今回は通常のアドバイスをお休みして、私が5月に日本に一時帰国をした際の思いについてお話させて頂きたいと思います。
私は多くの米国在住日本人同様、年に1度の割合で日本に一時帰国をしていて、毎年、愛する家族や学生時代の友人達等に出逢える一時帰国は 1年の中のビック・イベント。
今回は高校時代の部活メンバーが卒業以来、初めて集まるイベントを 私の一時帰国に合わせて開催してくれることになっていたので、5月の一時帰国の日程を決めたのは1月末のこと。
パンデミックの影響で2020年には一時帰国をキャンセルし、2021年、2022年も会える友人の数が限られていたとあって、早々と友達と集まるイベントのアレンジを進めていたのが今回の一時帰国。
そんな中で 突如私が駆られたのが「今年は是非、伊勢神宮に参拝したい」という思い。
この気持ちが何処から沸いてきたのかは 自分でも全く分からないけれど、何故か「今回の一時帰国中には、どうしても伊勢神宮に行くべき」という気持ちになった私は、
まずは伊勢神宮のウェブサイト等で情報収集を開始。
するとそれらの情報から、逆に私が参拝をするべき理由を説明されているような気持ちになってしまったのだった。
以前からコラムに書いてきた通り、現在は風の時代を迎えて、世の中も人間も 新しい時代への変化を迎えようとしているところ。
私が特に昨年後半から抱いてきたのが、そんな新しい時代の 新しい自分に生まれ変わるに当たって 人生をリセットしたいという気持ち。
これは決して現状や、これまでの人生に不満があるという訳ではなくて、逆に今までの人生に満足して、幸福感を感じているからこそ、
これからは現状維持や継続よりも 異なる可能性を模索して、違う世界に飛び込みたいという願望がムクムクと沸いて来ていたのだった。
スポーツに例えれば、私の人生は日本で過ごした成長期や、成人としてのスタート期が人生のファースト・クォーター、渡米し、起業をしてやってきたこれまでがセカンド・クォーター。
現在は前半を終えて、後半に向かう前のハーフタイムで、ここで仕切り直して 新しい戦略でサード・クォーターに臨みたいと考えているのが今の状況。
とは言っても未だサード・クォーターのゲーム・プランがはっきり固まっていないため、そのインスピレーションを模索していたところ、突如降って沸いたのが伊勢神宮参りのアイデアなのだった。
そのため「これは天からの思し召し?」と考えてしまったけれど、ふと思い返すと私は小学校低学年の頃に「日本の神話と伝説」を読みふけったことがあり、
その頃から理解していたのが「天照大御神様が全ての神の頂点」ということ。それだけに天照大御神様をお祀りした伊勢神宮内宮は、
生きているうちに一度は参拝に訪れようという気持ちを持ち続けていたのは紛れもない事実。
加えて伊勢神宮は お願いよりも感謝のために訪れるべき神社。
そのため、これまでの人生に感謝をして、これからの人生のために新たなリセット、仕切り直しを考える今の私にとっては、まさに伊勢神宮参拝のための機が熟したように思えたことから、
夜行バスで現地入りをして、翌日午後には東京に戻るというスケジュールでお伊勢参りをすることにしたのだった。
夜行バスは乗り心地は悪かったけれど、一時帰国中は多忙で疲れが溜まっていたこともあり 直ぐに眠りについてしまい、朝の7時過ぎに到着したのが伊勢神宮外宮のすぐ傍。
この日は雲一つ無い晴天。バスを降りた途端に 草花や木々の葉がミックスした素晴らしい香りと、心地好い風に包まれて、まるで引き寄せられるように向かったのが外宮。
そしてインターネットで予習をした通り、鳥居をくぐる前に一礼して、神様に自分をきちんと名乗って、お参りさせて頂くご挨拶をしてからの参拝開始。
外宮を歩いている時は 未だ朝の8時前とあって、人影はまばらで、地元の人らしきお参りに慣れた方や、お掃除をする方達に 朝のご挨拶をしながらの参拝になったけれど、
空気がすがすがしく、歩くたびに音を立てる玉砂利、樹齢を感じさせる大木など、全てが新鮮。
心が洗われるような思いを味わいながら、外宮コースを一周半ほど歩いたのだった。
「さて次はいよいよ天照大御神様が祀られている内宮へ」と思ったけれど、外宮から内宮へは徒歩の距離ではないようで、
現地の方に勧められたのがバスかタクシー。 私は日本でも外国でも、見知らぬ土地でバスに乗って のんびりと景色を眺めるのが好きなこともあり、迷わずバスを選択。
ラッキーなことにバスはすぐにやって来て、走行時間からして外宮と内宮は5キロほど離れているようなのだった。
