Jan 12 ~ Jan 18 2025

Fire, Ceasefire, Fever
停戦、山火事、炎上 & フィーバー


今週のアメリカでも、引き続き被害が拡大するカリフォルニア州の山火事のニュースが連日トップ・ニュースになっていたけれど、唯一水曜日に それに取って代わったのが、過去16カ月続いたイスラエルVS.ハマス戦争が、ようやく一時停戦合意に辿り着いたニュース。
米国、カタール、エジプトの仲介によって纏められた合意内容は、日曜日からの6週間の停戦に入り、 その間、数百人のパレスチナ人囚人解放と引き換えに、今もガザ地区に囚われているアメリカ人を含む人質が段階的に解放されるというもの。 人質94人中、34人は死亡しており、開放されるのは60人で、この停戦から終戦に向かうという楽観的な見方も多いけれど、木曜には停戦前とは言え 再びイスラエルがガザ地区を爆撃していたのだった。
アメリカでは任期終了直前に停戦合意に漕ぎつけたことを自負するバイデン大統領と、「自分の就任前に停戦して人質を解放しなければ、報復が待っている」とメディアを通じて脅しを掛けたトランプ氏が それぞれに手柄を主張する様子を展開。 そのバイデン氏は水曜夜のプライムタイムに国民に向けて大統領としての最後スピーチを行っており、内容は一部の富豪が トランプ政権下でロシアのオリガルヒのような存在になりつつある警鐘と、半世紀に及ぶ自らの政治キャリアについて。 バイデン政権は歴史的な失業率の低さ、記録的な株価高騰を記録しながら、国民の関心と批判が集中していたのはもっぱらインフレとバイデン氏の年齢。 アンチ・バイデン派からは、「バイデンの功績は、大統領としてよりもオバマの副大統領として歴史に刻まれるだろう」 との声が聞かれていたのだった。



LA火災、地獄の沙汰も金次第


カリフォルニアの火災は、今週はロサンゼルス・エリアで3日連続の猛威を振るい、高級住宅街のパシフィック・パリセーズを含む、最低4箇所で火災が発生。 3万エーカーが炎上し、20万人以上が停電の影響を受け、 18万人に避難命令が出されたけれど、 パシフィック・パリセーズとアルタデナでは、市当局への信頼を失った住人達が避難命令を無視して現地に留まり、略奪者や さらなる火災から残った財産を守る自警団を結成。 その多くが武装し、電気もなく、飲料水も出ないない家で野宿のような暮らしをしながら、不審者を見つければ尋問して遠ざける様子が見られていたのだった。
その一方で、裕福な大邸宅のオーナーはプライベートの消防士を雇って自宅を被害から守っており、プライベート消防士の時給はボランティアの日当とは比較にならない約2000ドル。 それだけの金額をチャージするサービスなので水圧の高いポンプ車で乗り付けるようで、大金持ちの邸宅はしっかり守られているのだった。
そんな中、今回の一連の山火事の原因究明も進んでいて、放火の疑いもある中、浮上しているのが 現地の電力会社のパワーコードが原因で引火したという疑い。 「それに気付いていたはずの電力会社が、大規模停電を覚悟でパワー・カットをしていたらこんな被害は起こらなかったはず」と電力会社を責める声も聞かれたけれど、 同時にFBIが捜査を進めているのが、ドローンを飛行させて消火プレーンの機体に穴を開けた容疑者。 火災の様子を遠隔から捉えようと、現地でドローンを飛ばす人は少なくないようで、それがカナダから援助にやって来た消化プレーンに激突したせいで もたらされたのが 1週間以上も消火活動が不能になるダメージ。 その飛行経路から俳優のベン・アフレックの自宅にもFBI捜査官が訪れた様子がレポートされているのだった。
J.P.モルガンのアナリストによれば、経済損失総額は500億ドルに達し、保険損失は250億ドル以上。カリフォルニアでは、昨年の段階で山火事の被害を追いきれないことから、 複数の大手保険会社が業務撤退をしており、既に危機的な住宅保険市場にとって今回の山火事は致命的な大打撃。 同様の状況はハリケーン被害に頻繁に見舞われるフロリダ州でも起こっており、危険区域は保険が掛けられず、掛けられるエリアでは保険料が大富豪でないと払えない金額になっているのだった。
火災で家を失った人々に対しては全米から衣料品や、食糧、そしてキャッシュの寄付が寄せられているけれど、顰蹙を買っていたのがクラウドファンディングの最大手、GoFundMe。 1000ドルを寄付しようとすると 140ドルも手数料をチャージするというボッタくりのポリシー。 またに個人間でのアパレル・レンタルを可能にする画期的なビジネスとして知られる ”Pickle/ピックル” は、 被災者のためのアパレルの寄付を募っておきながら、ZARAやH&Mといったファスト・ファッション・ブランドの寄付を受け付けない方針を打ち出して大炎上。 理由は「被災者に最高のクォリティを届けたい」と説明されたことから、「選択権は被災者に与えるべきで、まずは集まった寄付を届けるのが先決」という批判に加えて、 「ZARAやH&Mのどこが悪い」という反発も招いたけれど、恐らくこれは予想を上回る寄付が集まり、その送料が払いきれないために量を減らすための手段。 とは言え チャリティ活動を通じてイメージダウンを招く事態になっていたのだった。



