いつも素晴らしいウェブサイトをありがとうございます。特にこのコーナーを読んでいると、他の方のためのアドバイスでも
自分にエールを送られているような気持ちになって、大袈裟かもしれませんが「強く生きよう」という気持になります。
私は10年以上アメリカで生活し、昨年都合で日本に戻ってきました。
一時帰国の時は「日本はちゃんとしているなぁ」、「皆、親切だなぁ」と感心していたのですが、
日本での生活が続くうちに「日本人って、何故もっとはっきり意思表示をしないんだろう」とか、「事なかれ主義で、変化を望まない社会」というジレンマが徐々に高まって、
日本の将来に明るい展望が持てないようになってしまいました。
こういう事を言うと 周囲にアメリカに感化された国賊扱いされるので気を付けていますが、
私は日銀が社債の買い入れで大企業に対する保護政策に走ったせいで、新しいビジネスが育たないようにしてしまったことは、「失われた30年」からの出口が無い状況を生み出していると実感しています。
未だアメリカに居た時に、親日家のアメリカ人の友達に、「かつては優秀で革新的なプロダクトと言えば日本のメーカーのものだったし、
ロボット開発も日本がリードしていくかと思っていたけれど、日本は経済のダイナミックさや方向性を失って、ドイツみたいなこじんまりした先進国になっていく様子が残念だ」というようなことを言われたのを痛感しています。
今の日本を見ていると、投資にも消極的で、稼ぎを増やすより節約の努力ばかり優先するので、経済規模が年々縮小する様子を強く感じます。
借金をしてでもバケーションに出掛けたり、欲しい物を買っているアメリカが良いとは言いませんが、そのアメリカで長く暮らしてから戻ってみると、
日本経済が縮小のスパイラルに入って抜け出せない構図が不安で仕方がありません。
それと私が個人的に気になるのは、そんな状態なのに日本人が選民思想というか、「日本人は特別」、
「日本人は優れている」というような意識を植え付ける日本持ち上げビデオがYouTube上に多いことです。
以前のこのコーナーにカリフォルニア在住の方が「大谷選手を知らないと言ったら、日本の友達に馬鹿にされた」
というようなご相談があったのを覚えていますが、アメリカでの日本人の扱いは本当にそんな感じです。
日本人が思っているほど日本のことを特別に思っていませんし、私もアメリカに居た時は大谷選手がアメリカでプレーしていること以前に、大谷選手の存在を知りませんでした。
秋山さんもそのご相談で書いていらっしゃいましたが、フットボールならまだしも、野球なんて若い人は観ませんよね。
あと、時折YouTubeで 日本に行ったセレブやトークショーで日本をベタ誉めした様子を紹介して「海外セレブが日本に感動」とか、
旅行者が日本で親切にされて感動して驚愕みたいなビデオがありますけれど、
私、その一部をアメリカ在住期間に実際に見ているんです。確かに日本での経験をホストに語っていましたけれど、日本語のボイスオーバーが語るような「日本万歳」みたいな内容ではなかったと記憶しています。
日本をべた誉めしている外人旅行者のエピソードも、実物のSNSポストの提示が無いので 私はでっち上げだと思っています。でもそういうビデオに限って
沢山の「いいね」が付いていて、日本の素晴らしさを自画自賛しているようなコメントが見られるのは、私は良くない事だと思っています。
そういうのって日本が島国という立地や言語のせいで、世界から隔離されているからこそ成り立つ発信だと思います。
そして外国に出た事が無い人ほどそれに踊らされて、本来だったら危機感を抱かなければならない時に、変に自信をつけてしまうのは、
第二次大戦中に「何時か神風が吹いて日本が勝利を収める」と信じていたのと同じように思えて、私は日本の将来をはかなんでしまいます。
実は私は、まだグリーンカードが使えるうちにアメリカに戻るか、もう少し日本で頑張るかを迷っている最中で、
自分の身の振り方もかかっているので、日本に感じるジレンマが大きいのかもしれません。
でも優秀な人財や、裕福層がどんどん外国に流出していますし、日本は個々の人間のレベルは他国より高いかもしれませんが、
社会としては 手懐けられた羊の群れのイメージが強くて、その中に居ると、群れごと断崖絶壁に誘導されて突き落とされてしまうような恐れさえ抱いています。
こういうコーナーで書き難いサブジェクトかもしれませんが、秋山さんは日本の現状や将来をどう見ていますか。
希望が見いだせるとしたらどんな点だと思われますか。
取り留めない質問と愚痴のような内容でごめんなさい。
これからもお身体に気を付けて頑張って下さい。
- E -
Eさんのメールを頂戴してから、私もYouTube上で”日本持ち上げ自画自賛ビデオ”を探してみましたが、確かに
御指摘通り、トークショーのセレブのインタビュー内容は大袈裟に作り変えているように思いましたし、日本を訪れた旅行者の日本感動エピソードもオリジナル投稿の提示が無かったので、
どうにでも内容操作が出来てしまうように思いました。
それと日本の美談エピソードの中には、「これってNYでも珍しくない光景だけれど…」というものもあって、逆に「外国って日本の人から見ると、そんなにイメージが悪いのだろうか?」とも思った次第です。
