Aug 2 ~ Aug 8 2026

Money VS. The Soccer Gods
世界最大手銀行がバックアップしていたFIFA身売り案の終わらない闘い


 アメリカでは5月以降拡大したシクロスポラ寄生虫感染が、8月4日時点で疾病対策センターが10,468件の症例を確認。さらに1万1000件を超える検査中、もしくは感染疑いの症例が報告され、 最も感染者数が多いミシガン州では2人の死者を記録。症状は下痢、腹部痙攣、めまい等が長く続くもので、感染源と疑われたレタスは回収されたものの、それとは無関係の感染が記録され、 シラントロ(パクチー)、パセリにもシクロスポラ寄生虫感染の疑いが拡大したのが今週。
 加えて卵、ハラペーニョのサルモネラ菌汚染も報じられ、メキシカン・ファストフード・チェーンが影響を受けているけれど、突然農作物の寄生虫や病原菌のリスクが高まった 原因として指摘されるのが生産地の水質汚染。それに深く関与していると言われるのがAIデータ・センター建設に伴う自然破壊と水質悪化で、NY州はキャシー・ホークル知事が 新たなAIデータ・センター建設停止を打ち出したばかり。
 また今週物議をかもしたのが、塗装が剥がれて修復やり直しになったリンカーン・メモリアルのリフレクティング・プール損傷について、新たな証拠を検証した連邦検察が「施工不良が原因」と判断。 元オリンピアンを含む個人に対する器物損壊の刑事訴追を取り下げた事態。これは事実上、彼らを器物損壊犯として罵倒し、入札無しで個人的に親しい業者に1400万ドルという超高額で 作業を依頼したトランプ氏の顔に泥を塗る行為。これを受けて大統領執務室でトランプ氏と怒鳴り合いの舌戦を繰り広げたと言われるのが、 FOXニュースの司法コメンテーターからワシントンDC司法長官に抜擢されたジャニーン・ピロ。 多くのメディアが、ピロが今年5人目のトランプ政権女性要職解雇者になると予測したけれど、現時点では首の皮1枚で繋がっている状況なのだった。



既にアメリカ資本に買い取られている欧州リーグ


 ワールドカップが終了して既に3週間が経過し、通常なら世の中の関心事が別に移るはずのところ、未だにメディアとSNSが話題にしているのがFIFAとワールドカップ。 その論点は、FIFAがワールドカップ運営の新会社を設立し、その株式(商業権)をプライベート・エクイティに売却して42億ドルの利益を上げようと画策したプランと ワールドカップ決勝で暴力沙汰を演じ、準決勝でFIFAが禁じる政治メッセージを横断幕を掲げて行ったアルゼンチンへの処罰。SNSでは2030年大会のアルゼンチン出場停止の噂が流れているものの、2030大会はアルゼンチンを含むワールドカップのルーツである南米3カ国で各1試合が行われるため、アルゼンチンは自動的に参加が認められる開催国。そのためFIFAが「調査終了後に罰金を科すだけ」という意見が大半。
 それより油断が出来ないのがFIFAのインファンティーノ会長が挫折したように見せかけながらも、9月19日の承認のデッドラインが未だ有効なワールドカップ身売り案。 これがFIFA関係者への説明も、審議も行われないまま、2ヵ月半のデッドラインで承認を求めるに至った理由は、インファンティーノがトランプ氏に倣って、最高権力者が法やプロセスを無視する 手法がまかり通ると思い込んだことも一因と言われるけれど、インファンティーノとプラン推進派は「この案に反対意見が多数出るとは全く予想していなかった」と言われるのだった。

 どうしてそんな身勝手な考えに行きつくかと言えば、今の時代はプライベート・エクイティによるスポーツリーグへの資本投入が当たり前になっているため。2026年時点で、北米の5つの主要プロスポーツ・リーグ(NFL、NBA、MLB、NHL、MLS)全てがプライベート・エクイティによる直接出資を認めており、出資を受けているチームは74。チーム評価額合計は約2,580億ドル。
 今回のワールドカップは決勝にハーフタイム・ショーが組み込まれ、前半・後半の真ん中にハイドレーション・ブレーク=TVCMが入ったことから、「ワールドカップがNFLのように商業化された」と批判を浴びたけれど、 そのNFLのチーム・オーナーが所有、もしくは部分的に所有している欧州サッカー・クラブは11以上。 彼らを含む米国投資家の資本が入っている欧州クラブは、イングリッシュ・プレミア・リーグの9チーム、イタリアのセリアAの4チームを含む計16チーム。 100年来の歴史を持つ欧州サッカー・カルチャーは、とっくにアメリカ資本に身売りをしているのが実情。
 しかしそうした資本が流れ込まないアフリカ、アジア諸国は、FIFAからの助成金によってサッカーを支えており、2023~2026年にかけてFIFAから受け取る助成金は800万ドル。 「どんなにキレイ事を言ったところで最後はお金」と考えるプラン推進派は、FIFAに加盟するアフリカ54か国、アジア47カ国を中心に「新たな資本計画に賛同し、それが実現した場合には、最高で4000万ドルを支給する」と謳って賛成票の掘り起こしをしている真っ最中で、これは貧困国にとって見送るにはあまりに大きな金額。今週にはメキシコ・サッカー連盟がこの大金に目がくらんでいるとの噂が流れているけれど、 プランが実現した場合、10倍になると言われるのがインファンティーノのサラリー。彼が年間にFIFAから受け取っているのは330万ドルのベース・サラリー+280万ドルのボーナス。 10倍になるのは恐らくベース・サラリーと見られているのだった。



