今週のアメリカではロサンジェルスの2箇所で新たな火災が発生し、南部の州は大雪に見舞われる異常気象、テネシー州の高校では2025年最初のスクール・シューティングで
容疑者を含む2人が死亡しているけれど、メディア報道が集中していたのはトランプ氏の大統領就任式と、それ以降始まった怒涛のような大統領令のニュース。
月曜に行われたトランプ氏の就任式の視聴者数は2460万人で、これはトランプ氏の初回就任式より21%、バイデン氏の就任式より27%低い数字であるのに加えて、
バイデン氏とのディベートの視聴者数5130万人、カマラ・ハリスとのディベートの視聴者数6700万人の半分以下。就任式翌日のロイターの世論調査では、
トランプ氏を支持するアメリカ国民は47%。これは2021年にトランプ氏がホワイトハウスを去った時点の34%よりアップしているものの、バイデン氏の2021年就任直後の支持率55%には及ばないものになっているのだった。
歴史的寒気団の影響で室内に変更された就任式では、通常より遥かに狭い主賓席に陣取ったイーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、マーク・ザッカーバーグ、スンダー・ピチャイ(グーグルCEO)らの姿が
終始TVカメラに捉えられており、それ以降 メインストリート・メディアがITビリオネアに対して使い始めたのが「オリガルヒ」の英語発音の「オリガーク」という言葉。
これはバイデン氏が最後の国民へのスピーチで、「一部の富豪がプーチン政権のオリガルヒのような存在になりつつある」と警告したことも影響しており、
メディア、ソーシャル・メディアで繰り広げられたのが、就任式の席順から今後のトランプ政権のパワー構図を読み取ろうとする動き。
その一部が着眼したのが、アップルCEOのティム・クックが就任式でマスクらと同じ列に着席していなかったこと。就任式数日前にトランプ氏と面会してアメリカ国内への多額投資を約束し、
個人でも100万ドルを就任式ファンドに寄付をしたクックがその場に居なかったことについては、「彼がフォーチュン500企業で史上初、そして唯一 ゲイであることをオープンにしたCEOだから」という指摘もあり、
トランプ氏が就任スピーチで 「これからのアメリカでは 男性、女性の2つの性別しか存在しない」と語ったことと、いろいろな形で結びつける様子が見られていたのだった。
トランプ氏は就任式当日から、ハイペースで大統領令を連発したけれど、最も大きな物議をかもしたのは2021年1月6日に米国議会に乱入し逮捕された1500人に恩赦を与えたこと。
その中には警官を死亡させたり、スタンガンによって障害が残る暴力を働いた者、そしてトランプ氏を熱烈に支持する白人至上主義暴力集団、”プラウド・ボーイズ”、”オース・キーパー”のリーダーも含まれており、
全員に対する恩赦は 副大統領のJ.D.ヴァンスや共和党議員、そして何より国民の60%が反対していたこと。
世論調査でこの全員恩赦を支持したのは僅か20%で、民主党・リベラル派は「犯罪者の大統領が犯罪者を優遇し始めた」と批判。
さらにトランプ氏は今週、その恩赦によって45カ月の服役刑を逃れた重罪犯を息子に持つ L・ブレント・ボゼル3世を米国グローバル・メディア局長に指名しているのだった。
そして環境問題のパリ条約からの離脱に加えて、WHO(世界保健機関)からの脱退が発表されたけれど、意味不明と言えたのは
大統領令で保健福祉省の外部コミュニケーションが停止されたこと。これはロバート・F・ケネディ・ジュニアが同省長官に就任までの措置と見られ、
インフルエンザ関連の情報はもちろん、たとえ食中毒が発生しても その感染源の情報さえリリース出来ないため、アメリカ国民を危険にさらす行為。
事実、アメリカでは現在トリ・インフルエンザの件数が激増中で、1人の死者を出し、卵の価格が高騰している真最中なのだった。
移民問題に関しては、FBIや麻薬捜査官を含む全てのフェデラル・エージェントにICE(移民関税執行局)と同じ権限を与え、学校、教会、病院といったセンシティブな場所でも可能になったのが不法移民の身柄拘束。
