Sep. 5 〜 Sep. 11 2022  2022

"Job Cuts, Roomba, Unpaid Bill, Etc."
ジョブ&コスト カット、ルンバがスパイ、電気代が払えない!?、ETC.


アメリカという国は9月第一月曜日のレイバー・デイが終わると、それまでの夏休みから いきなりビジネス・モードになる国。 今週はアップルが新しいアイフォンを発表し、株式相場は4週間ぶりに週足がプラスになり、 NFLは新シーズンがスタート。NYではファッション・ウィークが始まり、公共交通機関でのマスク着用義務が29ヵ月ぶりに緩められて、 ゴールドマン・サックスを始めとする大手企業の従業員がいよいよオフィスにカムバックしたのも今週。 それを受けてか、NYのオフィス・リースは先月末の段階で2019年のレベルに戻ったことも伝えられているのだった。
でも今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのは木曜のエリザベス女王逝去のニュース。今週はイギリスでリズ・トラス新首相が誕生していたけれど、 女王の体調不振から慣例を破ってバルモーラルでトラス首相を正式に任命した48時間後の逝去。トラス首相はエリザベス女王の70年間の即位中15人目の英国首相。 その間、女王は1950年代のアイゼンハワーに始まり 現在のバイデン氏まで、13人の米国首相と対面してきたけれど、 アメリカのメディアはその死を悼む一方で、エリザベス女王即位時代に繰り広げられた英国植民地主義に対する批判の声も聞かれ、 特にアフリカ諸国に対する抑圧、天然資源の搾取、強制的な管理システムに改めてフォーカスが当たり、追悼ムード一色では無かったのもまた事実。
事実、大英帝国の元植民地から成るコモンウェルズ諸国での女王逝去のリアクションは冷めたものが多く、英国王室を自国のロイヤル・ファミリーと見なさなければならない これらの国々では「もはや女王も王も要らない」という声が圧倒的。今年3月にウィリアム王子夫妻がコモンウェルズのカリブ諸国を歴訪中にブーイングされた様子が象徴する通り、 女王逝去をきっかけにオーストラリア、ニュージーランドを含む国々がコモンウェルズから離脱することが有力視されているのだった。



雇用フリーズ、レイオフ & コスト・カット


前述のように9月に入ってから、これまで自宅で仕事をしていた従業員に対するオフィスへのカムバック圧力が大きく高まったアメリカであるけれど、 同時に進行しているのが雇用フリーズ&レイオフ。
5月の段階で新規雇用凍結を発表していたオンライン・ホームデコのウェイフェアは、従業員の5%に当たる870人の解雇を発表。 ちなみにウェイフェアはロックダウン開始以降、ホーム・オフィス用の家具が飛ぶように売れて業績を大きく伸ばした所謂”ステイホーム”銘柄。 しかしその商品の殆どが中国からコンテナ船で運ばれるとあって、まず物流チェーンの問題に見舞われ、現在は需要を見込んで抱えた在庫が インフレによる家計圧迫で売れないために業績が悪化している小売業の1つ。 解雇されたのは全てコーポレート・スタッフで、870人という数字は同社コーポレート・スタッフの10%に当たるとのこと。
同様に在庫過多が業績の足かせになっているウォルマートでは、2021年末にオミクロン株感染が急増した際に、欠勤スタッフの穴を産めるために スタッフを増員。しかし2022年第1四半期前半で感染が一段落し、予想より遥かに早くスタッフが職場に戻ったことから第2四半期にはオーバースタッフ状態。 同様のオーバースタッフはパンデミックの間中、従業員不足を埋めるために時給を上げ、待遇改善で従業員を増やしたアマゾンでも起こっている問題。 ウォルマートは前年比で24.8%利益を落としており、アマゾンはオーバースタッフによる生産性低下により20億ドルの損失が見込まれるとのことで、 どちらも雇用フリーズとレイオフがジワジワ進行中。
パンデミック中に業績を伸ばしたUberも 2022年第1四半期に60億ドルの損失を計上したことを受けて、雇用削減、もしくは凍結をCEOのダラ・コースロウシャヒがほのめかしたけれど、 それと同時にマーケティングの大幅スケールダウンを発表していることから、社内のマーケティング部門が戦々恐々としている状況。 そもそもIT業界は2022年の上半期だけで ネットフリックス、ロビンフッドを含む155社が2万2800人を解雇し、どの業界よりも先に雇用フリーズを打ち出してきた その波は広がる一方。