スポーツを買い取る政治的な意味合い


 そんな中、NYタイムズ紙の記事がきっかけで世の中が着眼し始めたのが、今回のワールドカップ身売り騒動に世界最大手の銀行J.P.モルガンが絡んでいること。
 インファンティーノが1年以上に渡ってベンチャーキャピタリストのジョシュア・クシュナー(トランプ氏の娘婿ジャレッド・クシュナーの弟)と練り上げてきたワールドカップ運営の新会社設立計画において、 総額42億ドルの民間投資家を募る役割を担っているのがJ.P.モルガン。 現在スイスのチューリッヒ拠点とする非営利団体FIFAの放映権等を含む全商業資産を新会社に移管し、 その株式約20%を民間投資家に42億ドルで売却することで、評価額200億ドルの新会社を生み出すプロジェクトは、たとえトランプ氏の後ろ盾があっても ジョシュア・クシュナーの投資会社スライブ・キャピタルだけでは不可能。J.P.モルガンのような大銀行の存在は不可欠なのだった。
 ちなみにジョシュア・クシュナーは、親が200万ドルを寄付してハーバード大学に入学させた兄、ジャレッドとは異なり、ハーバード在学中から金融ビジネスを行って来た優秀さで知られ、妻はかつてテイラー・スウィフトの親友だったスーパーモデルのカーリー・クロス。2人は7月3日のテイラーのウェディングに参列し、保守ユダヤのクシュナー家にありながら2人とも民主党支持者を公言する存在。
 J.P.モルガンがこの計画に深く関与していることは、FIFAが加盟協会向けに作成した資料に同社ロゴが掲載されていたことで明らかになっており、FIFAのガバナンス基準を精査する権利擁護団体フェア・スクエアは、「FIFAがサッカー人気を食い物にする強欲な営利団体だとするなら、J.P.モルガンは喜んで自社の信用を貸し出す資金面の主導的協力者」と批判しているのだった。

 インファンティーノは2018年にも日本のソフトバンクと組んで同様のFIFAの商業資産切り売りを計画。ペルシャ湾岸諸国の政府系ファンドから資金提供を受けてプランを進めようとしたものの見事に失敗。また ワールドカップを2年に1度の開催にするという無謀な計画でも失敗しているのだった。
 一方のJ.P.モルガンは、2021年に僅か1週間でとん挫した欧州スーパーリーグ(欧州の有力クラブが独自に結成するリーグ)構想に約40億ドル規模の資金提供を表明。 ファンや各国政府の猛反発を受けて、当時異例の謝罪に追い込まれたのがCEOのジェイミー・ダイモン。その前の1997年にはイタリアの元首相でメディア王のシルヴィオ・ベルルスコーニ氏が極秘に進め、 失敗に終わった分裂リーグ構想で財務アドバイザーを務めており、 過去30年に渡ってサッカーの商業化・再編プロジェクトに関与しては、サッカー・ファンの熱意を過小評価して評判を落としているのだった。

 かつて超富裕層の条件と言えば、「世界中に5軒以上の高級住宅、プライベート・ジェット、スパーヨット、3カ国以上の市民権を擁すること」と言われたけれど、 現在それに加わっているのがプロスポーツ・チームのオーナーシップ。ホワイトハウスのワールドカップ・タスクフォースでも役員を務めたのはプライベート・エクイティ出身のマルチミリオネアで、 今やプライベート・エクイティはカレッジ、ハイスクール、ジュニア・リーグにも資本を投入し、青少年スポーツの値段を跳ね上げ、それを払わざるを得ない親達から資金を巻き上げており、 金融界にとってスポーツはハリウッドよりも遥かに魅力的な投資先。
 加えて英語には「ブレッド&サーカス」という言葉があり、これは「食事に困らない程度の富の分配(ブレッド)と娯楽(サーカス)さえ与えておけば、国民を統治出来る」という意味。 ローマ帝国で闘技場が果たした役割が「サーカス」の好例として挙げられるけれど、貧しくなっても人々が財布を開くエンターテイメントは、庶民のガス抜き効果も担っており 貧富の差が開けは開くほど価値を上げるものの1つ。
 世界中にファンを擁し、世界最大の市場、アメリカで未だ伸びしろがあるサッカーは、金融界にとっては最も魅力的な投資対象。 例えインファンティーノ&J.P.モルガンの今回のプランが失敗に終わったとしても、また新しい手口で同様の試みがされることは目に見えているのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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