Jan. Week 5, 2023
“FRE, Alcohol-Removed Wine”
アルコール・リムーブド・ワイン


つい最近 カナダの保健当局が政府諮問委員会に通達したのが、健康に害を及ぼさないアルコール摂取量のガイドラインを これまでの週約10杯から 2杯に改める提案。
アルコールは 心臓病や循環器の病気、ガン等の健康上の問題をもたらすのに加え、怪我や事故の主要な原因の1つ。しかも依存症や中毒に陥ることで 社会面、経済面の問題を引き起こし、うつ病や不安神経症の原因にもなることから、ここへ来て政府レベルで国民の飲酒量を減らそうという動きが急速に高まっているのだった。
一方アメリカでは成人の33.7%はお酒を一切飲まない人々。飲酒をする成人の7人中1人が 2023年1月に ”ドライ・ジャニュアリー”を実施して、 アルコールフリー月間にしていたけれど、その数は2022年に比べて減少気味。 その背景にあるのが 過去数年で高まった ”ソーバー・キュリアス”のムーブメント。これはお酒を飲める体調、体質であっても、あえて自分の選択で飲まないムーブメント。 そのせいで 若い世代を中心に1年を通じて飲酒量を減らす傾向が行き渡った結果、ドライ・ジャニュアリーを実施する必要性を感じない人々が増えているのだった。
ソーバー・キュリアスの間で消費が増えていると同時に、毎年1月になると売上を伸ばす傾向が顕著になっているのがアルコールフリーのドリンク。 今では最も一般的なビールだけでなく、ジン、テキーラ、ワインなど様々なアルコールフリー・ドリンクのテイストが向上したと言われて久しいけれど、 2023年にはヴィーガン・ミートを超えるアルタナティブ・センセーションを巻き起こすことも見込まれているのだった。




そんなアルコールフリー・ドリンクのマーケットにはセレブリティも乗り出しているけれど、 そもそもセレブの間では 独自のアルコール・ドリンクを開発して、その人気が出て来たところで 大手の酒造会社に売却して多額の利益を得るのはドル箱ビジネス。 その好例としては2013年に趣味で立ち上げたテキーラ・ブランド、カーサミーゴを売却してビリオネアになったジョージ・クルーニーが挙げられるけれど、 それ以外にもデヴィッド・ベッカム、P.ディディ、ジェイZ、ライアン・レイノルズ等が 独自のリカー・ブランド開発と売却で大きな利益を上げているのだった。
アルコールフリー・ドリンクの世界でブランドを立ち上げたセレブリティとしてはそのライアン・レイノルズの妻であるブレーク・ライヴリーの ”Betty Buzz / ベティ・バズ” 、 ケイティ・ペリーの ”De Soi / デ・ソイ (写真上)”等があるけれど、 少し前にドライ・ジャニュアリーをしている友人と一緒にトライしてみたのが デ・ソイ。
2022年1月に ソーバー・キュリアスなミレニアル&ジェンZ世代をターゲットにローンチされたデ・ソイは、 ケイティ・ペリーとパートナーが400万ドルの出資を集めて、 ”ナチュラル・ボタニカル”というヘルシー・コンセプトを掲げたドリンク。 ボトル・デザインもスタイリッシュで目を惹くけれど、いざ味わってみると1口飲んで 思わず顔をしかめる不味さ。 甘いフルーツ・ジュースとミックスしてようやく飲めるような味で、 お値段はアマゾンで購入すると1本27ドル。このお値段を出せば まともなワインやスパークリング・ワインは山ほど見つかるし、 オーガニックの高額フルーツ・ジュースはこの半額で買えることを思うと、その存在価値はケイティ・ペリーが絡む話題性しかないという印象なのだった。




