Sep. 19 〜 Sep. 26 2022

"Hurricane, Protest, Goldman, JOMO, Etc."
ハリケーン、抗議活動、ゴールドマン報道、JOMOのメンタリティ、ETC.


今週は月曜にエリザベス女王の葬儀が行われたけれど、この日のアメリカのトップ・ニュースはその前日からプエルトリコを襲ったハリケーン・フィオナがもたらしたとんでもない被害。
5年前にカテゴリー3のハリケーン・マリアがもたらした大被害の爪痕が残るプエルトリコを襲ったフィアナはその時点でカテゴリー1。 しかしマリアの4倍の降水量と暴風で、プエルトリコ全土が電力を失い、フィオナが去って6日後の今週末の時点でも 50%の地域で電力と水道水が復旧せず、被害総額は数十億ドル。 フィオナはその後 通常ならハリケーンが通過することが無いカナダに上陸したことから、ジャスティン・トルドー首相はその被害対策のために日本訪問をキャンセル。 既に次なる大型ハリケーン、イアンがフロリダ半島を目指しており、ハリケーンの当たり年と言われる今年は今後も気が抜けない状況になっているのだった。
経済面では、今週水曜に連邦準備制度理事会が予想通り0.75%の利上げを行ったけれど、当然ながらこれを嫌気して株式市場は大暴落。 ダウ工業平均株価はベアマーケット・テリトリーである3万ドル割れで週末の取引を終えているけれど、2022年に入ってから中央銀行が利上げを行った国の数は90以上。
今週のUSドルは3.1%上昇しており、ドル高はまだまだ株価の下落が続くことを意味する状況。 今年に入ってからドルに対して25%価値が下落している日本円については、今週一時1ドル=145円を付けたことから 日銀が円安に歯止めを掛けるために24年ぶりに行ったのが円買い介入。 しかし欧米では機関投資家を中心に、引き続き強気の ”JPYショート”の姿勢は変わっていないのだった。



イランが迎えた”ジョージ・フロイト”モーメント!?


いよいよウクライナ戦争で追い込まれてきたロシアのプーチン大統領が、今週30万人の徴兵令を発動したことから その途端にロシア国内のグーグル検索でトレンディングになったのが 「How to break arm at home」、すなわち家の中で腕の骨を折る方法。これはもちろん徴兵逃れをするためで、街中の抗議デモで逮捕された若者達はそのまま召集令状を突きつけられて 兵役送りになっていたのだった。国外に逃れようとする男性も多く、隣国フィンランドは今週ロシアからの旅行者の入国を制限していたほど。
召集されたロシア人は僅か15日のトレーニングでウクライナに移送されるとのことで、ウクライナのゼレンスキー大統領は 無理やり召集されたロシア兵に対して、 プーチン大統領に闘いを挑むか、さもなくばウクライナと戦わずに降伏するよう呼び掛けていたのだった。

今週の海外ニュースでもう1つ大きく報じられていたのが、イランでヒジャブの着用を巡ってモラル警察に逮捕され、拘留中の先週金曜に死亡したマーサ・アミニ (22歳)に関する大々的な抗議デモのニュース。 マーサ・アミニはヒジャブを被っていなかったという説と、被っていたものの頭髪が見えていたという説があるものの、ドレスコード違反で逮捕され、 警察は死因を「心臓発作で昏睡状態に陥り、転送した病院で死去した」と説明。 しかし彼女には健康上の問題は無く、逮捕後に頭部に怪我を負っていたという証言、父親が遺体の足に多数の青あざを確認しながら 全身のチェックが許されないまま遺体が火葬されたことから、 死因を警察による暴力と疑う声が圧倒的。その疑惑に、日頃からヒジャブを含む女性の服装に言いがかり的な厳しさを押し付けるモラル警察の傲慢さへの不満、1970年代のイスラム革命以来 女性達に強制されてきた 無意味かつ人権を侵害するドレスコードへの反発が加わって、イラン国内の80の地域に広がったのが抗議活動。ヒジャブを燃やしたり、長い髪をカットして 古臭いドレスコードに抗議する女性達に加えて、 男性も数多く抗議活動に参加していたけれど、政府側の弾圧も激しく、週末の段階で出た死者数は約50人。
抗議活動者はインターネットを通じて海外にもサポートを呼び掛け、英米を始めとする世界各国メディアがこれを大きく報じたことから、イラン政府は国内で最も利用者が多いソーシャル・メディア、 インスタグラム、ワッツアプへのアクセスをインターネットのシャットダウンによって制限。ちなみにイランではツイッター、YouTubeは共に禁止されて久しい状況。
イラン政府が国民のインターネット・アクセスを制限したのは過去1年間で3度目のことで、今やイラン政府にとってインターネットのシャットダウンは反政府勢力を弾圧するための有効な手段。 2019年12月には 1夜にして燃料価格が300%値上がりしたことから 20万人が繰り出す大々的なデモが起こったけれど、 その時には2週間に渡ってインターネットがシャットダウンされ、世界からの監視の目が届かないこの時期に 抗議活動絡みで1500人が死に至っているのだった。