ちなみに私はNYで失くしたお財布が戻って来た経験が3回あります。
以前頂いた大谷選手に関するご相談の時にも書きましたが、こうしたYouTubeビデオの制作者は お金儲けのためにウケが良いコンテンツをクリエイトします。
それはそれで「儲けた方が勝ち」のビジネスの手法ですので、それが世の中で起こっていることだと真に受けるメンタリティの方が、日本に限らず問題視されるべきだと考えます。
コンテンツ・クリエーターの意図通りにリアクションを起こす人々が、一定の思考に導かれてしまう現象は もう何年も前から陰謀説の拡散や選挙に利用されています。
逆にEさんのような主張をYouTubeで発信すれば、コメント欄をオフにしなければならないようなバッシング・コメントが寄せられてしまうかもしれません。
それはそれで愛国心の現れだと思いますが、アメリカ人は自国が世界一だという自信をやプライドを持っているものの、こうしたコンテンツには決して食いつくことはありません。
日本人が ”日本持ち上げビデオ”への食いつきが良いのは、日本人として自己肯定感を高め、優越性を感じたい心理があるからだと思います。
90年代にバブルが弾ける前に日本人が誇りにしていたのは、SONYやTOYOTAの製品や日本の戦後からの経済急成長、日本の豊かさでしたので、もし当時ソーシャル・メディアがあったら
現在のコンテンツと比較が出来て、きっと面白かったと思う次第です。
私は国の将来、未来展望を考える際には、時代の中でその国がどんな立ち位置になるかを考えます。もう何度も私のコラムに書いていますが、
2020年12月までの土の時代は、しっかりした土台の上に積み上げていくイメージだったので、
それが象徴する家柄・学歴・経歴優先の信頼社会、中央集権制、中央銀行制度、病気なら体内で時間を掛けてデベロップされるガンや肥満、心臓病。富の象徴は不動産、欲望も積み重なる結果、強欲な
物質至上主義、自分の財産構築のために他から奪う、弱者を利用する競争が自由主義経済やグローバル経済として定着した時代でもありました。
それが風の時代に入ると、風に象徴されるスピードや拡散が成功のキーワードで、時代がスピーディーに動くプロセスでテクノロジー、医学や宇宙開発が著しい進歩を遂げることになります。
昨年1年間のAIの普及は驚くべきスピードとは言え、未だ序の口です。そして社会と経済はディセンタライズ、すなわち分離・分散型に向かい、トレンドも大きな流れよりもコミュニティ・ベースのマイクロ・トレンドが主流になります。時代を象徴する病気は風に乗って広がる感染症、ミスインフォメーション、ディスインフォメーションの拡散や風評被害、ディープフェイクによる世論操作などが更に深刻な問題になり、
人の心も変わり易く、精神面もグラグラするのでメンタルヘルスは、更に大きな社会的問題になります。
その流れで精神世界の追求や、人生・運勢の分析や考察が胡散臭い宗教や占いレベルではなく、AIによる分析や科学、学問として研究されるようになり、
不死・長寿のサイエンスと共にもてはやされることになります。
私自身は、日本は風の時代で損をする要素と、得をする要素がミックスした国だと思っています。
長く続いている政権支配とそれを支える昔ながらの基盤は時代と逆行するマイナス要因であるのは容易に想像がつくと思いますし、
Eさんが指摘していらした「事なかれ主義で、変化を望まない社会」というのも欧州の先進国が示してきた通りの衰退のシナリオを感じさせます。
さらにEさんがおっしゃる通り、日本人の遣り繰りの上手さや節約術が、近年では経済規模の縮小という形で現れているという点は私も全く同感です。
それらに加えて私が気になるのは、日本人が貯蓄を美徳とする国民性が故に金融リテラシーが低い国民性になっていること、
そして新しいことを始めるのに、自分で調べよう、独学で学ぼう、とにかくやってみようとなる前に、「誰かに教わろう」という気持が強いことで、
私は成人向け教材や資格検定がこれほどまでに大きなビジネスになるのは日本の問題点だと思っています。
世界に通用する知識、技術、語学力等が身につかない、気休め教材・セミナー、資格に無駄な時間とお金を費やすことは、
「まずは学ぶことから始めて、結局は行動しない、行動出来ないカルチャー」を生み出すだけで、日本の成長のブレーキになってきたとさえ私は見ています。
ですので本当に国賊と呼ぶべきは、日本の将来を危惧して問題点を指摘する外国帰りの日本人ではなく、日本国内で同胞を相手に未来に繋がらない
搾取ビジネスを展開する人々であるとも思っています。そういう人々が若い世代や、困窮している人々にエンプティ・ホープを与えては
お金だけむしり取って失望させる社会構造は、本当に国をダメにしてしまうと思います。
その反面、日本は風の時代の精神性において他国をリード出来る部分は多々あります。
これは決して今のYouTube上で見られるようなニューエイジかぶれのまやかしや、陰謀説に通じるようなこじつけ理論ではなく、
武道を学ぶために精神面の鍛練を重視したり、全ての物に魂の存在を見出すといった部分です。