これを受けて不法移民の就労者が多い都市部のレストランでは、ICE職員の立ち入りを拒否をするムーブメントがスタート。
ICEは初日に300人の不法移民を逮捕して成果を強調したものの、これはバイデン政権下の280人とほぼ同等。しかし翌日にはそれが580人にアップ。
メキシコとの国境には1500人の兵士が派遣され、不法移民の最初の強制送還には軍用機が使われたけれど、この背景はICEが既に予算を遣い切り、人員増加やチャーター機手配が出来ないため。
トランプ氏が公約した20万人の不法移民の強制送還は予算的に不可能と言われ、メディアを通じて強制送還や取り締まり強化の脅しを掛け続けて来たのも、
移民が自主的に出て行くこと、入って来ないことを期待してのものと言われるのだった。
さらにトランプ氏はBirthright Citizenship、すなわち「アメリカで生まれれば、アメリカ人」という合衆国憲法14条で定められた条項も 不法移民の子供を対象外にする大統領令を発動。
これに対しては即座に22州で訴訟が起こされており、早くも3日後に大統領令一時ブロックの判決を下したのがワシントン州の裁判所。
しかし移民問題よりもトランプ氏が遥かに躍起になっていたのは DEI(多様性、公平性、包摂性)プログラムの解体。
DEIは簡単に言えば、女性やLGBTQ+を含むマイノリティ人種をあえて組織内に加え、その差別の無い平等な扱いを見守るプログラムで、白人男性にとっては逆差別と言われてきたポリシー。
大統領令では、公平性イニシアティブや環境正義への取り組みを含む政府のDEI関連プログラムを全て閉鎖。その関連部署、及び役職にDEIが付く職員全員を即日帰宅させて解雇を発表。
DEI廃止は政府機関、政府のコントラクター企業だけでなく、今後一般企業にも義務付ける方針で司法省に指示を出しており、既にメタ、マクドナルド、ウォルマート、フォードといった大企業がDEIを廃止。
これに対してコストコ、アップル、マイクロソフトはプログラムを続ける意向を示しているのだった。
それとは別に政府職員には全員、週5日のオフィス勤務への復帰を義務付け、上層部には簡単にクビが切れる職員リストの提出、
ホワイトハウス内を含む政権スタッフに対しては アンチ・トランプ派の職員の存在をレポートするよう命じており、既に100以上の役職が解雇され、
トランプ氏のロイヤリストに入れ替えられたのが今週。今後もハイペースで千人単位の大量解雇が見込まれるけれど、
トランプ氏が 「就任から24時間以内に終わらせる」と度々公言していたロシアVS.ウクライナ戦争や「就任初日から施行する」と言っていた
Tariff(関税)については、後回しになっていたのだった。
そんな中、今週一躍時の人になったのがトランプ氏が火曜日に家族、ヴァンス副大統領夫妻らを伴って出席したワシントン国立大聖堂での異宗教祈祷会で
トランプ氏に慈悲を求めたブッデ牧師。
「民主党、共和党、無党派の家庭にはゲイ、レズビアン、トランスジェンダーの子供も居て、命の危険を感じている人も居ます。多くの移民が農作物の収穫、オフィスビルの清掃、養鶏・食肉加工業、接客業での皿洗い、病院の夜勤等の仕事をして、市民ではなくても その大多数は犯罪者ではありません。彼らは税金を払い、良き隣人です。彼らは私たちの教会、モスク、グルドワラ、寺院の忠実な信者です。子供達は両親が連れ去られることを恐れています。」と穏やかな口調で述べたけれど(以下ビデオ)、これにはトランプ氏が大激怒。
自らのソーシャル・メディアに激しいトーンで長文批判をポスト。トランプ・ジュニアは「あの牧師を国外追放しろ」とツイートしたけれど、
民主党・リベラル・メディアは「よくぞ言った」というリアクション。本人は共和党保守派からの謝罪要求に対して「慈悲を求める行為に謝罪をする必要は感じない」とコメントしていたのだった。
その一方で、就任演説で「パナマ海峡はアメリカのもの。絶対に取り戻す」と言われたパナマ国民、及びパナマのムリノ大統領はトランプ氏に猛反発。
アメリカ国旗を燃やすデモが起こっており、カナダ、グリーンランドを含めて、今後の外交問題の火種になる気配を感じさせていたのだった。