そして内宮に着くと、そこに広がっていたのが いかにも伊勢神宮という感じの美しい鳥居と 長い橋の光景で、まずそれに大感動。
この頃には時間が午前8時を過ぎて、平日とは言え 参拝客が増えて来たので、その人の流れについて橋を渡り、川のほとりでお水に触れて、
正宮である皇大神宮、別宮の荒祭宮や風日祈宮を順番に参拝して行ったけれど、
さすがに参拝客は 先ず2回お辞儀をして、手を合わせ、右手を少しずらしてから、2回手を叩いて…という正しいお祈りの作法を実践している方達ばかり。
服装はきちんとしていても、石段が多く、玉砂利の道をかなり歩くので、足元はスニーカーという人が圧倒的。
フラット・シューズで参拝する女性を何人か見かけたけれど、やはり少々辛そうにしていたのだった。
前述のように、私が参拝に際して心掛けたのは 何もお願いをせずに、今までの人生のお礼と感謝だけをお伝えすること。
そうやって感謝の言葉を頭で巡らせながら歩いていたら、途中で何度も涙がボロボロ出て来てしまって、言い様がない不思議な満足感や幸福感に包まれたのがこの時。
この気持ちを脳裏にしっかり刻み付けるには、下手な長居は無用と判断して、全ての参拝を終え、
最後にお神札とお守り、そして神盃というゴールドの小さな盃を頂いて、午前10時前には伊勢神宮を後にしたのだった。
そして向かったのが直ぐ傍のお土産街、おかげ横丁。
前の晩からお茶しか飲んでいなかった私が、この日の朝食代わりにしたのが赤福。
私にとっては伊勢と言えば赤福で、ふと考えると渡米して以来 一度も味わっていなかった赤福を、出来立ての状態で お土産にも買った美味しいほうじ茶と一緒に味わえたのは参拝のご褒美。
その後は おかげ横丁のお土産店を物色しながら帰路についたけれど、例によって帰り方が分からないことに気付いた私は お店に飛び込んで尋ねる有り様。
どうやら私のような旅行者は多ようで、店員さんは親切に最寄りの五十鈴川駅までの地図を見せてくれて、聞けば距離は3キロほど。
「時間と体力にゆとりがあれば歩いても…」と言われたので、日本に来てから一度もエクササイズをしていなかった私は 伊勢神宮周囲も眺めてみたいと思い、歩くことを決心。
グーグル・マップを頼りに歩き始めたけれど、 周囲を見回すと 車を運転している人以外は、360度の視野の中に私以外の人間が誰もいない状態が暫く続いたことは、長年NY生活をしてきた私にとってはトワイライト・ゾーンに居るような
不思議で 得難い経験。
無事に五十鈴川の駅に着くと、丁度ホームに来ていたのが名古屋への直通特急電車。そして名古屋からは新幹線で快適に東京に戻ってきたけれど、
途中の車窓から久々に眺めた雄大な富士山の姿には まるで外国人旅行者のように興奮。半日の旅ながら、極めて中身の濃い経験をすることが出来たのだった。
翌日には、中学時代のクラス会に参加したけれど、そこで話題になったのが男友達の離婚話。
「子供が仕上がったので、これからは夫婦共々、結婚していたら出来ないことをやって、人生で後悔を残さないようにしよう」ということで合意したそうで、
聞けば、元妻とは離婚してからの方が仲が良いとのこと。
個人的に興味深かったのは女友達が 「理解に苦しむ…」というリアクションだったのに対して、男友達はこぞって「自分の周りでも自由になるために離婚をする人が多い。自分の離婚もあり得るかも…」と、
その離婚をサポートしたり、賞賛する意見であったこと。
その席で友達に「何故わざわざ伊勢まで行ったの?」と尋ねられたので、正直に「人生をリセットするため」と説明すると、返ってきたのは
「それは理解できる!」、「自分も行きたい」という思いのほか 納得してくれたリアクション。そんな友人達とのやり取りからも、
皆がそれぞれに人生の中で変化を迎えようとしている、もしくは変化の必要性を感じていることを感じたのが今回の一時帰国。
それと共に これまで一時帰国をする度に 「時間が無い」という理由で、いろいろな場所に出掛ける機会をギブアップしてきたけれど、
今回、半日でこんなに得難い経験が出来たことから、旅行中に限らず、NYでの日常生活の中でも 時間の使い方についての考えを大きく改める機会になったのだった。
執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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