10年近くCUBEさんのサイトにお邪魔している読者です。妹のことでご相談させて下さい。
少し前に妹がアメリカ人男性との婚約を解消しました。理由は婚約者の男性がかなりの遊び人だったためで、
彼はかなりの高収入で、妹より10歳以上年上ですがルックスも若々しく、マナーも紳士的で、妹は浮気発覚までメロメロのぞっこん状態でした。
私は男性に八方美人的なところがあるのに気付いていたので、
何度か妹に「彼に迫って来る女性とか、沢山いるんじゃないの?」とそれとなく尋ねていたのですが、
妹は彼を信じ切っていて、彼と結婚して幸せになるものと決め込んでいました。
ですから、真実を知った妹の精神的ショックと怒りはかなりのものでした。
妹は彼と過ごした時間の痕跡を全て消したいという感じで、別れた直後から彼と一緒に写った写真を削除して、プレゼントされたものを全て売ってしまったのですが、
その中には婚約指輪も含まれていました。
そのリングは妹の希望で、有名宝飾店で購入したもので、特別に取り寄せた石をセットした素晴らしいリングで、
妹も本音では手放したくなかったようなのですが、やはり彼からもらったものなど身につけたくないこともあり、それが売れたお金がせめてもの慰謝料と思っていたらしいのです。
でもリングに名前が入っていたことで値崩れしたようで、思ったほど高額では無かったと少しガッカリしていましたが、
この婚約指輪がご相談の案件です。
というのも、妹がリングを売却した途端に彼が「婚約が解消されたのだから指輪を返せ」と言ってきたのです。
妹は驚いて「指輪なんて、もうとっくに売り飛ばした」と言ったそうなのですが、彼は「指輪は返却するのが義務」と主張して、
必要ならば弁護士を立てて争う準備があるそうです。
妹がアメリカ人の友達に尋ねたところ、「確かに映画やドラマだったら離婚の時に結婚指輪と婚約指輪をセットにして別れる夫のところに置いていくよね」
と言われたようで、私も「セックス・アンド・ザ・シティ」の映画で、スミスと別れることにしたサマンサが、彼がプレゼントしたリングを返そうとしたら、彼が断ったシーンを覚えているので、
アメリカでは別れる時にリングを返すものなのかという気がしてきています。
でも日本人の妹にとっては自分が貰ったものは自分の所有物で、自分が好きなように出来るという認識で、
しかも嫌いになった相手からもらったものであれば、売り飛ばしてしまうのは当然という感じです。
問題は婚約指輪のダイヤが、さすがに取り寄せただけあって、かなり高額だったことで、男性はその価値あるダイヤを取り戻したかったようです。
ですが妹が既に売却していて、しかも「名前が入っている」という理由で、不当に買いたたかれたことを知って呆れてしまい、
妹が 売れた金額を彼に渡すことで納得してもらうとしたら 「ふざけるな!」という感じだったようです。
妹は自分の婚約指輪の価値が、石を高い物に取り換える前より少し高い程度だと思いこんでいたので、ダイヤの価値を聞いて逆にビックリしていて、
元婚約者は「これだけのダイヤが、その程度の価値だと思って受け取ったのか」と呆れる始末で、いろいろな意味で行き違いとコミュニケーション・ミスが重なっているようにも見受けられます。
そこで秋山さんにお尋ねしたいのは、まずアメリカでは事前に取り決めなどしていなくても、婚約指輪は必ず返すべきものなのかということです。
確かにダイヤのお値段を聞いたら、私も返却するべきと思いましたが、ギフトだったら返却の必要は無いと判断するのが普通だと思うのです。
アメリカでは何か法的に返却しなければならないような取り決めがあるのでしょうか。
もし元婚約者が「結婚しなかった相手には高過ぎるギフト」という理由で返却を求めている場合、何か良い落としどころはあるでしょうか。
元婚約者は大金持ちとあって、デート代は常に彼の支払いで、妹は誕生日やクリスマス以外にも、
頻繁にギフトを受け取っていて、「何処にでも連れて行ってくれて、何でも買ってくれる」というのも妹が彼にぞっこんだった理由の1つでした。
妹は「まさか婚約指輪を返せなんて女々しいことを言ってくると思わなかった」と腹を立てていて、「リング代を全額返済するには、
親か金融機関に借金をしないと無理」とも言っていますが、相手が有責でダメになった婚約なのに 「リングを返せ」と言ってくることにも
矛盾を感じているようです。
