Mar. Week 4, 2022
”Self Defense Class for Women”
セルフ・ディフェンス・クラス For Women


私が2月後半に参加することになったのがセルフ・ディフェンス(自己防衛)・クラス。
この時はチャイナタウンで35歳の韓国人女性が 早朝にナイトアウトから帰宅した際に、後をつけてビルに入った前科のあるホームレス男性(25歳)に 自宅アパート内に押し入られ、性的暴行を受けた後、キッチンにあったナイフで40回も刺されて殺害されるという悲惨な事件があった直後。 NYでペッパー・スプレーの売上が伸びて、女性のための無料のセルフ・ディフェンス・ワークショップが開催されていた頃で、 私が出掛けたのは一般公開のクラスではなく、プライベートにインストラクターを招いた10人程度のクラス。
そのインストラクターは、私の知り合いのご主人が日ごろからエクササイズを兼ねて通うマーシャル・アート・スタジオのインストラクター。 2022年に入ってから この事件以外にも アジア人女性を狙った暴力&殺害事件が頻発していたことから 「アジア人女性にセルフ・ディフェンスのテクニックを教えたい」と無料のクラスをオファーしてくれたとのこと。 ところがアジア人女性の参加者が少なかったことから、私にお声が掛かったのが参加の経緯。 私自身はセルフ・ディフェンス目的ではなく、ワークアウトのために以前ボクシングのクラスを取っていたことがあるけれど、 過去2年はコロナの影響でジムとランニング以外の 新しいエクササイズをトライしていなかったので 「日頃使っていない筋肉を使うチャンスになるかも…」という 軽い気持ちで出掛けたのだった。
(このページの画像は、実際のクラスとは無関係です)




このクラスのインストラクターが日ごろ教えているのは、イスラエル軍が格闘技として採用している ”Krav Maga/クラヴ・マガ”。 そのオリジナルはユダヤ人ストリート・ファイター兼 ボクサーのイミ・リヒテンフェルドによって1930年代に開発された護身術。 スロバキアに暮らしていた彼は、当時の反ユダヤ・グループによる日常的な暴力から身を守るための自衛テクニックとしてクラヴ・マガを開発。 その後のナチスの勢力拡大に伴って国を出て、やがてはイスラエルに渡った彼がイスラエル兵士にそのテクニックを伝授したことから 軍で採用されるようになったというのがクラヴ・マガの歴史。今では実用的なセルフ・ディフェンスとしてだけでなく、 心身を鍛えるフィットネスとして世界中に広まっているのだった。
そのテクニックは 攻撃者に合わせた戦略的思考に基づいて 人体の脆弱な部分を攻撃するもの。 急所や首など格闘技では違反行為と見なされる部分を容赦なく、そして効率的に攻めることから、 体力的に男性に勝ち目がない 女性の自衛手段としては極めて有効と言われるのだった。 それもあってクラヴ・マガ協会では、犯罪専門家からのアドバイスを仰いで 女性をターゲットにした犯罪例を分析。 女性専用の護身術のカリキュラムも提供しているとのことで、説明を聞けば聞くほど興味が沸くもの。
でも多くの護身術同様に 1度のレクチャーで身に付くとは思えないテクニックで、 実践で活用できるようになるには、肉体的なトレーニングもさることながら、突然襲って来た相手に対して その弱点と自分に出来る行動を的確に判断して実行に移すだけの精神的な強さを養う必要があるのだった。




私が個人的に最も勉強になったのは、クラヴ・マガの信条は 戦うことよりも ”Situational Awareness to Avoid Danger” すなわち「危険回避のための状況認識」であるという点。 すなわち周囲の状況を意識的に把握し、何に対して注意が必要かを認識し、常識的な対応を実践することにより 闘わずして殆どの危険が回避できるとしているのだった。
例えば前述のチャイナタウンで殺害された女性の場合、ドアマンの居ないアパートに早朝4時半に帰宅し、背後に注意を払っていなかったことから、 まず自分がアンロックした扉から不審者をビル内に入れてしまったのが大きなミステイク(写真上左)。 そしてエレベーターの無いウォークアップ・ビルの階段を 彼女からハーフ・フロア遅れながら ついてくる容疑者に気付かなかったのか、 気に留めなかったのかは定かではないけれど、自分のフロアの廊下で 不審者に尾行の距離を縮められ、鍵で扉を開けた途端に自分を押し込むようにアパート内に押し入られたのが悲劇の始まり。 殺害凶器は 彼女のキッチン・ナイフであっただけに、犯人は押し入った際には武器は所持していなかった模様。
したがって もし彼女が不審者に気付いて アパートの扉を開けなければ、たとえ廊下で襲われたとしても 殺害されることが無かっただけでなく、 もっと早く隣人が警察に通報していたと思われるのだった。

