Dec.6 〜 Dec. 12, 2021
QuitTok、2021年Most liked Tweet、SATCリブートが立証するPR悪夢
今週金曜にはアメリカの11月物価が昨年同月に比べて6.8%の上昇を見せ、40年ぶりのインフレ水準になっていることが報じられたけれど、
昨年11月に比べて22%もアップしているのがNY市のレント。昨年春から夏に掛けての住人の州外流出が相次ぎ、レントが下がっていた状況は遠い昔の話になりつつあるのだった。
そのNY市議会で今週可決されたのが、市民権を持たないグリーンカードや就労VISAの取得者に対して市長、会計検査官、市政監督官などを選出する
NY市選挙への投票権を認める条例案。
これによって約80万人の移民に対して新たな参政権が与えられたことになるけれど、州知事選や大統領選挙など州や連邦の選挙については引き続き投票権は無いまま。
NY市は移民の国 アメリカの中でも、最も移民が多いエリアで、そのパワーがそのまま街の勢いになっていることもあり、
市民からは大いに歓迎されているのがこの条例の可決。
しかし共和党側がこれを覆す法的アクションを起こすことも見込まれるため、未だ移民が諸手を挙げて喜ぶには時期尚早と言えるのだった。
Welcome to QuitTok!
今週ソーシャル・メディアでヴァイラルになっていたのが、ソフトバンクがバッカーになっているNYの住宅ローン貸付会社 Better.comのCEOで 問題発言が多いヴィシャール・ガーグ(43歳)が、
ZOOMを通じて従業員の9%に当たる900人を解雇した際に、彼らを「生産性が無い怠け者」となじった様子を収めたビデオ(写真上左)。解雇が行われたのは先週水曜で
このビデオがヴァイラルになって以来、ガーグはその言動を謝罪。しかし程なくBetter.com の有能な上層部3人がCEOに抗議して辞職したのを受けて、金曜には
ガークが休職扱いとなり、代わりのリーダーシップを独立した第三者の企業に委ねることが 同社役員会とガーグ本人の意向により決定したことが報じられているのだった。
その一方でNY州バッファローのスターバックスでは、本社経営のフランチャイズで初の労働組合結成が社員投票により可決。これまで労組結成を阻んできたスターバックスにとっては、
創業50年目にして初の労組誕生で、今後増えることが見込まれるのが同様のケース。
そしてこの2のニュースが象徴していると言われるのが、若い世代の労働に対する姿勢や考えが ブーマー世代、ジェネレーションXとは異なる様子。
パンデミック以降の人手不足を背景に、長時間労働、トキシック・エンバイロメント、高圧的な経営姿勢に対してオールド・ジェネレーションのように大人しく従うだけではないのがこの世代。
同じく今週発表されたデータによれば、10月に仕事を辞めたアメリカ人の数は420万人。過去最高を記録した9月の440万人には及ばなかったものの、
”グレート・レジネーション(膨大な辞職)”と呼ばれるほど辞職者が多い2021年は、アメリカの労働者の4人に1人の割合で仕事を辞めた計算。
貧困層の高齢者がリタイアを先送りする一方で、若い世代は劣悪な労働環境や待遇、薄給にどんどん見切りをつける傾向にあるのだった。
TikTokやツイッター上では、ジェネレーションZが仕事を辞める宣言をポストするのが今年春からトレンディングになっており、”#quitmyjob” 、#iquitmyjobといった
ハッシュタグが合計で2億5000万以上のビューイングを獲得。
そのポストには、「2年我慢したけれど、自分のメンタルヘルスの方が大切」とパワハラに耐えかねた告白や、辞職のきっかけになったマネージャーとのメッセージのやり取りを公開するものなどが見られ、
労働時間を含む待遇や給与、上司の人間性の酷さ等が 社名を出して抗議されるケースも多く、これらは今や”QuitTok”と呼ばれるほどの社会現象。
それを見た人々は決してその仕事の求人広告に応募しないので、益々空いたポストが埋まらない状況を生み出す原因にもなりつつあるのだった
これまでは ”Glassdoor/グラスドア”のような転職先探しのウェブサイトに寄せられた元従業員の書き込みでしか分からなかった職場環境や待遇の実態が、
ファストフード店から医療施設に至るまで、業種を問わずに赤裸々に告白されているのがQuitTok。
辞めた側の言い分の中には「せいせいした」という声もあれば、「一生懸命頑張ってきたけれど、もう耐えられない」と涙ながらに語るものもあるけれど、
心情はどうあれ、”グレート・レジネーション”と呼ばれるほど辞職者が多い時代に入ったせいで、
労働者側が「皆で辞めれば怖くない」的なメンタリティで、「辞める」、「働かない」という彼らにとっての最大の武器を行使するようになったのが2021年。
これが世直しに繋がるという声もあれば、「人件費の上昇が中小企業を追い詰める結果。更なる二極化を招く」という指摘もあるけれど、
いろいろな意味でこれまでとは異なる状況に差し掛かっていることだけは確かと言えるのだった。
2021年のThe Most Liked & The Most Retweeted Tweet
年末を迎えてメディアが2021年の様々なランキングを発表しているけれど、今週発表されたのが
2021年のThe Most Liked & The Most Retweeted Tweetのランキング(アメリカ国内だけではない、グローバル・ランキング)。
ニーズや興味に応じて行うグーグル・サーチの方が、感情でリアクションするツイッターよりも 時代や世情を反映しているとは言え、
世論調査よりも人々の関心の行方が分かると言われるのがこのデータ。
それによれば、2021年のThe Most Liked ツイートとなったのは1月20日の大統領就任式の際に
ジョー・バイデン大統領が行った「It's a new day in America」で、4000万のLikeを獲得。2位はKポップのBTSのメンバー、ジョングクによるキスの絵文字だけをツイートしたもので、
320万のLikeを獲得しているのだった。