約1800人の従業員解雇を発表していたマイクロソフト社は、それに加えて数百人ものヘッドハンティング担当の契約スタッフを解雇。これが意味するのは 言うまでもなく新規雇用の大幅削減。
今年に入って企業設立以来、初の雇用フリーズに踏み切ったフェイスブックの親会社メタも、その凍結を少なくとも年内一杯継続する意向を発表。 つい最近にはCEOのマーク・ザッカーバーグが「全ての部門で規模を縮小する」とレイオフを示唆する発言をしたばかり。 その理由として業界全体の不振と共に挙げられていたのが、アップル社によるデータ・プライバシー・ポリシーの変更。 これによって以前ほど的確なユーザーデータの入手が出来なくなったことで、広告収入が減少しているフェイスブック、インスタグラムは この状態が悪化した場合、サービスの有料化を視野に入れていることも噂されている状況。 
7月に2週間の雇用凍結を発表したグーグルも その延長を発表しており、終結の目途は一向に立たないと言われるのだった。 また今週には極力出張を控え、社費を使った社内・社外での会食やソーシャル・イベントを禁じる社内メモの存在がメディアで報じられており、 コスト・カットだけでなく、1人当たりの生産性を20%向上させるようにとの通達も出ているとのこと。

多くの企業が日本で言うリーマン・ショックこと、2008年のファイナンシャル・クライシスの時点より キャッシュを確保してリセッションを迎えようとしていると言われるものの、 ここへ来てどの企業でも顕著なのが人件費を含むバジェット・カット。 そのため2023年末までに米国失業率は現在の約2倍に当たる7%前後に達するという見方が有力。
失業率上昇は景気の視点からは歓迎されることではないものの、失業者が増えればFEDこと 連邦準備制度理事会が 金利を大幅に上げることが出来ず、度合いによっては金融緩和に転じざるを得ないとあって、 株式でもクリプトカレンシーでも投資をする人々の間で聞かれるのは毎月発表される雇用統計の悪化を望む声。 このままFEDがホーキッシュ(hawkish=アグレッシブ)な利上げを続けた場合、株式相場は40〜50%下落するという見方は非常に有力なのだった。



ルンバがアマゾンのスパイになる日!?


つい最近連邦公正取引委員会が審査に入ったのがアマゾンによるロボット掃除機、ルンバの製造元、iRobot社の買収。 その買収価格は17億ドルと言われるけれど、これに猛反発しているのがプライバシー擁護団体。 理由はこの買収によって アマゾンがルンバのオペレーティング・システムを通じて膨大な個人情報を得るため。 ルンバは前面に装着されたカメラによって、ユーザーの自宅レイアウトを完璧に掌握するだけでなく、 住人のスケジュール、ライフスタイル、生活習慣等、ありとあらゆる情報を収集するようにデザインされたマシン。 その情報を 1億4860万人のプライム・メンバーの購入歴と購入ビッツを掌握し、 米国スマート・スピーカー市場の70%と言われる4000万人からアレクサを通じて ライフスタイル情報を得ているアマゾンが入手することは、そのビジネスに計り知れないアドバンテージを与えるのは容易に想像がつくところ。
例えばルンバから得られる室内サイズ、位置&ムーブメントの情報は、 ユーザーが部屋をホームオフィスに模様替えしようとしていた場合、 空間にピッタリ収まるデスクや収納棚等を 他の部屋のインテリアとのバランスを考慮してサジェストするといったことを可能にする訳で、 生活やプライバシー情報の全般を握れば握るほど、アマゾンは痒い所に手が届くサービスで有利なビジネスが展開できることになるのだった。 そのため公正取引委員会では、小売りとロボット・ディバイスという2つの分野でこの買収が独占禁止法に違反しないかを審査することになっているのだった。

