June 28 〜 July 3, 2022
妊娠中絶違憲後のトレンディング、ホワイトカラー・レイオフ・ブームの背景、Etc.
今週末のアメリカは建国記念日を月曜に控えたホリデイ・ウィークエンド。
同時にヴァケーション・シーズンの真只中でもあるけれど、この夏全米で不足しているのがライフガード。
NYは1400人必要なライフガードが僅か700人しか集まらず、そのせいでオープン出来ない公営プールがあり、
オープンしていても 無料のスイミング・レッスンは中止。ビーチでも時給をアップして、既に資格を持つライフガードのリクルートを急いでいる状況。
NYではこれまでライフガードの時給は現在のNY州の最低賃金である15ドル前後であったけれど、今年からは22ドルにアップ。
お隣のニュージャージ―州でも同様に今年からライフガードの時給が大きくアップし、ビーチ・コミュニティ同士がライフガード獲得のために争う様子が伝えられるのだった。
一方、先週のこのコラムでもお伝えしたように、連邦最高裁が6月21日に下したのが公の場での銃所持にライセンスを必要とするNY州の法律を
違憲とする判断。それを受けてNYでも合法的に銃を入手した人々が街中で銃を持ち歩けることになってしまったけれど、これに対して即座にカウンター法案を成立させたのがNY州政府。
タイムズ・スクエアや学校、公園、教会、スポーツ・アリーナ、コンサート会場、公共交通機関等、人が集まるほぼ全ての場所での銃の所持を禁止し、
商業施設においても 他州ではウォルマート等が「銃の持ち込み禁止」サインを出して店内での銃所持を禁じているのに対して、
NY州においては「銃所持者を受け入れる」というサインを掲げていない限りは銃の持ち込みを禁止するのがこの法案。
銃規制に反対する共和党議員が「これでは銃持参で何処にも出掛けられない」と反論したものの、
NYは民主党支持者が圧倒的に多いブルー・ステーツ。そのため同法案は金曜に無事可決の運びとなっているのだった。
妊娠中絶違憲判決翌週のベストセラー&トレンディング
先週金曜に連邦最高裁が人工中絶を違憲と判断したことから、南部、中西部の共和党保守層が多い9州では、
その日のうちに人工中絶が違法になったのは先週のコラムでもご説明した通り。
そんな中、女性達を混乱させていたのが 中絶ピル服用の合法性。
アメリカでは 妊娠中絶の50%以上が、ミフェプレックス 及びそのジェネリック版という2つの処方箋薬によって行われており、
FDA(食品医薬品局)が妊娠後10週間まで認可しているのがこれらのピルによる中絶。
ミフェプレックスは 過去22年に渡ってダンコー・ラボラトリーズが生産してきた中絶薬で、
服用後に腹痛と出血が起こることから 限られたルートのみでの処方。
オンライン・オーダーにも電話コンサルテーションが必要で、19州が処方に際して
義務付けているのがフェイス・トゥ・フェイスのコンサルテーション。
中絶手術が400〜500ドルなのに対して、中絶ピルのコストは50ドル。しかも
周囲に悟られずに中絶が可能になることから、最高裁の判決以来、中絶ピルの情報提供をするウェブサイトへのアクセスは 通常の3500件から、
20万件以上に膨れ上がり、ミフェプレックスの需要も激増。FDAではミフェプレックスを年末までに通常の薬局でも入手可能にする意向を示しているけれど、
ダンコー・ラボラトリーズは 「それが実現すれば、確実にサプライ不足に陥る」とコメントしているのだった。
中絶ピルには、他にも処方箋を必要としないモーニング・アフター・ピルというものがあり、
これは排卵日前後に避妊を怠った場合、避妊具に問題が生じた場合などの 性交渉後72時間以内に摂取するもの。
最も有名なのは写真上右のプランBで、受精卵が子宮に移植されるのをブロックするホルモン、レボノルゲストレルを成分としているのだった。
今週にはモーニング・アフター・ピルの売上も急増したことから、ウォルマートやCVSといったウェブサイトが
一時購入制限をしていたけれど、買い溜めをしていたのは もっぱら妊娠中絶が違法の州に住む女性達で、
やがて入手出来なくなることを危惧してのリアクション。
実際に南部、中西部の州では、壊れかかった橋の修復予算案が何年掛けても纏まらないのに対して、
