July Week 1, 2023
Toxic Positivity
ポジティブ過ぎる姉のせいで、姪が登校拒否に


CUBE New Yorkの長年の読者です。
2012年頃に留学してアメリカに住んでいたことがあって、それ以前からキューブさんを愛読していたので 長いお付き合いです。このコーナーは欠かさず読んできましたが、 私も遂にアドバイスをお願いしたいと思ってメールをしています。

私には姉が居て、姉にはティーンエイジャーの娘(私にとっては姪)が居ますが、つい最近、姪が登校拒否と反抗期で姉が困っている話を母から聞きました。 姉はかなり悩んではいるようなのですが、母や私には相談したくなかったようで、姪の誕生日をお祝いしようとした母の申し出を断らざるを得なかったので、 渋々母親に状況を話したそうです。
姪は学校で、それまで仲が良かったグループから外されて、虐めのような扱いを受けていたようで、姉が元気づけたり、担任教師と関わることを毛嫌いするそうです。 全ての怒りの矛先が姉に向けられて、親子のコミュニケーションが取れないようでしたが、私はそれを聞いた途端に自分の大学受験の頃を思い出しました。 当時の私は 今から思うと どうでもよい理由で 必ず志望大学に行きたいと考えていたので、その大学に落ちた時には心底落ち込みました。 特に行きたかった訳でもない滑り止めの合格通知を受け取った後も、人生に失敗したような気持ちでした。
その時の落ち込みを助長してくれたのが姉でした。言っていることはポジティブな励ましので、悪気が無いとは思いたいのですが、いちいち考えると腹が立つような言い分が含まれていて、しかも落ち込んでいた私にとっては 疎ましいほどハイテンションなので、有難迷惑以外の何物でもなかったのをはっきり覚えています。 姉はそれ以前にも私を元気づけようとして、かえって神経を逆なでするような言動や態度を取ることは珍しくありませんでした。 足が速かった私が運動会の徒競走で転んだ時や、大切なものを失くしてしまった時など、思い返すだけでも数えきれません。
特に大学受験に失敗した時の姉の慰めは、細い鋭利なもので深く何度も刺されているような気持ちを味わうもので、最初は落ち込んでいましたが、 途中からは怒りで頭がおかしくなりそうでした。そしてイライラが頂点に達した私が声を上げてしまうと、私が精神錯乱直前状態になっているかのように両親に報告されてしまい、 当時お医者様に行くことを遠回しに母から打診されてショックを受けました。
その後大学に進学してからも、年下で大学受験を控えた従妹や伯母に 「○○ちゃん(私)がA大学に落ちた時は、精神不安定になって どうなるかと思った。でも滑り止めに入学しても 何とか楽しい大学生活が送れるのは○○ちゃんが立証しているから、第一志望に落ちたからって思いつめちゃダメよ」とアドバイスしているのを聞いて腹を立てたこともありますし、 今でも 私がちょっとでも疲れやストレスを見せると「そういう否定的なオーラを出していると、幸運が逃げちゃうわよ」などとたしなめて来ます。 以前はよく母に抗議しましたが、その都度「姉には悪気はない」という台詞で片付けられたのを覚えています。

私は姉のお節介ポジティブの犠牲者として育ってきましたので、ひょっとしたら姪も同じ思いをしているのではと考えるようになりました。 それで、ダメモトで姪への遅めの誕生日祝いと称して、私と2人だけで姪が大好きなテーマパークに出掛けようと誘ったところ、あっさりOKしてくれました。 その日は2人でテーマパークを1日楽しんで、最後に夕食を一緒に食べた時に それとなく姉に悩まされた私の経験を話してみたのですが、私の思ったことがドンピシャであることが判明しました。
姪によれば、学校で仲間外れになったのは 恋愛がらみの焼きもちと嫌がらせだったようなのです。それで1人で落ち込んでいた時に 姉にハイテンションで励まされたり、叱咤激励されるのが「ウザかった」のだそうで、 家にでも、学校でも居場所が無い思いをしたそうで、夜に眠れない日が続いて睡眠不足なのに、姉が叱咤激励で起こしに来るのが耐えられず、部屋に鍵をして姉をブロックしていたことなどを話してくれました。 そして、姉がカウンセリングを受けさせたがって「自分を精神病だと思いたがっている」と言っていて、それも私の時と全く同じだったので、 姉に 母親という立場から そんな扱いをされている姪にすっかり同情してしまいました。