イラン国内ではこれまでにも マーサ・アミニのような犠牲者が出る度に起こってきたのが女性差別に反発する抗議活動。 2019年には女人禁制のスタジアムにサッカー観戦のために男装して忍び込んだサハ―・コダヤリ (29歳)が逮捕され、たったそれだけの罪のために6ヵ月の拘留刑になることを知って、 抗議の焼身自殺を図っており、その直後にも見られたのが抗議デモ。
しかし今回のマーサ・アミニへの抗議が これまでにない規模に発展しているのは 警察が死因についてウソをついている疑い、 日頃からのモラル警察に対する市民の反発、女性に対する長年の差別の象徴であるヒジャブが絡むこと、そして世界的な政情不安を受けて 反政府運動が高まる風潮にあること等、様々な要因が重なっただけでなく、 マーサ・アミニが 2020年にアメリカで大きく広がったブラック・ライブス・マターのムーブメントにおけるジョージ・フロイトのような アイコニックな存在になっているため。
この抗議活動によって、果たして何かが変わるかは別として、インターネットの普及やグローバリゼーション、そして改革を求めて地道に活動を続けて来た団体の影響で、 20年前だったら「あんな国に生まれなくて良かった」と他人事で済ませていた欧米の社会が この抗議活動のサポートに動き始めているのは紛れもない事実なのだった。



レイオフ間近、CEOがDJ稼業優先、1400人によるセクハラ訴訟のゴールドマン・サックス


先週からウォール・ストリートで囁かれているのがゴールドマン・サックスのレイオフが迫っているという噂。 ゴールドマンは日本で言うリーマンショックである前回のファイナンシャル・クライシスの際に、他の金融機関に先駆けて3段階に分けた大型レイオフを行っていた存在。 9月入ってから従業員にオフィス・カムバックを強くプッシュした一方で、出社していた従業員に対する送迎車、無料のブレックファスト&ランチといったインセンティブがどんどん廃止され、 遂に先週廃止されたのが最後まで残った無料デザイナー・コーヒーのサービス。 社員にめっぽう評判が悪いCEOのデヴィッド・ソロモンは 「クビになるかもしれないと言う恐怖心だけで十分な出勤のモチヴェーションになる」という強気の見解を示しているのだった。
そのデヴィッド・ソロモンについて 今週のメディアが報じたのが、会社のプライベート・ジェットを彼の副業であるDJパフォーマンスの移動に使用していた事実。 2018年に大方の予想を裏切ってCEOに就任したソロモンは、”DJ D-Sol”をステージネームにDJを営み、スポティファイで月間平均120万のストリーミングを獲得してきた存在。 2020年夏には当時のNY州のパンデミック・プロトコールを破って ハンプトンでのイベントにチェーンスモーカーの前座として出演したことで顰蹙を買っていたけれど、 昨今ではステージネームを”デヴィッド・ソロモン”に改め、そのDJとしてのブランド確立のために社内スタッフのヘルプを仰いでいることがインサイダーの証言で明らかになっているのだった。
ソロモンが プライベート・ジェットの中でも最もプレステージが高い ガルフストリーム G650の社機を使用して7月末に出掛けたのはシカゴ。 昼間には特に必要無いクライアントとのミーティングがセットアップされ、7月29日金曜にソロモンが出演したのがシカゴ最大のミュージック・フェスティバル、”ロラポローザ”。 今年はヘッドライナーにデュア・リパやBTSのJ.ホープ、グリーン・デイらが出演したロラポローザでのパフォーマンスの様子は、ソロモンのインスタ・アカウントにポストされているけれど、 当然のことながら そんなCEOの利己的な振舞いに不信感を覚えているのが役員会、及び社内スタッフ。

企業トップがそんな行動をする中で ゴールドマンが復活させようとしているのが、同社の悪名高き 年末のジョブ・パフォーマンス・レビュー。 低評価の社員、ボトム5〜10%をレイオフの対象にしてきたのがこのシステム。しかしながら社員が不安や不満を抱えながらオフィスに戻ったばかりの段階での再導入については 社内でも賛否が分かれていることが伝えられるのだった。

