Jan 26 ~ Feb 1 2025

Dazed and Confused…
相場クラッシュ、政府職員大量肩叩き、ファンド凍結、ICEバックラッシュ の カオス2週目


今週のアメリカでは、後半にアメリカ軍ヘリコプターとアメリカン航空の旅客機の衝突事故が大きく報じられたものの、 報道時間が長く割かれていたのは、トランプ氏が政府のトップポジションに指名した物議を醸すメンバーの上院での承認公聴会の動向。
中でも最も注目を集めたのは保健福祉省長官に指名されたロバート・F・ケネディの公聴会で、RFKジュニアと言えば、ケネディ家の名前を武器に COVID19はもちろん、麻疹やポリオといった歴史的に無害で、効果が科学的に立証されているワクチンに至るまでを否定。 ワクチン反対活動で多額の利益を得る一方で、自分の子供にはワクチンを接種させていた二枚舌。 加えてホリスティック医療とさえ言えない胡散臭い健康食品のプロモートでも大金を得る一方で、 「農薬で子供がトランスジェンダーになる」といった医学的根拠ゼロの主張を繰り返すことから、 1万5000人の医師たちが彼の就任に反対署名をしていたのだった
さらに彼の従姉で、元駐日大使でもあるジョンF・ケネディ大統領の娘、キャロライン・ケネディもインスタグラム・ビデオで 彼の動物虐待、リスクを冒し、ルールを破る性格、彼のせいで弟や従兄弟たちが薬物中毒になる様子を見て来たこと等を語り、 上院議会に彼を承認しないよう呼び掛けていたけれど、公聴会自体も抗議活動家が進行を遮る大荒れ状態。 しかし証言席のRFKジュニアは、これまでの主張を180度翻して、自分がワクチン肯定派だと主張。
FOXニュース・キャスター、ピート・へグセスが、J.D.ヴァンス副大統領が投じたタイブレークの1票差で国防省長官に承認されたように、 RFKジュニアもトランプ氏の報復を恐れる共和党上院議員が承認するという見方が極めて有力。
8万人の政府職員を抱え、国民が日常摂取する食品、医薬品、そして健康保険に至るまでを統括する保健福祉省長官とあって、 民主党側は「他の部署とは異なり、この省には国民の命と健康が掛かっている」と切羽詰まった主張を繰り広げるものの、 空回りの印象を与えていたのだった。



ディープ・シークが招いた市場クラッシュ、AIはバブっているのか?