それで姪とラインを交換して何度か連絡を取るうちに、一度姉と距離を置かせて、姉への対処法について私がしてきた事などを姪に教えてあげたいと考えるようになりました。 丁度私が住んでいる家の都合で、少ししたら1ヵ月近く実家に滞在する予定にしていたので、その間、どうせ登校拒否なのであれば姪も実家に滞在して、気分を変えてみないかと姉に打診ました。 姉も息抜きが必要なはずなので、喜んで了承するかと思ったのですが、頑なに断って来ました。姉は私が姪に悪影響になると疑っているような気もしました。
姪はもちろん同意してくれて、むしろ乗り気なのですが、姉は「娘がその間に自殺でもしたら、責任が取れるのか」などと言ってきます。 両親も母である姉が許可しない場合は、やめた方が良いと思っているようです。姉の励ましが姪にとっては残酷で辛いことを私から説明しましたが、 「それが姉にとっては母親としての愛情を示し方だ」というのが両親の意見で、例によって「姉に悪気は無いのだし」という文句を聞かされました。 そして姉の反対を押し切って姪を実家に滞在させるのは、姉を母親として否定することになるとも言われました。

そこで秋山さんにご相談したいのは、姉を説得する良い方法があるでしょうかということです。 私は悪者になっても構いませんので、何とか姪を姉のお節介ポジティブから救ってあげたいという気持ちで一杯です。 ですが姉には昨日電話で「自分達家族のことに余計な口出しをするな」と言われてしまいました。私がしようとしていることは間違っているのでしょうか。
何か助言をして頂けたら嬉しいです。よろしくお願い致します。



- R -


シンパシーよりもエンパシーを


Rさんのお姉さまのような状況は、アメリカではトキシック・ポジティビティ、トキシック・チアリーダーと呼ばれるもので、 昨今ではトキシック・ポジティビティもある種の精神疾患症状だと言う声も聞かれ始めています。
それとは別に 医学の世界で 腸が ”Second Brain / 第二の脳” と呼ばれるようになって久しいですが、 人間が陰と陽、善と悪のバランスで正常を保っているのと同様に、腸内も善玉バクテリアと悪玉バクテリアがバランス良く調和を保っているのが正常かつ健康な状態です。 現代人は善玉バクテリアが多ければ多い方が良いと考えがちですが、「毒を以て毒を制す」という言葉通り、善玉では倒せない悪玉バクテリアを制御してくれるのは 別の悪玉バクテリアです。 また医学実験で善玉バクテリアだけの腸内環境を人工的にクリエイトしたところ、何が起こったかと言えば 精神の錯乱状態でした。ですからポジティブも過ぎれば 立派な毒に他ならないのです。

基本的に慰めや励ましの言葉というのは、状況がどうあれ、極めてありきたりで使い古されたセンテンスです。 「今我慢すれば、何とかなる」、「こんなことでくじけてはダメ」、「頑張れば、乗り越えられる」といった基本センテンスにアレンジを加えて、 その順番と組み合わせを変えながら語られるのが常ですので、誰にとっても慰めや励ましは プレディクタブルで、新鮮さが無いルーティーンになりがちです。 それを有難く感じるのは、往々にして 同情を得たいと望む程度に心に余裕がある人で、本当に苦しんでいる人ではありません。 私の考えでは本当に落ち込んでいる人が必要としているのは ”Sympathy/シンパシー=同情” よりも ”Empathy/エンパシー=共鳴”です。

私は20代後半に顔中にアダルト・アクネが出来てしまい、それが悪化する一方で、精神的な落ち込みが激しかった時期がありますが、その時に最も残酷な言葉を放ってきたのが 「可哀想、大丈夫?」と同情する人たちでした。そういう人達ほど 「そこまで酷いと跡が残りそう」とか、「私だったらその肌じゃ外を歩けない」など、 ”苦しい状況に見舞われた人間に対する見下し”を 慰めという形で語ってきました。 私はその時に人間というものは弱者に対して本性を見せる生き物だということを学びました。
当時の私の心を唯一癒してくれたのは、同じような肌荒れを経験した女性で、特に「鏡を見ないこと」を含む 経験者ならではのアドバイスは、 私が肌を改善するきっかけになりました。 以来私はアダルト・アクネに悩んでいたCUBE New Yorkのスタッフから、ニキビ肌で悩む友人の息子まで、肌荒れに悩む人には自らの体験談を語って来ましたし、 肌荒れに限らず、お金の問題で失敗した人、友達に裏切られた人、降って沸いた災難に見舞われた人と話す機会があれば、 慰めるよりも自分の経験を語り、そこからどうやって立ち直ったか、立ち直っても納得が行かない事がある場合は、そんな思いも正直に話すように心掛けるようになりました。
私がしていることが絶対に正しいとは断言しませんが、少なくもそれが今までの人生で私が学んだ、苦しんでいる人を救ってあげられるベストな方策だと信じています。 ですから、私はRさんがご自身の経験を生かして姪っ子さんを助けることは心からサポートする立場です。

”悪意が無い”は言い方を変えれば...

