今週には、ギャロップ、ワシントン・ポスト&イプソス、CNNを含む 5つの世論調査結果が発表され、
エコノミスト&YouGovで支持率50%を獲得した以外は、不支持率が過半数となったトランプ政権。
特にDOGE(政府効率化省)への反発が強く、その怒りはトランプ氏に投票したレッド・ステーツで急拡大。
今週SNS上で拡散されたのが、地元に戻った共和党下院議員たちが
有権者とのタウンホール・ミーティングで、猛烈なブーイングに見舞われる様子。
また高齢者を中心に反発が高まっているのが、トランプ氏が就任直後に バイデン政権の”アメリカン・リカバリー・アクト”を撤廃する大統領令にサインしていたこと。
トランプ氏があまりに沢山の大統領令にサインするため 見逃されていたこの撤廃によって、
糖尿病患者の命綱であるインスリン価格が、6ドルから10倍以上の80ドルに高騰。
多くの患者達は、買い足しのタイミングでその厳しい現実を突き付けられているとのこと。
さらに今週、共和党は下院で低所得者用健康保険、メディケイドの予算を削って
向こう10年間で4兆5000億ドルの減税を実現するための法案を可決。減税の恩恵を受けるのは富裕層のみで、
低所得者の多いレッドステーツは、ここでもダメージを受けるのだった。
トランプ氏が今週発表したのが、1人当たり500万ドルを支払えば アメリカのパーマネントVISAが取得できる ”ゴールド・カード” プログラム。
グリーン・カードの上がゴールド・カードというのは奇しくもアメリカン・エクスプレス・カードと同じであるけれど、
トランプ氏は「100万人が応募すれば、それだけで5兆ドルの収入だ」と強気の発言。
しかしVISA取得に500万ドルを支払うには、最低でも個人資産が3000万ドルは必要。
マルチミリオネアが最も多いアメリカを除くと、個人資産3000万ドル以上の富豪は世界中に約27万人。
たとえ資産を3000万ドル持っていたとしても、家族4人でアメリカ移住を考えた場合、ゴールド・カード取得だけで2000万ドルが飛んでいく計算。
したがってトランプ氏の見積りは捕らぬ狸の皮算用と言われるのだった。
しかし、ゴールド・カードには税金面でのメリットがあり、現在アメリカ市民、及びグリーン・カード・ホルダーは、全世界で得ている所得全額に対してアメリカで税金を支払う義務があるのに対して、
ゴールド・カード保持者はアメリカ国内の収入のみが課税対象。
イギリス、オーストラリアでも、ゴールド・カードのほぼ半額で同じ条件のオファーをしているけれど、申込者は毎年1000人に達していないことがレポートされているのだった。
アメリカにも富裕層を優遇する EB-5 VISAプログラムが既に存在しているけれど、こちらはビジネスに100万ドルを投資し、アメリカ国内で仕事を生み出すのが条件。
しかし同プログラムは、ウェイティング・リストがパンク状態で、時間が掛かり、ストレスが多いなど、問題山積の状態。
それに対してゴールド・カードは1人当たり500万ドルを支払えば、それ以外の制約はなく、「幾つかの質問を尋ねられるだけ」とのこと。
とは言っても 「この質問こそがクセモノ」とも言われていて、個人でゴールド・カードに申し込むのは恐らく中東、インド、中国、ロシアの富豪か、自国に滞在出来ない裕福な政治犯の可能性があるため。
裕福な犯罪者ならば、既にアメリカ国内に沢山居るとは言え、それが益々増えるのを容認するかが問われているのだった。
移民法の専門家の間で、ゴールド・カードを最も活用すると見込まれるのは大手企業。
これまで散々 H1-Bヴィザ取得に手を焼いてきたアップル、グーグルといった企業にとって、AIスペシャリスト等、高額給与で長期に渡って確保したい人材のためならば、
よほどの大家族を擁していない限りは、500万ドルを支払うだけで VISA取得や 更新の煩わしさが無いのはかなりのメリットと言われるのだった。
それとは別に一部の移民弁護士がSNS上で訴え始めているのが、合法VISAで入国しようとした移民が「米国政府は貴方のVISAには価値を見出しません」と、
一次的に入国を拒まれるケースが出ていること。現在は同じような体験をした人々の証言を求めている真最中。