Make Masculinity(マスキュリニティ)Great Again?


2024年にイーロン・マスク、ジェフ・ベゾスといった世界の長者番付のトップ10が増やした資産は5000億ドル。10人合計の総資産は2兆ドルを超えていたけれど、 最も純資産を増やしたのは3人のクリプトカレンシー(暗号通貨)・ビリオネアで、クリプトカレンシーはトランプ氏に最高額の選挙資金を寄付した業界であることから、 曖昧だった規制・制度環境の整備が業界に有利な形で進むことが見こまれるのだった。 金融業界もトランプ政権の規制緩和に大きな期待を寄せており、加えて新トランプ政権の要職についた13人のビリオネア達も、 向こう4年間でさらにその総資産を拡大するのは織り込み済み。
新政権下で資産を大きく増やすのはメラニア夫人も同様で、アマゾンが夫人のドキュメンタリーをプライム・ビデオで制作・公開するために 彼女に支払ったのは業界関係者も唖然とする4000万ドル。 ネットフリックスも2020年の”メグジット”の直後に、アメリカに移住したハリー王子&メーガン夫妻と複数のコンテンツ製作に1億ドルの契約を結んだけれど、 ハリー&メーガンが既に5本のコンテンツを製作している事を考慮すると、メラニアとアマゾンの契約はその2倍の額。 しかもメラニアはプロデューサーとして、その内容を100%コントロールする権限が与えられており、撮影はトランプ氏の当選直後から既にスタート。 要するにジェフ・べゾスはトランプ氏勝利を選挙前から予測し、準備を進めていた訳で、彼が所有するリベラル・メディア、ワシントン・ポスト紙にカマラ・ハリス支持表明させなかったのも 今となっては納得が行くところ。そのせいでドキュメンタリー製作は着々と進んでも、ワシントン・ポスト内はガタガタになりつつあるのが現在。
メラニアのドキュメンタリー制作は もう1つ物議を醸していて、それは「ラッシュ・アワー」シリーズで知られるプロデューサー兼映画監督のブレット・ラトナーが監督を務めること。 ラトナーは#MeTooムーブメントで 過去の悪質なセクハラが暴かれて葬り去られた存在で、その彼が性的虐待で有罪判決を受けたトランプ氏の妻であるファースト・レディの ドキュメンタリーでカムバックするのは、「これで過去の罪は帳消し」、「もはや時代は逆戻り」というメッセージに受け取れる人選。
実際のところ トランプ氏当選後からアメリカで益々顕著になって来たのが Masculinity(マスキュリニティ/男性らしさ)、 Machoism(マッチョイムズ)のカムバックと、ポリティカリー・コレクト、WOKEカルチャーの衰退。 トランプ氏は何を発言しても、批判がこびり付かないことから”テフロン・ドン”というニックネームがついているけれど、同様に破天荒な発言をしても上手く逃げているのがイーロン・マスク。 この2人のアグレッシブで、ショック・ヴァリューを狙った言いたい放題のスピーチ・スタイルは、昨今マーク・ザッカーバーグを含む複数のCEOの言動にも反映されるようになっており、 過去数年は 女性を含む周囲のリアクションに配慮し過ぎたせいで、もっと大切な方向性を見失っていたというのが彼等の反省。
1月13日には、USスティールの買収を諦めない新日鉄への報復コメントとして、製鉄会社クリーブランド・クリフスのCEO、ロウレンソ・ゴンサルベスが 「中国は邪悪だ、中国は酷い、だが日本はもっと悪い、日本こそ邪悪だ。 日本は中国にダンピングの方法、過剰生産の方法を教えた」という爆弾発言を展開。それに止まらず「日本は1945年以来、何も学んでいない。我々がいかに善良で、慈悲深く、寛大で、寛容であるかを学んでいない」 、「今日の日本があるのはアメリカによる日本経済再建支援のお陰で、防衛条約を通じて安全保障まで提供している」と語り、アメリカ・メディアさえも驚かせていたけれど、 これはクリーブランド・クリフスがあるオクラホマ州など、レッド・ステーツのアメリカ人には共通した見解。「普通そこまで言わないでしょ」と驚く反応をしているメディアはブルー・ステーツで、 新日鉄はもし現在の訴訟が功を奏して買収が上手く行ってたとしても、レッド・ステーツの見下し目線とのビジネスになるのは必至。
今後のトランプ政権下では、同様のCEO達のマスキュリニティ、マッチョイムズに裏付けられた強気の姿勢が社内、社外、海を超えた取引相手にも向けられると見込まれるけれど、 誰もがトランプ氏やマスクのように 強気姿勢を上手く利用できる訳ではないのだった。