でもそんな状況認識以前に、いくらナイトアウトが楽しかったとしても 夜中の治安が悪いチャイナタウンのドアマン不在のビルに午前4時半に帰宅するのはどう考えても危険。 そもそも午前3時~5時までは人々の眠りが深く、最も騒音で目を覚まさない時間帯。救けを叫んでもリアクションが遅れるのは言うまでも無いこと。 また酔った状態での一人歩き、エアポッドをつけて周囲の音が聞こえない状態での夜間の歩行、照明が暗いストリートの歩行は どうしても犯罪のターゲットになり易い訳で、 そんな常識に従って、リスクを極力避けるのは自衛のベーシック。
さらにアパートの扉の鍵を開ける際に 周囲に人の気配を感じた場合は その人物を確認して、居なくなるまで鍵を開けないのは非常に大切なポイント。 もちろん家の中に逃げ込んだ方が良いケースがあるのは事実で、2ヵ月ほど前にはブロンクスのアパート・ビルに住む黒人女性が 帰宅して自宅の扉を閉めた直後に、彼女を追い掛けてアパートに押し入ろうと走ってきた男性が 悔しそうに閉じた扉を叩く姿が防犯カメラに捉えられていたのだった (写真上右)。
実際のところ女性の後をつけて、女性が扉を開ける瞬間を狙ってアパート内に侵入して犯行に及ぶというのは、確立された犯罪のパターン。 鍵を開ける際に人間の意識が周囲の安全よりも鍵に集中してしまうことを犯罪者は十分に心得ているのだった。




私が出掛けたクラスでは、何故アジア人女性が狙われるかについてのディスカッションも行われたけれど、 その理由の筆頭として誰もが挙げたのが トランプ前大統領がコロナウィルスを「チャイナ・ウィルス」と呼んでコロナ規制に対する怒りやフラストレーションがアジア人に向けられたこと。 更に「男性が白人女性に感じる劣等感や脅威を アジア人女性には感じないことが、本来芯が強いアジア人女性を弱いと決めつける要因になっている」 という意見もあったけれど、俗に”アジ専”と呼ばれるアジア女性専門にアプローチする男性は「アジア人の女性なら扱える」という人種的偏見が恋愛感情に持ち込まれた例。 アジア人女性同様に昨今高齢者女性が暴力のターゲットになっているのは、まさに弱者がターゲットになっていることを如実に示しているのだった。
興味深かったのは 昨年の今頃にアトランタ州で起こった アジアン・マッサージ・パーラー3軒を連続で襲い、アジア人女性6人を銃で殺害した事件の犯人を例に挙げて、 「執拗なアジア人女性への暴力の背後にはアジア人セックス・ワーカーへの怒り、性支配欲が絡んだ恨みがある」と語った女性が居たこと。 それが正しい場合には、2週前にNYのストリートで 2時間程度の間に立て続けにアジア人女性7人を殴った男性などは、まさにそのタイプと言えるのだった。

いずれにしても 女性をターゲットにした犯罪が増えていることから 昨今のNYで人気ではなく、ニーズが高まっているのがセルフ・ディフェンスのクラス。 私の友達が出掛けたクラスでは、ハイキックを何度も練習させられて「BTSの振り付けクラスみたいだった」と言っていたけれど、 女性の自衛において 犯罪のターゲットにならないように注意することの次に大事なのは、闘うのではなく逃げること。
私が出掛けたクラスでは、襲われた場合に 相手の力に逆らった抵抗をすると 相手がさらに力を加えて来るので、 抵抗よりも相手が驚いたり、怯んだりする行為に出て、相手のスキをみつけて逃げるのが最善の自衛手段と説明されていたのだった。 その実例として、後ろから男性に首周りを掴まれた女性が、そのせいで外れかかったブローチの針で男性の手を指したところ、相手が驚いて手を緩めたので その隙に逃げ延びたストーリーが 紹介されていたけれど、クラヴ・マガのテクニックを習得すると相手の力を利用しながら腕をすり抜けて、その腕を巧みに捻じることにより 相手が力を加えると関節が外れそうな痛みを 感じさせることが出来るようになるとのこと。
NYで売上を伸ばしたペッパー・スプレーについては 襲われてから取り出そうとするのは不可能で、「危険を感じた時点で取り出しておかなければ使うチャンスなど無い」と説明されていたけれど、 私は余計な武器やプロテクションは 下手をすると自分に対して使われる可能性があるので持ち歩かない主義。
結局のところ人間だけでなく、全ての動物には自分より強い物とは戦わない本能がある訳で、犯罪者が狙うのは弱く、 簡単に目的が達成できそうなターゲット。私は以前アドバイスのコラムにも書いた通り、犯罪者のターゲットになり難い周囲への警戒や、 身体が発するオーラが最大の自衛手段という考えを持ってきたので、 クラヴ・マガの「危険回避のための状況認識」を重視するコンセプト、そして危険を避けて 闘わずに済むことが最善の自衛というポリシーには全く同感。
それとは別に感心したのが、クラヴ・マガや別のマーシャル・アート等、格闘技をエクササイズにしている女性の引き締まった身体のラインと、 スキの無い動き。同じカーディオ(有酸素運動)とストレングス・トレーニング(=ウェイト・トレーニング)を行うにしても、 自分のペースで行うより、相手に反応するインテンスな動きを取り入れて鍛える方が 遥かに有効であることを実感してしまったのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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