今週のアメリカでは、火曜日にトランプ氏が史上最長の大統領スピーチを下院で行い、そのリアクションは与野党で正反対であったけれど、
そのことはスピーチについて報じたメディアも然り。就任44日目にして勝利宣言をしたトランプ氏に対して諸手を挙げて大絶賛したのはFOXニュースを始めとする極右メディア。
メインストリート・メディアは、具体策が示されないまま打ち上げられた経済と政策の目標に疑心暗鬼で、
リベラル・メディアの一部で見られていたのが、トランプ氏のオーバープロミシングなスピーチを、未だセルフドライビング・システムの安全性さえ確立されないテスラの株主総会で、
高い目標の早期実現を打ち上げてきたイーロン・マスクと重ねる傾向。
毎年、下院では大統領スピーチの際に一般国民のゲストを招き、政策と関連付けたハート・ウォーミングなエピソードを盛り込むのが慣例であるけれど、
今回与野党で大きくリアクションが別れたのが、珍しい脳の小児がんを克服した13歳の黒人少年をトランプ氏がスピーチの中で、彼のかねてからの夢だったシークレット・エージェントに任命するジェスチャー。
通常であれば党派を超えたスタンディング・オーベーションになる美談とあって、共和党側は無反応だった民主党議員を猛攻撃。
しかし民主党にしてみれば、イーロン・マスクがDOGEを正式にスタートする前の昨年末に、小児がんリサーチへの政府助成金を「無駄」と切り捨て、共和党がその法案を支持しただけに
このジェスチャーは偽善的な茶番以外の何者でもなく、スタンディング・オーベーションをすれば、まるで共和党が小児がん患者をサポートする活動をしているような誤解を招く状況。
スピーチに対する 国民のリアクションも、”トランプ支持派”と”それ以外”の真二つに割れおり、
”それ以外”の国民の多くは 史上最長スピーチを聞き終える忍耐力が無かったことが伝えられるのだった。
トランプ氏は下院スピーチでTariffについて言及し、関税政策がアメリカ国民に痛みをもたらすと認めながらも
「大したことはない、直ぐに終わる」と、インフレ懸念を軽視。しかしアトランタ連銀は先週末にリセッション突入を警告しており、
経済専門家もTariffによって、GDPが減少する中でインフレが起こる ”スタグフレーション”の懸念を表明。
3月2日から導入されたカナダ、メキシコ、中国への関税(自動車関連は4月2日から) によって、平均的なアメリカ世帯の出費が 年間で1300ドル上昇すると言われるけれど、
そのダメージが最も大きいはずの MAGA、レッドステーツ貧困層のトランプ支持者は、現時点ではトランプ氏が選挙公約通りに移民を強制送還し、連邦政府機関の職員削減、ウクライナへの援助打ち切りに動いたことを高く評価。
「Tariffによってアメリカに製造業が戻り、国内産業が復活するので、短期的に物価が上がったとしても、直ぐにその恩恵を受ける」と極めて楽観的であることが報じられているのだった。
トランプ政権のTariffによって起こる物価高のことは、”トランプフレ―ション”と呼ばれ始めているけれど、
アメリカが当初予想した以上の臨戦態勢に入っているのがカナダ、メキシコ、中国。
それもそのはずでトランプ氏は第一期政権でもTariffによって貿易パートナーを苦しめた過去があり、
各国がアメリカだけに頼る貿易から、取引先を分散する貿易にシフトし始めて久しい状況。
逆にアメリカは 特に農作物の輸出で、市場を失い始めており、例えば中国は第一期トランプ政権誕生の直前の2016年には国内で消費されるダイズの40%を
アメリカからの輸入に頼っていたものの、2024年にはそれが18%にまで減少。変わりに中国との貿易を拡大したのはブラジルで、大豆に加えて、コーン、コットンでも
中国市場を拡大。さらに中国は豚肉についても、輸入先をアメリカからスペインとオランダにシフトし、アメリカの豚肉業者に打撃を与えているのだった。
同様の貿易パートナーのシフトは、カナダ、メキシコも徐々に行って来たもので、カナダはTariffスタートを受けて、国内のリカー店からジャック・ダニエルを始めとするアメリカ製のバーボンやワインを全て撤去。
テスラに100%の関税を課し、米国企業との政府コントラクトを禁止。それを受けてオンタリオ州にサテライトのインターネット・アクセスを提供するはずだったスペースX傘下のスターリンクとの1億ドルの契約がキャンセルされ、