それとは別に、今週一部が公開されたのがゴールドマン・サックスの現役&退職後の女子社員、1400人による 同社内の違法な性差別に対する集団訴訟の内容記録。 そこには女性社員からのレイプを含む性的虐待の被害の訴えを口頭注意で済ませ、実力のある女性社員の昇給昇進を阻む典型的な「ボーイズ・クラブ・カルチャー」の実例が多数記載されており、 性的虐待が刑事訴訟に発展しているケースも含まれているのだった。
裁判は2023年6月にスタートするけれど、現時点ではゴールドマン側は「女性達の被害妄想、誤解、勘違い」という主張で、全面対決姿勢。 もちろん有力な弁護団を従えて裁判に臨むと見込まれるけれど、あまりに多い被害者の数とMeTooムーブメント後の世論、 そして何より一般庶民から”鼻持ちならない存在”と見なされるゴールドマン・サックスの企業イメージが 裁判の行方にどう影響するかが見守られるのだった。



6PM is New 8PM と JOMO


今週のNYでショッキングに報じられていたのが、過去35年に渡るブロードウェイ史上最長の上演記録と、1900万人以上の観客動員数を誇るミュージカル、「オペラ座の怪人」が2023年2月をもって上演終了が決定したニュース。 それ以外にも今週には「ビートルジュース」、先週にはオープン当初ヒュー・ジャックマンが出演していた「ミュージック・マン」等の上演終了を発表され、現在ブロードウェイで経営が成り立っているのは 「ハミルトン」、「ウィックト」、そして「ライオン・キング」のみと言われるのが現在。 シアターゴーワー激減の最大の原因は旅行者、特に海外からの旅行者がNYに戻っていないためであるけれど、同時に激減しているのがニューヨーカーのシアターゴーワー。
そもそもNYは パンデミック後のリカバリーが全米で最もスローな都市。プレパンデミックに比べて就労人口が17万6000人も少なく、 それを象徴するかのように地下鉄利用者は8月の段階でプレパンデミックの63%にしか満たないことがレポートされているのだった。
加えてレントの高騰とインフレで可処分所得が減っていることも人々がシアターに行かない要因になっているけれど、 このことはレストラン・ビジネスにも影響を与えており、夏休みが終わって国内旅行者が去った現在のNYは 有名レストランでも驚くほど予約が取り易い状況。 そしてどんなレストランでも真っ先に予約が埋まるのが6〜7時の時間帯。 かつてのNYでディナーのゴールデン・タイムと言えば8時。ところが今では8時からが予約が取り易い時間帯で、 外食時間の前倒しが顕著になっているのだった。

ディナー・タイムを早める傾向は、2021年初夏にレストラン営業が再開した直後から始まっていたけれど、 当時は人々がパンデミックとロックダウンで長く自宅に籠っていた直後というタイミングで、レストラン自体も9時、10時でクローズしていたので、 一時的な現象と見られていたのだった。 しかし今ではそれがすっかり定着してしまい、かつて就寝時間が早いシニア層をターゲットにしていた ”アーリーバード・ディナー”の時間帯の客層がすっかり若返っているけれど、 これはライフスタイル的には健康志向と捉えられているのも事実。食事の時間が早まれば就寝時刻も早まって、十分な睡眠時間が確保できるだけでなく、ディナーからの帰宅後に自分の時間が持てることも 生活のゆとり、引いては精神のゆとりに繋がると見なされているのだった。

"The city never sleeps"の異名を取るNYでさえこんな状態なので、世の中で昨年あたりから取り沙汰されている新トレンドがJOMO。 これは”Joy Of Missing Out”の略で、FOMO(Fear Of Missing Out)の対極にある思考。 FOMOは自分だけが取り残される強迫観念のことで、友達のインスタグラム・アカウントを見て自分だけが参加していないディナーやパーティーを見て不安になる心理を意味する言葉。 それがやがて「自分だけが上昇相場で儲けそこなう」という解釈になって、株やクリプトカレンシーの取引でも判断を誤る精神状態の1つと見なされるようになっているのだった。
これに対してJOMOは気乗りがしないことに参加しない喜び、自宅などでリラックスしながら自分の時間を自分のために使える優越感や安堵感を意味する言葉。 「誰の目も気にせずに、自分の好きな物を食べて、好きな事をする時間が大切」というメンタリティになると、 気乗りがしない外出の予定が迫って来るにしたがって「やっぱり出掛けたくない」という気持ちが高まるようで、 その前日や間際に理由を付けてキャンセルした途端に味わう解放感や幸福感を指す言葉としても使われるのがJOMO。 これは職場に欠勤の連絡をした途端に元気になるのと同じような心理で、JOMOがトレンディングである限り レストラン・ビジネスにとって主要な収入源になるのがデリバリー・ビジネス。 そのせいか レストランではデリバリーに不向きな名物料理がメニューから消える傾向が顕著。
これが比較的高額なレストランになるとメニューはプリフィックス、すなわち既に決められたコース料理のみ。 アラカルトでオーダー出来るレストランはメニューのバラエティが以前より遥かに少なく、食材費やキッチンの人件費を削っているのは明白。
今後は景気動向を反映して、人々が外食回数を減らすことが見込まれるけれど、わざわざ出かける価値があるレストランもどんどん減っているのが実情なのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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