも関わらず ナワルナヤ氏のメッセージだけが処分対象になったことは猛反発を招き、ほどなく
Xは「誤ってアカウントが停止されてしまった」という言い訳で アカウント停止を解除。
しかしXのアルゴリズムで最も拡散効果を持つ時間帯にアカウントが停止になっていたことで、腑に落ちない思いをする人々は少なくないのだった。
AIの脅威の進化、文章から数秒でハリウッド映画並みの映像をクリエイトする ”Sora”
OpenAIが先週発表したのが、日本語の”空”から名付けたビデオ生成AI、Sora。これは文章のコマンドを驚くほどリアルなムービー・クリップに変換するAIで、
その完成度の高さはテクノロジー界、メディア&エンターテイメント界に衝撃を与えるレベル。
上のビデオは Soraに入力したテキストと そこからSoraが生成したビデオを オープンAI社が公開したもので、その見事な映像が
セットも特撮も無く、文字入力で実現するのはただただ驚くばかり。
ハリウッドのCGビジネスを既に戦々恐々とさせているSoraは、チャットGPTのように一般公開はされておらず、
OpenAIは暫くの間、ユーザーを絞ったテスト期間を設けて、Soraが誤情報や陰謀説、世論や政治を混乱させるリスクを防ぐための
対策を立てるとのこと。
同様のビデオ生成AIは メタ、グーグル等も独自のバージョンを手掛けているけれど、
Soraの精巧度は群を抜くもので、現時点ではプレーン・テキストの入力から数秒で最長1分までのビデオを生成するとのこと。
一部には「オープンAIがSoraによる優秀なビデオを公開しただけで、実際の完成度はそれほどではないはず」という疑心暗鬼の声も聞かれるけれど、
その指摘通り Soraには失敗作もあるとのこと。しかし それは指示の意図とは異なるだけで、指示者が思いつかないレベルのイマジネーションが繰り広げられるケースもあったという。
いずれにしてもSoraの出現によって、益々急がれるのがAIに対する法令化整備。特にディープ・フェイクが大統領選挙に影響を与えることが危惧されており、
ニューハンプシャー州の予備選挙では候補者の音声を使ったディープフェイクのロボ・コールが有権者を攪乱したばかり。
ニューヨークのキャシー・ホークル州知事は、AIの欺瞞的使用を広く犯罪と見なす新たなAI法を提案しており、特に選挙や政治絡みのキャンペーンやコミュニケーションにおいて、
AI使用の開示を義務付け、違反に罰則を設けるべきとの声は高まる一方。しかしフェイスブックでは、2016年の大統領選挙の時点でフェイク有権者のアカウントから陰謀説が拡散され、
”Qアノン”信者を生み出したのは記憶に新しいところ。
それが野放しにされたのは、ソーシャル・メディア側がポストされたコンテンツに責任を負う必要が無いと法律でプロテクトされ、
ソーシャル・メディア側も「言論の自由」を盾にコンテンツを放置したためで、AIにもそう簡単に法規制が進まないことが見込まれるのだった。
AIが21世紀のゴールドラッシュを生み出してからというもの、顕著になったのが パンデミック以降マイアミやテキサスに移住していたITメガリッチ達の
サンフランシスコへのカムバック現象。
これを機に世の中が大きく変わることが見込まれるだけに、
この波に乗って近未来を牛耳るには 開発の中心地でアンテナを立てなければならない様子が窺えるのだった。
人工中絶を廃止したアラバマ州最高裁が不妊治療を不可能にする矛盾判決
アメリカでは2022年に最高裁が妊娠中絶合憲を覆す判決をして以来、人工妊娠中絶が各州法によって定められ、保守右派の共和党支持者が多い州では
人工妊娠中絶がほぼ不可能になって久しい状況。
加えてそれらの州では産婦人科が激減したことから、安全な出産さえ難しくなったことは過去にこのコラムでご説明したけれど、
先週アラバマ州最高裁が下したのが、子供を作るための人工授精さえもが不可能になる爆弾判決。
これは 2020年に体外受精クリニックが、受精卵保管室への患者のアクセスを許可し、胚の入った容器を患者が落として中身を台無しにした事件で、
破壊された受精卵の両親がクリニックを訴えた裁判に対する判決で、
全米50州で最も保守的かつ、人工妊娠中絶をほぼ全面的に禁止したアラバマ州最高裁判所が下したのは、
「体外受精に使用される胚は法的には子供と見なされる」という判断。
これによって不妊治療クリニックやそのスタッフは、体外受精のプロセスで起こる胚破壊に対して刑事責任が問われることから、営業停止に追い込まれており、
子供が欲しくても出来ない人々から、妊娠のチャンスを奪う結果になっているのだった。
その判決文は 「すべての人間は生まれる前から神のイメージを帯びており、その命を亡ぼすことは神の栄光を失わせること。
神はご自身のイメージの破壊を侮辱と見なすため、人の命を不当に破壊することは聖なる神の怒りを招くこと」
というもので、州裁判所主席判事というよりも カルト宗教のリーダーのような主張。
確かにアメリカでは過去に、体外受精クリニックの不注意で凍結した受精卵が破壊される事故が何件か起こっているとは言え、
体外受精のプロセスでは、生命力はあっても遺伝子レベルで異常がある胚を廃棄するのは安全かつ、確実な妊娠のために必要なステップ。