先週、ダヴォスで行われたワールド・エコノミック・フォーラムで話題を集め、週明け早々米国株式市場から1兆ドルの時価総額を消し去るクラッシュを招いたのが 中国で開発されたチャットボット、ディープ・シーク。中でも2024年に株式市場をけん引し、先週金曜に世界一の時価総額企業となったエヌビディアは、月曜1日で約6000億ドルの価値を失い、 1日損失額の史上最高記録を打ち立てていたのだった。 株式市場がここまで大きく反応した理由の1つは、AIセクターがバブルの域に達している懸念を 多くの人々が既に持っていたためで、 ディープ・シークの登場はそれを実際に証明したもの。
先週にはトランプ氏がオープンAI、ソフト・バンク、オラクルの3社による向こう4年間で米国のAIインフラに5000億ドルを投資する「スターゲイト」プロジェクトを発表したばかりであるけど、 中国の新興企業が そんな大金を投じることなく、オープンAIの ChatGPT、アンソロピックのクロード、メタの ラマといったアメリカの最先端モデルを超えるチャットボットを、 遥かに安価に開発したニュースが流れれば、投資家たちが 自分達の資金が一体何に使われているのかを疑問に思っても不思議ではないし、 米国製AIのトレーニングにおいて”ゴールド・スタンダード”と言われるチップを製造してきたエヌビディアの今後の業績に疑心暗鬼になるのは無理もないこと。
そもそも現在AI企業に多額の資金が流れ込む理由は、「今どれだけ資金を注ぎ込んでも、やがては元が取れる」、「最初に市場を独占したモデルが 覇権を握るので、開発を急ぐための資金に糸目をつけるのは間違い」といったゴールド・ラッシュのメンタリティが働いているため。 メタは、同社のAI部門強化のために昨年より50%多い650億ドルの設備投資を行う意向を発表しているけれど、 ディープシークが短期間にチャットGPTを超えるチャットボットを生み出した費用は僅か600万ドルで、文字通り桁違い。 しかもディープシークの方がスピードも速く、よりナチュラルで人間的な文章を生成すると評判で、 「安い、早い、上手い」という牛丼の吉野家のキャッチ・コピーのような状況になっているのだった。
ディープ・シークは週明け早々、アプリ・ストアのダウンロードでチャットGPTを抑えてNo.1になっており、 レジスターが出来ないユーザーが続出する混み合いぶり。
オープンAIは、ディープ・シークが AI業界で「蒸留」と呼ばれる手法で、チャットGPTの出力学習を使って機能を最適化させたと疑っており、 昨年秋にはディープシークと関連すると思われるアカウントが、オープンAIのプログラミング・インターフェイスから大量のデータを取得する様子が記録されていたとのこと。 しかし「蒸留」はオープンAIの利用規約に違反しているとは言え、AIの世界では一般的な手法で、AIにおける技術的優位性を守るのがいかに難しいかを改めて感じさせたのが今週。 言い換えれば、大金を投じて開発を行ったところで、簡単に盗まれて、より優れたプロダクトの叩き台になってしまう可能性がある訳で、 直ぐにAI投資が下火になることは無くても、ディープ・シークが投資家たちに もっと慎重になるきっかけを与えたのは紛れもない事実。
今週には中国のアリババもチャットボットを発表しており、AIのフロント・ランナーはこれから未だ変わり続けることを予感させていたのだった。