今や シャドウ・プレジデントと呼ばれるイーロン・マスクが今週最も物議をかもしたのは、就任式後のアリーナ・イベントのスピーチで、
歓喜のあまり ”ヒットラー・サルート” (もしくは”ナチ・サルート”、右手をかざすジェスチャー)を見せたこと。これにはSNS上で大論争が巻き起こり、
ドイツのメディアも批判を展開していたけれど、マスク自身はヒットラーとの関連付けを否定。
後日彼は 自分のヒットラー・サルートの姿をテスラの工場外壁にプロジェクターで映し出し、 「Heil Tesla」という皮肉交じりのユーモアで交わす試みをしていたのだった。
それよりトランプ氏を支持するMAGA勢力の中で 大きな物議をかもしたのは、今週トランプ大統領が発表した大規模なAI投資公約に対して、
マスクが水を差すソーシャル・メディア・ポストを繰り広げたこと。
このAI投資公約は、チャットGPTで知られるOpenAIのCEOサム・アルトマン、日本のソフトバンクの孫氏、そしてオラクルのラリー・エルソンが立ち会う中で発表され、
3社が向こう4年間で米国のAIインフラに5000億ドルを投資することを約束した「スターゲイト」とネーミングされたプロジェクト。
ちなみにサム・アルトマンは、オープンAI創設に参加していたマスクを方針の違いから追い出した立場で、
現在マスクは、「ノンプロフィットと言いながらマイクロソフト社の子会社になり下がった」として、アルトマンとオープンAIを相手取って訴訟を起こしている真最中。
自らもxAIでAI事業を行うマスクは、アルトマンとの確執が無かったとしても面白くないのがこのプロジェクト。
そこでマスクは 「奴らは実際にそんな金は持っていない」というツイートで攻撃。特にソフトバンクに対して 「持っているのは100億ドルを遥かに下回る額」と指摘。
アルトマンがそれを否定したものの、大統領が大々的に宣伝したプロジェクトに 公然と疑問を投げかけた様子には
特にマスクを良く思わない古くからのトランプ支持者が激怒していたのだった。
そのマスク率いるDOGE(政府効率化局)は、活動を開始する前に 既に3つの訴訟に直面しており、
そのうちの1つは国家安全保障顧問団が、DOGEが連邦諮問委員会の透明性と機能を規制するFACA(連邦諮問委員会法)に違反していると提訴したもの。
さらに退役軍人、公衆衛生専門家、教師を含む団体連合も、FACAを掲げて DOGEが法律を遵守する姿勢を証明するまで、活動差し止めを求める訴訟を起こしているのだった。
加えて今週には、彼と共にDOGEを率いるはずだった、ヴィヴェック・ラマスワニーが発表から僅か2ヵ月でまさかの辞任。彼に続いて、DOGEの最高法律顧問を担当するはずだった共和党敏腕弁護士、
ウィリアム・マッギンレーも「トランプ氏を支持し、指名は光栄だったが…」と、あたかもマスクかDOGEに問題があると言いたげなコメントで辞任を表明したのが週末のこと。
正式発足一週目にしてパワフルなトップ人材2人を失っているのだった。
政府関係者の間でもDOGEはその存在自体を疑われる組織で、そもそもマスクはアメリカ政府最大のコントラクターでありながら、大統領執務室の直ぐ傍にオフィスを構え、
最高機密情報にアクセス出来るという利益相反を絵にかいたようなポジション。その上に支出削減を装ったプロジェクト潰しや人員削減によるライバル排除の権限を与えるのは
政府機関にはあり得ない状況。
ところでマスクは ヒットラー・サルートをした就任式イベントのスピーチで、「We're going to take Doge to Mars (火星にDOGEを持って行く)」と宣言。
多くの人々がこれに首を傾げており、火星にクリプトカレンシーのDOGEを持って行くのか、政府効率化局を持って行くのか、
それともクリプト用語の「DOGE to the Moon(DOGEコインの爆上げ)」を Marsに置き換えたのか、誰も分からなかったのがその意味。
しかし会場に居た観衆は その場の雰囲気に流されて 拍手喝采のリアクションを見せており、民主党・リベラル派は
「恐らく彼等は投票も意味が分からないまま、雰囲気に流されてやっていたのだろう」と皮肉っていたのだった。
