Feb 4 〜 Feb 10 2024

Swift Bowl & Taylornomics?
スウィフト・ボール & テイラーノミックス!?


スーパーボウルを日曜に控えたスーパーウィークだった今週のアメリカで、メディア業界に衝撃を与えたのが、ESPN(ディスニー傘下)、フォックス、ワーナーブラザース・ディスカバリーが、それぞれが持つスポーツ放映ライセンスを持ち寄り、 単一のストリーミング・ベンチャーをこの秋から立ち上げる発表。
これを受けて多くのメディア関係者がまず悟ったのはケーブル・チャンネルのビジネスには未来どころか、残された時間さえも無いということ。 YouTube TV が800万人以上の有料サブスクライバーを獲得して 第4位の有料チャンネルなり、3位のDirect TVを猛追する中、今やケーブル・チャンネルにとって唯一のアトラクションになっているのがスポーツの生中継。 そのスポーツの世界にもネットフリックスやアマゾン・プライム・ビデオがどんどん参入しているのが現在で、ESPN、フォックス、ワーナーブラザース・ディスカバリーが それぞれのTV中継は個別に行いながらも、 ストリーミングにおいては一本化して 競合他社と戦おうというのが新ベンチャー。これら3社は全ての主要プロリーグの放送権を持つだけでなく、カレッジ・トーナメントを含む全スポーツの55%の放映権を握っていることから、 誕生するのはスポーツのメガストリーミング・サービス。しかし定められた放映権料の関係で、1カ月のサービス料金が約40ドルという極めて高額になるのが現在の見積り。
そのため米国議会からの反発が見込まれるものの、この新サービスは企業合併ではなく、ストリーミングに絞った共同ベンチャーであることから、独占禁止法等の法律に触れることは無いと見られるのだった。



テイラーノミックスとNFL


先週日曜に行われたグラミー賞授賞式の視聴者数は前年比34%アップの約1700万人。近年最高の視聴率となったけれど、その要因を担ったのは文句なしに最多ノミネートを獲得していたテイラー・スウィフトによる”テイラー効果”。 その効果は今週日曜のスーパーボウルにも顕著に現れており、テイラー・スウィフトのボーイフレンド、トラヴィス・ケルシーがタイトエンドを務めるカンザスシティ・チーフスの出場が決定してからというのも ”スウィフト・ボール”と呼ばれてきたのが今年のスーパーボウル。
昨年9月後半に2人の交際が報じられてからというもの、テイラーのファン、”スウィフティーズ”の間でNFL、特にカンサスシティ・チーフスへの関心が大きく高まり、スウィフティーズは毎週のように観戦に訪れていたテイラー見たさに NFLゲームにチャンネルを合わせ、スタジアムにも足を運んでいたのが今シーズン。 それまで旅行者が寄り付かなかったカンサスシティは、突如スウィフティーズが押し寄せ、飲食店ではテイラーにちなんだメニューをオーダーし、小売店ではテイラー&チーフス・グッズを買いまくることから、街の経済が活性化。 トラヴィス・ケルシーのジャージーの売り上げは420%アップで、ケルシーはCMにも、メディアにも引っ張りだこ状態。
テイラー効果はNFLのリーグ全体にも及んでおり、今シーズンのNFLは史上最多の女性視聴者数を獲得。またスウィフティーズは試合観戦やグッズ購入に加えて、ソーシャル・メディア上でバズを生み出すことから、 今シーズンのNFLはニュース&エンターテイメント・メディアに取り上げられパブリシティが急増。その結果、スポンサーシップも拡大して、収益もアップするという 巨大スケールのシナジーが生まれており、チーフスがスーパーボウル出場を決める直前の推定算出によれば、その経済効果は何と3億3100万ドル。
スーパーボウルもご多分に漏れずで、30秒のCM放映料は700万ドルで過去最高額。 そのラインナップにはバドワイザーやクアーズといったフットボール・ファンから多大な売り上げを得ているビールやスナック・ブランドに混じって、 e.l.f.やNYXといった化粧品ブランドや健康食品ブランドが女性視聴者をターゲットに初登場。 アメリカがテイラーを中心に回っているような錯覚を覚えるような経済効果になっているのだった。
そんなテイラー効果を「Swiftynomics 101 / スウィフティノミックス 101(101とはアメリカではビギナーに基本を教えるクラスを示す番号)」というタイトルで、経済学のカリキュラムを作成したのが カンサス大学のミスティ・ヘッジェネス教授。これは学生対象のカリキュラムではなく、企業理論とミクロ経済学の指導法を高校、大学の教師にレクチャーするウェビナーで、 通常この類のイベントに集まる3倍以上に当たる 109人もの教員が参加。
テイラーはこれに限らず教育現場でも大人気で、彼女を最初に大学のカリキュラムに盛り込んだのは2022年のNYU(ニューヨーク大学)。テイラーの歌詞を人間心理や社会風潮と照らし合わせて分析するクラスで、 同年にテイラーがNYUから名誉学位を授与され、卒業セレモニーでスピーチを行った際に設けられたクラス。 それ以降も、名門スタンフォード大学、ハーバード大学、カリフォルニア大学、フロリダ大学、デラウェア大学など幾つもの大学がモダン・カルチャーの考察的な視点からテイラー関連のクラスを設けているけれど、 今後増えると見込まれるのが、アーティストとしてのテイラ―よりも、彼女が築くビジネス・エンパイアとその経済効果、”テイラーノミックス”、”スウィフティノミックス”にフォーカスするもの。
テイラーは、ソーシャル・メディアを通じたイメージ・マーケティング、ファンダムとしてのコミュニティの構築、そのファンダムを中心に消費者ベースを広げ、 様々な正論メッセージで社会や世論を動かす影響力を持つ、現代社会で最もサクセスフルなビジネス・モデルの1つ。その分析の方が、経済学の歴史等を学ぶよりも遥かに学生達が興味を持つだけでなく、 リアルタイムの実例で学べる有益な教材と言えるのだった。