逆にカナダに依存するニューヨークを始めとする米国北東部への電力供給について脅しを掛けられているのが現在。そのカナダは既に2月にTariff導入が延期された時点で、
オクラホマ州最大の収入源であったカナダへのコットン輸出契約を破棄しており、Tariffによってトランプ氏が望む成果を上げるまえに、レッドステーツを中心にアメリカの貧困層が音を上げると見る声が多いのだった。
そのアメリカでは現在、暴騰する卵価格に次いで、牛肉の価格が急上昇し、5年前に比べて43%アップする事態となっているけれど、
その原因は先ず牛の数が減り、畜産業のコストがアップしていること。そして”ビーフ・ステート”の異名を取る全米最大の牛肉供給元であるネブラスカ州の大手牧場が
次々と倒産に追い込まれているため。理由はネブラスカ州の牛肉牧場の労働者の70%以上が不法移民であったためで、
トランプ氏が再選されてからというもの、移民達は強制送還や迫害を恐れて働きに来なくなり、牧場運営が不可能になっているとのこと。
その深刻さは、ネブラスカ州自体が倒産に追い込まれとまで言われるほどで、ゴールデン・エッグの次はゴールデン・ビールかと言われ始めており、Tariffで増える
生活費に加えて、安価な労働力不足によるインフレがアメリカの庶民の生活を益々苦しくすると見込まれるのがアメリカ。
しかし、一部には「トランプ政権はリセッションをわざと引き起こそうとしている」という指摘もあり、その理由は
リセッションが起これば 株や不動産等、全ての資産が安価で手に入り、失業者が増えて労働力も安価になることから、
勝ち組になるのはキャッシュを持って居る大富豪。リセッションが起こる度に、貧富の差が拡大してきたのは歴史が証明する通りで、
現在は近代史上最も貧富の差が開いている状態。そんな現在、深刻かつ世界的な不況が起これば、
世界中の貴重な資産、土地、不動産、ビジネスが全てビリオネアによって買い叩かれるのは時間の問題。
事実トランプ政権が、貧困国の救済や貧困層の健康保険補助などを削って実現を目指しているが、4.5兆ドルの減税。その83%、すなわち3兆5700億ドル分の
恩恵を受けるのは、既に25兆ドルの総資産を持つアメリカのトップ0.1%。
この大幅減税と大型リセッションが同時に起こったとすれば、米国封建制度確立のパーフェクト・ストームになることが確実視されているのだった。
トランプ氏が下院でスピーチを行った火曜日夜から水曜に掛けて、アメリカ国土の半分以上が見舞われていたのが竜巻、防風、大雨、大雪という猛烈なウィンター・ストーム。
またサウス・キャロライナ州では今週から大規模な山火事が起こっているけれど、同州は歴史的な干ばつの後に、
ハリケーンの大被害に見舞われ、そして今は季節外れの山火事被害で、自然災害三連発の状況。
そんな中で発表されたのがNOAA(アメリカ海洋大気庁)の大規模レイオフ。NOAAはアメリカが世界に誇る 気象科学のトップを揃えた陣営と最新のテクノロジーで、
津波、竜巻、ハリケーンの警報から、プロ・スポーツチーム、ミュージック・フェスティバルを含む屋外イベントを含む様々なビジネスに的確な気象情報を与え、多大な利益に貢献してきた存在。
そのスタッフを800人解雇し、NOAAがこれまで使用してきたサテライトの代わりに 導入しようとしているのが気象関連に馴染みがないイーロン・マスクのスターリンクのサテライト。
スターリンクは前述のカナダのオンタリオとの契約に加えて、メキシコのビリオネア、カルロス・スリムからの多額投資を失ったことから、
その埋め合わせを狙っているようで、航空宇宙局職員に対してスターリンクのテクノロジーを使うための用途を探させている真最中。
これに対してはUSAID(国際開発庁)の大量解雇以来の大々的な抗議活動が起こっていたけれど、更にDOGEが停止したのが低所得者へのフード・スタンプと、低所得者への住宅補助金の支給。
しかしUSAIDについては 今週水曜に最高裁がトランプ政権に命じたのが、既に決まっている貧困国への援助物資の支払い。
援助物資も、フード・スタンプも、貧困国や国内の貧困層に食糧を提供するプログラムと理解されているけれど、
実際にはアメリカ国内の農業、食品業に対して、政府が常に一定の売り上げを保証する援助プログラム。
USAIDの食糧援助と低所得者へのフード・スタンプのプログラムがカットされて一番困るのは、農家や食品業界であることが当事者の訴えで