そのアマゾンは現在、4.1兆ドルと言われる米国ヘルスケア市場への参入にも取り組んでいる真最中。 近年のアマゾンはオンライン薬局を買収し、医療テストのラボを設立する一方で、”アマゾン・ケア”というネーミングで 医療窓口と救急医療のサービスを提供してきたものの、こちらは利用者が増えず 年内でサービス終了を発表したのが8月のこと。アマゾンとしては珍しい失敗ビジネスに終わったけれど、 代わりに同分野で既に実績があるスタートアップ企業、”ワン・メディカル”を39億ドルで買収。今後は”ワン・メディカル”を土台にアマゾン・ヘルスのサービス拡大に取り組み直すことになっているのだった。
さらにアマゾンが現在従業員を対象に試験展開しているのが ”Katara/カタラ”という新たな業態。 これはアクネや脱毛といった医療というよりコスメティックに近いメディカル・サービスをオンラインで提供するビジネス。 アマゾン・ドットコムでのショッピング同様に日常生活の一部になる医療サービスの提供を目指すようであるけれど、 家の中から身体の中にまでアマゾンという企業が入り込む状況を懸念する声も非常に多いのだった。



電気代が払えない!?


今週のアメリカ西部は連日の猛暑で、特にロサンジェルスは冷房による電力消費がマキシマム・レベルに達していたことから、 7日連続で市民に危機感と共に呼び掛けられていたのが節電。今年は干ばつのせいで水力発電の稼働率が大きく下落していたことも歴史的な電力不足を招いていた要因。 でも猛暑が一段落してからも世界規模で様々な形で見込まれるのがエネルギー危機で、既に世界各国で見られているのが電気、ガス光熱費の尋常でない値上がり。
例えばNYでは2021年12月まで平均的な住宅の月額電気料金が82.50ドルであったのに対し、2022年に入ってからは123.65ドルにアップ。 この値上がりは商業施設では更に顕著で、ブルックリンのピザ・ショップでは2021年12月まで約2200ドルだった月額電気料金が、年が明けた途端に4600ドル以上に跳ね上がったとのこと。 それを受けてNY州全体で約130万人が総額17億ドルの電気代を滞納する事態になっているのだった。
これが全米規模になると電気代の滞納件数は史上最多の2000万世帯。6軒に1軒の割合であることがナショナル・エナジー・アシスタンス・アソシエーションにより発表されているのだった。 そうなってしまうのは、ここへ来てガソリン代の値上がりは一段落したとは言え、それまでのインフレによる食費とガソリン代の高騰というダブルパンチが家計を圧迫した結果、 滞納しても3ヵ月前後の猶予がある電気代の支払いが後回しになっていたため。7月末の段階で全米の滞納総額は約160億ドルで、その7月は全米平均の電気代が前月比で4%上昇。 前年同月比では16%値上がりしており、インフレ率を遥かに上回る上昇ぶりを見せているのだった。

この最大の原因は言うまでもなく既に7ヵ月以上続くウクライナ戦争の影響で、ロシアはインドと中国を相手に石油を輸出して戦争前よりも利益を上げながら、 欧州諸国への天然ガスのサプライを今後更にカットする方針。アメリカはNATO諸国をサポートするために液化天然ガスの輸出増量を迫られており、 その影響で国内の更なる燃料費高騰を招くことが見込まれるけれど、アメリカよりも遥かに深刻なのが限られたエネルギー源で厳しい寒さの冬を乗り切らなければならない欧州諸国。
特に エネルギー問題が深刻なのは 猛暑に見舞われた夏の段階で 国民にシャワー時間の短縮や冷房のスイッチオフが呼び掛けられていたドイツ。 加えて今週 新政権、新国王が誕生したイギリスでも 10月から電気ガス光熱費が何と80%上昇することになっており、 これに対しては10万人以上のサポーターを擁するオンライン・グループ ”Don't Pay UK” が早くも支払いボイコットを呼びかけている状況。 この膨大な値上げに加えて、アメリカより深刻なインフレに対する国民の怒りが大きく高まった場合に見込まれるのが、そもそも国民の間で不人気だったチャールズ三世のために税金を支払いたくない国民が その矛先を政府だけでなく王室にも向けること。そのため今週のアメリカ・メディアでは既に「チャールズ三世が最後のイギリス国王になるだろう」と予測する声さえ聞かれていたのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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