スウィフティーズ 対 MAGA の対決!?


テイラーとNFLが巨大なシナジーを生み出した功績はNFL側にあるのもまた事実。
これまでのNFL、及びアメリカの4大プロスポーツと言えば、女性やLGBTQ+を含むマイノリティ・ファンに対しては、「新参者お断り」的な排他的な姿勢が強く、 あえてハードルを高くして、熱心なファンのみ受け入れてきたのがリーグ全体と長年のファンの風潮。 チアリーダーへの長年のセクハラが問題になった通り、男尊女卑カルチャーも激しく、 昔ながらのフットボール・ファンの間では、テイラーとトラヴィスの交際以来、ジェネレーションZ世代のフットボールを知らないファンが増えたことを喜ぶより、嫌う声が聞かれていような有り様。 またNFL側もリーグの未来のために若いファン層獲得を必要優先課題に挙げながらも、新しいファン層より従来の保守系右派白人男性の熱心なファンがプライオリティという体制を崩したことがなかったのだった。
しかし今回NFLが態度を改めたのは、今までならあっさり無視を貫いてきた フットボールに馴染みが無い若いファン層が、突如”スウィフティーズ”という大群で押し寄せてきたため。 しかもスウィフティーズの購買力やソーシャル・メディアを通じた社会への影響力は前述の通りで、 NFLコミッショナーのロジャー・グッデルもカンサスシティ・チーフスのオーナー、クラーク・ハントもテイラー効果を大歓迎。 シーズンを通じて保守右派系ファンから寄せられた批判には、殆ど耳を貸す様子を見せなかったのだった。
しかしここへきて、保守右派、特にMAGA(トランプ氏のスローガンMake America Great Againの略で、昨今では熱烈なトランプ支持者を指す言葉)が訴え始めたのが、 「テイラー・スウィフト&トラヴィス・ケルシーはフェイク・カップルで、2024年の大統領選挙のために民主党とNFLが有権者を洗脳するために結託したプロット」という陰謀説。
テキサス生まれ、その後テネシー州ナッシュビルに移り、カントリー・シンガーとしてデビューしたテイラーは、当初は保守の共和党支持でありながら、政治思想を一切オープンにしなかった存在。 しかし2018年にナッシュビルの選挙で2人の民主党候補の支持を表明。2020年の大統領選では多くのセレブリティ同様にバイデン大統領への支持を表明したデモクラット(民主党支持者)。 更には昨年9月、テイラーがトラヴィスとの交際を明らかにしたのと前後して、彼女がソーシャル・メディアを通じて「選挙のための投票申請を済ませて!」とファンに呼び掛けたところ、その直後に何と300万人が申請。 公共広告に巨費を投じても実現しないことが、テイラーのソーシャル・メディア・ポスト1つで実現したことから、その影響力に危機感をつのらせたと言われるのがMAGA陣営。
2週間前にはAIで生成されたテイラーのディープ・フェイク・ポルノ画像がX上でヴァイラルになり、大問題になったけれど、 インターネット上でそれが急増したのは9月末から。当初は「テイラーの存在が気に入らない保守派NFLファンによる嫌がらせ」と見られていたけれど、 ”保守派NFLファン=MAGA”でもあることから、ディープ・フェイクがネット上に溢れたのは、テイラーの影響力や好感度にダメージを与えるための戦略という見方が強まっているのが現在。
そのため2024年の大統領選はバイデンVS.トランプの対決ではなく、スウィフティーズ 対 MAGA の対決とまで言われるようになっているけれど、 政策ではなく、カルチャー戦争に発展した場合は、明らかにトランプ側に不利な闘いになるのだった。



