Feb 16 ~ Feb 22 2025

King Trump Rewrite History?
トランプ国王がアメリカと近代史を変える!?


今週のアメリカでも報道時間が最も割かれていたのがDOGE(政府効率化局)で、今週、DOGEが高らかにウェブサイトで謳ったのが80億ドル無駄な政府契約の破棄。 しかし資料を確認したNYタイムズ紙に それが実際には3桁少ない800万ドルだったと指摘され、ウォールストリート・ジャーナルは これまで削った政府予算総額としてDOGEが発表した”550億ドル”が、 実は”26億ドル”で、節約リストに掲載された4分の1以上の政府コントラクトが既に支払い済みであることが指摘されていたのが今週。
DOGEについては、会計ミスと古い資料で嵩増しした”政府のムダ金暴露”の誇大広告も問題視されているけれど、 今週DOGEが節約したはずの800万ドルのうち、600万ドルは既にトランプ氏がスポーツ観戦で使い果たしており、 その内訳は、まず先週末トランプ氏が訪れたNASCAR デイトナ500のレース。エアフォース1で空から登場し、その後大統領専用車ビーストに乗り換えて、NASCARのサーキットを2.5マイル走るという ドラマティックな登場に掛かったコストは500万ドル。そしてその前の週末に現役大統領として初めて訪れたスーパーボウル観戦は、 派手な演出が無かったとは言え、掛かった費用は100万ドル。
ちなみにトランプ氏は第一期政権の4年間に、自分が所有するゴルフ・コースで239回、6日に1回ペースでプレーをしており、それに掛かった国民の税金1億5200万ドルは トランプ・ゴルフ・リゾートの収益。 PGAツアーは、今年からトーナメントをトランプ氏が所有するゴルフ・リゾートで行う意向を発表しており、 サウジアラビアのLIV Golfとの合併を有利に進めるためにも、大金を投じたトーナメントを開催することが見込まれるのだった。



僅か1カ月でアメリカを変えたコーディネーション?


今週月曜はプレジデンツ・デイで、アンチ・トランプ派は全米50州でコーディネートした抗議活動を行ったけれど、この様子を嘲笑したのがFOXニュースのジェシー・ウォーターズ。 「アンチ・トランプ派は未だに手書きのサインを持ったデモと、その場で行うミニ記者会見という1990年代の政治運動をしている。それに比べて MAGAはトランプ大統領の主張をイーロン・マスクがツイートし、フォロワーがリツイートし、 ジョー・ローガン(保守派ポッドキャスター)がポッドキャストで喋り、FOXニュースが報じるという連携で拡散する。ニュースを生み出すのは我々で、アンチ・トランプ派はその反論で精一杯」と 指摘。拡散内容の信憑性はさておき、これはアンチトランプ派が認めざるを得ない状況。
拡散コーディネートもさることながら、第二期トランプ政権は過去4年の準備期間に保守派勢力、特に”プロジェクト25” が念入りに封建体制構築をデザインしてきたとあって、 一度に沢山の事を凄まじいスピードで行うのが戦略。 そのため野党もメディアも対応出来ず、裁判所に食い止めてもらうのが精一杯。トランプ政権発足以来、政権やDOGEに起こされた訴訟は、今週半ばまでで75件、1日2件以上のペース。
そんなトランプ氏の今週最大の物議は、いつの間にかウクライナがロシアに対して戦争を始めたことになっており、ゼレンスキー大統領が選挙で選ばれていない独裁者と発言したこと。 早くも X(元ツイッター)上やFOXニュースで始まったのが3年前の歴史の書き換えで、これにはペンス元副大統領もソーシャル・メディアで抗議をしたけれど、 ウクライナに戦費を供給し続けたアメリカは、何時の間にかロシアの味方。 停戦を纏める見返りとしてウクライナの貴重なミネラルの権利を主張するという裏切りモード。ちなみにこのミネラルは宇宙開発やAI事業拡大には不可欠。 アメリカがカナダを51番目の州にしたがっている本当の理由もリチウムを含むカナダの豊富なミネラルが狙い。トランプ氏が突如、 国防問題を理由にグリーン・ランドを手に入れたがっているのも、実は地殻下に蓄えられた地熱が、貴重な再生可能エネルギー源であるため。
EU首脳は、米国とロシアがウクライナ不在の終戦協定を纏める最中、その対策を話し合う会合を行っていたけれど、 米国にとって最も重要な貿易パートナーがカナダ、メキシコ、中国である一方、米国にとって最も重要な経済パートナーなのが欧州。 米国企業が行う外国投資の60%の行先が欧州企業で、欧州企業にとっても外国投資の60%が米国企業へのもの。加えてアメリカ企業は500万人の欧州人を雇用し、 欧州企業も500万人のアメリカ人を雇用するイーブンな関係。さらにはBMWはサウス・キャロライナ、フォルクスワーゲンはテネシー、エアバスはアラバマ等、 欧州大手の工場があるのはことごとくトランプ氏の支持基盤であるレッドステーツ。 ウクライナ戦争終結案をきっかけに、欧州がアメリカを「ロシアに肩入れする敵対的国家」と見なすようになれば、米国経済への悪影響はかなりのものと予測されるものの、 NATOがアメリカの軍事力に頼れないとなれば EU諸国の軍事負担も膨大なもの。
その一方で、今回の終戦協議で改めて確認されたのが トランプ氏がゼレンスキー大統領を個人的に嫌っていること。その原因は第一期トランプ政権下の2019年、 アメリカからウクライナへの 2億5000万ドルの援助と引き換えに、トランプ氏が当時の大統領選ライバル、 バイデン氏と息子のハンター・バイデンについて政治的ダメージを与える捜査を行うように圧力を掛けたことが、 トランプ氏の最初の弾劾に発展するスキャンダルになったため。この時、翌年の大統領選挙結果が何方に転んでも当たり障りの無い対応をして、 外交力を評価されたのがゼレンスキー大統領なのだった。
アメリカは国防省から政治家に至るまで、反ロシア思想が根深いとあって、今週のトランプ政権の親ロシア姿勢には一様に難色を示していたけれど、 国防省はこれから人員削減が始まる部門で、反対勢力は解雇の対象。 共和党議員もトランプ氏の機嫌を損ねることを何より恐れる状況で、 トランプ氏就任から僅か1カ月で「ここまでアメリカが変貌するなんて」という驚嘆の声が 様々な方面から、いろいろな意味で聞かれていたのだった。