妊娠中絶の法改正についは あり得ないスピードで進んでいるのが現在。
そんな今週にはソーシャル・メディア上で 「セックス・ボイコット」が女性達に呼び掛けられていたけれど、
もう子供が欲しくない男性達の間でトレンディングになっていたのが精管切除、俗に言うパイプカット。
フロリダ州で1日18件の精管切除手術を行い、「Vasectomy King / 精管切除の王」の異名を取る専門医、ダグ・スタインによれば、
最高裁判決以降に殺到した申し込みのせいで 彼のスケジュールは8月末まで一杯とのこと。
申し込んだのは以前から手術を考えていた男性が多いそうで、その決断の後押しになったのが最高裁判決。
果たして何歳程度の どんな政治思想を持つ男性が手術を受けているかは不明であるけれど、
もし女性も不妊目的で卵管切除をするようになった場合には、保守右派と最高裁がその禁止に動いたとしても全く不思議ではないのだった。
IT ホワイトカラー・シャッフル、始まったレイオフの第二波
このところ相次いでいるのがホワイトカラー・レイオフ。
先週のこのコラムで大手不動産会社2社が約10%の従業員を解雇したとお伝えしたけれど、昨今100〜1000人単位の大量レイオフを行っているセクターは、
ITとファイナンス。今週にはテスラが約200人を解雇しているけれど、CEOのイーロン・マスクは約10万人のテスラ従業員の10%削減を表明しているだけに、
このレイオフは氷山の一角。マスクは買収成立後のツイッターでも大量レイオフを宣言しているのだった。
また今年に入って業績が悪化するネットフリックスも 5月の従業員150人、パートタイム70人の解雇に続いて、先週300人の従業員解雇を発表。
同社もレイオフ・ラウンドが未だ続くことを表明している存在。
それ以外にもオンライン・レクチャーの”マスター・クラス”が全従業員の20%に当たる120人を解雇。ペイパルが本社社員を80人、
株式取引アプリ、ロビンフッドも従業員の9%に当たる300人の解雇を発表。
クリプトカレンシーの大手取引所、コインベースは従業員の18%に当たる1100人をレイオフ。
アパレルの月間サブスクリプションを提供するスティッチ・フィックスは 従業員の15%に当たる330人をスタイリング部門など テクノロジー以外の部門から解雇。
過去約3週間のITセクターのレイオフは1万人を超えており、2022年に入ってからでは IT企業155社が2万2800人を解雇しているのだった。
現在のITレイオフはパンデミックに突入以降、第二波と言われるもの。
第一波は2020年春のロックダウン中のレイオフで、エアBnB、Uber、トリップ・アドバイザーなど、旅行&移動関連のIT企業が
次々とレイオフを発表した時で、これは3ヵ月程度で終焉。
逆にこの時に大きくビジネスを伸ばし、人員を増やしたのが
ネットフリックス、ZOOM、ペロトンといった所謂ステイホーム銘柄と、若い世代の投資ブームを反映したコインベースやロビンフッド。
当時の労働市場全般は低失業率を受けて 完全な売り手市場で、この時期 多くのホワイトカラー層の給与がアップしていたのだった。
現時点の第二波で大量レイオフをしているIT企業は、
2020〜2021年に 業績拡大がこの先も続くと見込んでオーバー・ハイヤリング、すなわち人員を増やし過ぎた企業、及びインフレと金利上昇の煽りを受けている企業。
前述のロビンフッドは、2020〜2021年にパンデミックの助成金で投資を始めたジェネレーションZ世代の利用者を大きく増やしたのは周知の事実。
その間に700人だった従業員は3800人に膨れ上がったけれど、やがて業績がドラマティックに低下して 2021年8月に55ドルをつけていた同社株価は今週末約8ドル。
コインベースは、同様のオーバー・ハイヤリングにオーバー・ペイが重なったケース。
アメリカのコール・センター従業員の平均年収が約3万6000ドルなのに対して、コインベースはオペレーターに7万ドルというほぼ2倍の年収を支払っており、
経営者が若く、急速に伸びた企業にありがちな人件費無駄遣いが指摘されているのだった。
インフレの煽りを受けているのは、ネットフリックス、スティッチ・フィックスといった ありとあらゆるサブスクリプション・ビジネスで、ガソリン代や食費の値上がりを受けて