このアドバイスを執筆しながら、突然思い出したのがもう10年以上も前に離婚をした友人カップルのエピソードでした。
2人が未だ交際中、その友人が 私ともう1人の友人に得意げに語っていたのが、彼(未来の夫) が仕事の悩みで落ち込んでいたので慰めたところ、 「君が居てくれなかったら、自分を見失うところだった と彼がすごく感謝してくれた」というのろけ話で、それがきっかけで彼女の気持ちは大きく彼に傾いた様子が見て取れました。 それを聞かされた側の友人と私はと言えば、「彼の方はわざと弱みを見せて、彼女に優しく構って欲しかっただけ」、「彼女の方は良い事をしたような達成感で、恋愛感情までハイになってしまった」という分析で、 「大人がこんな三流芝居を真面目に演じるほど、恋愛という物は人間のIQを下げる」という冷めた会話をしていました。
ところがそんな私達とは正反対に ピュアな熱血漢であった友人は、 やがて結婚してからも夫に対して 三流芝居的な熱血サポートを繰り広げたようで、 当時は未だ ”トキシック・ポジティビティ” という言葉はありませんでしたが、2人の離婚原因はまさにそれでした。

ひょっとするとRさんのお姉さまにも、そんな周囲への励ましがオールマイティで歓迎されると勘違いしてしまうような経験があったのかもしれませんが、 私がそれよりも問題に感じたのは、ご両親の「悪意が無いのだから」とお姉さまを擁護する姿勢でした。 Rさんのご実家では 「悪意が無い」ことが免罪符としてまかり通ってしまうようなので、ご両親のどちらかがお節介なキャラクターでいらっしゃるのかもしれません。
ですが「悪意が無い」ということは、表現を変えれば「配慮や思いやりがない」、「空気が読めない」ということで、決して褒められる状態ではありません。 「悪意が無い」というのは他人の配慮の無さを許す、もしくは諦めるために使う言葉であって、 家族間での不満や怒りを収めるために使うべきではありません。 家族の一員が思いやりや配慮が無い行動や言動をした場合には注意するべきですし、本人に悪意がないのなら 尚の事、それが世間一般ではどのように反感を買うかをしっかり教えてあげるべきなのです。 セクハラでもパワハラでも被害を受けた側の心情が基準になるのと同様で、悪意の無い言動や行動でも、人の心が傷ついたり、反発を招いた場合は、本人の意図とは無関係にそれは悪い事なのです。 Rさんのご両親にはどの程度それを理解していらっしゃるでしょうか。

そうした部分の指摘を含めて、Rさんには まずはお姉さま本人よりも、ご両親やお姉さまのご主人を説得して味方に付けることをお薦めします。 Rさんは「私は悪者になっても構いませんので」とメールに書いて下さったのですが、今お姉さまと直接対決をしたところで、学生時代の不満や怒りが再燃するだけで 姪っ子さんの救済には繋がりません。 お見受けしたところRさんとお姉さまは、あまり意見交換や交渉事がスムーズに行くよう間柄ではないようなので、 直接の説得よりも間接的、環境的なアプローチの方が効果的です。 お姉さまとの関係自体もそうあるべきなのだと思います。
そして周囲を味方に付けたら、いきなり1ヵ月のご実家滞在を提示するよりも、まずは1週間前後でお話を進めてみてください。 もし1週間後に姪御さんが活き活きと目に見えて元気を取り戻せば、その延長はご両親がお姉さまに掛け合って下さるはずです。

かなり前にこのコラムに書いたことがありますが、私はビリヤードが決して上手くないものの、そのゲームから人間関係について多くを学びました。 ポケットに入れたいボールを直接キューで打つことが出来ないルールですので、別のボールやクッションをどう使うか、その角度や力の調節具合、 どれだけ多くの攻め方を知っていて、それを実践するテクニックと精神力を持つかがプレーヤーとしての力量になる訳です。 人間関係や人生もそれと同じだと思います。 自分の行動や能力だけで物事を進めるのではなく、周囲の有効で確実な手立ての活用、そのアレンジやコミュニケーションはこれからの風の時代の成功のカギを握ります。
ビリヤードに限らず、世の中には人生の学びが溢れていますし、未来を切り開くのは好奇心と行動力です。姪っ子さんのご実家滞在が実現しても、しなくても、 視野を広く持って、結果を恐れずに、いろいろな経験をすることの大切さを Rさんが身を持って姪御さんに示して、勇気づけてあげて頂きたいと思います。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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