しかし医療知識が無く、キリスト教思想にドップリ浸かった政治家と裁判所による「神のご意思」判決と法律では、
専門家が従うべき明確なガイドラインが提示出来ないとあって、何か事が起こる度に ”見せしめのための犯罪扱い”がされているのが現時点。
少し前には、中絶しなければ妊娠できない身体になってしまう女性に対して「母体の危険」という判断で中絶手術が行われたところ、
「母体の危険は命に係わるという意味で、妊娠不可能は危険に当たらない」として刑事責任が問われる問題が起こったばかりなのだった。
そのためアラバマ州では もはや不妊治療が不可能で、その受精卵を他州のクリニックに移そうとしても、輸送中に破損させれば
刑事責任が問われるため、それも不可能。中には他州への移住を考えるカップルもいるようだけれど、
アラバマ近辺の保守右派の州も、迅速にこの判決に倣う姿勢を見せているのだった。
これまでは保守右派で、望んでも子供が出来ないカップルほど人工妊娠中絶反対を強固に主張してきたと言われるけれど、
自分達が熱烈に支持して、ようやく実現した法的判断によって、逆に自分達の子供を設けるチャンスが奪われるというのは、彼らにとってまさかのブーメラン現象。
結局のところ「神のご意思や、教え」に従うのは信仰したい人々のみに止めるべきで、法律として押し付けるのは人間の愚行以外の何物でもないのだった。
人々の体内時計の変化でビジネスが変わる?
アメリカではハイブリッド勤務がニュー・ノーマルになってからというもの、人々が自宅で過ごす時間を重視するようになり、オフィスにも早く出掛けて早く帰宅する傾向が顕著になった結果、
昨年末のコーポレート・パーティーは、ドレスアップしてアルコール・ドリンクが存分に振舞われるイベントではなく、グルメ・ケータラーを入れたランチ・パーティーに変更されるのがトレンディングだったことは
以前もご説明した通り。
またレストラン予約のピークタイムもパンデミック前の午後8時から、今では午後6〜7時に前倒しになって久しく、
そうなるのは早めにディナーを済ませて帰宅すれば、就寝前にネットフリックスを観たり、メディテーションをしたり、ゆっくり入浴をするなどの自分のルーティーンに戻る時間が持てるため。
朝は朝で、しっかり朝食を味わったり、仕事前にエクササイズをするなど、パンデミック以降 続けて来た朝のルーティーンをこなしたり、
バタバタしない、ゆとりのある1日の始まりを好む傾向が顕著になり、「パンデミック前より早起きになった」とアンケート調査に回答する人々が増えているのが現在。
そして「健康のために睡眠時間をしっかり確保するべき」とういう意識がこれまでになく高まったことを受けて、昨今指摘されているのが 人々の体内時計が以前より2時間前後前倒しになっている現象。
その現象が最も顕著と言われるのが、上の世代よりもヴェジタリアンが多く、お酒を飲まない等、健康志向が強いジェンZ。
本来なら夜中過ぎまでクラブやレストランで楽しんでいるはずの世代が、シンデレラのように日付けが変わる前に家に戻って眠ることを最優先にする様子を受けて、
遂にナイトクラブも それに対応するようになっており、NYに最近オープンしたのが ”Matinee/マティネ”というネーミングのクラブ。
マティネは昼間の公演時間を指す言葉ではあるけれど、同クラブの営業時間はさすがに昼間ではなく、午後5時オープンの 午後11時クローズ。
その後 クラブゴーワーが真っすぐ帰宅すれば、日付けが変わる前に就寝出来るスケジュールで、同様の試みは一足先にデンバーでも行われていたとのこと。
クラブ自体が早めにクローズしてくれる方が、その場にダラダラと滞在せずに済むので、周囲の雰囲気に流されやすい人々には歓迎されるコンセプトなのだった。
そんなご時世なのでクラブだけでなく、レストラン業界もパンデミック前の活況が戻らないままで、それを立証するかのようにレストラン業界で働く人口は
パンデミック前よりも 全米で40万人も少ないのが現時点。
かつてのレストラン・ビジネスは経営が苦しくなると、ランチ営業をストップして、人件費と食材を節約していたものだけれど、
今では生き残りのためにディナーの営業を止めて、朝食、ランチ&ブランチに絞って、テイクアウトとデリバリー・オンリーに切り換えた途端に利益が上がり始めるというケースが増えてきているとのこと。
事実、一般消費者は、「レストランのディナーが高くなり過ぎたので、外食する回数が減った」とアンケート調査で回答しながら、
材料費も人件費もさほど掛かっていないブレックファスト・サンドウィッチやデザイナー・ドリンクに20ドル前後を支払うことは厭わない毎日。
世の中は長きに渡って「9 to 5は仕事」、「After 5はその後に待っているお楽しみ」的な意識を持っていたけれど、
パンデミックとハイブリッド勤務の影響でその意識が希薄になってきたことも、体内時計の変化に一役買っているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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