トランプ就任式フィーバー


1月20日、マーティン・ルーサー・キング・デイのホリデイに行われるのがトランプ氏の大統領就任式。
前回の就任式で1億700万ドルの寄付を集めたトランプ氏が今回集めたのは1億5000万ドルという史上最高額の寄付。 どんなに派手な就任式を行っても、巨額のお釣りが来る計算で、それを何に使おうと法の規制を受けないことから、 トランプ氏が会計問題で罪を問われた選挙資金よりも ずっと有難いのが就任式基金への寄付。
企業側も 勝つか負けるか分からない候補者への選挙資金よりも、大統領就任式基金にご祝儀を払う方が メリットがあると判断するため、それなりの金額を支払うのは長年の伝統。 今回はアマゾン、バンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックス、メタ、ウーバーといった企業に加えて、アップル社CEOのティム・クック、ウーバーのダラ・コスロシャヒ、オープンAIのサム・アルトマンらが 個人でも寄付を寄せていたけれど、ユニークなのはコカ・コーラのCEO、ジェームズ・クインシー。 トランプ氏と言えば第一期政権の大統領執務室のデスクに、ダイエット・コークをリクエストする特別ボタンを設けていたほどのダイエット・コーク好き。 そこでコカ・コーラ史上初の ”大統領就任記念ダイエット・コーク・ボトル”を製作してトランプ氏に寄贈しており、もし今から数十年後に息子のバロン・トランプがこのボトルをオークションにかけた場合、 CEO達が支払う寄附金を遥かに上回る高額で落札されるのは確実視されているのだった。
今回の就任式には、マーク・ザッカーバーグやジェフ・ベゾス等、かつてのトランプ氏と敵対関係にあったビリオネアも出席するけれど、 招待客以外の列席者は 就任式ファンド・パッケージを購入する必要があり、その最高額は100万ドル。 最高額のパッケージには 就任式チケットに加え、閣僚候補とのレセプション、就任前夜晩餐会等のイベント・チケットが含まれるけれど、 TV放映される就任式当日の晩餐会は、知名度やコネクションが無ければ大口寄付者でさえウェイティング・リストに名前を乗せるのがやっと。
ちなみに就任式基金で賄われるのは、そんな複数のパーティー、晩餐会、パレードの費用。警備と宣誓式の費用を支払うのは国民の税金。 歴代大統領は就任式基金の残りを 大統領図書館に寄付するのが通例。しかし前回のトランプ氏は寄付は行わず、 残金の中から約2,600万ドルをメラニア夫人の顧問が設立したイベント企画会社に支払ったことが伝えられているのだった。
就任式前日、当日には、TV放映される公式イベント以外にも、多数のイベントが行われ、大統領夫妻が分刻みのスケジュールでそれらのイベントに姿を見せては、 支持者に感謝を伝えるのが伝統。 それとは別に非公式のイベントも開催され、 今回の目玉となるのは クリプトカレンシー業界が開催する「クリプト・ボール」。 ゲストには何年も前からクリプトカレンシーに投資をしているラッパー、スヌープ・ドッグを迎え、チケット代は最低額が5000ドル。
民主党リベラル派が多いハリウッド・スター、及びカントリーを除くミュージシャンは、当然のことながら就任式から距離を置いており、 就任式前日に行われる”Make America Great Again Victory Rally”に出演するミュージシャンに寄せられているのがファンからの反発の声。 特にカントリー・シンガー、ビリー・レイ・サイラスは、娘のマイリー・サイラスが2019年のヴァニティ・フェア誌とのインタビューでトランプ氏を"Completely racist, sexist, hateful a**hole"と批判。 それに対してトランプ氏が遣り返した歴史があるだけに、彼の出演にはマイリー・ファンが激怒しているけれど、そのサイラス親子は数年前から決別が伝えられる仲。 アメリカではトランプ支持を巡って友人関係、親子関係が崩壊するのは決して珍しいことではないのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。
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