私のアメリカ人の親友夫婦は、NHK海外チャンネルが放映する 日本の職人にフォーカスした番組を好んで観ているそうですが、
その技術を極める姿勢、丁寧なこだわり、魂を込めた作業を観ていると、「物凄く心が落ち着く」のだそうです。
そして数字や結果を追いかけるだけのビジネス・カルチャーに毒されたアメリカと違って、日本はプロセスを重んじて、そこに生き甲斐やプライドを見出しながら、
魂がこもった物を生み出すカルチャーだと思ってくれているようで、それこそが風の時代の精神性です。
また現在AIを巻き込みながら、実現が近付くメタヴァースの世界でも日本には強みがあります。
もう2年くらい前のことですが、アメリカ人の友達と話していた時に、そのうちの1人から日本経済の勢いの無さを指摘されて、
「日本は過去30年に何を生み出してきた?」と、やや見下し気味な質問を受けたことがありました。
私はシリアスな経済論争になるのを避ける目的で、半分ジョークで「エモジ、ポケモン」と答えたのですが、途端にテーブルに居た他のメンバーが「Ohhh~」と感嘆の唸り声を上げてくれて、
「やっぱり日本はスゴイ!」ということになってしまいました。
ふと考えると私の30年以上のアメリカ生活の中で、最も死去報道が大きかった日本人は文句無しに任天堂の岩田聡氏です。安倍首相の方が事件としては大きく報じられていましたが、
ソーシャル・メディア上で生前の功績への絶賛と感謝が欧米の一般人から驚くほど寄せられた日本人は、少なくとも現時点では岩田氏だけでした。
私は欧米からの追悼ポストを読んで、岩田氏が残した伝説とまで呼ばれる功績について知る機会を得たほどでした。
3月には「ドラゴン・ボール」や「Dr.スランプ アラレちゃん」等の作者で知られる漫画家の鳥山明氏が死去しましたが、そのニュースも欧米で大きく報じられ、
よほどの有名人でない限り訃報が掲載されることが無い 私が毎朝読んでいるビジネス・ニュースレターでさえ報じていました。
日本のアニメやゲームの世界への影響力は、日本人が想像している以上だと私は考えています。
また日本はアニメ・カルチャーの歴史が長く、ストーリーラインの構築からキャラクター・デベロプメントに至るまで、欧米からは決して生まれないイマジネーションに溢れていることは
欧米の若い世代が称賛していることです。今後のメタヴァースの展開では、そうしたキャラクターを含むコンテンツ、すなわちソフトの部分で、日本には テクノロジー=ハード面の遅れを補うアドバンテージが
あると思います。
実際に欧米の若い層には、日本の音楽というとアニメの主題歌しか聞いたことが無い人が非常に多い訳で、
私は日本が世界に誇るカルチャーを支えてきたアニメ・オタクは、もっと評価されるべき存在だとさえ思っている次第です。
それとは別につい最近、アメリカ人と話していた際に「息子が日本に行きたがって…」というので理由を聞いてみると、
日本の食べ物を紹介するビデオをTikTokで観て、「あれを全部食べまくる日本旅行に行きたい!」と言っているとのこと。私もフードを紹介する日本のショートビデオのクォリティは
卓越していると思って見ていますが、そうした優秀なフードのクリエーターが、100円値上げしただけで怒られてしまう日本を飛び出して、倍の値段でも行列して買ってくれるアメリカ社会で挑戦して欲しいという気持を強く持っている次第です。
私は日本人として 日本やその優秀さに誇りを持っているので、日本には明るい未来があると信じる立場ですが、
それは規模が小さくなっていく日本市場でやりくりするのではなく、世界に対して仕掛けた場合の話です。
現時点ではコリアン・アメリカンが日本スタイルのフードをいち早くアメリカで提供して成功を収めていたりしますが、そのことからも分かる通り、
早く行動しないと勝てないのが風の時代です。
そんな風の時代のアドバンテージが、国民性によって生かせないことが私が日本に対して抱く最大の危惧です。
日本のビジネス・オーナーは、「いずれ海外で…」という人は多いですが、実際にやってみては?という段階になると、
「今は円が弱すぎる」、「誰も外国に知り合いが居ない」など、ウジウジと二の足を踏んで 取り組まない理由の羅列しか出て来ないケースが殆どです。
これは個人レベルで教材投資をして、何かに取り組んでいる気分だけ味わっているのと同じ状況です。
私はNYに長年暮らして、自国通貨がズタボロの国だからこそ、外貨を稼ごうと誰も頼らずにNYに出て来た移民を多数見ていますが、
その意味では今の日本人に欠けているのは、そんな必死さや情熱なのかもしれません。
でも1人の人間が動いただけでも、そこに小さな風が吹くのです。風の時代は動くこと、それも早く動くということが非常に大切で、
動いていなければ現状維持さえ出来ない時代です。このことを世代に関わらず多くの日本人に悟って頂きたいと思っています。
Yoko Akiyama
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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