この場合、妹も弁護士を依頼して戦うことになると思いますが、彼の方がお金があって有能な弁護士が雇えると思うので、不利にならないでしょうか。
妹は、婚約破棄で相手と感情的に拗れたせいで、元婚約者が嫌がらせをしてきていると思っているようなのですが、私は何となくもっと深刻なものを感じています。
でも当事者ではないので動きも取れず、ご相談のメールを書いてしまいました。
今は妹と私を含む実家全体で、何が何だか分からないという感じで混乱しているので、
似たような経験をご存知だったりとか、ごく一般的なことで良いので、何かアドバイスして頂けたらとても助かります。
よろしくお願いします。
- A -
Aさんの妹さんが婚約されたのがアメリカである場合、アメリカではエンゲージメント・リングはギフトではなく、
”コンディショナル・ギフト”、すなわち条件付きの贈与品と見なされます。したがって法令化されている訳ではないとは言え、婚姻に至らない場合は返却するべきと見なされますし、
通常裁判で争えば負けることになります。ただしモンタナ州は全米唯一、州法で婚約指輪を”アンコンディショナル・ギフト”と定めているので、
モンタナ州であればリングはキープできます。
私がこの状況で覚えているのが1990年代半ばころの判例で、その裁判では婚約が解消されたことで男性がリングの返却を女性に求めたところ、
女性は婚約期間中に10キロ以上体重が増えてしまい、リングが抜けないことを理由に返却を拒んだことから男性が訴えていたものでした。
判決は前述の通り、「エンゲージメント・リングは結婚を条件にしたコンディショナル・ギフト」で、女性側にはキープする権利が無いというもので、
結局女性は専門業者にリングをカットしてもらい、破損の弁償金と共にリングを返却することになりました。
そうかと思えばキム・カーダシアンは、以前72日間だけ結婚していたNBAプレーヤー、クリス・ハンフリーが彼女に贈ったエンゲージメント・リングを気に入っていたことから、
スピード離婚後に返却せず、彼に代金を支払ったというエピソードがあります。
Aさんはご相談文で映画版の「セックス・アンド・ザ・シティ」のサマンサとスミスの別れのシーンについて書いていらっしゃいましたが、
サマンサの場合は、薬指につける婚約指輪のようなものを贈られることを嫌い、あえて中指につけるカクテル・リングを受け取っていたものと記憶しています。
この場合は通常のギフトと見なされるので、返却の義務は生じません。ですが2人の関係を象徴するギフトというような形で受け取っていた場合、
実際に返却する、しないは別として、サマンサのように返却の意志を相手に示すのは常識的なことですし、相手が返却を望まない場合に それを着服したところで
批判されることもありません。
いずれにしてもAさんのご相談のケースでは、例え相手が有責の婚約解消でも、妹さんが結婚していない限りは婚約指輪を返却する義務が生じます。
またこれがアメリカの話であれば、たとえキープが許された場合でも、リングの代金に所得税が掛かります。
かなり以前、未だオプラ・ウィンフリーがトークショーをホストしていた時に、会場のオーディエンス全員に車がプレゼントされたことがありました。
会場中が狂喜乱舞する様子は今もアメリカでジョークに用いられるほどですが、実際にオーディエンスの殆どは車を受け取るには税金を支払う必要あるので、
車をギブアップしたり、直ぐに売りに出して、税金との差額の僅かな金額だけを着服するケースが殆どでした。
メーガン・マークルが第一子妊娠中にNYにやって来て、セリーナ・ウィリアムスやアマル・クルーニーらを招待したベイビー・シャワーを行った際にも、
彼女が受け取った高額ギフトの総額に対して 所得税が掛かることが指摘されていました。
このように多額のギフトは通常課税対象になるのです。
ですが多くの女性達が婚約指輪に対して所得税を支払っていないのは、夫婦間でのギフトがその対象にはならないためで、
結婚前でも、結婚前提で贈られるエンゲージメント・リングは課税対象にはなりません。
基本的に婚約指輪に限らず、人から与えられた高額なギフト、サービスについては慎重になるべきで、安易な判断や感情に任せて処分したり、
相手の施しに甘え続けるべきではありません。
妹さんは相手の男性がお金持ちということで、何を貰っても大丈夫なものと思って
高を括っていたように見受けられますが、お金持ちであればあるほど、お金をしっかり管理しています。