まだまだ止まらないDOGE人員削減の嵐


先週末に報じられたのがDOGEのスタッフが、国家原子力安全局のスタッフ300人を解雇してしまい、雇い直そうとしても連邦政府のEメール・データを削除してしまったという大失態。 結局、そのうちの250人を再雇用したことが伝えられたけれど、その一方で国民の不満の声が高まっていたのが、鳥インフルエンザの影響で高騰が続く卵価格。 トランプ政権では「対策を進めている」と弁明していたけれど、そのスタッフも全員解雇されてしまい、またしても再雇用という失態が見られていたのが今週。
DOGEが乱暴に政府職員を解雇する理由の1つは、イーロン・マスクが政府職員の殆どがワシントンDC在住の民主党支持者と思いこんでいるためと言われ、 確かにワシントンDCは、NYやカリフォルニアと並ぶリベラル派が極めて多い街。しかし政府職員の80%はワシントンDC以外に住み、共和党支持者が非常に多いのが実情。 先週からX上では、過去3回の選挙で全てトランプ氏に投票して解雇された長年の政府職員が再雇用を懇願するビデオがポストされていたけれど、 前述のFOXニュースのジェシー・ウォーターズも自分の長年のトランプ支持者の友人が解雇され、その再雇用検討をオンエア中に行う始末。
今週のDOGEは、現在 空港管制官不足が大問題になっている航空宇宙局(FAA)からも人員を削減してしまったけれど、 トランプ氏が就任して以来、アメリカでは旅客機からセスナまでを含めると、1カ月で起こった飛行機事故は5件。 そしてベテラン・スタッフが解雇されたFAAで、現在システムを牛耳っているDOGEスタッフは 元スペースXの従業員。自社ロケットを飛ばす飛行空間を確保したいスペースXにとって、 これは渡りに舟のビジネス・チャンスであるけれど、そんな利益相反の危惧を「そんなことするはずがない」という一言であっさり交わしていたのがトランプ氏とマスク。
先週からのアメリカは 複数の歴史的規模のウィンターストームに見舞われ、レッド・ステーツを中心に国土の60%以上が大雨、洪水、竜巻、強風、大雪、広範囲の路面凍結に見舞われたけれど、 DOGEはその被害対策に当たる連邦機関、FEMA(連邦緊急事態管理庁)閉鎖に動いている最中。 さらにDOGEは確定申告の季節を迎えた今の段階で、IRS(国税局)の職員も6700人解雇。アメリカでは多くの国民が申告によって税金の払い戻しを受けるのがこの時期で、 今年はその返金作業の遅れが懸念されるのだった。
ところで政府職員が激減することで、千万ドル単位で売り上げが消えると言われるのが政府職員出張の御用達エアラインであったユナイテッド航空。 これに止まらずDOGEによる大幅人員削減、政府施設閉鎖は、職員が使用する仕事関連の備品、連邦政府が支給するスマートフォンやタブレット、ラップトップ等の売り上げ激減を招き、 政府オフィス清掃業者、周辺の飲食業やサービス等、広範囲のビジネスに大打撃を与えることから、 Tariffで苦しむ国内経済に更なる打撃をもたらすのは必至。 その懸念が引き金で今週は株価が大暴落しており、政治・経済の専門家がDOGEの仕事ぶりを 「システムだけ乗っ取って、経済的・社会的余波を考慮しないアマチュアの作業」と呼ぶのにはそれなりの理由があるのだった。