まず最初にカットされる生活費が ストリーミング・サービスや毎月商品を送りつけて来るサブスクリプション。
金利上昇が影響しているのは もっぱら住宅ローンや不動産を扱うビジネス。
住宅ローンのスタートアップ、Better.comは2021年のホリデイ・シーズンから2022年春までに4000人のスタッフを解雇しており、CEO ヴィシャール・ガークが
ZOOMミーティングで900人に解雇を言い渡したのは有名なエピソード。
2週間前に連邦準備制度理事会が金利を0.75%引き上げたことから 住宅ローン金利は過去22年間で最高の5.78%となっており、
昨年現時点に比べると住宅ローン申請数は57%減少。ローン申請が減れば不動産も売れない訳で、
オンライン不動産業者の Zillow は2022年に入ってから従業員の25%に当たる2000人を解雇しているのだった。
同様の解雇は大手銀行にも及んでいて、J.P.モーガン・チェースは住宅ローン部門の数百人のレイオフ、及び配属変更を発表しており、約1000人がその影響を受けると報じられるのだった。
グローバル・リクルートが始まる!?
こうしたホワイトカラー・レイオフがまだまだ増える中、ニーズが衰えないのがブルーカラー労働者。
6月の段階でアメリカの失業率は3.9%。2020〜2021年に掛けての
グレート・レジグネーション(大量辞職)以降、国内には1140万のジョブ・オープニングがあり、これは失業者1人に対して仕事が2つ用意されている計算。
特にサービス、運送、教育等の現場では労働者不足が極めて深刻であることが伝えられるのだった。
そんな中、「今後アメリカで求められるのはブルーカラー労働者だけ。リセッションが一段落しても ホワイトカラー雇用は以前のレベルに戻らない」と
予測するのが 映画「ビッグ・ショート」のモデルにもなり、2008年のファイナンシャル・クライシスを見事に予測したヘッジファンダー、マイケル・バリー。
彼によれば、パンデミック以降 多くのホワイトカラーが自宅勤務を希望し、オフィスへの呼び戻しが難しくなった現在、
経営者が悟り始めたのが 「どうせリモートで働くのであれば、給与が高いアメリカ人を雇う必要はない」という事実。
要するに製造業がアメリカから物価と賃金の安い国に出て行ったのと同じ状況が、
これからはホワイトカラー業務で起ころうとしているというのがマイケル・バリーの予測。
その証拠に、イーロン・マスクがテスラのレイオフと共に宣言していたのが「今後は時給で働くスタッフを増やす」という新たな方針。
これは人件費の大きな割合を占める 高額給与のポジションを物価や給与の安い国の有能な人材に置き換えるということで、
グローバル・リクルート時代の本格到来を意味するもの。
すなわち世界中何処に住んでいてもエンジニア、プログラマー、デザイナー、アニメーター、その他のスキルを持った人々が
アメリカの大手企業の採用対象になるということ。
アメリカでは 過去にカストマー・サービスやテック・サポートの電話対応、会計業務等を
インドの企業に委託して コスト削減を図った時代があったけれど、
これから起ころうとしているのは、個人ベースのリクルート。
それも世界各地の支社を通じてではなく、アメリカ企業が世界中の人材を直接雇用する体制。
実際に2021年のフォーチュン/アドビ社の共同調査によれば、米国企業の64%が「リモート・ワークの時代になったので、アメリカ国外からも積極的に人材を雇うことを考えている」と回答しているとのこと。
そんな海外からの有能な人材が割り込んできた場合に、競争が激しくなるのがホワイトカラー・ジョブ。
今やアメリカの労働者に占める大卒者の割合は過去最高の38%。
アメリカ人が大学に進学する最大の理由は、高給で安定した仕事を得るためであるけれど、
これからはそんな大卒者達が どんどん減って行く仕事を奪い合う時代。
そして何時の時代も経営者だけは儲けが増やせる構造になっているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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