アメリカは 何故外出時に ドレスアップしなくなったのか?
Published on 2/27/2025

2月4週目にニューヨーク・タイムズのオピニオン・セクションで取り沙汰されたのが、
「Why Don’t People Dress Up to Go Out Anymore? / 何故人々はもはや出時にドレスアップしなくなってしまったのか?」。
これを提議したのはフロリダ州の読者で、その文面は「今では高級レストランでもカジュアルな服装ばかりです。何故、そして何時からこうなったのでしょうか。妻と私は外出時は何時もドレスアップします。そのほうが楽しい経験になるからです。フォーマルさを捨てることで、アメリカ社会は何かを失ったのではないでしょうか。」というもの。これに対するタイムスのコラムニストの社会分析と回答は以下の通り。
- かつて人々は、劇場、レストラン、飛行機で旅をする際にもドレスアップしていましたが、今ではドレスコードがすっかり緩んだ。特に空港は様子はパジャマ・パーティーのようだ。
- これを最も不満に感じるのはベイビー・ブーマー世代であるが、その背景には社会的、文化的変化がある。
- 1960年代までは「何処で、どういう服装をするか」は帽子から手袋に至るまでが、学校のカリキュラムで教えられ、社会や組織に属するためのルールで、自由選択の余地が無かった。
- 1960年代に反戦運動が起こったのをきっかけに、徴兵に反発する若者が長髪にし、ジーンズが流行、ヒッピー・カルチャーがトレンドになり、ファッションが自由と権利を主張する手段になり始めた。
- やがて時代が経過し、カジュアル・フライデーで仕事着までカジュアル化し、パンデミック中のロックダウン、自宅勤務でファッションは大きく悪化した。
- しかし、世の中は全体の流れとは異なる傾向を「トレンド」と呼んでもてはやすので、今後ドレスアップがトレンドになる可能性があるかもしれない。
コラムを超えた読者&一般の意見と分析

NYタイムズは、このトピックについて読者に意見を求めたところ、かなりの反響があり、
その内容はタイムズのコラムが分析不足に思えてしまうヴァラエティ。同じトピックは、Redditを含む様々なソーシャル・メディアでも
取り沙汰されており、そのリアクションを分析すると、大きく分けて以下の傾向に分けられるのだった。
肉体的苦痛 VS.コンフォート
- 未だにヒールを履いて、身体にフィットした服装がドレスアップだと思われているが、女性にとっては苦痛以外の何者でもない。
- 慣れない服装で食事をすると、リラックスして味わえない。
- ドレスアップして長時間 劇場や機内で過ごすのは、身体の負担になる。
ドレスアップするメリットが無い
- ドレスアップしたからといって優遇されたことも、ドレスダウンしたからといって冷遇されたことも無い。
- ドレスアップは時間もかかるし、気も使う。日頃と違うことをすると生活のペースが乱れる。
- ドレスアップして食事に出掛けても、料理のシミをつけたら、服が台無し。汚さないように気を使うのが嫌。
自由意志の問題
- 出掛ける場所に合わせて、服装を変えるなんて馬鹿げている。
- 自分の気分で服を選ぶことの何がそんなに悪い。
- NYで最も高額なレストラン、イレブン・マディソン・パークにはドレスコードが無い。 一流レストランだろうと、来店客の意志を尊重すべき。
lifeスタイルや価値観の変化

- 外食ばかりしているので、レストランをドレスアップする場所だと思ったことが無い。
- 周囲が皆カジュアルで、ドレスアップすると浮いてしまう。
- 今時ドレスアップしているのは年寄り世代だけだから、ドレスアップすると老けて見える。
- ドレスアップするのは冠婚葬祭やパーティー等のスペシャル・オケージョンだけだと思っている。
- かつては飛行機に乗れるのが富裕層だけで、機内サービスも、機内食も今よりレベルが遥かに高く、客席も広かった。 今は飛行機は誰も乗るし、機内サービスと機内食は劣悪で、客席も狭い。それにそれに応じて乗客が服装を気に掛けなくなるのは当然のこと。
- ドレスアップしていたら、劇場でも飛行機でも非常時に逃げられない。(写真上、左から2番目は、2月17日にカナダのトロントの空港に上下逆さまの状態で 不時着したデルタ航空機の避難中に撮影されたビデオのシーン。 避難用スロープで脱出する場合、ハイヒールはスロープを破損するリスクがあるので脱ぐことが義務付けられています。)
経済的理由

- 経済的にドレスアップする余裕が無い。
- 服にお金を掛けていたら、外食代や旅行代が捻出できない。
- 下手にドレスアップしたら、バスや地下鉄に乗れないからタクシー代が掛かる。
- ドレスアップして出掛けるようなレストランやイベントに行くお金が無い。
時代に伴うテイストの変化
- ドレスアップするよりも、カジュアルをカッコ良く着こなす方がファッショナブルでトレンディング。
- セレブリティやインフルエンサーが、カジュアルを好んで着用している。
- 今やフォーマル・ウェアよりもラグジュアリー・カジュアルの方が値段もステータスも高い。
- ベビーブーマーにとってのドレスアップは、ジェンZにとっての「時代遅れ」、「古臭い恰好」である。
- 服よりも時計やジュエリーの方が、周囲を威嚇できて、投資価値がある。
- カジュアルで高そうなコーディネートをする方が、ファッションの上級者としてトレンディ・スポットで優遇される。
NYタイムズの読者アンケートは結果は興味深い内容であったものの、その中に見られたのが
「こんなトピックよりも、もっと深刻なことが政治の世界で起こっているだろう? それについての読者の意見を聞くべきだ」という
お叱りの声。
確かに政権がこれだけ滅茶苦茶をやっていると、NYタイムズの読者の大半を占めるリベラル派は、
ドレスアップして出掛けるより、カジュアルウェアで抗議デモに出掛けようという雰囲気。
ドレスダウンはホワイトハウスでもイーロン・マスクが実践中で、大統領執務室でも、閣僚ミーティングでも、
周囲がビジネス・スーツを着用する中、Tシャツにベースボール・キャップといういで立ちで、彼の服装の緊張感の無さが
トランプ氏を差し置いて、 「プレジデント・マスク」と呼ばれてしまう要因になっています。


![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |




★ 書籍出版のお知らせ ★


当社に頂戴した商品のレビュー、コーナーへのご感想、Q&ADVへのご相談を含む 全てのEメールは、 匿名にて当社のコンテンツ(コラムや 当社が関わる雑誌記事等の出版物)として使用される場合がございます。 掲載をご希望でない場合は、メールにその旨ご記入をお願いいたします。 Q&ADVのご相談については掲載を前提に頂いたものと自動的に判断されます。 掲載されない形でのご相談はプライベート・セッションへのお申込みをお勧めいたします。 一度掲載されたコンテンツは、当社の編集作業を経た当社がコピーライトを所有するコンテンツと見なされますので、 その使用に関するクレームへの対応はご遠慮させて頂きます。
Copyright © Yoko Akiyama & Cube New York Inc. 2024.