明らかになっているのだった。
先週、確定申告の時期にも関わらず国税局の職員7000人を解雇したDOGEは、次にCIAで大量解雇を計画中とのことで、
DOGEは全政府職員に支給されている業務費用支払い用のクレジット・カードを2週間前から停止。
そんな緊縮財政下で報じられたのが、当初、「無休の長時間労働」を謳ってスタッフのリクルートをしていたDOGEが、ハッカー上がりの20代のエンジニアに何と19万5000ドルの給与を支払っているという事実。
しかもそのスタッフは”効率化省”と言いながら、不要に解雇した職員の雇い直しや消したデータのかき集めなど、
非効率的な作業を行うだけでなく、誤情報発信、取り消し、削除を続けていることから、アメリカ国民に
「政府機関の仕組みを理解していない」、「コンピューター・コードを知らない」、「数字が読めない」、「文字が読めない」と批判されている存在。
さらに今週には、トランプ政権が440以上の連邦政府所有の建物を「政府運営には不要」と判断して閉鎖、売却すると発表。
その数時間後には、その閉鎖・売却リストが320軒に訂正され、FBIビルを含むワシントン D.C.の物件が売却対象から削除されたけれど、
アンチ・トランプ派はこれについても 「不動産業者上がりの大統領と、非効率的な効率化省が政府を率いるとこうなる」と呆れていたのだった。
先週末にはマーラゴで行われたイベントに、不自然に膨らんだ身体で登場したことで、防弾チョッキを着用していることが指摘されたのがイーロン・マスク。
今やアメリカでは毎週末テスラの店舗で大々的な抗議デモが起こっており、ニューオリンズで行われた毎年恒例の
マルディグラのパレードでは、テスラのサイバー・トラックが通った途端に人々がブーイングをして、物を投げつける様子がSNSで拡散。
フランスではテスラ店舗前に 停めてあった複数の車両が焼き討ちの被害に遭い、
アメリカでもテスラのチャージング・ステーションが放火に見舞われる事態が発生。
テスラ・オーナーが公道に駐車をすれば落書きをされたり、テスラ売却を促すステッカーが貼り付けられ、ロンドンではテスラを所有する家の前の歩道に
スプレー・ペイントで「Swasticar (ナチスの鍵十字”Swastika”と”Car”をくっつけた造語)」と書かれるなど、アンチ・テスラ、
アンチ・マスクの活動がどんどん広がっているのが現在。
欧州でマスクが嫌われる最大の要因は
ドイツの選挙でネオナチスとも言われる極右政党を支持したことで、そのドイツではテスラの2月の売り上げが前年比75%ダウン。
そんなアンチ・マスクの動きはここへ来て、「Tesla Takedown」という万国共通のスローガンの下で纏まりを見せつつあるのだった。
そのため暗殺を恐れているのがマスクで、にも関わらず4歳の息子Xを頻繁に同行するのは、
抱っこしたり、肩車することで 息子をヒューマン・シールド、すなわち暗殺除けにする目的も兼ねていたと言われるほど。
今週にはテスラ株がピーク時から40%以上が下落し、テスラの取締役会長、ロビン・デンホルムさえも
3300万ドル相当の株式を売却したことが伝えられたけれど、
マスクのツイッター買収費用を工面したモルガン・スタンレーのアナリストがテスラ株を「長期で買い」と語ったことから、
SNS上で聞かれたのがモルガン・スタンレーまで「悪の手先」扱いする声。
今週の下院スピーチでは、トランプ氏がDOGEを率いるイーロン・マスクの功績を讃えたけれど、
これに大喜びしたのが DOGEに対して訴訟を起こそうとしていた弁護団。というのも昨今マスクは、大統領アドバイザーを名乗り、
DOGEも以前から政府機関に存在したUSデジタル・エージェンシーが名前を替えただけで、責任者は別に居ると主張。
これはどうやらDOGEに対する訴訟で、マスク個人も被告として名を連ねるのを嫌ってのことだったようだけれど、
大統領が下院スピーチで明言すれば、DOGEを率いているのがマスクであることは否定できない事実。
せっかくの小細工が無駄に終わるところも、効率化省が非効率と言われる由縁なのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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