トランプ氏の就任式直前に、大報道になっていたのが トランプ氏が発行したMEMEコイン、”$TRUMP”(名称の前に$を付けるのがクリプトカレンシーの表記法)の大暴騰。
このコインは1月17日に就任式に先駆けてワシントンDCで行われたクリプト・ボールに合わせて、トランプ氏のソーシャル・メディアが
売り出しを発表したもので、MEMEコインは言わばベースボール・カードのようなもの。
簡単に作れて、その価値を決めるのは買う人間がどれだけ居るか。
それだけに大衆にアピールするネーム・ヴァリューを持つ人物、団体、キャラクターが強みを発揮し、
株式を発行するよりも遥かに簡単なプロセスで、短期間に大金が得られる現代の金の成る木。
昨年12月には”$KEKIUS”(Kekius Maximus/ケキウス・マキシマス)とネーミングされたMEMEコインが登場。
年明け早々、イーロン・マスクが自らのXアカウントをこのコインの名称にに変更したことから、その価格は程無く6000%の上昇を見せ、
66ドルを投資した人物がたった18日間で300万ドルを得たことが大きく報じられていたのだった。
そんなあり得ないリターンが得られるのは リリース直後からこのコインを持っていたためで、通常リリースされるMEMEコインを大量に所有するのはクリエーター。
そのコインがトレーダーや取引所の目に留まるように価格操作をして、イーロン・マスクのようなインフルエンサーがプロモートすれば、
あっという間に価格が上がり、ピークを付けたところで売り抜けるのは、投資の世界で”Pump & Dump” と呼ばれる アマチュア投資家をカモるための手法。
トランプMEMEコインも、リリース時にトランプ氏がコインの82%を所有しており、ブルームバーグのデータによれば1月19日現在で、トランプ氏がMEMEコインで得た資産は566億ドル。
自身の総資産の89%。史上初の”クリプト・ビリオネア大統領”になったけれど、ピーク直後の30分間でその価格は40%下落。
素人投資家のマインドを巧みに欺くチャート展開は、トランプ氏の横顔にそっくりだったことも話題の1つ。
多くのアマチュア投資家は、このチャートの鼻のてっぺんで購入し、首の根本で大損を出しながら売却していたのだった。
その下落直前には メラニア夫人のMEMEコイン、”$MELANIA”も発売されており、トランプ政権のクリプト・フレンドリーな政策を期待するトレーダーの間では、
「価値がゼロになっても構わない」と、トランプ氏への御祝儀、もしくは献金としてコインを買う傾向も顕著。
でもそこまで金銭に余裕がないトランプ支持者が 就任式フィーバーでコインを買ってしまった場合はそうも行かず、多くの人々が1000ドル単位の損失を
ソーシャル・メディアにポストしていたのだった。
そんな$TRUMPコインには、「国民を欺く利益相反だ」との指摘に加えて、
「本来これを取り締まる筈の政権のトップがこんな事で儲けている」と嘆く声も聞かれたけれど、
前述のAIプロジェクトの記者発表の際に MEMEコインによる大儲けについて尋ねられたトランプ氏は、
サム・アルトマン、孫氏、ラリー・エルソンを指差して、「彼等だって大儲けをしている、自分が儲けて何が悪い」との回答。
このトランプ氏の姿勢は、今週スイスのダボスで行われていたワールド・エコノミック・フォーラムにも多大な影響を与えており、
完全に影を潜めたのが これまで大義名分的に登場していた「Saving the world」のスローガンやディスカッション。
会場は完全なビジネス・マインドで、世界の大富豪や大企業のリーダーが 自分達が更に大きく稼ごうという主旨に成り代わっていたのだった。
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執筆者プロフィール 秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。 |
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