2021年に最もリツイートされたのはBTSによる アジア系に対するヘイトクライムに抗議する「#StopAsianHate #StopAAPIHate」で、99万8200回のリツイートを獲得。第二位はマンチェスター・ユナイトによる ロナウド復帰が決まった際の
「Welcome @Cristiano #MUFC」で59万9300のリツイートを獲得。
ちなみにBTSは2021年現在、 歴代Most Liked Tweet Top20のうちの 10を占めている ツイッター上最大のインフルエンサー。
それに次ぐのがトップ20のうちの3つをツイートしているオバマ元大統領。 ちなみにオバマ氏は
大統領就任式の日の午後に「Congratulations to my friend, President @JoeBiden! This is your time」とツイートして
2021年のThe Most Liked Tweetの第4位にランクされているのだった。
2021年に最もツイートされたスポーツ・イベントは東京オリンピックで、最もツイートされた映画は「ジャスティス・リーグ」。最もツイートされたTV番組はブラジル版の「Big Brother」で、アメリカ国内では「Squid Game/イカ・ゲーム」。
総じて大統領選挙が行われた2020年に比べると、まともさを取り戻したと言われるのがツイッター上。
しかしそれは大統領選挙、1月6日の議会乱入を受けて、ツイッター側がセンサーシップを強化したためとも指摘されるもの。
そのツイッターは創設者兼CEOであったジャック・ドーシーが退き、新たにパラグ・アグラワルが37歳にしてS&P500企業中最年少のCEOに就任したばかり。
アグラワルは、CEO就任直後に「本人の承諾無くして 写真やビデオをポストしたツイートを禁じる」ポリシーを打ち出したけれど、
インド生まれで スタンフォード大学でPhDを取得後、2011年にツイッターに入社したアグラワルは、
ドーシーよりもセンサーシップを強化すると見込まれる存在。 そのためか、テスラCEOのイーロン・マスクは彼の就任直後に
アグラワルをスターリンに見立てたMEMEツイートを行い、いかにも彼らしい挑発的な態度に出ているのだった。
酷評のSATCリブート版が立証したプロダクト・プレースメントのリスク
今週HBO/Maxで公開がスタートしたのが「セックス・アンド・ザ・シティ (以下SATC)」のリブート版「And just like that... (以下AJLT) 」。
オリジナルのTVシリーズがスタートして23年目に製作・公開されたリブート版は、かつて30代だったメインキャラクター達が50代を迎え、その中から
最も人気が高かったキム・カトゥラル扮するサマンサが消えたバージョン・ダウン。
今週NYで行われたプレミア・イベントでは 全10話の中の最初の2エピソードが公開されたけれど、その直後からソーシャル・メディア上で見られたのが
酷評の嵐で、その数はSATCの熱心なファンの番組カムバックを歓迎する声を遥かに上回るもの。
中でもファンにショックを与えたのがMr. Bigこと クリス・ノース扮するキャリーの夫、ジョンが死去するファースト・エピソードの結末。
その死因は彼が毎日のように勤しんでいたペロトンのバイク・エクササイズの直後に起こった心臓発作。
もちろんペロトン側は、このストーリー・ラインで自社ブランドが使用されることを許可していただけでなく、番組内のフィクショナル・インストラクター、アレグラを演じていたのは
ペロトンの実在する人気インストラクター、ジェス・キング。
このエピソードの放映により、ペロトンの45分に渡るスピニング・エクササイズの安全性が問われることも当初から見込んでおり、
事前に用意されていたのが同社所属の心臓外科医、スザンヌ・ステインバウムが 番組ストリーミング開始直後に発表したペロトン擁護の以下の声明。
「私のようなSATCファンであれば、誰もがMr. Bigが心臓発作で死去したことを悲しんでいると思います。
Mr. Bigはカクテル、葉巻、ステーキなどを楽しむ贅沢なライフスタイルを送り、シーズン6(2004年放映)で彼の心停止が描かれていた通り、健康面での深刻なリスクを抱えていました。
こうしたライフスタイルの選択、そして遺伝的要素が Mr. Bigの死に大きく起因していますが、ペロトンによるエクササイズは
彼の心臓発作を遅らせるのに大いに役立ったはずです」
確かに今から17年前に心停止を患い、ウエストラインが以前よりも遥かに太く、明らかに老化が進んだ容姿でAJLTに登場したMr.Bigのキャラクターを思えば、
感情の起伏や激しいエクササイズがトリガーになった心臓発作を起こしても医学的見地からは全く不思議ではないというもの。
しかしSATCのファンがそこまで考えるはずは無く、エピソード公開直後に見られたのが 「You want me to take a Peloton class? The thing that killed Mr. Big? (Mr. Bigを殺したペロトンのクラスを取れっていうの?)」といったツイート。
ペロトン側が予期していなかったのは 「Mr. Big deserved better than death by Peloton (Mr. Bigにはペロトンよりマシな死に方が相応しい)」という批判であったけれど、
これらのリアクションを受けてペロトン株価は程なく11.35%も下落。
すると今度は「My peloton shares tanking after Mr. Big dies in the sex and city reboot (SATCリブートでMr. Bigが死んだ直後に私のペルトン株が暴落した) 」
といった株価下落の愚痴やジョークがツイートされる結果を招いており、フィクションとは思えないリアクションが巻き上がったのがAJLTでのプロダクト・プレースメント(映画やTVのシーンにブランドを登場されること)。
このペロトンの苦い経験は今後のプロダクト・プレースメントの在り方に確実に一石を投じるものになっているのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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