その一方で、女性に性転換したアメリカ国籍のトランスジェンダーが、「男女以外の性別を認めない」と宣言したトランプ政権下で
性別欄がMale(男性)と記載されるのを覚悟でパスポートの更新を申請したところ、「現時点ではパスポートを更新できない」と
手続自体を拒まれ、「海外に出られない」とSNS上で訴えるケースも出ているのが現在。
それだけでなく、アメリカ人のパスポート発行、及び更新にも非常に時間が掛かるようになってきたとのことで、
DOGEによる人員削減が容赦無く続く中、2週間後にゴールド・カード・プログラムを導入するのは、オペレーション的にかなり無理があると言われるのだった。
DOGE(政府効率化省)が先週公開したのが、総額650億ドル相当の これまでDOGEが削減してきた政府支出リスト。
しかしこのリストの大半が、既に支払い済、バイデン政権時代にキャンセル済の契約、もしくは契約が発生していない 単なる見積りであったことがバレてしまったのが今週。
これがミスではなく、虚偽だと判断される要因は、DOGEがリストの中で最も額が大きかった5項目をコッソリ削除していたためで、その5つのうちの3つは
USAIDの6億5000万ドル相当の1つの契約を3回リストしていたというもの。残りの2項目は、本来56万ドル相当の社会保障の契約を2億3200万ドルに、
そしてICE(移民関税局)の800万ドルの契約を80億ドルに膨らませて記載したもの。
さらにリストに記載された企業に メディアがコンタクトして明らかになったのが、契約が結ばれていない見積り書類の金額を大きくして、
いかにもDOGEが不要契約をキャンセルしたかのように演出していたことで、突如メディアからの取材を受けて驚く企業オーナーは少なくなかったよう。
でも今週最大の物議は、DOGEが200万人の政府職員に対し、Eメールで 「先週行った業務を5つ箇条書きにして月曜までに提出するように」と求め、提出を怠った場合は解雇となる旨を通達したこと。
これに対してはFBIや国防省を含む機関が 「対応の必要はない」と通達し、トランプ氏も途中から「義務ではない」と態度を軟化。
しかしイーロン・マスクが「最後にもう一度チャンスをやる」と再び強制したことから完全に混乱状態。 リストを提出した職員は約100万人と報じられたけれど、
何を訴えようと、既に決まっているのが 脳力、功績とは無関係に職員の大量解雇が行われること。
事実、メールを送付した職員は 送信の20分後に解雇通知が送られてきたことをSNSで明らかにしていたのだった。
そのDOGEは2週間前には、「数千万人の100歳以上が社会保障を受け取っている」と発表。
「中には300歳の人間までいる」と、イーロン・マスクが まるで鬼の首を取ったかのように 不正暴きを高らかに宣言。
しかしデータ上でそうした問題が起こるのは、社会保障制度が日付型ではない ”COBOL”というコンピューター・プログラミング・ランゲージで管理されているため。
これは53歳のマスクでさえ馴染が無い、非常に古いシステム。しかしアメリカという国の規模、万一社会保障金の支払いがストップすれば、生活出来ない高齢者が多い事情を考慮すれば、
そう簡単にプログラミングを刷新する訳には行かないのは容易に理解できるところ。
むしろこういう問題が起こるからこそ、業務は ”乗っ取り”ではなく ”引継ぎ”をしなければならないのは 政府機関も民間企業も同様なのだった。
COBALでは、生年月日の欠落、または不完全なエントリーがある場合、150年以上前の参照ポイントにデフォルト設定されるようになっており、
社会保障局のデータベースには、1920年以前に生まれ、戦争等で死亡日が確認できないことから 死者のマークが出来ない約 1,890万人分の社会保障番号が削除されないまま残り続けているとのこと。
しかしその番号に対して保障金が支払われている訳ではなく、民主党リベラル派からは、「選挙で死人が投票していると偽った次は、死人が社会保障を受け取っているというのか?」といった皮肉も飛び出していたのだった。