株式公開、株価好調、益々拡大するスポーツ・ギャンブル市場


スーパーボウルを控えた先週に、ニューヨーク証券取引所での取引を開始したのが英国のギャンブル大手企業、Flutter/フラッター。 同社は人気のスポーツ・ベッティング・サイト FanDuel/ファンデュエルを傘下に収め、ロンドン証券取引所で既に上々している企業。 今回NYでも上場したのは、フラッターにとって現在最大の市場がアメリカになったためなのだった。
アメリカのギャンブル・セクターは、2018年の最高裁判決により 各州の法律でギャンブルを合法化できるようになって以来 急成長しており、 昨年はスポーツだけで60億ドルの収益を記録。NFLシーズン開幕直前のアンケート調査によれば、「NFLの試合でギャンブルをする」と回答したファンの数は前年比40%アップになっていたのだった。
ファンデュエルは、スポーツ・ベッティングの世界では昨年、競合DraftKings/ドラフト・キングにNo.1の座を奪われてしまったけれど、 昨年公開されたドラフト・キングの株価は 1年間で150%以上アップ。半導体メーカーのエヌビディアのような急成長ぶり。
フラッターのNYでの株式公開は、この先まだまだ成長が見込めるアメリカ市場に力を入れるという経営方針もさることながら、 アメリカで上場した方が高い企業評価が得られるためで、今後はロンドンよりも NY市場をメインにしていくのとのこと。 昨今では、同様により高い企業評価を求めて 米国での株式公開に流れる企業が欧州で増えており、そのせいでロンドン証券取引所の苦戦が伝えられるほどなのだった。
話をギャンブルに戻せば、米国のギャンブル市場、特にスポーツ・ベッティングはこれからまだまだ伸びるマーケット。 スーパーボウルだけをとっても、2022年にスーパーボウルで賭けをした成人は314万人で、その賭け金総額は76億1000万ドル。昨年2023年には5040万人が、総額160億ドルを賭けており、 今年のスーパーボウルで賭けをするのは推定で6800万人。アメリカ人の4人に1人の割合。その掛け金総額は231億ドルが見込まれているのだった。
スポーツ・ギャンブルは、スポーツの知識が無い人でも楽しめるようにデザインされていて、 「出場チームの何方がコイントスに勝つか?」、もしくは「試合中に何回テイラー・スウィフトがTV画面に映し出されるか?」等 試合内容とは関係ない事も賭けの対象になり、勝敗やスコア以外にも賭ける対象が沢山あるのは 欧州のベッティング・ビジネスと同様。
今年のスーパーボウルはギャンブルのメッカ、ラスベガスでの開催とあって、現地にやってきた観戦者は試合前から既にギャンブルを楽しむ様子が伝えられるけれど、 ラスベガス自体は、他州でもギャンブルが合法になって以来、ギャンブル収入が年々減っている街。 そのためにオークランド・レイダースをラスヴェガス・レイダースとして誘致し、今回初めてスーパーボウルをホストしたり、50年ぶりにF1レースをホストしたりと、ギャンブル以外のアトラクションの拡大に動いている真最中。
現時点のアメリカで最も大きなギャンブル市場を持つのは2年連続でNY州。そのNYはこれからカジノを建設するところなので、まだまだ市場が拡大する見込みで、 多額の掛け金が払える高額所得者が住む街が 大きな市場になるのは他のビジネスと同様なのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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