トランプ国王宣言と国王への貢ぎ物?


トランプ氏は大統領就任以来、イーロン・マスクと共に事実上の独裁政権構築を進め、過去1カ月でサインした70以上の大統領令の半分が違法、違憲と見なされることから、 「お前は国王じゃない!」といった批判を受けて来たけれど、遂にトランプ氏が自らを国王宣言をしたのが今週。
この宣言は、NYが1月から導入した「渋滞料金制度(マンハッタンの60丁目より南側全域に平日午前5時~午後9時に その外側から乗り入れた車両に料金をチャージする制度)」を 運輸省を通じて禁止した勝利宣言として 「Long live King/国王万歳!」とトランプ氏がポストし、それを政権スタッフがAI生成の国王画像でリツイートしたもの。
「渋滞料金制度」は僅か1カ月で効果が報告されたとは言え、ニューヨーカーが反発している制度。しかしアンチ・トランプ派が多いNYでは トランプ氏の一存で覆るのは面白くないのが本音。しかも今、NYはトランプ政権に引っ掻き回されている真最中。
事の発端は、外国政府からの賄賂&不正選挙資金受け取りで訴追されたエリック・アダムスNY市長の罪を、 「トランプ政権の移民政策を効率良く進めさせるため」という理由で、司法省が取り下げるように命じてきたこと。 新司法長官は圧力は掛けられても、実際の訴追取り消しの手続は検事の仕事。 しかし 市長就任前から黒い噂があった民主党のアダムスを追い詰め、余罪の追及をしてきた共和党敏腕検事は、 「こんな馬鹿げた理由で 訴追を取り消す検事にだけはなりたくない」という抗議レターと共に辞任。 同様の理由でワシントンとニューヨークで敏腕検事が7人もバタバタと辞任。
そのアダムスは、年末にマーラゴでトランプ氏と親交を深め、以来、市の職員に対して行ったのが「トランプ批判を控えるように」との言論統制。 そのため囁かれるのが両氏の間で何等かの取引があったという疑惑で、今週にはアダムスに反発した4人の副市長が全員辞職する事態に発展。 アダムス辞任を求める抗議運動も起こっており、NY市政府は今年11月に市長選挙を控えてガタガタの状態なのだった。
一方、テキサス州で目下危惧されているのが麻疹のブレークで、先週24人だった感染者が今週末には90人に増加。 病院で検査を受けたのがこの人数の場合、実際の感染者は約8倍と見積もるのが通常。
このタイミングが、2019年に麻疹ワクチンのデマを広めてサモア島で麻疹大ブレークを招いたロバート・F・ケネディ Jr.の 健康保険省長官就任と同じであったのは、何とも皮肉な展開。 そのRFKジュニアが就任直後に行ったのが食品医薬品局のスタッフの大量解雇と、ガンと感染症の研究停止。 RFKジュニアは、熱殺菌処理をしない生の牛乳しか飲まない等、意味不明な健康志向で知られ、彼が米国の食と医療のトップを務めることで、 製薬業界、食品業界に難しい状況が予想されるけれど、ウォールストリート・ジャーナルによれば 就任式前の時点で それを恐れる大手製薬・食品企業のトップに声を掛け、 多額の就任式基金と政治資金を募っていたのがトランプ氏。 RFKジュニアによる地獄の沙汰も、トランプ国王への献金次第と言われるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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