今週には そのDOGEからも21人が辞職しており、理由は「政府の中枢システムや国民の個人情報を危機にさらし、重要な公共サービスを解体する行為に加担したくない」というもの。
「DOGEにもそんなまともなスタッフが居たのか?」と驚く人は多かったけれど、辞職したのは、既にUSデジタル・エージェンシーの別部門で働いていたスタッフ。
それがつい最近DOGEにコンバート、もしくは統合されたとのこと。したがって辞職したのはマスクが採用したハッカー上がりのエンジニアではなく、常識的でまともな職員なのだった。
今週月曜に行われた国連総会のロシア軍即時撤退求める決議案で、アメリカがロシア、北朝鮮らと共に反対の立場に回ったことで、
国内外に向けて益々明確になったのが、アメリカがロシア・サイドに立っていること。
ウクライナに対して、戦費補助の見返りとして資源の50%の権利を要求するトランプ氏は、今週アメリカの援助金が3500億ドルであったとDOGE並みに額を膨らませて主張。
しかし実際にはアメリカが政府予算としてウクライナ支援に割いたのは1750億ドルで、そのうちウクライナの手に渡ったのは1060億ドル。
差額の690億ドルは ウクライナ支援のための米国内の活動費と言われ、欧州諸国はこれを支援とはカウントしていないのが実情。
さらにアメリカは援助のうち698億ドル分を武器で支給しているけれど、そのすべてが古くは80年代、大半が90年代の旧式のもので、いずれは処分されるはずのもの。
これに対して EU、イギリス、アイスランド、スイス、ノルウェイが、ウクライナに提供したのは650億ドル相当の武器を含む、総額1380億ドル。
今週トランプ氏と会談したフランスのマクロン大統領は、EUはロシアの資産を差し押さえており、その中から戦費は返済されたことを明言。
「EUだって戦費の支払を求めている」と語ったトランプ氏に対して、ファクトチェックを入れていたのだった。
先週日曜に行われたドイツの選挙では、保守系野党CDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)が28.6%の投票を獲得。議席数208で第1党となり、
イーロン・マスクが猛烈にプッシュした極右のAfD(ドイツのための選択肢)が152議席を獲得して躍進。与党SPD(社会民主党)は120にまで議席を減らして事実上の敗北。
これによって次期首相候補になったのはCDU・CSUのフリードリヒ・メルツ党首で、対ロシア強硬派で知られる彼が勝利スピーチで強調したのがアメリカからの完全な独立。
そもそもドイツは対米感情が悪いことで知られるけれど、今回の勝利でマスク&トランプ政権との距離感を益々狭めたのがAfDアリス・ワイデル党首。
ワイデルは移民受け入れと同性婚に反対し、「伝統的な家族の価値観」を擁護する政党を率いている割には、「スリランカ生まれの移民パートナーと2人の息子を育てる同性愛者」というはなはだしい矛盾ぶりなのだった。
DOGEが 職員の大量解雇に止まらず、省庁ごと潰そうとしているのが教育省。それに反発してか、イーロン・マスクのアキレス腱である テスラ株への攻撃に出たのが アメリカ最大の労働組合である全米教職員連盟。
180万人のメンバーを擁す連盟の代表は、組合員のリタイアメント資金を管理する ブラックロック、ヴァンガードを含む6つの大手資産運用会社に対して、
「欧州での売り上げが急落したテスラの株価は、サイバートラックよりも速いスピードで下落し続けています。労働者の退職金を守るために我々は行動を起こす必要があります」と
テスラ株をポートフォリオから外す指示とも受け取れるレターを送付。そのコピーをマスクとテスラ社にも送り付ける駆け引きに出ています。
テスラ社内は、既に有能な人材がほぼ全員退職したと言われ、マスクがデザインしたサイバー・トラックは
車体のパネルに隙間が空く問題が指摘されますが、テスラ側はその解決策として「ダクトテープで留めるように」と回答していることが伝えられています。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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