お金が無い人にとっては「金の切れ目が縁の切れ目」ですが、お金がある側にとっては「縁の切れ目が金の切れ目」ですので、
別れた相手に金銭面の鷹揚さを望むのには無理があることをしっかり悟るべきだと思います。
私の見解では、妹さんがリングを売却した途端に 元婚約者に返却を求められたのであれば、
その時点でリングを売った業者に取り戻しに行くべきだったと思います。
恐らく妹さんはリングを売却する際に何等かの合意書にサインをしているはずなので、まずは内容を確認する必要がありますが、
通常は転売されていなければ取り戻しは可能です。たとえ合意書に署名していても、商品の価値に対して不当な価格で買い取られた場合は、
それこそ弁護士を立てて不正を申し立てる価値があります。
妹さんがどんな業者に買い取らせたのかは不明ですが、素人相手にダイヤのリングをキュービック・ジルコニアだと偽って買い叩くような悪徳業者は全く珍しくありません。
またアメリカでは婚約指輪の売却のトラブルが多いこともあり、まともな買い取り業者ほど、婚姻に至らない場合のエンゲージメント・リング売却に際しては、
弁護士への相談を勧めています。
Aさんは「彼の方がお金があって有能な弁護士が雇えると思うので、不利にならないでしょうか」と書いていらっしゃいましたが、
このケースは不利になる以前に、妹さんにはリングをキープする権利が無いので、既に負けはほぼ確定です。ですから弁護士を立てたところでさほど意味はありません。
妹さんも、Aさんも「戦う」お気持ちがあるようですが、大金持ちを相手に一番やってはいけないことは戦うことです。
悲しいことに現在の世の中ではお金で解決出来ることが殆どですし、税制を含む法律、司法の世界がお金持ちに有利に出来ています。
お金があれば有能な弁護士に事実を捻じ曲げて貰うことさえ可能なのです。
ですから大金持ちとは よほどの事が無い限りは同じ土俵で戦うべきではないのです。
元婚約者が弁護士を立てると脅してきたのは、恐らく妹さんが 相手の有責を盾にリングの返却を拒むなどの戦う意志を見せた結果です。
ですから まずはその戦闘モードを和らげて、相手を戦意喪失に導くのが最善の対応だと思います。
それには、妹さんが リングを売却したことを謝罪し、リングを含む彼からのギフトの売却益を全額差し出して、自分には弁償金が払えないことをアピールするべきです。
お金を持っていない相手からは、どんな有能な弁護士でも賠償金の取り立ては不可能です。
もう何年も前に フットボール・スタジアムで、敵チームの選手に物を投げた男性が警官に捉えられ、警官が選手に「訴追しますか?」と尋ねたところ、
選手が間髪入れずに「Is he rich?」と聞き返したエピソードがあります。これが象徴する通り、お金が無い相手は訴える価値など無いのです。
アメリカでは、トラックドライバーの居眠り運転で大怪我を負わされた被害者が ドライバーではなく、そのトラックで商品を輸送していたウォルマートを訴えたり、
ホームレスの犯罪に対して地方自治体を訴えるのも、当事者には支払えない賠償金を 支払い能力がある間接的有責者に押し付けるためです。
そう考えれば、このケースで婚約者にとって訴える価値があるとすれば、Aさんの妹さんではなく、
婚約指輪を買い叩いた業者なのです。
ですから妹さんが余計な怒りやプライドを捨てて、”弱く、お金が無い自分”を演出して、自分も「知識の無さでジュエリーを買い叩かれた犠牲者」であることをアピールすれば、
婚約者の攻撃のターゲットは買い取り業者にシフトするはずです。
この問題を機に、Aさんと妹さんには問題が起こった場合、それと戦うよりも、まずは争いの回避を考えて頂きたいですし、
プライドの示し方についても今一度考えて頂きたいと思います。
婚約を解消した場合、たとえ相手が有責であったとしても、自分にプライドがあるのならば 受け取ったギフトは相手に全て返却すべきで、
それを売り払った金額を勝手に慰謝料などと解釈するべきではありません。
妻になろうとしていた女性が、フラられた不倫相手のように振舞うのは間違っています。
プライドは毅然とした姿勢で示すもので、怒りや感情、意地、ましてや損得勘定で示すものではないのです。
Yoko Akiyama
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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