June Week 4, 2026
Pure New York City Poetry
ニックス優勝までニューヨーカーが唱え続けた...
”ピュア・ニューヨークシティ・ポエトリー”



 6月5日、NYニックスがNBAファイナル第2戦で敵地での2連勝、プレーオフ無敗の13連勝を収めた際、 ニックス本拠地マディソン・スクエア・ガーデン前で行われていたウォッチ・パーティーで、とあるニックス・ファンがTVカメラに向かって叫んだのが4行のフレーズ。 それが瞬く間にSNSで拡散され、NYタイムズ紙も記事にした”ピュア・ニューヨークシティ・ポエトリー” 。
 これを叫んでメディアから取材を受けるほどの大センセーションを巻き起こしたのはクイーンズ在住、23歳の男性。 その4行とは、“My mayor’s Muslim / My bagel’s Jewish / My Christian’s Dior / Knicks in four! (市長はイスラム教、ベーグルはユダヤ、クリスチャンはディオール、第4戦でニックス勝利!)”。 それ以降、ニューヨーカーが事ある毎に唱えるようになったのがこのフレーズ。
 マムダニNY市長も「市民から何百回も My mayor’s Muslim のフレーズを聞いた」と笑っていたけれど、これを語った男性は クイーンズのジャマイカ地区で様々な人種や背景を持つ人々と共に育ったとのこと。 実際に人種の坩堝、NYの中でもクイーンズは130以上の言語が話され、最も人種のバラエティに富んだボロー。 彼のフレーズは、そんな宗教や人種のミックスと融合がNYの原動力になっていることを表現したもので、 「市長はイスラム教徒、ベーグルはNYを象徴する食べ物、クリスチャンがディオールなのは彼が好むラッパー、ポップ・スモークの歌詞へのオマージュだった」と説明されているのだった。




 この4行フレーズに変更を強いられることになったのが6月8日、 トランプ氏が観戦に訪れた第3戦で、ニックスが僅少差ながらサンアントニオ・スパーズに敗れて 2勝1敗となり、第4戦でのチャンピオンシップが絶望的となった瞬間。
 しかし何処からともなく浮上し、拡散されたのが更にパワフルなアップデート版。 それは “My mayor’s Muslim / My bagel’s Jewish / The Pope is on our side / Knicks in five! (市長はイスラム教、ベーグルはユダヤ、ローマ法皇は我々の味方、第5戦でニックス勝利!)”。
 クリスチャンの部分がディオールからローマ法皇にアップグレードされた背景は、初のアメリカ人法皇、レオ14世がヴィラノヴァ大学出身で、 スターティング5のうちの3人がヴィラノヴァ大学のエリート・プレーヤーであるニックスを法皇がオープンにサポートしたため。すなわちNYニックスは、NBA史上初のローマ法皇に祝福されたチームになったのだった。
 この新バージョンは瞬く間にTシャツからマグカップ、ベースボール・キャップ等に商品化され、ニックス勝利の際にも、 祝勝パレードでもファンが口々に語っていたけれど、NYニックスというチーム自体もこのフレーズ同様、ネイティブ・ニューヨーカーからフィリピン、フランス出身者まで、それぞれが全く異なるバックグラウンドの寄せ集め。
 キャプテンであり今回のNBAファイナルでマイケル・ジョーダンやコビー・ブライアントを抜いてファイナル最多得点を記録したジェイレン・ブランソンは、実力あるチームメイトをトレードで集めるために自らのサラリー1億ドルをギブアップした話は有名。 今のニックスは彼のようなスター・プレーヤーでも地に足が付いた生活をしながら、若手育成プログラムや健康的な学校給食提供といったチャリティにも貢献。 一方のファン層もNFLジャイアンツ、MLBヤンキーズ等に比べてマイノリティ人種やブルーカラーが多く、例えホーム・チームでもそのプレーや私生活のモラルに厳しく、バイアスが入らないのはNYという街の伝統。
 そんな長年のアンダードッグ、ニックスの勝利は、多くのニューヨーカーが自分達の勝利として実感するもので、NBAファイナルに入ってからのNYは街が1つになってのニックス・フィーバー。 NYがこんなに活気づいたのは本当に久々で、街の空気さえ変えてしまっていたのだった。




 NBAファイナルはNYに4億6700万ドルの経済効果をもたらしたと言われ、祝勝パレードにはNY市の人口900万人のうちの100万人が参加したとさえ言われるけれど、 パレード後の市庁舎前でのイベントで、ニューヨーカーを涙させたのがマムダニNY市長の約8分に渡るスピーチ。
 「ニックスの53年ぶりのチャンピオンシップは、過去53年間の積み上げである」として歴代プレーヤーの貢献を讃えた後、市長が語ったのが マディソン・スクエア・ガーデンで行われた第4戦、第4クォーター、残り9分33秒でニックスが20ポイントのリードを許していた時のこと。この段階のプレディクション・マーケットの データ分析は99.6%の確率でスパーズ勝利、ニックス敗北、対戦成績を2-2とする予測が出ていたという。
 しかしそこから地道に点数を積み上げて挽回し、試合終了1.2秒前に奇跡の逆転を果し、1点差の勝利をもぎ取ったのがニックス。このゲームはニックスが最大29点差をひっくり返したNBA史上に残る名試合になったけれど、 これを引用して「NYは0.4%のチャンスでも諦めずに闘う街」、「0.4%のチャンスからでも勝利を勝ち取る街」と語り、「最悪」、「不可能」な状況に逆に駆り立てられて道を見出す街、ニューヨークをアピール。
 事実マムダニ市長本人も、昨年2月には僅か2%の支持率で落選確実の状態から徐々に支持基盤を積み上げ、11月の選挙で「最年少にして初のイスラム教NY市長誕生」というあり得ない快挙を成し遂げた人物。
 ふと考えると、ニューヨーカーはどんなに非常識な夢を語っても「This is NY. Everybody has a chance!」と言って決して夢を否定しないだけでなく、むしろそのどんでん返しに賭けたがる人々。  だからこそ市長のスピーチがニューヨーカーに刺さったと思われるけれど、行動力があり、スピーチが上手い34歳の市長がキャピタリズムの街NYをどんどん変えつつあるのは市民の多くが肌で感じること。
 5月にはNYに500万ドル以上の投資物件、セカンドハウスを持つ超富裕層に対し、これまで購入時しか掛からなかった税金を毎年徴収する法案を通した一方で、チケットが高過ぎてワールドカップ観戦が出来ない市民のために FIFAに掛け合い、抽選で1000人が$50ドル観戦出来るプログラムをスタート。 そんな市民に寄り沿う市長だからこそ、ピュアNYCポエトリーで真っ先に “My mayor’s Muslim” が出て来たように思うのだった。
 以下がSNS上でもヴァイラルになったマムダニ市長のスピーチ。ニックスの勝利を讃えるだけでなく、それに触発されたNYの街をさらに盛り立てようという力強いスピーチ。 他の政治家の退屈なスピーチとの比較も兼ねて閲覧をお薦めします。


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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