トランプ政権下で恩恵を受ける新たな存在


就任から8日間でトランプ氏が署名した大統領令の数は38。この数がバイデン政権下で発動されるまでには就任から80日を要し、前トランプ政権下では就任から100日が経過しても達しなかった数。 このあり得ない急ピッチが実現する背景にあるのは、過去2年以上に渡って”プロジェクト25”を含む保守極右団体が、議会承認無しで 反対勢力を封じ込めるために準備を続けてきたため。 中には大統領に与えられた権限を越えたものや、合衆国憲法に反するものも含まれており、発令と同時に訴訟が起こるのはそのため。
今週月曜夜に大統領令とは異なる ”行政管理予算局のメモ”という形で各政府機関に通達されたのが、3兆ドルと言われる連邦補助金とローンの凍結。 ホワイトハウス報道官は、年金や高齢者・貧困層の医療費等、個人への補助には影響せず、対外支援とトランプ氏が毛嫌いするDIE(多様性、公平性、包括性)プログラムへの補助金を見直すための凍結と説明したけれど、実際に複数の州で支払いシステムが停止したのが何百万人もの高齢者の医療費をカバーし、米国の出産費の40%を支払うメディケイド。多くの病院が医療費の受け取りが出来ない事態に陥ったのに加えて、 貧困者の食糧供給プログラム、コミュニティ・センターやハンディキャップを持つ子供の教育プログラム、退役軍人サポート・プログラム等が資金にアクセスできない事態を招き、高齢者が寒空の中で抗議デモをする様子が見られたのが火曜日。 夕方になって裁判所が、「正当性が見いだせない」とこの措置を一時的にブロックしたものの、その後も混乱は継続。結局翌日にトランプ氏がそのメモを撤回したことから、「あれは一体何だったのか?」 という怒りと拍子抜けリアクションが見られていたのだった。
しかし対外援助はすべて停止され、言うまでも無くウクライナへの援助がストップ。アフリカ諸国に対するHIVウィルス感染防止プログラムも停止されたことから、危惧されたのがこのままプログラムが打ち切られ、再びAIDSが広まるリスク。
その一方で今週トランプ政権は、連邦職員のほぼ全員に当たる200万人に対し、「2月6日までに辞職をすれば9月までの給与全額を支払うが、 辞職しない場合は週5日のフル出勤を義務付けるだけでなく、DOGEによる人員整理の対象になる」という異例の肩叩きEメールを送付。 これによって5~10%の職員を自主退職に追い込み、年間で最高1000億ドルが節約できるというのがトランプ政権の主張。 同じ手法はイーロン・マスクがツイッター買収後に従業員の80%を解雇する際に用いており、政府機関でこれを行う権限は大統領さえ持ち合わせていないというのが法律専門家の言い分。 民主党側は「政府職員は大統領が誰であるに関わらず、政府機能を担う不可欠な存在」として オファーを受け入れないよう呼び掛けていたけれど、 この肩叩きによって それまでの自分のキャリアを侮辱されたと受け止めて、忠誠心を失う軍関係者や職員が少くないことが伝えられているのだった。
これ以外でも、トランプ氏は明確な理由や事前通達無しという連邦法に違反する形でFBIを含む政府機関の管理職員、及び政府の監視役である独立検査官をクビにしており、 一部は法廷で解雇の正当性が争われることになるけれど、これはトランプ側と弁護団にとっては望むところ。 トランプ政権は裁判の間に新しい人材を起用して好き勝手が出来るのに加えて、弁護団は政府予算から多額の弁護費用が得られる計算。 そのトランプ氏は、NYで受けた自らの有罪判決を覆すために新たな弁護士事務所を雇ったとのことで、 この裁判はトランプ氏の大統領就任を受けて、「その責務を優先させるべき」という見地から、有罪は確定しても刑の言い渡しが保留されている状態。 今週、それを逆手に取るブーメラン戦略に出たのが トランプ氏に訴えられていたピューリッツアー財団。 訴訟理由はトランプ氏にとって名誉棄損とも取れる記事に財団が賞を与えたというものだったけれど、ピューリッツアー側は トランプ氏の大統領責務優先を理由に、訴訟を任期終了後まで延期させる措置を勝ち取っているのだった。
そうかと思えば今週METAは、2021年1月の議会乱入事件直後にトランプ氏のフェイスブック・アカウントを停止処分にした賠償金として2500万ドルを支払うことで示談が成立。 これは今やMAGA勢力の一員となったマーク・ザッカーバーグが今後のMETAのビジネスを有利にするために贈ったギフトのようなもの。 1つ確実に言えるのはトランプ政権下では、政府もその反対勢力も、お互いに訴えては控訴をすることから、 弁護士事務所が大儲けをするということなのだった。