かく言う私も、5~6年前から自宅での飲酒をストップし、今は友人と出掛けた際のワインかシャンパンのみを飲む完全なソーシャル・ドリンカー。 当然ながら 以前に比べて 酒量が激減したけれど、私がアルコールをカットに踏み切った理由は お酒を飲むと免疫力が落ちて、脳、特に記憶力の衰えが早まることを実感したため。 ふと気づくと私の周囲も若い世代ほど お酒を飲まない傾向にあるけれど、そんな友人と出掛けた際には 私もオーダーするのがノンアルコール・バージョンのカクテルやワイン。 正直なところ、値段の割に美味しいと思って飲んだことは無いけれど、昨年末に 口コミの評判を聞きつけて 纏めて取り寄せてみたのが ここにご紹介する ”Fre / フレ” のアルコール・リムーブド・ワインなのだった。

アルコール・リムーブド・ワインがグレープ・ジュースとどう違うかと言えば、 グレープ・ジュースはぶどうの果汁。発酵過程を経ていないので ワインよりもはるかに糖分が高く、高カロリーで血糖値を跳ね上げるドリンク。 これに対してアルコール・リムーブド・ワインは、ワイン同様にブドウを発酵させて製造されるため、その発酵プロセスで ブドウ品種の香りや風味を高めながら アルコールに変換されていくのが糖分。 そのアルコールを最新の スピニング・コーン・カラムを使用して除去したものが アルコール・リムーブド・ワインで、ワインのデリケートな味わいを維持しながらも、 アルコールは 0.5% 未満。カロリーは従来のワインの半分になるのだった。
ちなみにスピニング・コーン・カラムとは、液体食品から 風味が損なわれるのを防ぎながら 揮発性化学物質を抽出する機械。 2000年以降、特にワインに含まれるアルコール量を軽減するために利用され、ワインに平均的に含まれる15%のアルコールを0.5~2%に落とせることが立証されているのだった。
Freは グルテン・フリーのヴィーガンで、通常のワインボトルの約3分の1の量に当たる、240mlが約70カロリー。 ワイン同様にシャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン等、原料のブドウの品種がそのままフレーバーになっていて、ブドウは全てカリフォルニア産。 スパークリング・ワインも手掛けているのだった。




肝心のFreの味わいはと言えば、最初にカベルネ・ソーヴィニヨンを味わった時は、どうしてもワインと比べてしまって ガッカリしたのが本音。 アルコール・リムーブド・スパークリング・ワインは バブルがソーダのように粗くて、安いスパークリング・ワインにかなり似た味わい。 シャルドネは、ワインという概念と切り離して味わうと飲み易くて「美味しい」と思える味わい。
でもひと度 ”Mocktail / モクテル” を作ってみると、途端にその味の評価がアップするのがFre。 ちなみにモクテルはノンアルコール・カクテルを意味する言葉で、昨今は”ヴァージン・カクテル”よりモクテルという言葉が用いられる傾向にあるのだった。
実際にFreの Websiteをチェックしてみると、多数掲載されているのがモクテルのレシピ。 ロゼのスパークリング・ワインはメタルの入れ物やトレーに入れて凍らせると、そのままフローズン・カクテルになるし、 フルーツ・ピューレやソルベとミックスしたり、カットフルーツやミントを入れただけで フレーバーが大きく変化して、 上品な味わいのモクテルとして楽しめるのだった。

Freのボトルのプレゼンテーションは安価なワインのイメージで、 アマゾンを始めとする一部のオンライン・ショップでは1本20ドル以上で販売しているところもあるけれど、 私が取り寄せたカリフォルニアのワイン・ショップは別途送料が掛かるとは言え 、1本7~9ドルでというお手軽価格。 飲み方さえ工夫すれば、そのお値段で 何となくワインやカクテルを味わったような 不思議な満足感が得られるので、 私はFreのアルコール・リムーブド・ワインは 評価する立場だし、一緒にデ・ソイの味で顔をしかめた友達にプレゼントしたところ、かなり喜んでもらえたのだった。
人間の味覚は温度によってかなり左右されるので、Freに限らず ノンアルコール・ドリンクを美味しく味わうコツは、 グラスまで冷やして、出来る限り低温でサーヴィングすること。 それだけでフレーバーの粗がかなり抑えられて、フードと上手くペアリングしたり、モクテルのレシピを極めることによって、 かなり楽しめると思うのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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