不法移民狩りの ピッチアップ & バックラッシュ


今週もメディアが大きく報じていたのがICE(移民関税執行局)を含む連邦当局による不法移民狩りのニュース。 当初は「犯罪歴を持つ不法移民が対象」とされていたものの、今週の身柄を拘束された半分以上が犯罪歴を持たない不法移民。 ホワイトハウス側は「不法入国自体が犯罪に当たる」というスタンスを打ち出し、不法移民全員が強制送還の対象になることを宣言。
それもそのはずでICEに対しては1日の逮捕者数を1200~1500人ペースにするよう通達が出ており、達成できない場合にはペナルティを科すという脅し付き。 不法移民は 保守右派による印象操作とは裏腹に、アメリカ人より遥かに犯罪者の割合が低いとあって、 前科者だけをターゲットにしていたら数が埋まらない上に、捜査に時間と費用が掛かり過ぎてしまうのが実際のところ。 そんなランダムな手入れのせいでアメリカ国籍を持っていても身柄を拘束されるケースが出ており、今後も不法移民狩りは毎週3都市のペースで進む見込みなのだった。
身柄を拘束された移民は、軍用機による移送が行われているけれど、その着陸を2回拒否したのがコロンビア。 そのコロンビア政府に対する制裁措置としてトランプ氏が打ち出したのが、まずは25%、翌週には50%というとんでもない関税。 コロンビアはアメリカにとって第2位のコーヒー輸入元であることから、コロンビアがその脅しに屈して移送された移民を受け入れたことで 一番ホッとしたのはアメリカのコーヒー・ドリンカーとも言われたけれど、 今週移送機を受け入れたブラジルから噴出したのが、ICEによる非人道的な不法移民に対する扱い。 移民達は15時間手錠を掛けられたまま、食事も与えられずに移送され、移送前の5日に渡る拘留期間には一度もシャワーを浴びることが許されない劣悪環境。 これに対しブラジル政府は「犬でさえ もっとまともな扱いを受ける」と抗議しており、これには諸外国、及びアメリカ国内の 反トランプ勢力が同調。しかしトランプ支持派は「不法移民に人権など無い」とむしろICEを支持する意見。 ちなみに移民1人を強制送還するコストは1万500ドル。それを公約通り20万人分行えば21億ドルの費用が掛かり、その財源を何処から捻出するかは未だ不明なのだった。
その一方でトランプ氏は強制送還する移民を収容するため、悪名高き拷問所として世界中に非難され、現在閉鎖中のキューバのグアンタナモ湾軍事刑務所を使用する意向を発表。 これは米軍上層部にも寝耳に水のニュース。
さらには2024年にハマスVS.イスラエル戦争に抗議して、大学キャンパスで親パレスチナ抗議活動を行った留学生に対し、学生ビザを取り消して強制送還の対象にすることを宣言。 合法的に入国している場合でも 政治的見解を理由に国外追放のターゲットになる可能性を示したのが今週。 人権団体や法学者は、この新措置は合衆国憲法第一条で保証された言論の自由を侵害していると主張するものの、 トランプ氏は昨年、保守派が6人を占める連邦最高裁から 「大統領が任期中に行った政策に対し、刑事責任を問われることは無い」というフリーパス判決を得た米国史上初の大統領。 憲法違反で政策が覆ることはあっても、その政策がどんなに非人道的、非合法であっても、罪に問われるリスクは皆無なのだった。
トランプ氏は今週、人種や性別に関する反米イデオロギーを学生に教え込むカリキュラムに対して、政府の資金援助を差し止める大統領令に署名。 この反米カリキュラムとは、具体的にはアメリカ原住民に対する侵略行為、奴隷制やセグリゲーション(人種隔離政策)、旧日本軍がパールハーバー奇襲直後に日系アメリカ人を強制収容所送りにしたことなど、 アメリカの黒歴史と言える史実を学生達に教えることで、これまで保守右派が 「有色人種に対してアメリカで行われてきた差別の歴史を教えることで、白人の子供達に罪悪感を植え付けている」と非難してきたもの。 大統領令の中では、この言い分が 「白人が人種的特権や無意識の偏見に従っていた歴史を教えることは、人種差別を助長し、国家の団結を損なっている」という正当性にコンバートされていたけれど、 「中国政府が天安門事件を歴史から消し去ろうとしているのと何ら変わらない」といった批判が寄せられていたのだった。
その中国はトランプ大統領就任以降、驚くほど大人しいと言われるけれど、これは春節のタイミングとトランプ政権の動向を見極める国の戦略が重なったものとの見方が有力。 トランプ政権がTariffで脅しを掛けながら「アメリカ・ファースト・オールウェイズ」を突き進める中、パナマ、メキシコ、コロンビアを含むラテン・アメリカ諸国にとって 「寄らば大樹の影」的存在になりつつあるのが中国。 親中国家が増えるということは、2017年に中国と国交を正常化させたパナマが 台湾との国交を絶って中国領土と見なしたように、台湾が独立国家としての立場を失うことを意味しており、 逆に高まるのが中国による台湾進攻の可能性。そうなった場合、トランプ政権内ではイーロン・マスクと中国政府との深い絆の方が、マルコ・ルビオ国務長官を始めとする対中強硬派の主張より優先される可能性が 遥かに高いと見られるのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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